被爆80年 「核と人類は共存できない」日本被団協の戦いを追うドキュメンタリーを制作 竜田理史アナ
- 2025年9月8日
- 竜田 理史
- 広島放送局
NHK広島放送局は被爆地にある放送局として、原爆や平和についての取材を使命にしています。毎年8月6日に放送する「広島原爆の日ラジオ特集」は、半世紀近く前から制作しています。今回、担当するにあたり、被爆80年の「今」をどう切り取るか、考え続けました。被爆者から直接話を聞くことができる機会が少なくなる中、被爆体験や平和への思いを次世代にどう受け継ぐか。広島局の被爆80年プロジェクトが掲げる『わたしが、つなぐ。』という思いを持って被爆者の方々に向き合い、伝えました。
(広島放送局アナウンサー 竜田理史)
日本被団協がノーベル平和賞受賞へ
2024年10月11日(金)午後6時すぎ、大きなニュースが飛び込んできました。「核と人類は共存できない」と活動してきた日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会にノーベル平和賞が贈られることが発表されたのです。
広島局に転勤して1か月あまりでしたが、怒とうの日々が始まりました。まず立ち上げた番組は、12月10日にノルウェーのオスロで行われる授賞式に合わせて生放送する『ジャーナルクロス』(ラジオ第1・全国放送)です。
番組の目的は3つ。①日本被団協の受賞スピーチを余すことなく伝える、②被爆の実相や被団協の歩みについてアーカイブス音源を駆使して伝える、③混迷する国際情勢の中でどのように核なき世界や平和を実現するかを専門家たちとスタジオで議論することです。
左から、鈴木達治郎さん(長崎大学核兵器廃絶研究センター客員教授)、モーリー・ロバートソンさん、
著者、小野文惠アナ、山根良顕さん
番組は東京のラジオセンター、広島局、長崎局が連携して制作。広島局のスタジオをキーステーションに長崎とノルウェー・オスロを結び、現地から送られてくる授賞式の配信映像を見ながら歴史的な瞬間を伝えました。
被爆80年 被爆者たちの戦いを追う
『ジャーナルクロス』で出会った、日本被団協・代表理事の田中聰司さん(81)には、その後も続けて取材させてもらうことになりました。田中さんは1歳の時に広島で被爆し、原爆で家族4人を亡くしました。幼い頃から病弱で53歳の時に食道がんが見つかり、合わせて6つのがんを治療してきました。田中さんの体と心には核兵器の被害を受けたという「現実」が刻まれています。
田中さんは、国際情勢が混迷を極める中で「また核兵器が使われるのではないか」という危機感を持っていました。そこで、被爆80年の今年、自ら核保有国へ出向いて人類の未来のために核兵器廃絶を訴えることにしました。私はその力強さに感銘を受け、田中さんが核廃絶に向けて戦う姿を取材させていただくことにしました。
田中さんは5月に核保有国のフランスに渡り、南東部にあるグルノーブル市のピオル市長と面会。マクロン大統領に核軍縮を求める書簡を手渡しました。さらに1週間あまりフランスに滞在して市民や科学者に向けて講話も行いました。この間の取材はヨーロッパ総局の田村銀河記者(現・大分局)が担当しました。
広島に戻ってきてからも田中さんは、アメリカで核政策を学ぶ大学生たちへの講話、日本政府に対する要望書の執筆、核兵器禁止条約の批准を求める署名活動など、毎日、目まぐるしく平和に向けた活動を続けていました。
その田中さんの信念としてあるのが、日本被団協の初代事務局長の故・藤居平一さんの言葉です。それは、広島の言葉で「まどうてくれ」。「元どおりにしてくれ」という意味です。田中さんはこの言葉について、次のように話しました。
田中聰司さん
藤居平一はお父さんが原爆で亡くなってね。奥さんの里があったのが向原町というところで、奥さんのお父さんはお医者さんしていたんですよ。そこへ行って藤居さんも治療を受けたりしているんだけど、その時そこへ来る患者が「まどうてくれ。まどうてくれ」と言っていたのを聞いていて。その言葉を彼が使うようになった。「元どおりにせよ」というのは、つまり原爆でむちゃくちゃにされた体をね、元どおりに返せと。それができぬのなら、補償しなさいという運動になったわけよ。
日本被団協の長い歴史の中で、先人たちの志を受け継ぎ、バトンを渡しながら活動が続いているのだと実感した瞬間でした。
また、番組では広島市出身で日本被団協の事務局次長を務める児玉三智子さんにも取材しました。児玉さんも原爆で壮絶な体験をしています。7歳のときに被爆し、姉のように慕っていた従姉妹(いとこ)を自分の腕の中でみとりました。
児玉さんも日本被団協で核廃絶を求めて戦い続けてきた一人です。今年7月、来日したノーベル委員会のフリードネス委員長とともに平和のメッセージを発信しました。児玉さんへの取材では次の言葉がとても印象に残っています。
児玉三智子さん
(被爆)80年だけで終わる問題じゃないですね。(核兵器を)作るのも人間です。使うのも人間です。なくすことができるのも人間です。誰もやってくれません。自分たちでやるんですよ。
時間はどのくらい残されているのか?
一連の取材をまとめた番組が、8月6日に放送したラジオドキュメンタリー『広島原爆の日ラジオ特集 “核と人類は共存できない” 被爆80年 日本被団協の戦い』(ラジオ第1・全国放送)です。
番組の構成では「時間」を一つのテーマにしました。人類最後の日までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」について、アメリカの科学雑誌は今年、過去最短の残り89秒と発表しました。一方で、被爆者の平均年齢は86歳を超え、初めて10万人を下回りました。
こうした中で、人類の未来のために核廃絶を訴え続ける被爆者の姿を通して、「平和への思いを次世代にどう受け継ぐか」を考える機会になればと思い、制作と語りを務めました。取材を通して、核兵器をめぐる問題は「被爆80年で終わる話ではない」ことを実感しました。この節目を決して“一区切り”にせず、若い世代の一人として今後も向き合い、伝え続けます。