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#負けるエピソードインタビュー|「それ、なんの価値があるんですか?」を考え抜いた、僕の3年間の話。

こんにちは。前田デザイン室の真琴と申します。

今回はクラウドファンディングで書籍化した『負けるデザイン』のリターン企画、「あなたの負けたエピソードを記事化させてください」の第二弾です!

第一弾はこちら▼

お話を伺ったのは、商業施設開発をしている「A社」に勤める小川拓志さん。事業戦略部のプロジェクトマネージャーとして、グローバルに活躍されています。

「仕事は好きです。大変なこともありますが、僕ってポジティブなんですよね」と、柔らかさと頼もしさのある言葉で語ってくれた小川さん。その裏には、一体どんな「負け」があったのでしょうか。
〈聞き手=真琴〉

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柔らかい笑顔がすてきな小川さん(写真左)

負けのきっかけ、企業間留学。

——小川さんは有名大企業で、海外の方ともお仕事をされてると伺いました。「負け」とは縁遠い感じがするのですが、「負けたエピソード」は最近のことだったんですか?

エピソード自体は3年ほど前のことです。でもどん底からぬけだせたのは、ここ半年くらいのこと。それまでは人生で一番最悪な、つらい3年間でした。

きっかけは会社が企画した企業間留学です。A社は大企業で安定していますが、裁量は大きくありません。「裁量のあるベンチャー企業だったら、どのくらい成果を出せるんだろう」と考えて応募しました。

——出向先の企業は、どんなところでしたか?

教育関連のベンチャー企業「B社」です。社員3名の小さな会社で、バリバリのベンチャー企業。どんどん裁量を与えてもらえる社風で、まさに求めていた環境でした。

社長がとくにすごくて、頭の回転が早く本質をよく見ている方。ただ言葉がかなりキツくて、冗談抜きに「サイコパスなんじゃないか」と思っていました。(笑)

任されたのは営業部門の立ち上げ。B社と大手広告代理店がタッグを組んで、教育商材を販売するところでした。しかし出向直前、事情があって代理店とのタッグはなしに。「1000万円単位の大きな商材なのに、無名のB社だけでどうやって販売していくんだ……」という状態でした。

過信と80メートルの差。

——それは難しいタイミングでのジョインでしたね。

そうですね。とはいえ十数年培ってきたものはあったので、正直「それなりにいけるんだろうな」と甘い考えを持っていました。

ただ実際やってみると、想像と現実の落差は大きくて。高さ20メートルくらいのジェットコースターだと思っていたら、100メートルくらいあった感じです。(笑)

営業ひとつとっても全然うまくいかない。B社はまだ知名度が低く、営業先からも「お前は誰なんだ」という反応。A社で無意識に武器にしていた「有名企業の看板」が一切通用しなくなり、「あれ、なにから始めたらいいんだろう」と。

「とりあえず電話帳開いてアポ取りしてみるか」「やっぱりうまくいかないな」「A社で以前やったあの方法なら」「この方法なら」と、過去の経験だけを頼りに提案やアポの電話を繰り返していて……そして着任から1週間ほど経ったある日、社長に言われました。

「それ、なんの価値があるんですか」って。

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——厳しいお言葉ですね。頑張っているのにそんな言い方、私なら腹が立ってしまいそうです。

僕の場合は反感も怒りもなく、とにかく頭が真っ白になりました。「価値って言われても……」という感じです。

その後も何度も言われ続けたのですが、そのたびにどんどん焦りが生まれ、余計に頭が真っ白になって、最後はとにかく言われるのが辛くなってしまいました。

どん詰まりになって、なにも考えられなくなって……1ヶ月ほど経った頃、社会人になって初めて「会社に行きたくない」と思い始めました。

——「仕事が好き」と話されていた小川さんでも……どうしてB社では、そんなにもうまくいかなかったのでしょうか?

「こんなに大きな責任と裁量は初めてだった」というのが、一番の理由かもしれません。裁量を持ってみたくて出向したのに、いざ与えられると「何をしてもいいけど、何をしたらいいかわからない」という状態になってしまったんです。

「A社での経験を活かして、B社をぐいぐい引っ張ってやるぞ!」という意気込みだったのに、契約どころかアポも取れず、社長の言葉もよくわからず、なにも役に立てなくて。それを毎日直視するのは辛かったです。

それでも必死に壁打ちは続けましたが、相変わらず社長からは「なんの価値があるんですか」と。

2ヶ月半たったある日、とうとう限界がきて……人生で初めて「ズル休み」をしました。

好きだった仕事に、向き合えなくなった日。

——おぉ......!大人のズル休み!責任感の強い小川さんが、意外です。どんな感じで決行なさったんですか?

ある金曜の朝、いつも通りB社のある恵比寿のビルに向かったのですが、ビルの前で足が動かなくなってしまったんです。「いま会社に行っても、頭が真っ白すぎて本当になにもできないぞ」と。そう思ったら、もうエレベーターを上がれなくなってしまいました。

突っ立っているわけにもいかないので、とりあえず一階のカフェに入って、コーヒーを頼んで、座って。それから「体調が悪いので休ませてください」と電話しました。

——ズル休みというより、出社できなくなってしまったんですね。その後は……?

コーヒーを飲み干してからは、ひたすら恵比寿の街を徘徊しました。店にも入らず、何か見たり楽しんだりもせず、ただ人の少ない裏道を歩く。散歩というより、本当にとぼとぼ、ふらふら、徘徊していました。

「頭がまわらない」「けどなにかしなきゃ」「でも家に早く帰ると妻に心配されてしまう」……それで結局、退勤時間の17時までずっと、恵比寿を徘徊していました。

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——朝から17時まで!ずいぶん長い徘徊だったんですね。なにか、頭がバグを起こしていたような印象を受けます。

確かにそうかもしれませんね。出社しても考えて、帰宅しても考える毎日で、もう飽和状態だったので……でもズル休みのおかげで、少しだけ冷静さを取り戻せました。

とはいえ出勤できるような状態でもなかったので、冷静さが少しでも残っているうちに、社長に率直な感情をメールすることにしたんです。「全然役に立てていなくてつらい」「でも、出向終了までやり抜きたい」と。

そうしたら、社長からすぐに返事がありました。「一度とりあえず話そう。月曜日何時でもいいから来てよ。お昼くらいがいいかな」と。

「社長って、本当は……」

——あの厳しい社長さんが……!

そうなんですよ。本当に厳しい言葉が多い方で、ふだんは視線すら合わないような方です。だからずっと、僕も社長を誤解していました。

でも、このとき初めて気づきました。「この人はコミュニケーションが苦手なだけで、本当はすごく優しい人なんだ」と。

——そこで見え方が大きく変わったんですね。面談では、どんなお話をされたんですか?

「僕らの商材はまだ世の中にないもの。売り方も、売る相手も、なにもかも正解のないなかで戦っている。過去の成功事例にしばられると、打つ手がせばまる。僕らが一番恐れているのはそこなんだ」と、そんな話をされました。

僕はそれまで、過去の成功事例の模倣ばかりしていました。だから価値を改めて問われても、自分の言葉で説明ができなかった。

社長はそれを全部見抜いて、僕に「それ、なんの価値があるんですか?」と言ってくださっていたんです。

——ただの批判・否定ではなく、根拠や思いがあったと。見方を変えてようやく、その言葉や社長の本質を理解できたんですね。

そうですね。社長は頭の回転が早く、非常に合理的な方です。ゆえに簡潔で端的な物言いが多い。さらに本質を見抜くことに長けていて、他人がすぐに追いつけないような考え方をしています。

だからニュアンスが間違って伝わりやすいだけなんだと、面談を通してよくわかりました。

自分の「本質的な価値」とは。

——面談から出向終了まで、状況は良くなっていったのでしょうか?

いえ……出勤できるようにはなりましたし、それからも学びはたくさんありました。ただ半年間の出向中、僕は最後まで契約を取れなかったんです。「負けた」という気分でいっぱいのまま、A社に戻りました。

それからは、つらい毎日が続きました。せっかくB社で学んだことも大企業のA社では活かせないし、仕事もうまくいかなくて。家に帰っても暗い部屋の片隅で、体育座りしているような状態。いまだから言えますが、真剣にA社をやめようか考えていました。

そこで思い出されるのは「それ、なんの価値があるんですか?」という言葉。だんだんこれが自分に向いてきて、次第に「自分の価値ってなんだろう」と考えるようになりました。

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——それはキツイですね……その状態から、どのようにぬけだされたのでしょうか。

自分の価値をちゃんと見つけられたんです。2018年の出向から昨年までの3年間、「自分の本質的な価値とは」を問い続けました。その結果、僕の価値は「言葉」にあると気づいたんです。

——おぉ!どんな考えを経て、価値にたどりついたのでしょうか?

持論ですが、本質的な価値とは「どんなフィールドや、どんな会社でも活かせる長所」のことかなと。そしてこれを見つけるヒントは

「自分が大切にしてきたもの」
「やっていて苦にならないもの」
「他人が自分に抱いている印象」
「自分の中に大きな喜怒哀楽が生まれた瞬間」

などにあると考え、僕もそういう瞬間を思い返してみたんです。

うまくいった仕事では「インフォメーション」ではなく、まずは相手の言葉をよく聞いて理解する「コミュニケーション」を大切にしていたこと。

「小川さんは、理解しようとしてくれている感じがします。伝わる言葉を選んで話しているんだなって」と、部下が言ってくれたこと。

そして出向で辛かったとき、ホンダの「go, Vantage Point.」というCMに勇気づけられたこと。主題歌であるONE OK ROCKの曲を聞きながら、自分を奮い立たせて出社していたこと。そんなふうに、自分自身も今まで「言葉」に支えられてきたこと。

……そんなことを思い返しつつ、引き続き友人や仕事仲間から自分の印象を聞いてみました。そこから「自分の強みや大事にしているものは『言葉』なのかもしれない」と気づき始めたんです。

——その価値に気づいてから、心境や環境に変化はありましたか?

自分の言葉にもっと自信を持てるようになりました。これをさらに強みにしたいと思い、去年からコピーライター養成講座にも通いはじめました。言葉で人の心を動かす方法や行動を促す方法、短く強い言葉をどう扱うかを学びたかったんです。

いまは言葉をいかして、なにか世の中に役立つことができたらと、すごく思っています。休日を使って、NPOでの活動やボランティアもやってみたいなと。

社長も、僕の価値に気づいてくれていた節はあるようで。ふたりで飲んでいた時に、B社の行く末について思うところを話してくれたことがあったのですが、「こういう時、小川さんならうまくやるんだろうね」なんて、ぽろっと言ってくれたこともあったんですよ。

サイコパス社長との、その後。

——あの社長さんから、そんなお言葉が……!というか、出向終了後まで親交があるなんて驚きです!

そうなんです。一年に一回くらいは、二人で飲みに行っているんですよ。相変わらずキツイですけどね。(笑)でもそれがすごく懐かしくもありますし、おかげで当時の悔しさを忘れずにいられました。それもあって、3年間しっかり自問自答を続けられたんだと思います。

言葉という価値にたどりつけたのも、「これからこんなことしたいな」と考えられるようになったのも、本当に社長とB社のおかげだなと思いますね。

——負けがあったからこそ、大切なものが得られたんですね。社長さんから「小川くん変わったね」「やっと気づいたんだね」という言葉はありましたか?

いや、彼は基本優しいことはまったく言わない人なので。(笑)でも「こんな僕のところに毎年来るって、ちょっとおかしいですよね」と。これは最大の褒め言葉だと思っています。

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他人の視線を手に入れて、本質を見る。

——社長さんへの理解、自分の価値の発見……どちらにしても小川さんの「本質を見る力」があってこそ、たどりつけたものだと思います。この力は、どのように鍛えたのでしょうか。

うーん……僕もまだまだなので答えるのが難しいですが、「価値観の引き出し」は、人より少しだけ多く持っているかもしれません。本を読んだり、人と話したりして、いろいろな人間の価値観や考え方を引き出しにしまっておくんです。

たとえば多くの方は「ポストは赤色」と答えると思いますが、これが茶色っぽく見えている方も存在します。生き方が違えば世界の見え方や価値観も、そのくらい大きく違ってもおかしくないと思うんです。

だから僕は、できるだけ多くの方の価値観を理解してみたいと思っています。電車の窓際に立つ人、カフェの店員さん、街で大きな声を出す障がいのある方……彼らにはどんなストーリーがあるか、つい考えてしまうんですよね。

——まず他者の価値観に興味を持って、蓄積することが大事なんですね。ちなみに、興味を持つようになったきっかけはありますか?

実は、それこそ僕の目は色の見分けがつきづらくて。だから幼い頃から「人によって世界の見え方は違う」と意識せざるを得なかったのですが……それがきっかけなのかもしれません。

——色の見分けが……全然想像がつきません。やはり苦労も多かったのでしょうか。

色がわからないことが理由で、諦めたり遠ざけてきたものはあります。デザインもそのひとつです。でもやっぱりデザインは好きで、だから『勝てるデザイン』も手に取りましたし、『負けるデザイン』のクラウドファンディングも、応援したいと思いました。

僕の価値は言葉だとお話ししましたが、これは「色のわからない僕だからたどりついた、デザインの形」なんだと思います。

——そんなふうに勝てるデザイン、負けるデザインに出会ったんですね。引き出しの話に戻りますが、街ゆく他人の価値観も蓄積すると「引き出し」もぐっと増えそうですね。でも知らない方のストーリーを、すぐに想像するのは難しそうです。

まずは目の前の人が自分にしてくれたこと、かけてくれた言葉の先を想像してみるのがいいかもしれません。

たとえば、待ち合わせていた友人が水を買ってきてくれたとしたら、「なぜこの水をくれたんだろう」「気が利くんだな」「いや、気を遣わせてしまったのかな」「それとも自分だけ飲むのは気が引けたのかな」と考えてみるんです。

そうして「価値観の引き出し」を増やすと、相手からの見え方がリアルに想像できるようになります。想像というよりは「他人の視線を手に入れて、その人になりきってストーリーを組み立てる」という感じですね。

そうすると、いままで「この人何を考えているんだ」「ひどい人だ」「こんな言い方しなくていいのに」と思っていたことも、その人なりの根拠や思いが見えたりするかもしれません。

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負けの先輩から、あなたへ。

——引き出しを持てば、見えるものも変わるということですね。しかし、根拠なく気分次第で怒る方なんかもいて……そういう方との関係性で悩んでいる方へ、かけたい言葉はありますか?

人との関係性での悩みって、つらいですよね。言葉の違い、価値観の違いって、どうにもならない部分があります。

ありきたりな言葉で申し訳ないのですが、ご自身が精一杯の努力をされたのなら、「この人はこういう人なんだ」と、割り切ることが大切かと思います。僕はよく、心の中で「あ、かわいそうな人なんだな」と、一回呟いて合掌します。

勇気を持って忘れてみましょう。そして離れることを考えてみましょう。ご自身の長い人生のほうが、よっぽど大切です。

——ありがとうございます。最後に「自分、負けっぱなしじゃん」と悩んでいる方へ、「負けの先輩」としてメッセージをお願いします。

「負け」っていいですよね。人は勝った話や自慢話はあまり聞いてくれませんが、負けた話はすごく聞いてくれます。そこには「共感性の種」が、たくさんあるんだと思います。負けた瞬間って、人の気持ちがわかるようになる瞬間、でもあるのかなと思います。

人との関係性のなかで仕事をしている以上、そこで得た気づきはとても大切です。負けっぱなしということは、いつか勝つときのためのストックが、たくさんあるんじゃないでしょうか。

がんばったから、負けがある。まずは、がんばって来た自分を褒めてあげてください。

そして、負ける事を恐れずに、一緒に次の一歩を踏み出していきましょう。

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文・イラスト:真琴
編集:ぐんぐん
バナー:真琴・ぜっこす

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#負けるエピソードインタビュー|「それ、なんの価値があるんですか?」を考え抜いた、僕の3年間の話。|マエデ(前田デザイン室)・公式note
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