学校で性暴力が発覚 被害生徒・加害生徒それぞれへの対応は?
同じ学校で過ごす男子生徒が女子生徒を盗撮、SNSで共有していた…
こうした被害が各地の学校で相次いでいます。
スカート内の下着や性的な部位などをひそかに盗撮したり、第三者に提供したりする行為は「撮影罪」の罪に問われます。
しかし、学校によってすぐに警察に相談するか保護者に公表するかなど対応はばらばらです。娘が同級生から被害に遭ったという母親と、学校で性暴力が起きたときに周りの大人がどう対応すべきかを記した「手引き」を作った専門家に話を聴きました。
※この記事では実態を広く伝えるため、被害の詳細について触れています。フラッシュバック等 症状のある方はご留意ください。
(プロジェクトセンター 宣英理/おはよう日本 大間千奈美)
学校から突然の連絡 娘が着替え盗撮の被害に…
福岡県内の公立中学校に娘を通わせている母親のひとみさん(仮名)です。
今年の夏、突然学校から連絡があり、娘が盗撮被害に遭ったことを知らされました。
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被害生徒の母親 ひとみさん
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「中学校から電話があり『娘が着替えを盗撮されていた』という内容で、どの程度の着替えが映っていたのか、どこまで脱いでいたのか、顔は映ったのかとか、動揺だけが残りました」
学校の説明によると、体育の授業のため女子生徒が着替える場所として使っていた教室に、同級生の男子生徒がスマートフォンを置いて盗撮。動画には10人近くの女子生徒が映っていたということでした。
学校からは、男子生徒のスマートフォンに保存されていたデータは削除し、厳しく指導したと説明があったといいます。
しかし、動画が他の生徒にも共有されたり不特定多数に拡散されたりしていないのか、ひとみさんは不安を感じていました。
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被害生徒の母親 ひとみさん
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「今どきの子はインスタグラムを使って写真や動画をやりとりしていることがあるので 『そこはどうなんですか?』ってお尋ねをしたけれど 『そこは学校の権限で見ることができません』と言われて、対応についてどこで線が引かれているのかがわからないし、この間に拡散してしまっていないか心配でした」
学校からは、これ以上の対応はできないとして、さらなる調査を求めるのであれば、警察に被害届を出すよう伝えられたといいます。しかし、加害者が同じ学校の生徒であることを考えると、被害届を出すことにはためらいを感じていました。
動画が共有? 被害生徒にさらに動揺広がる
それから2か月が経ったある日、娘が動揺した様子で帰ってきました。
盗撮された動画を他の生徒も見ていたという話を被害者の1人から聞かされたというのです。
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被害生徒の母親 ひとみさん
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「加害生徒がグループラインで発信したっていうふうに聞いたんですけれどそこが詳しく分からないんです。どういうふうに拡散されていたのかが。もっと被害があってもおかしくない」
娘たちが動揺する様子を受けて、ひとみさんは被害にあった他の生徒の保護者たちと被害届を提出。
ところが、警察から思いがけないことを告げられました。男子生徒のスマートフォンから動画が削除されていたため、盗撮したという証拠がなく、より軽い罪でしか被害届を受理できないというのです。
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被害生徒の母親 ひとみさん
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「びっくりしました。『置いてはいけない場所に撮影機器を置いた罪』っていう罪状で被害届を出したんですけれども、やられたこと、被害の大きさは何も変わっていないのに、納得いかないですね。悔しいです」
加害児童と同じ教室で授業… 被害児童のケアは?
盗撮が発覚してから3か月。
被害生徒と盗撮した生徒は同じ教室で授業を受け続けています。
被害にあった生徒の中には、登校をしぶる子も出てきていると言います。
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被害生徒の母親 ひとみさん
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「性被害にあって動揺しているところを表出するところまで行っているのに、それをまるで軽く扱われるっていうことになると、大事に扱ってもらえなかったって思うんじゃないかなって思うんですよね。そんな軽い案件ではないと思うんですけど、安心して過ごせる学校を作っていくために今回の悲しい気持ちとか悔しい気持ちを役立ててもらい、もう二度と同じことが起きてほしくないです」
今回のケースの事実関係や対応のあり方について学校に取材しましたが、「個人情報が含まれるため答えられない。教育委員会に問い合わせてほしい」と回答がありました。
そこで所管する市の教育委員会に取材したところ、電話での取材に応じました。担当者は「個別の事案については答えられない」とした上で、被害生徒と加害生徒が同じ教室で学び続けるという対応について、一般論として次のように答えました。
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教育委員会の担当者
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「非常に判断としては難しいところがあると思うんです。お一人お一人にどうした方が良いのかというのは継続的に確認したり様子を見ながらそのときそのときの状況によってどうしたらいいのかというのは判断していくところになると思います。学校はしっかり保護者と子どもたちと寄り添いながら考えていく必要があると思います」
被害が起きたら学校はどうすれば?
文部科学省は、「犯罪行為とされる事案が発生した場合、学校は直ちに警察に相談・通報を行うよう通知しており、今後も現場への周知を徹底していきたい」としています。
また、生徒指導の基本書にも学校で性被害が起きた際の対応などが記されていますが、児童・生徒間の性暴力に特化した全国統一の手引きはありません。
そうした中、全国に先駆けて学校での子どもどうしの性暴力被害に特化した手引きを制作した人がいます。
性暴力被害者支援センター・ひょうご理事で兵庫県立尼崎総合医療センター産婦人科医の田口奈緒さんです。
学校や警察などの関係者と共に2020年に「学校で性暴力被害が起こったら」という手引きを作成しました。
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田口奈緒医師
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「学校で性暴力被害が起きたときは一番最初に被害を聞いた人の対応が一番大事で、その人の対応で被害を受けた生徒のその後の人生が決まると言っても過言ではないです。事態を過小評価したり、一部の教職員が抱え込んだりすることで、被害児童生徒へのケアが後手になるばかりか加害児童生徒も過ちを正し、学ぶ権利を奪うことになりかねません」
手引きでは、被害を相談された際、それを聞いた大人が慌てて間違った対応がとられないよう、学校が取るべき対応をタイムラインに沿ってわかりやすく示されています。
田口医師は被害が発覚した場合、学校に以下のような対応をすすめています。
① 被害生徒・加害生徒に対応する担当者を分ける
中立的な立場で被害生徒にも加害生徒にも対応することは難しいです。被害を受けた生徒にはトラウマ反応などがあるため、寄り添いケアできる担当者が必要です。同じ人が加害生徒を担当していると知ったら秘密が守られないかもしれないなどの危惧があり、話せなくなってしまうかもしれません。それぞれの対応に集中できるよう対応する担当者を分けてください。
② 警察など外部の専門機関に相談
子どもの悪ふざけ程度という認識を改める必要があります。加害行動がエスカレートし、「同意があったと思った」といって同意のない性交などの性犯罪に至るケースもあります。また、学校では調査できないこともあるため必要に応じて早期に警察など専門機関につないでください。
③ 中長期的な被害生徒の心のケア
被害児童は回復したように見えても、心の傷は消えません。なにかのきっかけで不登校になったり、身体症状が出たり、性的な問題行動を起こすこともあるため、中長期的な心のケアが必要です。学年や学校が変わる際には後任への引き継ぎをしてください。
④ 加害生徒への正しい性の知識の教育
性問題行動の背景には性的欲求のみではなく、相手を支配・抑圧したいという要素を含んでいます。加害生徒が虐待を受けている、親のDVを目にしている、性行為を見ているなどのケースもあります。また、性に関して誤った知識をインターネットや先輩の話などから得ていることもあります。性問題行動は習慣化しやすいため、保護者と一緒に早期に対応することが必要です。
手引きはこちらからダウンロードできます(NHKのサイトを離れます)。
https://onestop-hyogo.com/atschool/ (onestop-hyogo.com)
この手引きを元に全国4つの自治体がマニュアルを作成し、学校現場でも活用が始まっています。
子どもを被害者にも加害者にもさせないために
今回の取材では、被害にあった生徒も盗撮した生徒も同じ学校だった場合、学校がその対応に苦慮している現実が見えてきました。ただそのことで、被害者や保護者への情報共有が十分に行われないと、教員への不信感が高まり、混乱を広げてしまうと感じました。
生徒にとって教員は本来、学校生活の悩みや進路を相談できる相手だと思います。そんな相手が、話を聞いてくれなかったり、求めた対応に向き合ってくれなかったりしたら、信頼関係は崩れ、今後何かあったときに相談できなくなってしまうかもしれません。加害生徒にとっても、性暴力加害に至る誤った認識を改めることができないまま、犯罪を繰り返してしまうおそれもあるのです。
子どもを被害者にも加害者にもしないために、学校や周りの大人が本当に子どもたちのためになる行動をとることが求められていると思います。
みんなのコメント(48件)
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感想みぞれちゃん2024年12月29日
- 日本では性犯罪や性に関わることを甘く見すぎ、娯楽と考えすぎなのでは。
マニュアルが策定されたのは良いことだけど、即警察に訴えないのはおかしい。
性犯罪に限らずいじめとかもそうだが、学校内で処理せず、即座に事件として明るみにし犯罪として法的に処理、また加害生徒も退学や出席停止、進学の際のペナルティを課すなど厳しい対応にすべき。
子供だからと言って甘い対応をしてはならない。性犯罪は他人の尊厳を脅かす愚劣な行為であり、子供だろうと厳しく法の下で裁かれるべき。
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感想まる2024年12月17日
- 12月初旬、学校から帰宅した高校生の娘が「学校のトイレで盗撮があったんだって」と報告してくれました。しかし、どこのどの学年のトイレなのかも先生から知らされる事もなく、そして保護者への手紙、メール等も未だありません。
場合によっては警察に連絡することもあるかもしれないと、先生は言ってたそうですが、それは今回は内々に終わらせるという事なんだろうと思いました。
被害者も分からず、そして画像拡散の可能性があるかもしれないのに放置。
加害者の処分も報告されない。
学校の中での盗撮という犯罪の認知は、この程度なのかなと不信感でいっぱいです。
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感想みかん2024年12月6日
- 学校が勝手に大事な証拠を消してしまったこと、驚きました。被害者生徒が、加害者生徒と一緒に事件後もそのまま同じ教室で日々過ごさなくてはならないことに、血の気がひく思いです。性被害者の気持ちがここまで無視された教育現場の管理者たちに、憤りを感じます。校長や副校長、教育委員会の方々こそ、人の心や人の権利には、社会の誰よりも敏感であって欲しいと強く願います。「犯罪」があった場合、たとえ学校内での出来事でも警察に知らせなければならないのは当然ですし、そうでなければ証拠隠滅で、加害者を庇う行為として罪があるとすら感じます。教育機関は、性犯罪やいじめ、家庭内暴力からの被害などの繊細なケアが必要とされる内容には、学校だけでなく、警察や第三者機関が関わったり、報告するようなシステムが必要だと強く感じます。
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感想かに2024年11月30日
- 校内で起きる性暴力や盗撮など、学校以外でも犯罪になるからやってはいけない行為、特に、子どものいたずらでは済まされないレベルになってしまった場合に対して、被害を受けた生徒や保護者がどのように被害を訴えればいいのか、学校側でどのように対応すればいいのかについての難しさがあると感じました。
相談する窓口だけでなく、生徒に対して他の生徒を傷つけたら場合によっては厳しく処罰される可能性があることを伝えたり、保護者に対して学校内での様々な被害や被害を訴える方法などを知る機会をつくったりするなど、被害を受けた時にどうなるのかやどうすればいいのかを具体的に伝える必要が出てくるのかなぁ…。
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感想こま2024年11月29日
- 罪の重さが加害者も学校も理解できていないのは、被害者のほとんどが女性だからで、ほとんどの被害者が男性だったら対応違ったんじゃないですか?スマホの使い方云々より、根本的に女性に人権があるという認識がないから、軽視する。学校の責任ではないという投稿もありましたが、学校も加害者に犯罪環境を与えていますから、責任ありますよ。個人の問題で片付けられるのなら、法律は要りません。あと、外では犯罪でも学校では罪に問われないって、日本はやっぱり腐ってますね。結局は女性蔑視の間違ったメッセージを加害者やその予備軍に送っていることに他ならないです。
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感想太郎2024年11月14日
- 公立でも私立でも学校は基本的に隠蔽体質で加害者寄りの対応を取るところが多いと思います。
また、ネットやSNSでは同級生や上級生、下級生の盗撮写真を共有したことを自慢するような書き込みを見たことがあります。
正しく性について学べる環境を子供も大人も作るべきだと思います。
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感想ヤーマン2024年11月13日
- 学校側が証拠となる盗撮映像の削除を指示したことで、加害者の罪が軽くなり、被害に遭われた生徒側が不利な状況に追い込まれたという理不尽な事案だと思いました。
刑罰の大きさもそうですが、まずは被害者の方が加害者と同じ空間で生活しなければならないという状況が辛いだろうなと思います。加害者の顔を見るたびに、被害のことを思い出してしまうだろうし、どこまで拡散されているのか分からない恐怖や不安は尽きることがないと思います。またクラスメイトからの見られ方など考えたくもない思いを抱かざるを得ない状況に、ただただ辛いだろうなと思いました。被害に遭われた生徒がこの先抱き続けるであろう心情を考えると、適切な言葉が思いつきません。一刻も早く心が回復することを祈ります。生徒だろうと中学生となれば立派な大人です。法律上様々な問題はあるにせよ、やはり被害に遭われた生徒を学校は優先して対応してあげて欲しかったと思います。
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提言サザンカ2024年11月12日
- 私の父は中学の校長を務めましたが、私が痴漢に遭った時、「遭う方が悪い」と言いました。このコメント欄で、何人かの方が教育関係者自身の子供が被害に遭ったらどう思うか、ということを書かれていましたが、これが現実です。
被害者へのバッシングや、学校・警察・検察などでの事なかれ主義は、日本全体で幼児期から大人までの包括的性教育を進めない限り無くならないと思います。
また、性被害によるPTSDの治療ができる精神科が地方ではほとんど無いので、精神科医の教育にPTSDの治療を必須にしてほしいです。
加害生徒も親や兄弟などから被害を受けているかもしれないので、加害者対象の治療を受けられるようにすべきです。
一人の性犯罪者は多くの被害者の人生を破壊します。その社会的コストは膨大です。
政治はもっと真剣に性犯罪撲滅に取り組んでほしいです。
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提言ぴかりん2024年11月9日
- 私は小学校教師です。毎日ニュースで性被害に関するニュースを見る度に、性教育の重要性を身に染みて感じます。
現在、学校現場にあってもわいせつ事案の生徒指導がたくさんあるそうです。
ですが、学校の性教育は古いままで、性行為については触れないようになっています。中には助産師さんを講師として招き、教諭が触れられない部分についても教育を施している学校もありますが、そうでない学校もたくさんあります。
最近ではジェンダーについて子どもたちが学ぶ機会もあり、そうなると性行為についても知識があることが大切だと思います。
家庭教育に頼ることは難しい、学校では触れないとなると、子どもたちはアダルト映像などから間違った知識を得てしまいます。最近のわいせつ事件もアダルト映像のようなありえない状況(道端、バスなど)を思わせるような事件も多いなと感じています。性的同意についても同じく、小学校からの教育が必要だと思います
加害者は同じ大学同じ学部の男子学生でした
警察に被害届を出し大学にも相談しましたが、大きな処分はなく、いまだに逮捕もされません。
何度も今日室内で顔合わせる事で精神的に病み、被害者でありますが退学をきめました。
大学の言い分は、加害者も学ぶ権利がある
でした。
かなり加害者側の寄り添った対応でしたが、費用を払ってでも告訴するべきか、また
二次被害もあり娘に何度もこの話をするのもともと悩んでいます。