面白い群管理のエレベーター
東京都千代田区丸の内。
多数の超高層ビルが立ち並んでいますが、そのほとんどは上の階がオフィスで、一般人が入れるのは低層階の商業施設エリアのみという構成がほとんど。高層ビルは常にワクワクする存在であってほしいのに、その点で丸の内だけは例外になりがち。
しかし、そんな丸の内界隈でも唯一[要出典]、高層階にオープンスペースを有する超高層ビルがあります。
先日久しぶりに訪れたところ、そのビルのエレベーターに面白い仕組みがあることに気づいたので、ちょっと取材してきました。
ある平日の昼下がり、東京駅の地下道を進みやってきたのは丸の内ビルディング。「丸ビル」という略称で親しまれています。
昔は家族とここに来て、36階を往復したあと大体B1の明治屋でジャムを買うor5階の某ハンバーガーレストランで食べるという流れが定番でした(明治屋のほうは2018年に閉店したみたいです)。
ところで、オフィスビルの低層階をショッピングモールとして一般客に開放するという形態って、建て替え前の丸ノ内ビルヂングが初めてなんですね。あっ、だから丸の内界隈はどのビルも下の階しか(ry
でもこのビルには、最上階にレストランフロアがあるんです。
丸ビルの商業エリアはB1~6Fと35・36F。エレベーターは2か所あり、一つはB3~7Fの各階に止まるもの、そしてもう一つが今回ご紹介するレストラン用エレベーターです。
B1階・1階・レストランのある5・6・35・36階、多目的ホールと貸会議室のある7・8階に止まります。各階用エレベーターはいつも混んでいますから、5・6Fにも止まってくれるのはありがたいです(実際に5階へのアクセスでも何度か利用しました)。
では、地下から36階に向かいます。
エレベーターは4台あります。(右側1基が見えにくいですが)
今回は左側の中央が充当されました。
中身はこんな感じ。
地上約170mの高さまで、分速360mで一気に駆け上がります。
車いす操作盤にも号機名が書いてあるんですね。
36階に到着しました。
ここには35~36Fを結ぶエスカレーターがあるので乗りに行きます。
まず高層階にエスカレーターが設置されていること自体が凄いです。そしてランディングプレートに「36」という大きな数字が書かれているのも印象的です。これほど大きな数字を見る機会は多くないでしょう。
…似たようなやつ、名古屋にもありますよね(でもあっちは階数刻印ないか)
展望スペースの存在は無料でありながらあまり知られていないようで、都心の穴場的な存在かもしれません。
さて、このあとは地上に出たいので1階に戻ることにします。
右奥のエレベーターが割り当てられたので乗り込みま
さっきと違うやつが来ました。
1階止まらんのかい!!
やむを得ずB1まで降下することになりました。
こっちは若干横長気味。ドア上の階数表示はありません。
B1に戻ってきてしまいました。
エレベーター横の停止階表記を見てみると、左手前の2基と奥の2基で違いがありました。
奥の2基の1Fは土日祝しか止まらないという不思議な設定。7・8階も手前しか止まらないようです。運が悪いと目的の階に行けないエレベーターに当たってしまうことになります。(でも車いす用ボタンを押せば必ず手前の2基が来るので、一応それでも対処できます)
1階乗り場がどうなっているのか気になったので、近くのエスカレーターから1階に回って同じエレベーターを見てみました。
さっき乗った奥の2基はドアの後ろに隠れているようです。
土日は1階に止まるようですが、それってつまりこのドアが開くということでいいんでしょうか??
あともう一つ、気づいたことがあって。
上りで乗ったのはS-2号機でした。下りで乗ったのは…
O-20号機。S-4号機じゃないんです。(本当のS-4号機は各階のほうでした)
突然番号が飛ぶのも変だし、そもそもS-◯号機ですらありません。
他の2基も調べて、まとめるとこんな感じになりました。
一見すると全く法則が掴めないというところまで分かり、今日はこれで撤収。恐らくドアの奥に謎を解明する手がかりがあると思います。
後日、とある土曜日に再訪してきました。
問題の1階エレベーターホールを見てみると…
予想通りドアが開いてました。
ドアの奥に隠れてしまっている2台の存在を示すための看板もあります。
4基群管理ですから、場合によってはドアの奥のエレベーターが予報されますし、それに気づけない人もちらほら見かけましたw
そして、ドアの向こうにはこんな光景が。
さらに奥に、6基のエレベーターがあるのです。
さて、これで謎を解く資料は全て集まったので解説していきます。
まず、ここに見える6基のエレベーターはオフィスの高層階用でした。これらはセキュリティゲートの中にあり、有効なカードや2次元コードを持たない人は入れません。
号機の振り方は2基のほうがそれぞれO-16, O-20であるため、6基と合わせた8基の通し番号とするとぴったり合うはずです。(OはOfficeの頭文字)
オフィスエレベーターは23基あるので、それをもとにエレベーターの番号を当てはめるとこんな感じになります。
Aが1〜8、Bが9〜15、Cが16〜23号機なんだと思います。
号機名からしてもフロアマップを見ても明らかに8基がオフィス用なのですが、ここまでに見た光景ではO-16, 20号機がレストラン用になっています。
なぜオフィス用のO号機がこっち側に来るのか、そして土日祝のみ1階に止まる理由とは?
ここで1階のボタンを見てみましょう。乗り場では1階は土日祝のみ止まると書いてありました。
ちなみに、レストラン用エレベーターは10:45頃から使えることを確認しています。
それでは、真相を解説していきましょう。
平日朝、O-16・20号機は他の6基とともに8基群管理で運行します。
しかし10:45になるとオフィスエレベーターは6基群管理に変更されます。切り離された2基は、今度はレストラン側に組み込まれて4基群管理となるのです。
このときO号機の1階はオフィスエリアの内部にあるため、O号機は1階には止まりません。
一方、休日は1階の扉を開放し別のオブジェクトで区画することで、1階に止められるようになります。
ドアの前に置いてあった看板、自動ドアの代わりにオフィスと商業エリアを区画するためのガードだったんですね。
ここまでの情報を図式化してみるとこんな感じ。
2種類の運用を担うO-16, 20が、綺麗にゲートの内外で分離できるようになっています!
2基では微妙に足りないレストラン用と、昼以降は台数が多いオフィス用。
2基のエレベーターを両方の群管理のいずれかに組み込めるように設計したことで、お互いの需要を満たしながらエレベーターの台数を減らすことができたのです。
高速エレベーターのようにランニングコストが高いものはむやみに台数を増やせばいいものではありませんし、2台なら軽く1億円を超えるであろう費用を削減できたことになります。もしくは、台数を減らせばエレベーター以外に使う面積を増やすことができ、例えばその分を貸室を広くすることに使うこともあります。
総合的には、効率よく利益を得ることに繋がるのです。
さらに凄いのは、
・単純にオフィスとレストランを別々に需要予測するのではなく、お互いの混雑度の推移の違いに注目したこと
・2つの用途の両方に属するエレベーターを作って、台数を削減するというアイデア
これらが設計段階で行われていたことなのです。エレベーターを含めた建物の動線計画、それほど単純にできるものではないことを思い知らされました。
高層ビルでは、要求されるサービスレベルを満たしつつ、同時に限られたスペースを有効に活用するという絶妙なバランスを取る必要があります。そのためには単なる設備の配置だけではなく、利用者の行動パターンの分析やシミュレーションを行い最適な設計を導き出すことが求められます。
丸ビルはそれの分かりやすく、かつ興味深い事例とも言えるでしょうか。そのビルの為に特殊な群管理のエレベーターを作り、台数を削減しています。
限られたスペースを最大限に活用しながら利便性を損なわない設計により、建物の価値を向上させることができたのです。
細かい工夫まで考え抜かれたエレベーターの仕組み、実に面白かったです。
コメント