新人ディレクター 初企画に挑む!
皆さん、こんにちは!
水戸放送局の實渕碩也(じつふち・せきや)と申します。
歴史が大好きで、時代劇を作ることを夢見てテレビ業界に飛び込んだ1年生ディレクターです。きょうは、私が配属されて初めて挑んだ企画の制作についてお話させていただきます。
1.「じっちゃん、これやってみない?」
3月末に母校の大学で卒業式を終えると、あっという間にNHKの入局式。
新人たちは、東京で約1か月の研修を受講したのち、それぞれの職場に配属されました。
私の配属先は茨城県の水戸放送局。私は茨城県出身ですが、生まれも育ちも県南地域なので、県の中央に位置する水戸市にはゆかりがありませんでした。水戸局に着任してからの2~3週間は、先輩の番組の取材を手伝ったり、撮影や中継に補助要員として同行したりしていました。
ちなみに、働きはじめて一番なじめなかったことは、職場での座席配置です。水戸放送局の職場はフリーアドレス制で、各自に決まった座席があるわけではありません。出勤するたびに、職場の人たちのいる場所が変わっているので、まだそれぞれの人の顔を覚えていない間はだいぶ戸惑いました(笑)。
配属から3週間ほどが経過したある日、慣れないフリーアドレス制によって、たまたま目の前に座っていたのは、新人の私のことも何かと気にかけてくれていた、とある企画の担当管理職の方でした。その方から、突然、「じっちゃん、これやってみない?」(水戸局メンバーの多くは、親しみを込めて私を「じっちゃん」と呼んでいます)と言われたのです。
急なお誘いにびっくりしつつも、話を聞いてみると、夕方の県域ニュース番組「いば6」で放送している「プロジェクト6」というコーナーの制作に挑戦してみないか?とのことでした。自分にできるだろうかという不安はありましたが、初めての企画制作へのワクワク感が圧倒的に勝り、直属の上司であるプロデューサーとも相談して、チャレンジさせてもらうことにしました。
2.プロジェクト6とは?
この「プロジェクト6」という企画は、水戸局の森花子アナウンサーが司会を務める「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」のスピンオフ版で、茨城県の皆さんの身近な挑戦やプロジェクトをご紹介するコーナーです。ナレーションは、水戸局のアナウンサーが、プロジェクトXの旧シリーズから語りとしておなじみの田口トモロヲさんになりきって重々しく読むのが1つの見どころ。ちなみに、コーナー名の「プロジェクト6(シックス)」は、「プロジェクトX(エックス)」の「X」と「いば6(ろく)」の「6」をかけています。
3.「どんな挑戦を紹介しよう?」
「プロジェクト6」制作のお誘いに半ば勢いで乗ってしまいましたが、挑戦として紹介する話題は全く決まっていませんでした。「早く決めなくては…」と必死でリサーチをするなか、ふと思い出したのは水戸市内を走る1台の路線バスのこと。
歴史が大好きな私。実は、昔の鉄道車両やバスも好きで、レトロなバスが今も水戸に残っていることを知っていました。そして、NHKに入局し、縁あって配属された水戸の街で、偶然、そのバスが走る姿に遭遇しました!それがこちら!
車体がピカピカなので、一見すると普通のバスに思えますが、左右一灯ずつの丸いヘッドライトや、行き先表示がフィルム製になっていることなど、よく見ると超レトロです。「このようなバスが令和の今も使われている背景にはきっと何かドラマチックな挑戦があるに違いない!」と直感。早速バス会社に電話してお話を聞いてみました。
すると、このバスは同社に唯一残る昭和生まれの車両として大切に保存・運用されていると判明。旧型のバスの多くが世代交代で引退するなか、2016年にはこのバスにも廃車の危機が訪れましたが、貴重な車両の現役続行を願う声が現場で上がりました。そして、整備部門の責任者の方が会社の上層部と話し合い、車両存続の承認を得て予算を確保することに成功したのです。その結果、エンジンなどが大規模に修繕され、現在もお客さんを乗せて元気に走っているとのことでした。
「バス」という、ふだん当たり前のように使っている乗り物に秘められた物語を通して、私たちの身近なところに「本当はすごいもの」が隠れていることを知らせたいと強く思いました。同時に、このエピソードは「茨城県内の挑戦を紹介する」という「プロジェクト6」のコンセプトにもピッタリだと感じ、局内で相談したところ、「この話題でいこう!」と先輩たちが背中を押してくれました。
もともと「プロジェクト6」は、挑戦について紹介する数枚の写真をもとに制作するコーナーでしたが、「昭和のバス」が現役で使われていることを効果的に伝えるには、バスが実際に動いている姿が欠かせないと考え、今回は写真だけでなく、現場で動画も撮影して制作することに決まりました。その映像を撮影するための「ロケ」は3日後。ロケが終わって6日後には放送というスケジュールになりました。初めての企画制作にしては余裕がないと感じて不安でしたが、ここまで来たらやるしかないと腹をくくりました。
4.いざ、人生初のロケへ!
遂にロケの日がやってきました。生まれて初めて自分の企画で挑むロケです。カメラマンも自分が務めるため、業務用のデジタルビデオカメラ(通称:デジ)を持っていきます。出発前にこのデジや、付属の三脚の使い方を先輩に教えてもらい、機能や注意点をひととおり把握した後、意を決して取材先のバス会社の営業所に向かいました(緊張のあまり手汗がすごかったです…)。
営業所に到着すると、バス会社の方が温かく出迎えてくださいました。
そして、早速レトロバスが駐車している場所へと案内されます。
バスの車内は昔懐かしい「木の床」。私が木の床のバスに最後に乗ったのは小学3年生の夏休みでした。まるでタイムスリップしたかのような空間に感銘を受けます。
製造から37年が経過した車両であるにも関わらず、車体はまるで新車のような輝きを放っており、長年大切にされてきたことがひしひしと伝わってきます。「目の前にたたずむこのバスの魅力とその物語を届けて、初企画を必ず成功させるぞ!」と自分に言い聞かせながら、ロケが始まりました。
カメラなどの機材を操作しつつ、情報を教えてもらい、インタビューもしていくことは思いのほか難しく、手際が良いロケとは言えませんでした。ロケ中は、終始焦っていたことを今でもよく覚えています。
それでもなんとかロケを終え、その日は帰路に就きました。
帰宅後、お風呂に入りながら、ロケのことを振り返っていると、「あのとき、こんなふうに撮影すれば良かったかな・・・」「あの質問のしかたは良くなかったかな・・・」などといった反省点がしきりに思い浮かびはじめてしまい、その日の夜は悔しさですっかりしょぼくれてしまいました。
5.初めての番組編集と手に汗握るスタジオ出演
しかし、ずっと落ち込んでいるわけにもいきません。
翌日からは編集作業が始まりました。もちろん、編集も初めての経験で、先輩ディレクターに丁寧に教えてもらいながら編集機を使います。映像のつなぎ方やさまざまな映像効果の活用法など、番組制作の「いろは」を学びました。連日編集をサポートしてくれた先輩には感謝してもしきれません。
数日間編集を行い、遂に迎えた放送当日。
VTRを放送した後には情報の補足のため、私がスタジオ出演もすることになりました。
「いば6」は日によってメインキャスターが変わることがあるのですが、その日の「いば6」担当キャスターは、本家プロジェクトXの森花子アナウンサーだったのです。NHKに入る前から頻繁にテレビで見ていた森さんといきなり共演するなんて何という巡り合わせ…。最後まで全く気が抜けません。
放送に向けてまず入念なリハーサルを行い、コメントの確認を行います。
リハーサルとはいえ、ニュースのスタジオに立ったことなどなく、最初は現場の空気感に圧倒されてしまいましたが、森さんや上司のプロデューサーに助けてもらいながら、本番に向けて準備を整えていきました(リハーサル後、お手洗いに籠もってコメントの練習をしたのはいい思い出です)。
本番前、プロデューサーがディレクター部門のグループチャットで「本日のいば6で、實渕ディレクターが「プロジェクト6」を担当し、スタジオ出演も行う予定です。みなさん、テレビの前で応援して下さい。」と送ってくれました。優しさに満ちたメッセージを見て、心がとても温かくなりました。
午後6時10分。「いば6」の生放送が始まりました。
プロジェクト6は後半のコーナーですが、番組開始時点で既に心臓の鼓動が早くなっているのを感じました。ドキドキ・・・。
放送時間が近づくにつれて、ドキドキはさらに増していきます。
そんなとき、先輩キャスターが「がんばれ!」と笑顔を向けてくれたことで、緊張が少しほぐれ、気持ちを切り替えて本番に挑むことができました。
無我夢中で森アナウンサーからの質問に答えて、放送は終了。なんとか大きなミスなく乗り越えることができました。
ちなみに、就職活動中に私の面接を担当した大先輩プロデューサーも放送を見て下さり、「全然緊張しているように見えなかった(笑)」と言われました。いや、めちゃくちゃ緊張しましたよ…汗。
6.デジタル展開の大反響にびっくり!
放送を終えた後、安堵感があった一方で、まだやりたいことがありました。就活を行っていたころから、メディアが多様化する現代では、テレビの放送だけでなく、インターネット上での発信も重要だと感じていたのです。
水戸局は、全国の中でもデジタル展開を積極的に行っている局であり、「この環境をぜひ活用しなくては!」と思い、今回の企画と連動したWEB記事を執筆。さらに、その記事を紹介する投稿も水戸局のX(旧Twitter)上で行いました。
↓↓ WEB記事はこちら! ↓↓
すると、自分でも予想しなかった大反響があったのです…!
記事公開後の1週間で…
① WEB記事を紹介したX投稿が、水戸局で今年度「最も見られた投稿」に!
(2024年12月12日現在)
② WEB記事から「NHKプラス」への誘導数「全国1位」を記録!
(全国の地域放送局のうち)
このような結果となったのです。
X上では、レトロなバスを懐かしむ声も数多く寄せられました。
デジタル展開の重要性を再認識したと同時に、昭和の車を長年大切にしてきたバス会社の皆さんの熱い思いを全国の人たちに届けられたことが、何よりもうれしかったです。
7. 初企画を終えて
今回の企画は取材先の方々からも好評で、ほっとしました。
後日、バス会社に直接ご挨拶に伺うと、「放送見ましたよ!」というお声がけをいただき、ネット上での大反響についても一緒に喜んで下さいました。
こうして自分の初企画を振り返ってみると、取材を快諾し、温かく迎えてくれたバス会社の皆さんはもちろんのこと、アナウンサーやディレクターといった職種の垣根を超えて、職場のたくさんの先輩たちが新人の自分を支えてくれたことに気づきます。皆で力を合わせて県域放送に貢献できたことは私にとって大きな自信となりました。そして、地域に寄り添った番組を作ることの素晴らしさや楽しさ、やりがいも同時に実感しました。
改めて、お世話になった全ての方々に感謝の思いを伝えたいです。
本当にありがとうございました。
ディレクターとしてまだまだ駆け出しの私ですが、大切にしたいモットーがあります。それは、視聴者の皆さんの「かゆいところに手が届く」コンテンツを制作する、ということです。
現代は、個人の好みが以前にも増して多様化している時代だと感じます。こうした状況にも柔軟に対応し、個々のニーズを取りこぼすことなく、番組制作を通じて社会貢献をしていけるよう、これからも頑張ります。

