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愛のカタチ/Novel by 兎碧𓃺𓈒𓏸

愛のカタチ

6,189 character(s)12 mins

過去捏造、男性妊娠、モブ医者、注意です。

個人的にすごく好きな話。読んで頂いて、Twitterの質問箱などで感想がいただけると泣いて喜びます。

左銃はオイシイ。

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銃兎はふと感じた違和感に顔を顰めた。
ズキリとした痛みではなくもっと鈍くて優しい痛み…
これを銃兎は知っていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
銃兎と左馬刻は出逢ってから数度の食事を共にし杯を交わした時、はじめて互いに持て余し燻った熱を慰め合った。決して相性が悪かったわけではなかった、寧ろ今までで1番かもしれないくらいであったためにズルズルとその行為は続いた。
所謂セフレというものになったのだ。
初めのうちはそれでも良かった。しかし最近になって、銃兎は左馬刻への想いに気がついてしまった。思い返せば、もうあの時から左馬刻への愛はカタチを作っていたのだ。伝えてはならない、伝えるべきでないだろう想いは日に日に降り積もって重くなる。大抵の人間はその重しを涙として零すのだろうが、銃兎にはそれが出来なかった。だから、独り心の内で無意味な愛を育み続けている。
日常の一片で身体を慰め合った日から暫くした後、銃兎は痛みを感じた…この時は何も知らなかった。
それから毎日の業務、残業、ストレスが銃兎の身体を蝕み、ついに倒れた。
目が覚めた時には病室。本当に何も無い部屋だった。あるのはほんの喪失感のようなものだけ。
「お目覚めですか?入間さん。」
看護師が声を掛けて来た。
「えぇ、私、ついに倒れましたか。
体力には自信があったんですがね…」
動かない表情筋で笑顔を作る。
「オーバーワークのしすぎですよ。
体調を第一に考えて下さいよ。
あぁ、そうだ、1つ言っておかなければならない事が…」
看護師は言いにくそうに口篭る。
「なんです?」
銃兎が聞き返すと、口を開いた。
「入間さん、残念ながらお腹の子は流産していました……」

「は……?流…産…?」
思いがけない言葉に開いた口が塞がらない。
「信じられないのは分かりますし、辛いですよね。」

「いやいやいや、私、妊娠してたんです?」
今度は看護師が目を剥く番だった。
「ご存知、なかったんですね…。」

「っえぇ、」

「そう、ですか、では…あーすみません
またすぐに戻ってきますので。」
そう言って居なくなった。
ドアが閉まる音が響いた後は何の音もしなかった。銃兎は何の気もなく下腹部に手を添えた。この世界では男である自分が妊娠する事はおかしなことでは無い。問題なのは誰の種かと言うことだ。銃兎の中には一人しかいなかった。左馬刻だ。
そう思った途端、もしこのまま子供が出来ていたら彼奴を自分の元にしばりつけられたのではないか。そんな醜い独占欲が支配した。しかし、素直に妊娠したといえば堕ろせと言われるか、捨てられるか…あぁ、流産してよかったのかもしれない。なんて考えがぐちゃぐちゃになって頬をつたい、手に落ちた。ひと粒ひと粒が鉛のように重くのしかかる。
情けなくて、悔しくて仕方なかった。強く噛み締めていた唇から鉄の味が広がる。
愛がぐちゃぐちゃになって、好き勝手に歪なカタチを創り出す。
「…っ、う…くそ、……うぅっ…。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
いつかこうなる可能性がある事はわかっていたのだ。なのに銃兎は左馬刻を拒みきれなかった。今更後悔はしないが、このままにしておくことも出来ない。銃兎は今裏に繋がる病院の「産夫人科」の診察室で医師と話をしていた。
「妊娠、されていますね。お相手の方には今日のことを話していますか?」
ゆったりとした口調の質問に、銃兎は静かに首を振る。
「言う、つもりもありません。」
独り言のように呟いた言葉に医師は少し驚いた様子ながら、何かを悟ったように口を開いた。
「…中絶をご希望ですか……?」
医師の言葉に銃兎は頷けなかった。初めはそのつもりだったし、それ以外考えていなかった。しかし、どうしても頭の片隅にある記憶が銃兎を引き留めようとする。
「……っはい…。」
いつものスーツとは違う、ゆるりとしたズボンを握りしめ、言葉を絞り出す。
「入間さん。出来る範囲でいいんです。
私に、理由を聞かせてください。」
医師は優しく語りかけるも、左右に首を振るばかりで話すことは出来なかった。
「では、最後に一つだけ。
何故、この病院を選んだのですか。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
今日、銃兎は全てのことに終止符をうちに来た。つかつかと廊下を歩いている途中、医者に言われたことを考えていた。
わざわざあの病院を選んだ理由…そんなものはじめは考えていなかったが、若しかすると俺は怖かったのかもしれない。己の決断で人を殺す事が。胎児とは何処からが人間なのかという定義はないがそれでも、生命だ。
それに、俺は酷い夢を見ていたのかもしれない…彼奴に通じる可能性を残せば、止めてくれるかもしれない、受け入れて、愛してくれるかもしれない。なんて空想を…
それも全て、今日で終わりだ。俺の初恋は嫌われエンド。
「……はは、そんな綺麗なもんじゃねぇか」
自身を蔑むような言葉を呟き、妙に重い扉に手を掛け、ノブを回した……カチャリ
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……うぉっ、急に開けんなよ。」
外側に扉を引こうとした時に内側から押され思いがけぬ力に少し驚いた。
「てめぇがちんたらしてっからだろ。」
中から顔を出したのは家主である碧棺左馬刻
不機嫌そうに眉を寄せながらも銃兎の訪問を迷惑に思う様では無かった。
「あ、おう、すまん。」
なんて歯切れの悪い返しをして扉を潜った。
わざわざ靴紐を解いてから脱ぎ、綺麗に揃えて置いて、ささやかな時間稼ぎをした。左馬刻はそんな銃兎を気にするでもなく、さっさとリビングへ向かった。それに続いて銃兎もリビングへ。入ってドアを閉めてから足が止まってしまった。
「……どした?」
左馬刻に声をかけられ、慌てて前に座る。
「あ、のさ…」
一つ深呼吸して口を開く。
「おう。」
銃兎が話をする時、左馬刻は必ず前のめりになって耳を傾ける。それが無性にむず痒くて何となく緊張してしまって、息が詰まった。
「俺…」

「…。」

「俺さ……。」
いざ言おうと思ったら急に怖くなって言えなくなった。呆れられるな、と思っていると、ギュッと握りしめられて震えていた手に、少し大きな白い手が重ねられた。
「っ、」
左馬刻は床にしゃがんで銃兎の手をゆっくりと撫で包みながら優しい声で静かに言った。
「焦んなくていい。ゆっくりでいい。銃兎のペースで、ちゃんと話してくれればいい。」

「っ、俺な…」

「うん。」

「……に、妊娠…した。」

「……、は?」

「っそれでっ」
銃兎が続けようとすると、左馬刻に遮られた
「ん?まてまてまてま、え?にん、しん?」
聞き返されたことに不安になりながらも頷いた。すると大きな溜め息が聞こえ、見ると左馬刻が床にへたり込んでいた。
「……左馬刻?」
ビクビクしながら声を掛けると
「あー!良かった……。」

「え。」

「お前がいつになく真剣だからよ、MTC抜けるとか言うんじゃねえかって。あぁ、」
完全に気が抜けた様子で銃兎の腰に腕を回して抱き締めた。
「じゅーとぉ」
とびきり甘ったるい声で呼ばれ、ついたじろいでしまう。
「な、なんだよ。」

「俺との子、なんだよな…?」

「っ、うん。」

「そっかぁー」
なおも抱き締めた状態のまま頭をぐりぐりと動かすものだから、擽ったくて仕方がない。
「……どう、しよう。」
銃兎の助けを求めるような声に顔をあげた左馬刻は優しく頬を撫でた。
「銃兎は、どうしたい…?」

「俺、は…堕ろしたい。」
銃兎の答えに一瞬驚いたような顔をしながらも、何かを悟って告げた。
「俺は産んで欲しいな。」
翠の瞳をひたと見つめ言葉を紡ぐ。
「……お前が、本当に堕ろしたいなら止めねぇよ。けど、泣いてんじゃんか。銃兎がこれ以上辛い想いするのなら全力で否定する。
な、銃兎。どうしたい…?」
大粒の涙がボロボロと零れ、手の甲を濡らした。拭っても、拭っても溢れるそれは銃兎の想いそのものだったが、あの時とは違って羽のように軽かった。
「本当はっ、俺、産みたかった…けど、」
嗚咽を漏らし、言葉を詰まらせた銃兎に左馬刻はソファに座るよう促した。丸くなる背中を撫でながら左馬刻も隣に座る。肩を寄せられ密着する。銃兎が落ち着くまで左馬刻は待ってくれた。しばらくしてから
「話せるか…?」
と優しく尋ねてきた左馬刻に、銃兎はこく、と頷いた。一瞬ふっと目を細めた左馬刻は向き直り、まだ震える手を握った。
「実は…初めてじゃないんだよ。」
左馬刻は驚きもせず、静かに待った。
「その時も、お前との子だった…っ」

「……そん時は、堕ろしたのか?」
続きを促すといにフルフルと首を振った。
「そん時は、流産…だった。前に倒れたことがあったろ?あん時は妊娠してたなんて知らなかったし、流産したって聞いた時はよくわかんなかったけどそれでも…ぽっかり開いた…みたいな。」
そこまで話して銃兎は自身の腹に手を添えた。そしてまた、話し出す。
「もしこのまま子供が出来ていたら左馬刻を俺の元に縛り付けられるんじゃないかって
そんな勝手なことまで考えて……。」
添えた手をキュッと握りしめ左馬刻を見つめた。左馬刻は何かを感じ取ったのかさっきのように手を重ね、指を絡ませてきた。
「これ以上、大事なものを作りたく無いんだ。また、失うんじゃないかって…。それに気づいたんだよ。産んだところで俺はこの子を愛してやることなんて出来ないんだって。だったらこの世界を知らないほうが幸せなんじゃ無いかって。俺には…重すぎるんだ。」
銃兎の答えを聞いた左馬刻はあーとかうーとか言いながら口を開いた…
「お前さ、子どもが俺の足枷になると思ってるだろ。」
不意に言われた言葉がまるで自分の本心のようで、銃兎は何も言えず、ただ助けを求めるように左馬刻の手の甲に爪を立てた。
「銃兎。もう一回、もう一回だけ聞くぞ。
お前は、どう、する?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
また例の病院に足を運んだ。今度は左馬刻と一緒に。手術を受けるならば大きな病院の方が良いのではないかと左馬刻には言われたが、銃兎にはどうしてもここであるべき理由があった。しばらく待合室で待っているとナースの呼ぶ声がし、診察室へ入って行く。
「失礼します…」

「あぁ、こんにちは。決心、付いたかい?」
中に居たのは前の医者だ。
「っ!は!?おやっさん何してんすか?!」
左馬刻が驚くのも当然だ。今目の前にいるのは左馬刻の恩人でもあったから。前に1度だけ2人で呑んだ時に酔った左馬刻が話をしてくれたことがあった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「左馬刻、飲み過ぎだぞ。ほら、水。」
銃兎がそうやってグラスを差し出せば
「ん゙〜」と唸って受け取った。中の水をちびちび唇の先で揺らしながら何か思い出したように話し始めた。
「俺なぁ、頭下げたい人がいてよぉ。親が死んだ時に一番に声を掛けてくれた人がいたんだよ。その人、俺と合歓の怪我に気付いて手当てしてくれようとしたんだ。けど…そん時に俺、合歓になんかされんじゃねぇかと思って、手はたいちまった。そしたらその人、俺に「ごめんね。」って…。其れから何度も会うたびに声かけてくれて、食べ物とか服とかくれたのに俺は全部捨てた。3年ぐらいかな、それが続いて…突然、会わなくなった。」

「…会いたい、のか?」
銃兎が呟くように尋ねると、左馬刻は静かに首を振った。
「わかんね、わかんねぇけど、会いたいってのは違う気がする。生きてるかどうかもわかんねぇ。」

「もし、その彼に会えたら、どうしたいんだ。」


「…謝りたい。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それから銃兎は探した。心当たりがあったのだ。あの時、あの現場で、左馬刻に会っていたから。実際に左馬刻の言った場面も目にしていた。もちろん男にも話を聞いた。もしかすると、あの日、あの瞬間から銃兎は左馬刻に惹かれていたのかもしれない。いや、惹かれていた。だからあの倉庫で彼奴が来た時銃兎は歓喜したのだ。
そして見つけた。左馬刻の叔父にあたる人物を…。例の病院へ行けば会えるらしい。彼になら助けて貰えると思った。だからあの日銃兎はあの病院を選んだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ははは、覚えてくれていたんだね、左馬刻くん。でも、ここは腐っても病院だから静かに、ね?」

「あ、すんません。おい銃兎!笑ってんじゃねぇ!」
あの俺様左馬刻様が中年男性にたしなめられて素直に謝り小声で怒鳴りつけてくるのに笑うなという方が無理な話だ。
「ゴホン、で?銃兎さん、ちゃんと2人で話し合ったかい?」

「はい。」

「2人とも納得しているかい?」

「はい。」

「後悔しないね?」

「はい。」

「入間さん、碧棺さん、中絶手術を希望されますか?」




「、はい。」
┈┈┈┈┈┈┈
手術室にランプが点った。
正直今俺は凄く怖い。手術が終わればきっと銃兎は辛い思いをするだろう。彼奴は最後まで産みたいという気持ちを持っていた。だけど、大切なものはもう増やしたくないと、幸せになれない子供はこれ以上増やしたくないと、だからごめんね。手術が始まる前、彼奴は腹ん中の子に向かってこんなふうなことを言っていた。今まで銃兎が背負ってきたものを俺は支えてやれるんだろうか。
「…くん、左馬刻くん、」

「!、あ、はい、すんません。」

「不安かい?」

「…。」

「仕方ないさ、大事な人なんだろう?」

「はい。あのっ」

「左馬刻くん、いいんだ、あの時はすまなかったね。君が大事な人を必死に守ろうとしていたのは知っているから。あの時の君を否定するようなことは言っちゃいけない。もし君が納得できないなら今、僕に君を助けさせておくれ。必ず手術は成功するよ。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
目を覚ますと、そこは病室で、蛍光灯がやけに歪んで見えた。ゆっくり瞬きをすると、何かが瞼をそっと撫で、輪郭をなぞった。
「…銃兎、頑張ったな。」
頬の体温に縋るように手を添えた。
銃兎はもう一度目を閉じ、1度だけ頷いた。
それでもホロホロと流れる涙は左馬刻の唇に救われた。
「ごめんな、左馬刻。」
今にも泣き出してしまいそうな瞳を見て、つい謝罪の言葉が口を突いて出てしまった。
左馬刻は眉間のシワをいっそう深くして黙ってしまった。
「左馬刻…」
傷つけてしまっただろうか。銃兎がそんなことを考えているうちに、左馬刻はベッドの隣に座り銃兎の手をしっかり握って銃兎の腹に顔を伏せた。
「左馬刻?」

「なぁ、これらかも一緒に居てくれるか?」

「当たり前だろ。」
お互いいつ死ぬかなんて分からない。だけど、死ぬ時は一緒だという自信があった。
「俺、置いて行かねぇ?」

「あぁ、」

「全部、全部終わったら、」

「うん」

「…結婚しよう。」

「…うんっ、…。」
終わりなんて分からない、全部がどこまでかなんて知らない。終わらないなら隣を必死で歩くだけだ。どこまでだって行ってやる。
地獄も一緒に歩く覚悟だ。


❦ℯꫛᎴ❧

Comments

  • s s
    October 16, 2021
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