side:ルーデウス
旅に出てから約四か月。
ついに、ルーデウス達はシャリーアへと帰還した。
着いてすぐの頃は大いに慌てたものだ。
ヒトガミとの会話を思い出し、シルフィ達に危険が迫っているか、もしくは既に被害が出ているのではないかと思ったのだ。
ベガリット大陸に行く前のヒトガミとの会話。
どう動いても……つまり、ベガリット大陸に行こうが行くまいが、結局は後悔するんだろう、というルーデウスの言葉に対して、ヒトガミはこう答えた。
『そう。後悔は避けようと思っても避けられない』と。
あの時のヒトガミの助言の内容を簡潔にまとめると。
・ベガリット大陸に行っても行かなくとも後悔する。
・だが、行くよりは行かない方が後悔は小さい。
・シャリーアに留まり、助言に従えば更に幸福になれる。
……こんな感じの内容になる。
まぁ、肝心の助言が、リニアとプルセナのどちらかと関係を持て、とかいう意味のわからないものだったのだが。
とにかく、行っても行かなくても後悔する。
これが問題だった。
ルーデウスは、ベガリット大陸に行って後悔はしていない。
ロキシーを救えたし、ゼニスも助け出せた。皆無事で、五体満足で帰還することが出来たのだ。後悔することなんて何一つない。
強いて言うならば、ロキシーとの関係の変化であるが……それで後悔していると言うのは、ロキシーに対して失礼だろう。これは除外だ。
つまり、後悔とはベガリット大陸で起こることではない。
シャリーアに残した、シルフィ達の身に何かが起こるのではないかと。今更ながら思い至ったのだ。
特にシルフィだ。
シルフィを置いて行くことを、ヒトガミは妙に強調していた。
シルフィは強い。
バーディガーディもルーデウスもいないシャリーアでは、シルフィに勝てるような奴は一人もいない。アリエルの護衛を務めた結果、対人戦闘経験も豊富で、無詠唱魔術に加えて上級剣士並みに動くことも出来る魔法剣士なのだ。
しかし、今は妊娠中だ。
その辺のチンピラや人攫いが相手ならどうとでもなるだろうが……まともに戦うのは難しいだろう。学友達が見守ってくれているはずだが、彼らは正直、それほど強くない。
各々強みはあるのだが、実戦経験が不足している。
シルフィの実力を知った上で害そうとする者が相手では、戦力にはならないだろう。
そんな感じの事情があったので、シャリーアに着いたばかりのルーデウスは、他のメンバーを置き去りにして一人だけ先行したのである。
「(まぁ、結局何もなかったけどな……いや本当に、何もなくてよかった)」
家族は無事だった。
大きな事件も起きず、平穏な毎日だったようだ。
シルフィは安定期に入ったようで、最近は体調も落ち着いて来たらしい。アイシャとノルンは怪我や病気になることもなく、毎日を元気に過ごしていたという。
リディスの体調は……相変わらずだ。
悪化することはないが、良くもなっていない。
とはいえ、シャリーアの環境に慣れて来たおかげか、以前よりもほんのり調子は良いとのこと。
ザノバやクリフと言った学友達も、特に問題なし。
学校の方では、日々何かしらイベントは起きていたのかもしれないが、それはいつものこと。少なくとも、ルーデウスが心底後悔するような悲劇は起きなかった。
結論としては、ヒトガミの助言が外れたことになる。
胡散臭い奴だが、なんだかんだでヒトガミの助言が外れたことは今まで一度もない。しばらくは警戒を続ける必要があるだろう。
「(安心して、油断した隙にやられるかもしれない。最低でも、シルフィが出産を無事に終えるまでは要警戒だな)」
●〇●〇●〇●〇●
全員で居間で待っていると、アイシャがノルンを連れて帰って来た。
二人とも全力で走って来たのだろう。
息も荒く、額から汗を流していた。
「に、兄さん。長旅、お疲れ様です!」
「ああ、ただいま。ノルン」
ルーデウスの元気そうな姿を見て、ノルンは安心したように息を吐いた。
こういう反応を見ると、ルーデウスは少し感動する。
ミリシオンで出会った際は、これから兄妹として仲良くやっていけるのか、不安になるような反応だった。だが、今ではなんだかんだルーデウスのことを慕ってくれるようになっている。
頼れる兄貴として、精一杯カッコつけていた甲斐があったというものだ。
「(でも、ロキシーのことを話したら絶対軽蔑されるよなぁ。ノルンは敬虔なミリス教徒だし、そもそも受け入れてくれるかどうか……同じミリス教徒でも、リディスは大丈夫そうなんだけど)」
その辺は前世と同じなのだろう。
同じ宗教に所属していても、スタンスは人によって異なるというわけだ。
ルーデウスがそんなことを考えている間にも、ノルンは次の行動に移っていた。
「……あっ」
視線を周りに向け、目的の人物を見つけると、パッと笑顔を浮かべながら駆け寄った。
「お父さん!」
目的の人物。
すなわち、父親のパウロのことだ。
彼も応えるように椅子から立ち上がり、駆け寄って来たノルンを抱きしめた。
「ノルン……元気そうだな」
「よかった、無事で……本当に良かった……!」
ノルンはパウロが大好きだ。
ルーデウスやリディスは昔のダメダメな父親だった頃のパウロを覚えているが、ノルンは違う。
転移事件の後、路頭に迷っていた難民達を拾い上げ、捜索団を組織し、多くの困っている人々を助け続け、姉も救い出してくれた。
ノルンにとってパウロは、誰よりも頼りがいのあるヒーローのような存在なのだろう。
パウロとの抱擁を終えると、ノルンは次に一人の女性に目を向けた。
リーリャの隣に座っている金髪の女性、自身の母親であるゼニスだ。
「お母さん!」
ノルンが声をかけた。
「………」
「お、お母さん?」
だが、ゼニスは動かない。
返事もしない。ぼんやりとした顔で、テーブルを見詰めている。
「あの……」
「ノルン。ゼニスのことはこれから説明する。座ってくれ」
「あ……はい」
パウロはノルンの背中を押し、空いている椅子の一つに座らせた。
「……はぁ」
パウロの顔は暗かった。
当然だ。これから話す内容は楽しいものではない。
話を聞いた娘達も、シルフィも、大いに悲しむことだろう。
だが、伝えなければならない。
「……ゼニスのことで話がある。辛い内容になるが、しっかり聞いてくれ」
迷宮から帰還して、数日後にゼニスは目覚めた。
健康状態は良好。
怪我や病気になっている様子もない。外見も若々しく、まるで魔力結晶の中にいる間、時間が止まっていたのではないかと思うほどだった。
だが、ゼニスは大きな問題を抱えていた。
肉体面の問題ではなく、心や精神に関するものだ。
記憶、知識、知恵、人格。
それらすべてを、ゼニスは失っていた。
『ゼニス・グレイラット』という人間を構成していた要素が、全て失われてしまったのだ。
言葉も話せず、理解出来ず。
そもそも、人を人として認識出来ているかすら怪しい。
まるで、生まれたての赤ん坊のようだった。
最愛の夫が必死に話しかけても。
同じ妻であり、親友でもある女性に手を握られても。
10年ぶりに再会した、成長した息子の顔を見ても。
ゼニスは、何の反応も返さなかった。
精々、唸り声をあげたり、首を傾げたりする程度。
リーリャが付きっ切りで世話をした結果、辛うじて身の回りのことは自力で出来るようになった。しかし、それだけだ。とてもではないが、以前のように普通の人並みの生活を送ることは出来ないだろう。
介助が必要だ。
誰かが傍にいて支えてやらなければ、生活することが出来ない状態。
すなわち、廃人だ。
もう、かつてのゼニスはいない。
ここにいるのは、全てを失った名も無き一人の女性である。
それが、残酷な現実だった。
「───そういうわけでな。今のゼニスは、何も覚えちゃいないんだ」
「………」
パウロが説明を終えると、居間は静寂に包まれた。
聞かされた面々の反応は小さいものだった。
意外な反応……ではない。
なにせ、転移事件から6年も経っているのだ。
今更見つかったとして、何も異常がなく無事でした、というのはあまりにも都合が良すぎる。何かがあったと考えて、覚悟はしていたのだろう。
だから、この反応は意外ではない。
しかし、彼女だけは違った。
「………っ」
他の3人と違い、彼女だけは大きな反応を見せた。
俯いているせいで、目元は見えない。
しかし口元が、きゅっ、と。強く結ばれているのは見えた。
まるで、胸の内で暴れ狂う感情を、表に出さないよう必死に抑え込んでいるようだった。
震える肩からも、膝の上で固く握りしめられた両手からも、彼女が強いショックを受けていることがよくわかる。
「(……そうだよな。リディスはずっと、ゼニスに会いたがってたもんな。それなのに、せっかく再会出来たってのに、何も覚えてないんじゃ……)」
わかっていたことだ。
ゼニスの状態を知って、誰よりも悲しむのがリディスであろうということは。
アイシャとノルンは、4歳の頃にゼニスと離れ離れになった。
だが、二人には母親がいた。
アイシャにはリーリャがずっと傍にいたし、ノルンにはリディスが母親代わりをしていた。
シルフィにとってゼニスは、好きな男の子の母親、というだけで、それ以上でも以下でもない。精神的に立派な大人に成長したのもあって、取り乱す程のショックはないのだろう。
だが、リディスは違う。
幼い頃からずっと母親と一緒だった。
幼少期なんかは特にそうで、体調のこともあってか四六時中引っ付いていたと言っても過言ではない。
ルーデウスと違って、前世の記憶のせいで母親と認識しきれていない、なんてこともない。妹二人と違って10年間も一緒に暮らしていたから、ゼニスとの生活のことははっきりと覚えている。
母親のことが大好きな、気弱で、病弱で、優しい少女。
それが、リディスなのだ。
母親との再会を、再び共に暮らせる日が来ることを、誰よりも待ち望んでいたはずだ。
……しかし、結果がこれだ。
ゼニスは全てを忘れ、廃人となってしまった。
リディスが受けた衝撃は、ルーデウスが想像出来ないほど大きなものだろう。
それと、リディスの反応を見てわかったことがある。
「(この反応ってことは、やっぱり無理なのか。記憶喪失を治すことは……)」
予想はしていた。
死者の蘇生すら可能なリディスの力は凄い。
確かに凄いが……しかし、決して万能ではない。
巻き戻す時間が長ければ長い程、彼女自身に大きな負担がかかるし、治す怪我の程度によってはタイムリミットが存在する。
かつて、初めて力が覚醒した時。
リディスはリーリャの足の後遺症と、パウロの古傷を治した。
巻き戻した時間は、恐らく6、7年程度。それでリディスは生死の境を彷徨うほどの大きな反動を受けた。
そして、タイムリミット。
こちらは少し曖昧だが、蘇生に関しては死後数分が限度。
これを基準とするならば、酷い言い方をすれば『精神的な死亡』ともいえるゼニスの記憶喪失にも、同じようにタイムリミットが存在したのではないだろうか。
救出されてから約二か月が経ってしまった今、果たして治療は間に合うのか?
……そもそもの話、だ。
ゼニスの記憶喪失の原因が、脳へのダメージなどではなく、精神的なものだった場合。さすがのリディスでもどうしようもないのではないだろうか。
彼女の力は物理的な怪我や病気には有効だが、精神的なものにまで通用するとは聞いたことがない。
実際、幼少期にリディスの力を調べたロキシーに聞いた所、人の精神にまで影響を及ぼす程の力はない、との見解だった。
考えれば考える程、リディスの力で治すのは難しいのではないかと、そう思えてしまう。
それでも、本人に聞いてみなければわからない。
そう思って、リディスの力を知っているパウロ、ルーデウス、ロキシーの3人は、淡い希望を抱いていたのだが……その希望も、今、潰えた。
治せるならば、こんな反応はしないはずだ。
「リディス……」
隣に座るシルフィが、慰めるように肩を抱こうとした……その時だった。
ガタン、という音が響いた。
「………」
視界に映る光景が、信じられなかった。
それは他の皆も同じだったようで、目を丸くしている。
離れたテーブルにいるロキシー達も、口を半開きにして驚愕を露わにしていた。
それも当然だ。
ベガリット大陸からシャリーアまでの、約二か月間。
自分から動くようなことは一度もなく、リーリャや他の者に促されない限り、歩くことすらままならなかった彼女が。
ゼニスが、立ち上がっていたのだから。
「お、奥様…?」
「ゼニス、お前……!」
「………」
周りの反応には目もくれず。
ゼニスは、ふらふらと覚束ない足取りで歩きだした。
慌ててリーリャが支えると、ゼニスは真っすぐリディスの方へと近づいていく。
そして───。
「ん……」
「っ!?」
───俯くリディスを、優しく抱きしめたのだ。
リディスの肩が一瞬、驚いたように跳ねる。
しかしすぐに、母親の抱擁を受け入れるように、おずおずと背中へ手を回した。
「母さん?」
「………」
思わず声をかけてしまった。
だが、ゼニスは相変わらず、何も言わない。
何も言わないが、その行動からは明確な意思を感じた。
……もしかしたら。
もしかしたら、ゼニスは全てを失ったわけではないのかもしれない。
だって、ゼニスは自分から動いたのだ。
悲嘆に暮れる愛娘を抱きしめて、慰めようとしたのだ。きっとそうだ。そうに違いない。
彼女には意思が、記憶が残っている。
『ゼニス・グレイラット』は、まだ消えてないのだ。
諦めるには、まだ早い。
俺は諦めていた。
この世界に生まれて、16年。
俺なりに必死に努力して来たつもりだ。
だが、それは全て無駄だった。
俺は所詮、凡人だったのだ。
狭い世界で勝ち誇っていた、勘違い野郎に過ぎなかった。
井の中の蛙、って奴だな。
皮肉なもんだ。今まで散々、内心でルーデウスを小ばかにして来たが、俺もあいつのことを笑えない。
前世の記憶があることで、増長していたのだろう。
わかっていたはずなのに……俺は天才でもなんでもない、ただの元ブラック企業の社畜に過ぎないってことを。
俺と彼女で、どこで差がついてしまったのか。
慢心、環境の違い。
……え、何の話かって?
そりゃあ、お前、決まってんだろ。
おっぱいだよおっぱい。
順を追って話そう。
ルーデウス達が帰還した日、俺は内心で飛び上がらんほどに喜んでいた。
だって、パウロが生存したんだぜ?
ルーデウスが上手くやったのだろう。
でかした!
お前は出来る奴だって信じてたぞルーデウス!
これで、家の中がギスギスお通夜状態になることもない。
それにゼニス。
彼女も原作通りの状態になった。
記憶喪失の廃人状態。
一応、今世の母親なので、悲しくないわけじゃないが……それ以上に、俺は嬉しかった。
なにせ、俺は最強の
今後、周りの連中に『そろそろ結婚したら?』とか、『家を出て働かないの?』とか言われても問題なし!
本当は俺も働きたいんだけどな~。
ほら、俺には『ゼニスの治療』という使命があるからな~。
治療に専念したいしー。
働くとかぁ、結婚とかはぁ、ちょっとな~。
……ってな感じで、言い訳が出来るのである!
ゼニスの治療を盾にすることで、引き籠りダラダラライフを楽しむことが出来る、ってことさ。それも確実にな。
成し遂げたぜ。
これで俺は数年間、のんびりぐうたら、安穏とした生活を送ることが出来る。
勝った!無職転生【完】!
そんな感じで、俺は喜んだ。
当初の目的を達成したのだから、喜びもひとしおだった。
……喜びすぎて、感情が表に出るのを必死に我慢することになったんだが。
気を抜いたらどこぞの盟主王のように、
「YATTAAAAA!!」と叫びながら、ガッツポーズを披露していたことだろう。
しかし、考えてみてくれ。
全員が真剣な顔でパウロの話を聞いている状況で、俺だけ一人、場違いにもハイテンションでニッコニコだったらどうなると思う?
絶対碌なことにはならないだろう。
パ「母親が廃人になって嬉しいか?……何笑ってんだ〇すぞ」
ル「姉さん……いや、リディス。お前もう船降りろ」
シ「リディス、君には失望したよ」
ア「うわっ、私のお姉ちゃんクズすぎ……」
ノ「ここからいなくなれー!!」
リ「玄関はあちらになります。出て行って、どうぞ」
こんな感じで、家族全員から総スカンを喰らうだろう。
そして家どころかシャリーアを追い出され、長い冬の時期を迎える北方の大地を、身一つで彷徨うことになる。
君は知るだろう。
戦闘力皆無のクソザコ貧弱美少女が、ある日突然、たった一人で生きていかねばならなくなった時。どのような末路を辿るのかを。
人攫いに捕まれば運が良い方。
運が悪ければ、魔物に襲われて生きたまま喰われるか、もしくは凍死か、あるいは餓死か。
ここは試される大地、北方大地。
強ければ生き、弱ければ死ぬ。
弱肉強食。
戦わなければ生き残れない。
戦えない者に、生きる資格はない。
それが北の果て、北方大地。
君は知るだろう。
弱者に訪れるのは、悲惨な最期だけだということを。
……想像するだけで俺は辛い、耐えられない!!
だから俺は我慢した。
それはもう、必死に我慢した。
俯くことで表情を見られないようにし。
眼をかっぴらいて、歯を食いしばることで口角が上がることを阻止し、全身の筋肉に力を込めることで、気を抜いたら小躍りしそうになる体を押さえつけた。
マジで大変だった。
通勤中の満員電車の中でクソを我慢するくらい大変だった。
だが、そんな俺の努力も空しく、段々と限界が近づいて行ったのだ。
だ、駄目だ。まだ笑うな……。
こらえるんだ…し、しかし……。
って感じで、割といっぱいいっぱいだった。
ちょっと耐えられそうになかったので、頃合いを見て部屋を飛び出そうと思ったほどだ。
ほら、母親が記憶喪失であることにショックを受けて、耐えられずに部屋を飛び出して自室に引き籠った……とか、行けそうじゃない?
……ま、行けなかったんだけどね。
突然、ゼニスが抱き着いて来たからな。
あまりに急だったから、驚きすぎて固まっちゃったよ。
しかし、ここでさらに予想外のことが起きた。
抱き着いて来たゼニスの胸に、反射的に顔を埋めたその瞬間……俺は大きなショックを受けたのだ。
俺は今まで、必死に努力して来た。
せっかく美少女に生まれたのだからと、理想の美少女ボディになるべく磨き上げて来たのだ。
体形維持のためにこっそり筋トレしたり、食事に気を遣ったり、胸をマッサージしてみたり、お肌のケアも、成長のための睡眠時間の確保も……色々と頑張って来たのだ。
努力の甲斐あって、俺は理想的な美少女ボディを手に入れた。
顔面偏差値はアリエル王女にだって負けてないはずだ。
それどころか、スタイルの良さなら俺の方が確実に上。
特に胸。
大きさ、形、柔らかさ、弾力、ハリと艶……全てにおいて俺が圧倒している。
ルーデウスの学友の犬猫畜生コンビとか、大きさなら俺に比類する者がそれなりにいる。が、総合的なステータスで俺に勝る者は、このシャリーアには存在しない。
自信があったのだ。
最早、かつて理想としていたゼニスのおっぱいすら、今の俺の敵ではない。俺は母親を超えたのだと……そう確信していた。
……その自信は、粉々に打ち砕かれたわけだが。
6年振りに堪能したゼニスのおっぱい。
それは、今までの俺の努力をあざ笑うかのような、圧倒的な戦闘力を保持していた。そう、俺はゼニスを超えてなんかいなかった。6年間離れていたせいで、彼女のおっぱいに関する記憶が薄れていただけだったのだ。
柔らかさと形なら負けてないと思う。
だが、それ以外は完敗だった。
例えるなら、俺は高級量産機で、ゼニスはワンオフの専用機、と言ったところか。一部分でなら匹敵するものがあるが、それ以外はどう足掻いても勝てない。それぐらいの差があった。
「負けた!」って思いました。
勇を失って散体するところだったぜ。
認めるよ。
俺は今が最盛期。成長限界だ。
だからこそ確信した。この先どれだけ頑張っても、俺ではもう勝てないってな。
ゼニス、お前の胸がナンバーワンだ。
俺はもう、お前に勝とうとは思わん。
素直に諦めて、ナンバーツーの立場を享受するとしよう。
●〇●〇●〇●〇●
「ん………」
俺は自室のベッドで横になりながら、考え事をしていた。
転移迷宮編はめでたく終了した。
それも、俺が望む限り最良の結果で、だ。
パウロは生存したし、ルーデウスとロキシーは結婚するし。
そう、あの二人はやっぱり結ばれた。
詳しい経緯はまだ聞いていないが、ルーデウスは土下座してシルフィに許しを請うていた。
揉めるかと思って少しハラハラしたが、意外にもすんなりと話は進んだ。
誰も反発しなかったからだ。
一番反発しそうなノルンが何も言わなかったし。
理由は察せられる。
大好きなパウロを連れ帰ってくれたし、廃人にはなったがゼニスも救出してきてくれた。
それに、ロキシーに対しても悪感情はなかった。
ノルンにとって……というか、うちの家族にとってロキシーは大恩人だ。
幼少期に約2年間、家庭教師として雇われただけの関係だというのに、彼女は危険な魔大陸まで赴いて家族の捜索をしてくれた。
しかも、ゼニスがベガリット大陸にいることを突き止めたのもロキシーだ。彼女が魔界大帝キシリカ・キシリスの魔眼を利用して探してくれたからこそ、ゼニスは見つかったのだ。
「ん………」
ノルンがロキシーを嫌う理由なんてない。
イーストポートで別れるまでもそれなりに交流があったし。結構仲良くなってたし。
でも、ほっぺをパンパンに膨らませて無言の抗議はしていたけどな。
怒っていてもノルンは可愛い。
思わずなでなでしちゃったよね。
結局シルフィが受け入れたので、ロキシーは割とあっさりグレイラット家に迎え入れられた。
全てが順調だ。
順調なんだが……問題は、この後のこと。
もう少しでシルフィが出産するのはわかるが、その後がさっぱりわからない。龍神……オルステッドとの戦いがあるのは知っているが、そこに至るまでの経緯を知らないのだ。
うぅむ。
何か衝撃的な事件があったような、なかったような……そういえば、ナナホシの病気はどうなるんだろうか?その辺の出来事が間に挟まるのか?
そこでなんやかんやあって、結果的に龍神と敵対することになる、とか?でもナナホシはオルステッドと旅をした仲なんだよな。ルーデウスのことも結局見逃したし、もう一度敵対するような事態はあり得るのか?
ヒトガミが何かするんかなぁ……わからん。
「ん………」
……ところでゼニスさん。
さっきから俺のお腹をぽんぽんしてるゼニスさん。
何か用ですかね?
「あぅ……?」
おいおいおい、歳を考えろよ。
可愛らしく首を傾げる姿が似合うのは、最高でも二十代前半までだろ。
お前もうアラサーだろ。ちょっと自重しろ。
「んー……」
……駄目みたいですね。
彼女の眼には、俺はどういう姿に映っているのだろうか?
ゼニスさんね。俺と同じ部屋なんだわ。
俺の部屋は二階で一番広い部屋だし、二人で住むのは特に問題ない。今後の治療方針を決めるためにも、しばらくは近くで様子を見たいのでちょうどいいし。
それはいいんだ。
いいんだけど……ゼニスは俺をなんだと思ってるんですかね?
お腹ぽんぽんして寝かしつけるとか、俺は赤ちゃんか?
「んー、んー……」
今度は子守唄ですか。
あのさぁ……俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ。
おっぱいで俺に勝ったからって調子に乗るな。
そんなんで寝るわけねぇじゃん。
そりゃ、子供の頃はよくこうやって寝かしつけて来て、昼寝とかしてたけどさ。
流石にもうこんなんで寝たりしないよ。
流石にもう………。
さす…………。
さ……………。
( ˘ω˘)スヤァ
……翌朝。
熟睡して寝過ごしてしまった俺は、様子を見に来た家族全員に寝顔を見られることとなった。
そ、そんな目で俺を見るなぁ!
俺は赤ちゃんじゃない!
俺は赤ちゃんじゃない!
だから、微笑ましいものを見るような、その目をヤメロォ!