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1995年生まれ「震災を知らない世代」が阪神・淡路大震災30年を”広報”する

1995.1.17

突然ですが、皆さんにお伺いします。
この日付を見て、どんなことを感じますか。

「忘れられない日。」
「この数字を見ただけでも、一気に記憶がよみがえる。」
「思い出したくない」

という人もいれば、

「…ああ、そうか、あの日か。」

何となく、そう感じる人もいますよね。私は圧倒的に後者でした。

2025年1月17日、
「阪神・淡路大震災」が発生して今年で30年となりました。

記事のタイトルの通り、私は1995年5月生まれの29歳で、
「震災を直接経験していない世代」「震災を知らない世代」の一人です。

そんな私ですが、”広報”という仕事の中で
多くの人に阪神・淡路大震災について知っていただくため、
そして、思い出していただくため、
NHK神戸放送局の他の職員と試行錯誤しながら、日々発信をしています。

震災を経験していない・知らないため、
悩むことや難しいと感じることもたくさんありました。
震災から30年が経ったいま、
NHK神戸放送局の若手職員たちが取り組んでいることについて、
少しお伝えできたらと思います。

(NHK神戸放送局・広報 斉藤 佳澄)

震災を知らない私が            神戸放送局配属・プロジェクトリーダーに


私は阪神・淡路大震災が発生した年と同じ、
1995年の5月、関東で生まれました。

おそらく、阪神・淡路大震災について初めて知ったのは
小学校の社会の授業です。教科書に載っていた倒れた建物や、
曲がった線路の様子をとらえた写真を見たことを覚えています。

時が経ち、
NHKに入局して3年目、神戸放送局に配属され、
広報・デジタルの仕事をすることになりました。
番組やイベントの情報を視聴者の皆さんにお知らせするため、
HPを更新したり、Xの投稿を出したりしています。

そして、神戸放送局の中には、記者、アナウンサー、
ディレクター…などさまざまな職種の若手職員で構成される、
若手職員プロジェクトがあります。
自分の業務のかたわら、
新しい取り組みを提案・実行するプロジェクトです。


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現在のプロジェクトメンバー
この日集まることができたメンバーなので、本当はもう少しいます。
画面右上、Eの右隣りが斉藤です)

地域のみなさんとつながるイベントを企画したり、
番組を知っていただくための広報活動を行ったり、
様々な取り組みをしています。

その一つが「阪神・淡路大震災 特集サイト」です。

神戸放送局はそれ以前も、取材・制作したコンテンツを掲載する
WEBページを期間限定で開設していましたが、
この特集サイトは公共メディアとしてより多くの人に震災の記憶や教訓について伝えるため、いつでも見られるようにしました。

特集サイトには、震災の概要から、
地震発生時の神戸放送局の映像を掲載しているほか、
震災と向き合い続けている人々を取材した動画や記事などを
掲載しています。
1.17動画アーカイブス」というページでは、
インタビュー映像などを合計137本 掲載しています。(2025年1月末)

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特集サイトのトップページ
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「1.17動画アーカイブス」ページ

私は神戸局に配属されると同時に、
若手職員プロジェクトのリーダーとして、
この特集サイトの運営も任されることになりました。

沈黙の20秒間から始まった
若手職員プロジェクト

2024年6月。
若手職員プロジェクトに重大ミッションが与えられました。
それは「阪神・淡路大震災30年を“広報”すること」。

なるほど。来年(2025年)で30年ですもんね。と思う一方で、
震災30年を“広報”するというのはどういうことなのか
どんなやり方で、いったい何をしたらよいのかわからない
というのが最初の感想でした。
そもそも震災を直接経験していない自分たちが伝えることができるのか。
そんな風にも思いました。

とにかく、プロジェクトメンバーの意見を聞いてみよう、
不安がつのるなか、早速ミーティングを開きました。

16人いるメンバーのうち、ほとんどが20代で、
関東や東北など、関西以外の地域の出身者も多くいました。
ミーティング開始早々、「阪神・淡路大震災30年を広報することについて、何かアイデアはありますか?」とメンバーに問いかけました。

「・・・・・・。」 
20秒間の沈黙。

いま振り返ると、目的も不明瞭な状態で
いきなり「何ができるかアイデアを出して」と言われても無理です。
自分の考えの浅はかさを痛感しました。
改めて、プロジェクトの活動をリードするためには
目的を明確にする必要があると気付きました。

また、メンバーの半数は私のように、
直接、取材や番組作りには携わっていないメンバーでした。
震災を経験された方と会って話を聞く機会のある記者やアナウンサー、
ディレクターといった職種のメンバーと比べると、
震災に関する知識量も少なく、温度感もつかむことができない状態でした。

メンバーの多くは、神戸放送局の職員として、
阪神・淡路大震災30年を広く伝えるべきだということは理解できますが、
何をしたらいいのかわからない。自分がどう貢献できるのかわからない。
という空気感がとても強く感じられました。

早速、その次のミーティングで、
私は「阪神・淡路大震災30年の広報」の目的を
「震災の記憶と教訓を、世代を超えて継承する」とすることにしないか、
と提案しました。

自分たちのように、震災を知らない世代が年々増えていることは事実で、
当時の経験や教訓を語り継いでいく「語り部活動」は、
「語り部」の中心を占めるのは高齢者となり、担い手も減ってきています。そして、コロナ禍の影響もあり、震災関連の展示会など、
若い世代が震災について学べる機会が、
以前に比べて減少してしまったという状況も耳にしました。

そういった背景を踏まえ考えた目的でした。

プロジェクトの方針 2つの大切なこと      

 
目的が定まった後、メンバーと相談して以下の方針を決めました。

若手職員プロジェクトで考えた方針 
               
1. 自分たちが知らないからこそ、
    震災に対してさまざまな思いを持っている人がいることを忘れない
2. 持続可能な体制で、自分たちにできることから始める

一つ目の方針は、

自分たちが知らないからこそ、
震災に対して様々な思いを持っている人がいることを忘れない。

設定した目的の中に「世代を超えて」というワードが入っています。
震災を知らない若年層の人に震災について知ってもらうには、
デジタルのアプローチが最適
、と考えました。

SNSを日常的に使用している自分たちからすれば、
画面にデジタル広告が出てくることはよくあることで、
その広告をきっかけに興味を持つこともあります。
特集サイトに掲載している、
地震発生時の神戸放送局が大きく揺れる様子はとてもインパクトが大きく、衝撃的な映像です。

特集サイトに掲載している、発災時のNHK神戸放送局の様子をとらえた映像
(画像をクリックすると動画をご覧いただけます)

例えば、こういった動画が表示されるデジタル広告を出稿して
関心を持ってもらい、特集サイトを訪問してもらうことで、
震災について知るきっかけにならないかというアイデアが出ました。

ただそのとき、立ち止まって考えました。
不特定多数のユーザーの画面に広告が表示されるということは、
予期せず、突然画面に衝撃的な動画が流れるということです。

震災について思い出したくない人、もう忘れたい人はもちろん、
震災を経験していない人であっても、
心理的苦痛を与えてしまう可能性がある。
当たり前のことですが、
議論を進める中で震災を伝えることの難しさを痛感した瞬間でした。
こうした議論を経て、最終的に、
デジタル広告の出稿はしない
ことにしました。

震災を経験していない自分たちだからこそ、
震災に対して様々な思いを持っている人がいることを忘れない。
これがプロジェクトの方針の一つになりました。

二つ目の方針は
持続可能な体制で、自分たちに出来ることから始める。

NHKの職員には全国転勤があり、
プロジェクトもこのメンバーのまま続けられることはなく、
定期的に入れ替わりがあります。
また、職員の働き方やライフスタイルも様々で、
必ずしも全員がプロジェクトの活動にいつも参加できるわけでは
ありませんでした。

私はプロジェクトリーダーとして、
メンバーが変わったらできなくなることは極力減らして
持続可能な仕組みを作ることが重要だと感じていました。

自分たちの身の回りにあるものや、
既に持っているネットワークをうまく活用しながら、
出来ることからすこしずつ、プロジェクトを進めていこう。
という方針になりました。

知らない世代→知らない世代へ 
阪神・淡路大震災AR


これらの方針を踏まえて、私たちは主に2つのことに取り組みました。

一つは、2024年1月に神戸放送局と報道局映像センター、
放送技術研究所が共同で開発した「阪神・淡路大震災AR」の活用です。

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阪神・淡路大震災AR

「阪神・淡路大震災AR」とは、AR=拡張現実の技術によって、
現在の街の地図上に発災当時の映像を浮かび上がらせるものです。

大きな白地図(JR三ノ宮駅周辺)にタブレットをかざすと、
白地図上に震災当時のその場所の映像が現れ、震災当時の街の様子を、
映像と音で体感することができます。

この「阪神・淡路大震災AR」の特徴をご紹介します。

・現在と過去を地図上でリンクさせることで、当時の様子を、
 実感を持って伝えられる。

・複数人でタブレットを見ることができるため、
 見ている人の間で対話が生まれること。

・白地図と専用のタブレットさえあれば、どこでも映像を見られること。

若手職員プロジェクトでは、
この「阪神・淡路大震災AR」を通して
震災の記憶と教訓を継承する取り組みを進めています。

この1年、神戸放送局が主催するイベントに加え、
地域の防災イベントなどにも出展し、
たくさんの人に体験していただきました。

そして2025年1月15日。
神戸放送局からほど近い小学校で、
3年生の児童約150人に向けて
「阪神・淡路大震災AR」を使った出前授業
をすることになりました。
これも、教育委員会の方や教職員の皆様など、
本当にたくさんの人のご協力があって実現したことでした。

「阪神・淡路大震災AR」を学校の授業で使うのはこの日が初めて。
子どもたちはどんなリアクションをしてくれるのか、
そして映像を見て何を感じるのか。
期待と少しの不安を胸に授業開始のチャイムが鳴りました。

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出村職員の授業の様子

授業の進行は若手職員プロジェクトメンバーで、
同じく震災後に生まれた、映像取材の出村職員。
子どもたちは目の前の白地図に興味津々です。

まずは白地図に記されている
いくつかのランドマークについて「行ったことはある?」と聞いて、
自分たちがいつも行くお店や駅、神社などを頭に思い浮かべてもらいます。

そして、タブレットを地図にかざして、動画を見てみます。
動画を見る前に必ず伝えることがあります。

・これから見る動画の中には、初めて見る動画や、
 びっくりするような動画もあること


「怖い」「見たくない」と思ったら、すぐに見るのをやめること

無理をしないこと、
 しんどくなったらNHKのスタッフや先生に知らせること

自分たちが日常的に行く場所、
知っている場所が想像もできない姿になっていることに驚く子どもたち。

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私も進行役をやりました

タブレットで見た動画に、
何が映っていたか子どもたちに聞いて答えてもらいました。
先生が横でホワイトボードに綺麗に整理して書いてくださいました。

子どもたちは動画に映っていた人や建物、町の様子を細かく観察していて、

神社の鳥居が折れていた
道路から水があふれ出していた
電車がレールから外れていた

など、ホワイトボードが文字でいっぱいになるくらい
たくさん教えてくれました。

次に「もし自分が30年前そこにいたら、どう思う?どんな行動をとる?」という質問もしてみました。想像することが難しい様子でしたが

こわい
お父さんとお母さんに会いたい
他に苦しんでいる人がいたら助けたい

そんな声があがりました。

そして最後に、授業の感想を聞いたのですが、
とても印象的だった感想がありました。

(自分の) お父さん、お母さんは当時神戸に居て10歳だった。
お父さんお母さんが生きていなかったら、自分も生まれていない。
こんなに大変だったのに、生きていてくれてありがとうと思った。

30年前、こんなに建物が壊れたり、道路にひびが入ったりしたのに、
いまはすごく綺麗で暮らしやすい神戸になっている。
一体、誰がこんな風に直してくれたの?ありがとうって言いたい。

言葉が出ませんでした。
映像を通して、両親や復興に関わった人たちに対して感謝の気持ちを感じてくれるとは思っていませんでした。

驚くと同時に、神戸で暮らす子どもたちが、
いまこのように感じていることを
震災と向き合いながら過ごされた方々にお伝えしたいと思いました。

今回は神戸の被害の様子を学習してもらいましたが、
30年前、被害を受けたのはもちろん神戸だけではありませんでした。
今後も様々な地域で、震災を知らない世代が震災について知り、
考えるきっかけを作り続けていかなければならないと、
改めて強く感じました。

阪神・淡路大震災 特集サイトを
教育現場で活用してもらう


知らない世代に継承していくために行ったもう一つが、
特集サイトを教育現場で活用してもらうことです。

以前、「特集サイトを学校の授業で使っています
というご意見をいただいたことがありました。
兵庫県内の学校では、阪神・淡路大震災の経験から、
学校教育の一環として防災教育が取り入れられており、
学習指導要領に基づいて実施されています。

また、「近年は教職員も震災を経験していない世代が増えており、
子どもたちに震災について教える際、実感を持たせることが難しいが、
特集サイトに掲載されている動画は、当時の様子はもちろん、
震災と向き合い続けている人々の思いもリアルに映し出されていて、
授業で子どもたちに見せることで、さらに学びを深めることができる。」
というご意見をいただいたこともあります。

さらに教育現場での活用を広げるためには、
それぞれの学校や学年にマッチする映像を利用できるように
できるだけ、多くの動画をサイトに準備しておくことが重要なのではないかとプロジェクトメンバーで話しました。

神戸放送局では、2024年4月から「リブラブひょうご」という番組の中で
「あの日を胸に~これから~」と題して、
今なお問われている防災の課題や、
記憶と教訓を受け継ごうとする若い世代の取り組みなどを、
年間を通してシリーズでお伝えしています。

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「あの日を胸に ~これから~」のロゴ

これまでの放送について動画や記事を、全て特集サイトに掲載し、
常に様々な動画を見られる状態にしておくことにしました。
サイトコンテンツを充実させるとともに、
より多くの教職員の皆さんに役立てていただきたいと考え、
教育委員会の人々と連携して、教職員の皆さんにも周知いただきました。
さらに、時系列やキーワード、
エリアや再生時間を指定して動画を検索できるようにするなど、
教職員の皆さんからご意見をいただき、
実際の現場で使いやすいサイトにアップデートしていきました。

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時系列やエリア、キーワード、再生時間で動画を絞り込むことができます

見たくなったら、
いつでも見られるようにしておくこと 

                

神戸放送局の1階には、昨年2024年1月から1冊のノートを設置しています。

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普通のA4サイズのノートです

来館者が自由にコメントを書いたり読んだりできるノートです。
イメージは旅先の喫茶店や旅館などに置いてあるノート
(ゲストブックとも言われています)です。
色々書いてもらえたら嬉しいなと思い、
私の手書き文字を添えて、さりげなく置いてみたのですが、
たくさんの人がコメントを記してくださっています。
その中に以下のようなコメントがありました。

震災のことはできるだけ思い出したくない
当時の映像は、30年経った今も見る勇気がない

震災を経験された方々が抱えている思いを、
完全に理解することはできませんし、
一体自分たちは何ができるのだろうか、と考えました。

でも、もしかしたらいつかこの方々が
映像を見てみようかな
あの時のことを少し思い出してみようかな
と思う日が来るかもしれません。
それは1週間後かもしれませんし、1年後、
いやもっと時間がかかるかもしれません。
もしくはそんな日は来ないかもしれません。

私はその人が「見たい」「思い出したい」と思ったときに
いつでも見られるようにしておくこと、
振り返ることができるようにしておくことが、
NHK神戸放送局の仕事なのではないかと思っています。
このプロジェクトで取り組んだ、
特集サイトや阪神・淡路大震災ARのように、
過去の映像を見ることができるツールもその一つです。

もちろん、震災のことを知らない方々に対して積極的に周知をして、
一人でも多くの人に震災について知ってもらう努力をすることも
重要だと思うのですが、それと同じくらい、
いつでも振り返ることができる場所、
思い出せる場所を作っておくことも大切なことだと思っています。

そのためには、とにかく続けること
次の人へバトンタッチできる仕組みを作らなければならない
と思っています。

NHK神戸放送局は、
震災の記憶と教訓を継承するための取り組みをこれからも続けていきます。


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