エレベーター群管理は本当に万能か?
やっぱり群管理ってみなさん大好きですよね(?)
そういう感覚の存在が理由かは分かりませんが、例えば複数のエレベーターが並んでいる物件において、2基以上が連動していないと「効率が悪いのでは?」と感じてしまうことがあります。
というわけで、今回は群管理の本質についてスポットライトを当てて解説していきます。
そもそもエレベーターとは
「縦の移動」を支える交通機関です。
関東大震災や戦後からの市街地再開発で高層ビルや集合住宅の数は増加し、それを利用する人々の移動を支えるべく、エレベーターは縦の交通機関としての役割を確立しました。近年ではバリアフリーの観点から駅や小規模ビルにも設置され、現代の多層化された都市に生きる私たちには欠かせない移動手段となっています。
団子運転
まずは群管理登場までの流れを解説していきます。
どこかの百貨店やデパートにありそうな、2台以上並んでて乗り場でかごの方向と位置が表示されるエレベーターを想像してください。
普段はこれを見て待ち時間はどれくらいか、場合によってはエスカレーター利用に切り替えるための判断に使いますよね。
これを眺めていると、2台以上のエレベーターが同じような階に固まって動いているようなシーンを見かけることがあります。
この現象を「団子運転」と呼ぶのですが、これは以下のような不都合を発生させます。
例えば2基のエレベーターがあって、それぞれ120秒で1往復するものとしましょう。
まず等間隔に運転する場合、各階乗り場では60秒間隔でエレベーターがやってくることになります。このエレベーターに乗ろうとする場合、そこで待たされる時間は0秒~60秒の範囲、平均で30秒です。
続いて団子運転にする場合。2つのエレベーターが全く同じ動きをしていると仮定すると、各階乗り場では120秒ごとに2台のエレベーターが来ます。
この場合待ち時間の範囲は0秒~120秒に広がり、平均で60秒待たされることになります。これでは1台だけあった場合と変わらない待ち時間になります。せっかく2台あるのにこのような状態では好ましくありません。
複数台のエレベーターは、等間隔に配置するほうがよいのです。
【備考】
団子運転を防ぐなら、最初に分散させてから運転を始めればいいじゃないかと思いますが、そう簡単には防げません。
例えば、ある1基のエレベーターが混み始めると乗降時間が増大します。すると他の1基が追いつき始めて、間隔が「狭まるところ」が発生し、それは同時に「広がるところ」が発生することと対応します。
これにより先述したように待ち時間の平均が長くなります。すると必然的に、乗り場で待っている乗客の数も(だいたい比例して)多くなってしまいます。
こうなると、先行するエレベーターは多数の乗客を拾うために乗降時間が増大する、一方後続のエレベーターは待ち客が少ないのでスムーズに進むという差が生まれます。最終的には追いついて、団子運転になるというわけです。
ここまでの内容を要約すると「待ち時間を短くするには、エレベーターを等間隔で運転すればよい」ということです。これを実現するには何をすればいいのでしょう?
そのためには、まずは「人の手」による運転管理だった時代から解説する必要があります。
運転手付きエレベーター
時は20世紀初頭、この年代からデパートやオフィスなどのエレベーター付き建築物が増加するようになりました。
エレベーター自体が珍しかったこの時代、自動運転などという概念もなく、当時は専属の運転手が乗務してエレベーターの操作を行っていました。
業務内容は以下のように分類できます。
客の行先階の要求や、乗り場の呼びに応じて運転操作を行う。
到着時にフロアの案内を行う。
乗り場の客にエレベーターの方向を案内する。
安全なドア開閉を行う。
基本となる運転手の業務の要素はこのように構成されます(が、今回の話には関係ないので覚える必要はありません)。
ここで、複数のエレベーターが並んでいる場合は以下のような仕事も加わります。
効率的な運転を実施する。
具体的には「台数に見合ったサービスレベルを提供する」みたいな意味合いだと捉えてください。
ここで、先ほど述べた「団子運転」と話が繋がってきます。
運転手付きエレベーターでは多くの場合、かご内に乗り場呼び状況を表示するランプ(いわゆるアナンセーター)と、他のエレベーターの位置を示す表示器が設置されます。
運転手はこの設備を見ながら、もし自分が団子の1つであれば停止時間を長く確保するなど、何らかの方法で他機との距離が均等になるように操作します。
この時代では人の手によって運転管理が行われ、そのサービスは運転手の技量に左右されていたのです。
運転管理の自動化
この時代のエレベーターサービスは運転手の存在によって成り立っていました。
しかしながら、時代の流れとともにビルの大規模化が進みさらに高度なサービスレベルが要求されると、いよいよ人間の力だけでは対応できなくなります。
そこで、人の手に代わる手段として注目されたのが「運転管理の自動化」です。
従来の運転管理の場合、運転手が可能なのは自分のエレベーターの操作と他のエレベーターの状況の観察に限られます。これでは各々が独立して勝手に動くことが可能であり、かつ他機との意思疎通は(現実的に)不可能です。
これでは、極端な場合全員が同じことを考えて時間調整してしまうとか、そのような不都合が生じてしまいます。
これらを自動化すると、各エレベーターのポジションや方向、呼び登録の状況などを集約して一元的に管理することが可能になります。この情報をもとに、運転間隔が不均等であれば任意のエレベーターの出発を遅らせるなど、運転管理が人間よりも正確に、そして容易に実現できるのです。
さらなる合理化へ
先ほど「待ち時間を最小化するには、エレベーターを等間隔で運転すればよい」と書きました。
いよいよこれを実現しようと思うのですが、その前に解決しなければならない課題が残っています。
これまでエレベーターの運転における大前提となっていたのは、「乗り場呼びに対して最初に接近したエレベーターが応答する」ことでした。しかし、この運転方法こそが団子運転を誘発する根本的な要因になっているのです。最も近いエレベーターが応答していたら、必然的に群になって動いてしまいます。
この要因を解決するには、適宜後続のエレベーターにも乗客を流入させるような制御を実施しなければなりません。
さて、エレベーターは行先階の指定や乗り場呼びの発生状況に応じて止まる階を自由に決定できます。
この性質に着目すると、乗り場呼びに対して「最初に接近するエレベーターが応答する」のではなく、「任意の1基のエレベーターが応答する」ことが可能です。任意の1基とは、必ずしも一番近いエレベーターとは限らないことを意味します。
乗り場呼びが発生すると、現在の交通状況から最も団子になりにくいと予想されるエレベーターを算出して割り当てます。
具体的に説明するのは難しいですが、単純な例で示してみます。
2台のエレベーターが並走している場合、待っている客をどちらか片方に偏るように割り当ててみましょう。するともう片方のエレベーターはスムーズに進み、2台間の距離が開きました。これで団子は解消されたということになります。
実際にはもっと複雑なことをしていますが、こんな感じで等間隔なエレベーター運転が維持され、短い待ち時間を実現できるのです。
これこそが、群管理の基本原理となる運転制御です。
各メーカーの群管理は1950年頃から順次開発が始まり、今日ではその内容は極めて高度化しています。
しかし基本原理は共通しており、どのメーカーでも「乗り場呼びが発生すると、最適な1つのエレベーターを割り当てる」ようなことをします。
群管理という画期的なシステムが登場したことで、ビルの巨大化にも十分に対応できる力をもち、それを後押ししてきたのです。群管理なしでは、西新宿の超高層ビルのような巨大建築物は成り立たなかったでしょう。
【備考】
主に2基並列で用いられる「群乗合」ではこんな高度なことはしてません。今まで通り、最初に接近するエレベーターが応答するようになっているだけです。
商業施設には向かない
さて、群管理を褒め称えるのはここまで。
いよいよ今回の本題、「群管理は本当に万能か」を解説するセクションに入ります。
これだけ素晴らしいものなら全てのエレベーターには群管理を採用するべきだと思いますが、実際にはオフィスやホテルでしか使われていないことが多いです。
商業施設に行くと、2基とか3基とかあっても連動していない物件があるのです。そもそも停止階や用途が違うから群を組まないというのは除外するとして、停止階が同じでもなぜか連動していないことがあるのです。
群を組むべきだ!という声もちらほら聞こえますし私もそう思っていましたが、実際どうなんでしょう。
それ以前に商業施設はエスカレーターでの移動がメインですからエレベーターの輸送力が実際の需要に対して不足するのは当然のことです。
しかし、それを無視したとしても以下に示すような要因で群管理は適さないことがあると考えられます。
そもそも、オフィス・ホテルと商業施設では人の流れに大きな違いがあります。
前者の場合、基本的にはエントランス階とそれぞれの階を移動することが多いので、総合的に見ると「特定の1つの階を始点・終点」とする人の流れができていることになります。加えて、朝と夕方は人の流れが上昇/下降のいずれか一方向に偏る傾向にあります。
では商業施設ではどうでしょうか。エレベーターに乗って乗降の様子を観察すると分かると思いますが、利用する人はみな「バラバラな階からバラバラな階」を移動します。前述した「特定の1つの階が始点・終点」という傾向は薄く、方向もバラバラです。
この複雑な動線を群管理で担いきれるのかというと、実はそうではないのです。
各階で乗降が発生するということは停止時間が長くなるので、群管理がエレベーターを等間隔にしようとしても、乗降時間がハードルとなってそれを難しくさせます。群管理でどうにかできるものではないのです。
もう一つ、群管理を採用すると不都合になる点があります。
群管理の基本原理は任意の1基のエレベーターが応答することだと述べましたが、逆に言うと「呼び出しに1基しか応じない」のです。
仮に待っている人が多い場合、一つのエレベーターが到着しても全員乗り切れない場合があります。乗れなかった客はそのエレベーターが出発してから新たに呼び出しますが、その間に他のエレベーターに通過される可能性があります。(特に混んでいると乗降時間が数十秒を超えることもありますから尚更です。)
最悪のケースでは、混んでいるエレベーターが割り当てられることも想定されます。これでは積み残しが大量発生して当然ですし、しかもそのタイミングで空いているエレベーターに通過されてしまう可能性だってあるのです。
これらが何を意味するかはもうお分かりですね?
積み残された乗客は、「群管理のせいで待ち時間や積み残しが増加する」という仕打ちを受けることになります。
これでは本末転倒です。
このような場合はエレベーターを連動させるのをやめ、1基ごとや複数グループに分割して個別に呼ぶようにします。すると、乗り切れない場合に出発を待たず後続を捕獲できたり、待ち人数が多くて積み残し確定のような場合は予め2つ以上呼ぶことができたり、そんなことが可能になります。
【備考】
なお、代わりにエレベーターを等間隔にする制御は不可能になりますし、複数呼べてしまうためにいわゆる「空呼び」も頻発するというデメリットも生じるでしょう。
それでも、先述したように群管理で待ち時間が長くなってしまうよりはメリットが圧倒的に上回るのです。
具体例が長くなってしまいました。
ここまでの内容を簡潔にまとめると「群管理は複雑な動線に対応しきれないし、むしろ1基しか呼べなくて待ち時間が増えることもあるから、場合によっては無いほうがマシ!」という感じになります。
実例
以上の理由から、商業施設でのエレベーター群管理は適さない場合があり、必ずしも「群管理は万能ではない」ことを示しました。
メインの内容自体はこれで終わりですので、ここで読み終えていただいてもかまいません。
ここからはおまけとして、さまざまな商業施設の運用の一例を紹介していきます。
東武百貨店池袋店
当該は1番地エレベーター。B3-16の19フロア、昇降行程は推定で70mを超えます。速度も180m/minで、商業施設としては日本最速級の物件です。
6基並んでいますが、全て単独運転です。日中など圧倒的に混雑して乗り切れないことは当たり前ですから、複数を呼べるようにすればどれか1基くらいは空いてるエレベーターに当たるでしょう。
基本的には左側3基が10階までの各階、右側3基が7~15階に止まりますが、ディナータイムでは左側3基も15階まで走行するようになります。時間帯に応じたきめ細かい停止階制御が組まれているのです。
ノースゲートビルディング・サウスゲートビルディング
[写真はないのでYouTubeとかで調べてみてください]
大阪駅に直結する駅ビルです。
まずはノースゲートビルディングから。当該物件は中央北口の広大なアトリウムに面するシースルーのエレベーター。
フジテック製で3基設置されています。駅に近いこともあって日中は大混雑します。
実はこの物件、開業当時は3基群管理でした。その当時何があったのかというと、途中階から乗ろうとすると「混雑したエレベーターが割り当てられ、まともに乗り込めない」というクレームが多発したのです。
これを受けて現在は1+1+1という個別運転に切り替えられ、満員時に次のエレベーターを呼べるようになったことでクレームは減ったといいます。
当時群管理だった証拠として、1基単独では通常あり得ない「予報機能」が搭載されています。予報しなくてもそのエレベーターは確実に来るんだから別に要らないのですが、群管理だったことを感じられていいですね。(?)
続いてサウスゲートビルディング。下層階に入居する大丸梅田店の三菱・東芝・日立、ほとんど単独運転だった気がします。
ここも同様のクレームが殺到して、単独運転にしたらクレームが減ったとか。もちろん予報機能も付いてます!!
日本橋高島屋
群管理とは話が逸れますがどうしても紹介したい物件です。
やはり、日本橋高島屋といえばあの手動エレベーター。正真正銘の「エレベーターガール」は、ここが国内最後の場所でしょう。
エレベーターは何度も更新を受けて現在は3代目。それでも、昔ながらの操作レバーとともに運転手を配置する概念は不変です。これこそが日本橋髙島屋の顔であり伝統なのです。
【備考】
厳密に言えば、手動よりは半自動と呼ぶほうが正確かもしれません。
昔の手動エレベーターは操作レバーを傾ける間だけ動くという仕組みで、運転手は客の要求とアナンセーターに従って自らの手によってエレベーターを走行させるという、かなり神経を使う業務を行っていたのです。数年前までの日本橋三越とかはこれでした。
このエレベーターは2代目[要出典]で行先ボタンが追加され、半自動化されました。この方式では、操作レバーを一度倒せば出発し、呼び登録に従って自動的に止まってくれます。運転手は客の要求に応じて行先ボタンを押し、ドア開閉と出発操作をすればよいので、以前より負担が軽減されました。
ここでは運転手付きということもあって、運行管理は特有なものです。
等間隔を維持する手段としては、やはり1階や屋上での時間調整が行われている他、閑散時は他機の様子を見つつ途中階で方向転換することもあるようです(通常は必ずB2またはRで方向転換します)。
かご内が満員に近い場合は、重量センサの判定に頼らず運転手が「通過」ボタンを押して満員モードを発動させることがあり、無駄な停止を減らして回転率を上げることができます。
また、案内係の誘導によって大人数でもスムーズに乗り降りすることが可能です。
運転手が主体となってエレベーター全体を管理する、数少ない事例です。機会があればぜひ観察してみてください。
※現在エレベーターかご内の撮影は禁止されていますが、ネット上に多数の写真や動画が公開されているのでそちらをご覧ください。
この他にも探せば面白い事例がいくつか見つかるかもしれません。その商業施設の動線やフロア構成などと紐付けて研究してみてください。
あれ、そういえば。
日本橋三越の本館5基並び、わざわざ群管理導入してるじゃないですか!!
つい数年前まで2基だけ(画像では時計の両隣)運転手付きが残っていましたが、2017年頃に全自動化。既に全自動化済みの3基とともに5基群管理が始まってしまいました。ちょっとそれはあり得ない、何考えてんの
やっぱり群管理はそれほどいいイメージがありません。(個人的には約20年差の機種たちを一緒に群管理するのも凄いって思うけど)
ただ実際に見てみると、それほど交通量は多くないような印象を受けました。
この混雑度を9停止の5基で担うなら、むしろ群管理のほうが最適とみて導入した説もあるかもしれませんね?私はそうだと信じてます。
【備考】
なおホールランタンの点灯がパット見で見つけにくいし、加えて屋上にはホールランタンすらありません(ドア上のランプは到着時に点灯するものです)。やっぱりダメだわ
おわりに
以上、エレベーターの群管理について解説しました。
この記事を書くために群管理のことを調べていくうちに、過去の私がどれだけ知識不足だったかを感じてきて震えました。AIとかファジー理論とかそんな単語だけが頭に入っていながら、そもそも本質的な部分を分かっていなかったことに気づかされたのです。
何でもかんでも群管理すれば良いとは言えないこと、これを読んだことで実感していただけたでしょうか?
皆さんがこの記事を参考にして、群管理の本質とその課題について理解を深め、新たな視点を得るきっかけとなれば幸いです。
【提供】
めいはち氏から助言や事例の紹介をいただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。
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