side:ノルン
いつからだろうか。
姉のことを、もう一人の母親のように認識するようになったのは。
最初はそうではなかった気がする。
赤ん坊の頃のことは薄っすらと覚えていて、実の母親をそっくり小さくした姉の姿に、ノルンは度々困惑していたことを覚えている。
ゼニスを大きい方の母親、リディスを小さい方の母親と認識していた。
実際、リーリャは本妻の子であるノルンに対しては、メイドとして接していた。
彼女を義母とは思えない。対して、実の姉であるリディスは、ノルンをよく可愛がってくれた。だから、そう認識するのは別におかしなことではなかっただろう。
ある日、食卓の席でこんなことがあった。
食事の途中、ふとゼニスの方を向いて呟いた。
「おかーさん」
「あら、なあに?ノルン」
今度は、隣で自分の口を拭いてくれていたリディスへ顔を向けた。
「おかーさん?」
「ん?私はお姉ちゃんだよ」
「……ねーちゃ?」
「そうそう。お姉ちゃん」
「おねーちゃ……?」
いまいち違いがわからず首を傾げるノルンを、家族は温かい目で見守っていた。
唯一、アイシャだけは不思議なものを見る目をノルンに向けていたが。
どうせ『なんで母親と姉の違いもわからないんだろう?変な子だなぁ』とか思っていたに違いない。
それでも物心がつく3歳頃になると、さすがのノルンも母と姉をしっかり判別できるようになっていた。
おっぱいも体も大きくて、抱きしめられるとふわふわして安心するのが母親のゼニス。
体が小さくて、抱きしめられると温かくて、ぽかぽかして眠たくなっちゃう方が姉のリディス。
違いはあれど、二人はノルンを心の底から愛してくれる、大好きな人だったのは間違いない。
ノルンがもうすぐ4歳になる頃は、父のパウロは急激に増えた魔物の対処でよく家を空け、ゼニスとリーリャも仕事や家事でノルンとアイシャの相手が出来ない時があった。
そういう時は、姉が二人の世話をしていた。
姉の友達である緑髪の少女、シルフィエットと一緒に。
天才のアイシャと、平凡なノルン。
二人は何もかもが違ったが、皆からは概ね、分け隔てなく愛して、可愛がってもらうことが出来た。
毎日何かしら騒ぎはあったけど、穏やかで平和な暮らし。
ノルンは、こんな毎日が続けばいいなぁ、なんて幼いながらに思っていたかもしれない。
しかし、そんな尊い日常は終わりを告げる。
姉が友達と共に10歳の誕生日を迎えた、その翌日に。
●〇●〇●〇●〇●
ノルンが姉と再会したのは、転移事件から半年後。
その頃のノルンは、精神的に大きく追い詰められていた。
ノルンは父、パウロが大好きだ。
ある日突然、よくわからない所へ飛ばされた後も、父はとても頼りになった。いつも力強い笑みで、ノルンを勇気づけてくれて、いつも近くで守ってくれた。
難民になった人達を探すようになってからは、色んな人が父に感謝の言葉を告げた。ミリシオンに移動してからも、多くの団員を率いる父の姿はカッコよかった。
お父さんは凄い。
お父さんなら、お母さん達もすぐに見つけてくれる。そう思った。
だが、それも長くは続かない。
時が経つにつれて、父は憔悴していった。
髭はぼさぼさになって、目の下に隈が出来て、頬はコケた。
「あんたがいたのに、どうして助けてやれなかったんだ!」
「あいつ言ってたよ。帰って来たら俺、結婚するんだ、って。なのにどうして…!」
「何やってんだよ!団長!」
団員の中に死者が出るようになってからは、父が責められている場面を見るようになった。以前は活気に溢れていた捜索団本部も、いつしか陰気で暗い場所になってしまった。
ノルンは怒った。
お父さんは頑張っているのに、どうして怒るの?どうして責めるの?と。
でも、それを大人達に言う勇気はない。
どうすれば現状が良くなるのか、ノルンにはわからない。
拙い言葉と行動で、父を励ますのが精一杯。
……誰かに助けてほしかった。
でも、誰にもそんな余裕はなくて。
ノルンは毎日のように、いるかいないかわからない、神様に向かって祈りを捧げていた。
そんなある日のこと。
父が、姉を連れ帰って来てくれた。
幼いノルンにとっての半年は長く、もう姉がどんな人か忘れかけている部分もあって、最初は少し不安だった。
しかし、ノルンの不安は杞憂だった。
それどころか、姉が来たことでノルンの生活は劇的な変化を迎えたのだ。
「ちょっとお父さん!なんて顔してるの!」
姉は、父を怒った。
「そんな顔じゃ、助けられた方が不安になっちゃうわよ!」
そして、髭を剃りなさい、ご飯を食べなさい、ちゃんと寝なさい、と言った。
父が怒られて、ノルンはムッとした。
でも父は素直に従ったし、すぐに良い変化が起きた。
以前は父が忙しいから、食事は一人で食べることが多かった。
でも、姉が来てからは三人で食べるようになった。皆で食べると、昔に戻ったみたいで楽しい。
父はご飯を食べ、髭を剃るようになった。
髭はじょりじょりして痛いので、ノルンは嬉しい。それに、髭がない方が父はカッコいいと思っていたから。
父はたまに、寝ている時に魘されていることがあった。
けど、姉が寝ている父の頭にそっと手で触れると、父の寝息は安らかになった。
「よく眠れるおまじないよ。私とノルンだけの秘密ね」
そう言って、姉は器用に片目を瞑ってウィンクした。
髭は剃られ、目の下の隈は取れて、頬も元通りになった。
いつの間にか、父は以前の父に戻っていた。
少し前の、誰からも頼りにされる、カッコいい父に。
それからも変化は続いた。
父が元気になった影響か、捜索団本部は以前のような活気を取り戻しつつあった。
そこに、姉はノルンを連れて行ってこう言った。
「皆いつも大変だから、私とノルンで応援してあげましょう」と。
応援と言っても、女の人達に頭を撫でられたり、男の人達に飲み物を運んであげたり、「いつもありがとうございます!」と感謝の言葉を伝えたり。
些細なことだったけど、こうするようになってからは、団員の人達はあまり怒ったりすることがなくなった。理由はわからなかったけど、きっと姉のおかげなんだろうと思った。
「お父さん達が出かけている間は、ここで遊びましょう」
そう言って、今度は本部にある子供達の部屋へ連れて行った。
親や兄弟、家族をなくして孤独になってしまった子供達がいる部屋だ。
ノルンはここに来るのが嫌だった。
父親がいることを羨ましがられて意地悪されたり、話しかけても、ぼーっとしたまま何も話してくれない子がいたり。暗くて、ジメジメしていて、あんまり楽しい場所ではなかったから。
でも、姉が子供達の世話をするようになってからは変わった。
少しずつ、お喋りする子が増えて行った。中には姉より年上の子もいたけど、姉は皆のお姉さんとして、全員の世話を焼いた。
一か月もする頃には、笑顔で遊べるくらいに元気になった子が出て来た。
以前はノルンに意地悪をしていた子もいたけど、ノルンに謝って、遊び相手になってくれるようになったのだ。
これなら、父がいない間も寂しくない。
同年代の子達との触れ合いは、ノルンの精神を大きく成長させた。
皆で遊ぶのは楽しい……でも、どうしてだろう。
慕われている姉を見ていると、胸の奥がモヤモヤした。
●〇●〇●〇●〇●
姉が来てからの1年は、楽しい毎日だった。
以前の陰鬱な日々が何だったのかと思うような、気力に満ちた毎日だ。
例えば、ノルンが5歳になった時。
同じく5歳になった他の子供と合わせ、小さな食事会のようなものが催された。
今はさすがに余裕がないので、本格的な誕生日会は家族が揃ってからだ、と父は言ったが、「せめてお祝いだけでもやりましょう」と姉が提案してくれた。
食べ物を持ち寄って、捜索団本部で食事会が行われた。
本当にささやかなものだったけど、皆で食べるご飯はいつもよりずっと美味しかった。
食事会が終わって部屋に戻ると、姉は机の引き出しから何かを取り出した。
「はいこれ、ノルンに誕生日プレゼント」
そう言って姉は、ノルンの首にネックレスをかけてくれた。
ネックレス自体は頑丈な紐で作られただけの簡素なものだったが、真ん中にペンダントが付いている。
花びらのような形をした、木彫りのペンダントだ。
小さいけど、綺麗なガラス玉がはめられていて綺麗だった。
「シルフィのことは覚えてる?あの子のお父さんから作り方を一緒に教わったの。形はお花にしたんだけど、どう?」
「かわいい!」
「わっ…と。フフッ、大事にしてね」
ノルンは即答して、思わず姉に抱き着いた。
その日は何だか楽しくて、眠れる気がしなかった。
ベッドで横になっている間、ずっとペンダントを眺めていた。
……まぁ、結局途中でコロッと寝てしまったのだが。
もちろん、楽しいことばかりじゃない。
日が経つほどに、難民の死亡報告が増えていった。
団員の被害もだ。
負傷については姉が大体治していたが、死んでしまったらどうしようもない。死体が回収できないことも多く、その度に皆が悲しんだ。
ノルンと仲良くしてくれた人が死ぬこともある。
悲しくて、悲しくて、ベッドの上で蹲りながら泣いていた。
「──────」
そんな時、姉は歌を歌ってくれた。
歌詞の内容は当時のノルンでは理解しきれなかったが、柔らかく、包み込んでくれるような歌。でも、どこか切なく、悲しい響きも含んでいた。
そんな姉の歌を聞きながら、泣き疲れたノルンは眠りに落ちるのだ。
●〇●〇●〇●〇●
ノルンは人形を眺めながら、先週あった出来事を思い出していた。
お兄ちゃんと初めて出会った、あの時のことを。
ある日、散歩から帰って来ると、そこには知らない少年と楽しくお喋りする父の姿があった。
誰だろう?そう思っている内に、隣の姉が駆けだした。
「ルディ!無事だったのね!」
そう言って、姉は少年に駆け寄って抱き着いた。
ノルンはショックだった。
いつも自分を優先してくれる姉に、置いて行かれてしまったのだから。
誰だこいつは。
ノルンは見知らぬ少年を睨みつけた。
その後、姉の背中に隠れたノルンに対して、「ルディ」と呼ばれた少年は挨拶をした。
「こほん…ノルン、初めまして。僕のことは覚えているかな?君のお兄ちゃんのルーデウスです」
床に膝を着いてノルンと目線を合わせ、柔らかな笑顔を浮かべてそう言った。
自身の兄を名乗るルーデウスという名の少年。
彼の容姿はどことなく姉に似ており、男らしさに欠けたその容姿は、ノルンに僅かな威圧感も与えない。
何となく、悪い人ではなさそうだな、と感じた。
しかし、ある事を思い出して、ノルンは緩みそうになった気を引き締めた。
そう言えば聞いたことがある。
姉がいつもノルンに語って聞かせた話の中に、彼の名前があった。
ノルンのお兄ちゃんの話だ。
小さい頃から物知りで、お喋りが上手いとか。
いじめっ子をやっつけて、女の子を助け出したとか。
頭が良くて、今のノルンと同じくらいの歳で、すいせーきゅうまじゅつし、という何だか凄いものになったとか。
『ノルンのお兄ちゃんはね。とっても強くて、優しくて、賢くて、かっこいい人なんだよ』そう言って姉はいつもその人を褒めていた。
彼の話をしている時の姉は、いつも目をキラキラさせていた。
………気に喰わない。
「おにいちゃんなんてしらない!」
ノルンはプイっと顔を背けた。
「そ、そんなぁ……!」
床に両手をついて落ち込む兄を、苦笑いしながら父が慰めていた。
そんな最悪の出会いであったが、今は考えが変わっている。
兄と一緒の時の父と姉は凄く嬉しそうだし、何より、ルイジェルドさんの人形をくれた。
姉と散歩中に出会った、白いハゲの人。
……ハゲの人と言ったら父に注意されたので、今は名前であるルイジェルドさんと呼ぶようにしている。
ルイジェルドさんは、転びそうになったノルンを助けてくれた。
ごつごつした手でノルンの頭を撫でて、真っ赤な美味しそうなリンゴをくれた、優しい人だ。ノルンは無性に彼のことが気になっている。
彼に対して抱いたこの感情が何なのか、幼いノルンにはまだわからない。
ただ、あれからこうして毎日人形を眺めるのが日課になっていた。
───なお、赤い少女…エリスはあまり好きじゃない。
悪い人ではなさそうだったけど、声が大きくて威圧感が強いのは、ノルンの中では大きなマイナスなのだ。嫌いではないけど、苦手な人、と言ったところだろうか。
ルイジェルドさんは静かで穏やかな喋り方をするので、彼と交流するたびにノルンの中で彼の評価が爆上がりしていった。
「ただいま。あら、またそのお人形を見ているの?よっぽど気に入ったのね」
ノルンが人形を眺めていると、部屋に姉が入って来た。
「さあ、今日もお勉強しましょうか」
そう言って、机に移動して勉強道具を用意し始める。
5歳の誕生日を迎えてから、姉はノルンに勉強を教えてくれるようになった。
簡単な読み書き、算術、魔術の勉強など。
まだ始めて間もないが、ノルンは結構楽しんでいる。
ノルンが一番好きなのは魔術の勉強だ。
姉は時々、体調を崩す。
胸を苦しそうに抑えたり、頭を痛そうに抱えたり、咳き込んだり、熱を出したり、寝ている時に汗をかきながら藻掻くこともあった。
ノルンにはどうすることも出来ず、歯がゆい思いをしたものだ。
そこで魔術だ。治癒魔術を覚えれば、姉を助けることが出来る。
姉は自分にたくさんのものをくれる。
でも、自分はいつも貰ってばかりだ。貰ってばかりでは、姉を喜ばせることは出来ない。
その点、兄は凄かった。
兄と一緒にいてお喋りするだけで、姉も、父も、笑顔になった。お別れの時でさえも、笑顔だったのだ。
今のままでは駄目だ。
貰うばかりではなく、返せるようにならないといけない。
まだまだ幼いその胸に、ノルンは大きな決意を抱いた。
がわ゛い゛い゛な゛ぁ゛ノ゛ル゛ンぢゃん゛!!
うちの妹がヤバい(ヤバい)。
一挙手一投足全てが可愛い。
幼女だから可愛いんじゃない、ノルンだから可愛いんだよ!
わかる?俺のこの気持ち。
愛です…愛ですよ……。
俺の中に眠っていた母性本能が目覚めたのかもしれない。
もうノルンのためなら何でもしてあげたい。
これがママの気持ち……ってコト!?
あ、でも寝る時に胸を吸うのはやめてほしい。
寝ているのに器用に下着をまくって吸うんだよ。ゼニスと勘違いしてるんだろうけど、授乳プレイは変な性癖に目覚めそうで危険が危ない。
べ、別に吸われて気持ちよくなったりなんかしてないぞ。
俺は変態じゃない。繰り返す、俺は変態じゃない!
……それにしても、アイシャも早くこっちに来ないかな。
ノルンとアイシャは二人揃ってこそ真価(?)を発揮するんだよ。
ノルンを可愛がれば、嫉妬したアイシャが妨害し。
アイシャを可愛がれば、嫉妬したノルンが泣く。
二人を弄ぶのは俺にとって最高の娯楽だったんだよなぁ。
またあの頃のように愉しく暮らしたいもんだぜ。
「できた!」
昔を思い出して楽しんでいる途中、ノルンの声を聞いて現実に引き戻された俺は、机の上を確認した。
土魔術で作った石を使って、簡単な足し算問題を解かせているのだ。
既に数字は全部書けるようになったのだが、紙が勿体ないのでこういうやり方で教えている。
う~ん……間違ってるけど努力は認めよう!
いいんじゃない?5歳児ならこんなもんでしょ。
別に英才教育するつもりはないしな。
ノルンは普通の子だ。
根が真面目だから、平均よりはそこそこ優秀、という所までは育てることは出来るだろう。
でもそこが限界だろうな。
まぁ、うちのノルンちゃんは愛嬌に関しては天才レベルだから。
ノルンのナチュラル幼女パワーを活用することで、俺は生活環境の改善をすることが出来た。あんなギスギスした空気の中で暮らすとか嫌だったからな。
やはり天然物の幼女は違う……俺は所詮、養殖だったというわけか。
いや、養殖には養殖の良い所があると思うけど、やっぱ勝てねぇわ。
「負けた!」って思いました。
勇を失って散体するところだったぜ。
さて、じゃあ次は魔術の勉強だな。
教えているのはもちろん治癒魔術だ。ノルンにも俺を世話してもらう可能性が高い以上、治癒魔術は覚えて貰っておいた方がいい。
あと、治癒魔術を覚えておけばとりあえず食いっぱぐれないからな。
この世界はヒーラーが少ないんだよヒーラーが。
「詠唱はちゃんと覚えられた?試しに、本を見ないで言ってみましょうか」
「はい!」
ノルンは返事だけは良いよな。才能ないけど。
お姉ちゃん、ノルンのそういうとこ好きだよ。
「かみなりちからは、ほーじゅーな、りゅかて、ちからうしないし、あのひとに、たち、たちあがるちからを、ください、ひーりんぐ」
間違えまくってて草。
まぁ、仮にちゃんと言えたとしても発動はしないだろうけどね。魔力がどういうものかまだわかってないし、詠唱文の字をただ口に出して読んでるだけで、意味も理解できてない。
無詠唱は必ず覚えられるかわからんし、詠唱の暗記から始めるのは間違ってないだろう。治癒魔術は攻撃魔術と違って、間違って発動しても周囲に害はないしな。
俺はノルンの頭に手を乗せ、優しく撫でてやった。
我が家の方針は『褒めて伸ばす』だ。頑張っただけで偉い!
「はい、よく言えました。ノルンは覚えるのが早いわね」
「えへへ」
うーん、可愛い。
この子、俺の娘ってことにならねぇかな。
●〇●〇●〇●〇●
その日の夜。
ノルンが寝たことを確認し、俺は机に座って作業を始める。
用意するものは、その辺で拾った石、木片、鉄、ボロボロになったよくわからんアクセサリーの残骸。あと、捜索団の倉庫からくすねて来た、討伐された魔物の牙や爪などの素材の一部だ。
パウロがいない時に、こうしてこっそりと作業をしている。
ルーデウスに死んでもらっては困ると思った俺は、もしものイレギュラーに備えて回復アイテムを作ってやろうと思った。
とはいえ、作ろうと思って簡単に作れるなら苦労しない。
どうにかして俺の『治癒』の力を物に込めることが出来ないかと、色々な材料を集めて実験をした。
結論としては、材料の質よりも、その物と俺の繋がりが強ければ強い程、力を込めやすいということが分かった。つまりは、俺が常に身に着けている物だな。
ルーデウスにあげたミサンガっぽい奴も、俺が暇つぶしに作って自分で身に着けていた物だ。
リーリャから手芸を習っておいてよかった。前世でもある程度は出来たけど、この世界にはミシンなんてないから手縫いが出来ないと苦労する。それっぽい魔道具ならあるかもしれんけど。
市場で買ったやすりを取り出す。
このまま使うのは見栄えが悪いから、それぞれの材料を削って形を整えていく。
「───」
静かすぎて落ち着かないので、なんとなく鼻歌を歌ってみる。
俺が昔から歌っているもので、最近は歌詞付きでノルンの前で歌うこともある。
前世の歌だが、俺が転生者だとバレることはないだろう。
なにせ、これは無職転生のアニメの曲だ。それを異世界語で歌っているのだから、万が一にもバレることはない。
たしか……何話だったかは忘れたが、ノルンとパウロの転移後の場面で流れていた曲だ。オープニングだったかな。
あのシーンで流れた曲が印象に残っていて、歌詞とか全部覚えちゃったんだよ。
ファンタジー世界で歌っても違和感ない曲だし、割と気に入ってる。
そうだ!ノルンを歌手として育成して金儲けとか出来ねぇかな!?
無職転生の曲なら前世バレはないし、ノルンも音楽センスは悪くない。あと可愛い。アイドルみたいな感じでやっていけないか!?
………いや、やっぱめんどくせぇからいいや。
アイドルのマネジメントとか絶対ダルイでしょ。ダラダラしたいのに仕事増やしてどうすんだよ。
やっぱルーデウスに養ってもらうのが一番かぁ。
はあ~、早くシャリーアに行きたいなー。