side:パウロ
フィットア領転移事件。
あの悲惨な事件が起きてから1年以上が過ぎた。
ノルンと二人で転移したパウロは、ボレアス家の執事であるアルフォンスの手助けもあり、フィットア領捜索団を立ち上げることが出来た。
冒険者ギルド本部があるミリス神聖国。
首都ミリシオンに捜索団本部を置き、ゼニスの実家であるラトレイア伯爵家等の力も借りて、各地に転移して難民となった者達の捜索、救助活動を行っている。
活動は順調で、半年前には長女のリディスを救出することに成功している。
もしも家族が一人も見つからなかったら、酒に逃げて腐ってしまう未来もあったかもしれない。
しかし、家族が一人見つかったのだ。
体が弱く、戦う力を持たないリディスが生き残っていたのだから、他の家族なら生存の可能性はさらに高い。
希望が見えた……だというのに、パウロの心中は穏やかではなかった。
原因は、救出された長女リディスにある。
「お疲れ様です!はい、どーぞ!」
「ああ、ありがとう」
捜索団本部。会議が終わった後のこと。
パウロの視線の先では、リディスが各団員に飲み物を配っている。浮かべる笑顔はかつてと変わらぬ太陽のような笑顔。彼女の笑顔には団員達も活力を貰っている。
……しかし、なぜだろうか。
パウロには、今の娘の笑顔が、昔と違ったものに見えてならないのだ。
かつての笑顔が100%の純粋な笑顔だとすれば、今の娘の笑顔は……まるで、男に媚びるかのような、酷く歪んだものに見えてしまう。
錯覚かもしれない。
悲観的になりすぎて、そう感じているだけかもしれない。
だが、そう感じているのはパウロだけじゃない。
リディスの救出に行った面子、特に、よく似た境遇にあったヴェラとシェラの姉妹も、パウロと同じものを感じている。
どうにかしなければと思う。
しかし、あまりにもデリケートな問題だ。
深く踏み込むにはリスクが大きすぎる。
今はただ、人との触れ合いと、過ぎ去る時間が娘の傷を癒してくれることだけを祈るしかなかった。
●〇●〇●〇●〇●
1年前。
まだフィットア領捜索団が活動を開始して間もない頃。
パウロは、表向きは団員達を力強く引っ張るカリスマ溢れる団長として振る舞っていたが、既にその心は折れかけていた。
妻のゼニスは元冒険者だ。活動した期間は短かったが、それでも並みの冒険者なんかよりよっぽど動ける。案外、その内ひょっこりと顔を出すかもしれない。
リーリャは足が治ってからは鍛えなおし、技量だけなら水神流中級程度の実力を取り戻していた。娘のアイシャが接触していた気がするし、リーリャが一緒なら何とかなるかもしれない。
息子のルーデウスは天才だ。10歳の今なら自分より遥かに強くなっているだろう。どこでだって生きていける。今頃はとっくにパウロの意図を察して、残りの家族の捜索をしてくれているかもしれない。
と言っても、これらはパウロの希望的観測に過ぎない。
そうであればいい、そうであってくれ。そういうパウロの願望が多分に含まれていた。
ただ……最後の一人。
長女であるリディスに関してだけは、パウロは望み薄だと思っていた。
神子としての力も、魔術師としての才能もある。
勤勉で努力家で……ただそれだけだ。リディスは普通の子供の範疇を出ていない。
おまけに体も弱く、生来の気質が戦いに向いていない。
いつもは気丈に振る舞っているが、本来は虫も殺せぬような気弱な性格であることを知っている。
魔物に襲われたら、まず抵抗は出来ないだろう。
襲われて死ぬだけならまだマシだ。10歳になったリディスはますますゼニスに似て美しい少女になっていた。
賊や人攫いに捕まったりしたらどんなことをされるか、想像もしたくない。
いや、それ以前に。
恐らくリディスは……死んでいる可能性が高い。
転移する瞬間、何かを察したのか、隣にいたリディスが自身の腕を掴んだのを覚えている。
転移というものは、体が触れている者同士は同じ場所に移動するはずなのだ。
なのに、リディスはいなかった。一緒に転移したのは抱っこしていたノルンだけ。
あの事件では人も物も消えた。
建物や物品と違い、人だけは一人も消滅せずに全員転移した……というのは、あまりにも都合の良い解釈だろう。
リディスは転移せずに消滅してしまったのだと。
その可能性に行きつくのに時間はかからなかった。
「(あの時、俺が手を掴んでやれたら……結果は変わったんだろうか)」
愛娘が死んだ。
生まれた時から体質で苦労し、それでも一生懸命生きていた娘が……死んだ。あまりにも呆気なく。10歳という若さで。まだ子供だったのに。
「(いや違う。そんなはずはない!あの子は生きている!)」
あの転移がパウロの知る転移と全く同じものかどうかはわからないのだ。
娘は違う場所に転移しただけだ。きっと生きてる。無事だ。
そう、思うしかない。
パウロは娘の死という辛い現実から逃げるように、必死に捜索活動を続けた。
……娘の死。
そして、パウロとノルン以外の家族が全員消滅したという最悪の可能性。
パウロの精神を、絶望という名の闇がじわじわと侵食していった。
●〇●〇●〇●〇●
風向きが変わったのは、転移事件から半年を過ぎた頃。
会議室で、難民救助のための話し合いが行われていた。
「奴隷にされる前に救出に行くべきだ!こんな幸運二度とないかもしれない。団長と俺達で行けば制圧は簡単だろ?」
「待て待て、まだ詳細な戦力がわからないだろ。もっと情報を集めてからでも遅くはないはずだ……また死人を出すのはごめんだからな」
「何言ってんだ!情報を集めてる間に奴隷商に引き渡されたらどうする!?」
「……買い取ればいいだろう。金なら出して貰えるんだから」
「それが間に合わなかったから、結局力づくで奪い取ることになってるんだろう!それで何人死んだと思ってる!?」
「それは───!」
幸運なことに、とある人攫い共の拠点に難民が捕らえられているとの情報を手に入れることが出来た。
しかし、拠点を襲撃するか否か。
その点において、捜索団メンバーの意見は真っ二つに割れている。
捜索団のメンバーは、基本的にフィットア領の領民で構成されており、難民を救出したいという想いは全員同じだ。
家族、恋人、友人、知人を探すため。
全て失ったが、せめて同じ境遇の者を減らしたいと志願してくれた者。
各々の理由で集まったメンバーであったが、今、その意見は割れてしまっている。
原因は、団員に死者が増えてきたからだ。
転移事件によって難民となった者達は、多くが悲惨な境遇に置かれている。
パウロは大義名分を守るため、難民を救うためなら強引な手段もとる。
難民全員を救うという姿勢をとっているからこそ、多くの人々がパウロに協力してくれるからだ。家族を探すためには、金も人も必要だった。
ただ、奴隷になった難民は買い取る方針で動いているが、既に買われてしまった者もいる。その場合、買った者に掛け合って金を払って解放してもらうのだが、中には奴隷を手放さない厄介な奴がいる。
そういった場合は強引な手段……つまりは力づくで強奪しているのだが、そうすると団員にも被害が出る。
パウロ以外のメンバーはそれほど強くない。
なにせ、捜索団のナンバーツーがヴェラである。パウロからすれば駆け出しの冒険者程度の実力しかない彼女がパウロに次ぐ戦力なのだから、戦うという手段をとれば被害が……最悪の場合、死者が出ることも珍しくなかった。
「団長?」
だからこそ、人攫い共の拠点を襲撃し、奴隷にされる前に捕らえられている難民達を解放する、というのは理に適っている。
だが相手は人攫いだ。本職の騎士や兵士程ではないだろうが、対人戦に慣れている連中を相手にするには、捜索団の戦力は強くない。
慎重になる者達が出て、意見が割れるのは当然だ。
だが………。
「あの、団長?」
「ん、ああ……」
ヴェラの声にパウロが顔を上げると、意見を求めるように全員の視線が集まっていた。
結局のところ、答えを出すのは団長にして最高戦力のパウロだ。
行くにしてもパウロが行かないと全滅は確定だし、行かないなら行かないで、奴隷を買い取る資金を貰うためには、資金援助をしているラトレイア家と繋がりがあるパウロが動く必要がある。
「行こう。拠点に襲撃を仕掛ける」
「い、いいんですか?」
「ああ。問題ない」
立ち上がり、襲撃に反対だった慎重派の者達を説得するように声を上げる。
「集まった情報を聞く限り、連中の戦力は大したことはない。俺一人でもどうとでもなるだろう。だが、腕のいい治癒術師がいるのは間違いない。まともにやりあったら手古摺るだろうな」
「だったら……」
「安心しろ。俺がまず拠点に潜入して、奴らの頭か、術師を先に始末する。それが終わったら合図を送る。俺は中から、他は外から、一気呵成に攻め立てれば制圧は容易いはずだ」
「……ま、まあ、パウロさんがそう言うなら」
拠点への襲撃を決定し、作戦の詳細についての話し合いに移行した会議で、パウロは集まった情報の中であるものが気になっていた。
「(10歳くらいの子供の治癒術師がいた、か。名前はわからなかったが……行ってみる価値はあるはずだ)」
●〇●〇●〇●〇●
件の組織は、放棄された砦を勝手に使っている。
幸い、警備の質は悪く、内部へ忍び込むのは難しいことではなかった。
「(牢屋は……ここか)」
元々あった牢屋を使っているのだろう。
ざっと見る限り、子供から大人まで十数人以上は捕まっている。不用心なことに見張りはいないが、ただの一般人である領民では牢屋を出ることなんて出来ないだろう。見張りは不要と考えたか、あるいは人員が足りていないのか。
牢屋に近づくと、中の者達は怯えたように奥へと下がった。
警戒を解くため、両手を上げて軽薄な笑みを浮かべながら近付く。
「安心してくれ。俺はここにいる連中の仲間じゃない。俺はパウロ・グレイラット。転移してしまったフィットア領の領民を探して、救助活動をしているんだ」
その言葉を聞いて、一人の男性がおずおずと前へ出て来る。
恰幅の良い男性だ。貴族ではなさそうだが、もしかしたら商人でもやっていたのかもしれない。
「まさか、助けが来てくれるなんて思っていませんでした」
「あんたは?」
「ロアの町で店を構えておりました。商人の───」
───彼から事情を聞くことが出来た。
どうやら、この牢に捕まっているのは半数以上がフィットア領の難民のようだ。
情報に間違いはなく、彼らは近日中に奴隷商に引き渡される予定になっていたらしい。
もっと詳しく話を聞きたいが、あまり長居する余裕はない。
ひとまずこちらの事情を話し、噂の治癒術師を探しに行こうとしたパウロだったが……ある人の名前を聞いて足を止めた。
「……すまない、もう一度言ってくれ」
「は、はい。治癒魔術が使えるからと、奴らに無理やり従わされている子供がいるんです。彼女を、リディスさんを助けて貰えないでしょうか……」
「───リディス?今リディスって言ったか?」
「え?えぇ、そうです。なんでも、ブエナ村出身だとか」
「見た目は?」
「金髪の、10歳くらいの女の子です。かなり前からここにいるそうですが」
………俺の娘だ。
同名の別人である可能性もあったが、パウロは直感的に娘のリディスだと思った。
リディスは治癒魔術を頻繫に使わされており、人攫い共だけでなく、捕まった者達の治療や検診もしているらしい。
「……彼女は随分と憔悴しているようでした。治癒以外にも、我々の見ていないところで何をされているのか……可哀相に」
●〇●〇●〇●〇●
───数時間後。
パウロは血まみれで立っていた。
人攫い共の返り血で真っ赤に染まりながら、その腕に愛娘を抱えて。
数時間前のこと。
巡回していた男を拷問し、リディスがいる場所を聞き出したパウロがそこへ向かうと、牢屋に囚われの身となった娘の姿があった。
牢屋の片隅で、ぼんやりと中空を眺めている。
ピクリとも動かず、まるで死人のようだと思った。
パウロが牢の前まで近づいても、娘は何の反応も返さない。
「リディス…?」
「………」
「俺だ、父さんだ…助けに来たぞ…!」
「………」
普通じゃなかった。
見た目には外傷などは見当たらなかったが、それが無事を意味しているわけではないことをパウロは知っている。
床に乱雑に放られた服はなんだ?
どうして下着姿のままなんだ?
どうしてそんなところに座っている?
その隈はどうした?虚ろな目はなんだ?
どうして……何も言葉を返してくれない?
状況から推測出来る答えは一つだけ。
ヴェラやシェラなど、妙齢の女性は賊に捕まって慰み者にされた者も多い。彼女達の中には、一見すると健康に見える者もいたが、そういった者は決まって精神状態に異常を抱えていた。
無論、肉体の方も無事ではない。
ただ、運良く丁寧に
瞬間、パウロの脳内に溢れ出した、かつての記憶。
『わたし、おっきくなったらおとーさんとけっこんするの』
そうかそうか!父さんと結婚するか!
じゃあ、いっぱい食べて、母さんみたいに大きくならないとな!
『お父さんつよーい!かっこいー!』
だろう?
たとえどんな魔物が来たって、父さんがやっつけてやるからな。
『私はお姉ちゃんだから。ルディの分まで、ノルンとアイシャをいっぱい可愛がってあげないと』
最近はしっかりしてきたな。
ゼニスに似て、器量良しの美人になるぞ。
『……私も、いつかお母さんみたいな人になれるかな』
なれるさ。父さんが保証する。
でも、無理だけはするんじゃないぞ。リディスは頑張り屋さんだからな。
『お父さん!』
そう言って、笑顔でパウロを呼んでくれていた姿が脳裏に蘇る。
我が子が……笑顔の似合う大切な愛娘が、こんな姿になっている。
「(───俺の娘に、何をした……?)」
───その後のことを、パウロははっきりと覚えている。
パウロは完全にキレていた。
奇襲計画など頭から吹き飛んだ。
砦内部の人間を片っ端から切り殺した。
中には主力と思しき上級剣士もいたが、かつてない程キレているパウロの敵ではなかった。
同じ上級剣士とはいえ、三大流派を全て上級まで修めているパウロと、一つの流派だけで上級の剣士とでは総合的な実力がまったく違う。
剣神流、水神流、北神流。
本気を出したパウロは全ての流派を織り交ぜて戦う。加えて、偶然にも怒りによって箍が外れたパウロは、己の身体能力を限界まで引き上げることが出来た。
結果、砦内部にいた組織の人間は皆殺し。
外で待機していた団員達が気づいて駆けつけた時には、血の海と、返り血によって真っ赤に染まったパウロの姿があった。
そして、その腕には娘が抱えられていたのだ。
●〇●〇●〇●〇●
リディスは思ったよりも元気そうだった。
会話も普通に出来たし、男を怖がる様子もない。
体に関しても目立った外傷はなかった。ただ、以前よりも体質が悪化したようで、治癒魔術を使っても発作が治まり辛くなっている。
とはいえ、日常生活に支障はなさそうだ。
大きな問題はない。よかったよかった。
………そんなわけがない。
リディスは元気すぎた。
捜索団の手伝い、本部に預けられている子供の相手、傷病人の治療、もちろん妹のノルンの世話もした。
毎日毎日、まるで何かに追い立てられるように。
何度も休めと言ったのだが、とうとう「うるさい!」と怒られてしまった。
リディスが声を荒らげるのは初めてだったので、パウロは驚いて固まってしまったものだ。
その後、ハッとしたリディスが謝って来たが、パウロは気にするなとしか言えなかった。
………やっぱりおかしい。
今まで見て来た女性の被害者達は、最低でも数週間はまともに動けなかった。動けても、シェラのように男性に対してトラウマを持ってしまったりする。
確かに、ヴェラのように強靭な精神力でトラウマを乗り越える者はいる。
だが、10歳の娘はそれほど精神的に強かっただろうか。
一緒の宿屋で暮らしているにもかかわらず、パウロにはリディスがどういう精神状態なのかさっぱりわからなかった。
不安になったパウロは、女性難民の精神的なケアも担当しているヴェラに相談した。
「………」
「お前はどう思う?あいつは男の団員にも普通に接してるし、ひょっとしたら、もう気にしてない、ってことは……」
「……いえ、違うと思います」
「どういうことだ?」
………ヴェラ曰く、リディスは何かに没頭することで辛い出来事を忘れようとしているのだという。
あるいは、既にリディスの中では当時の出来事はなかったことになっているのかもしれない。そう思い込むことで、自分の心を守っているのかも、と。
「───そうか」
「とにかく、今はやりたいようにやらせてあげた方がいいと思います。本部にいれば人の目もあるし、早まったこともしないはずです」
早まったこと……すなわち、自身で命を絶つこと。
ヴェラはリディスがそこまでする可能性があると思っているのだ。
きっと、愛娘の心はボロボロに傷ついているのだろう。
あるいは……もう、壊れてしまっているのかもしれない。
「団長も、出来る限り一緒にいてあげてください。今のあの子にとっては、団長とノルンちゃんだけが心の拠り所なんですから」
「ああ、わかってる」
何としてでも、残りの家族を取り戻す。
また昔のように、皆で暮らせるようになれば、リディスの心の傷も癒えるかもしれない。
それまでは、折れている暇なんて、ない。
うぅ、部長、お願いしますからもう許して。
せっかく勝ち取った久しぶりの休日なんです。後生ですから!
次!次出勤したらもっと頑張りますから!
休日出勤は嫌だ、休日出勤は嫌だ、休日出勤は嫌だ……。
───悪いけど、明日出てもらえるかな?
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ──────
「おねがい、します……もう……」
ああ、俺の休日、休日が遠のいていく───。
「───ディス、リディス!」
「はっ」
上半身をガバっと起こす。
ここは……そうだ、ここは門の夜明け亭。
パウロとノルンと一緒に暮らしている宿屋の一室だ。
「大丈夫か!?随分、うなされていたみたいだが」
「お姉ちゃん……」
パウロとノルンが心配そうに見て来る。
どうやら起こしてしまったようだ。二人には申し訳ないことをした。
くそっ、嫌な夢を見たぜ。
あの野郎。俺にばっかり仕事を押し付けやがって。
自分は仕事が出来ない無能の分際でよぉ。
お前が赤ちゃんプレイ大好きな変態野郎だって皆知ってるんだぞ!
ハゲをヅラで誤魔化してるのも、毎回新人の女性社員に粉かけまくってるのも全部知ってるんだからなぁ!妻帯者のくせに何やってんだお前ぇ!
っと、パワハラクソ上司のことはどうでもいいか。
俺は二人を安心させるように笑みを浮かべた。
半年の奴隷生活でさらに鍛えられた、俺の超絶営業スマイル&しょんぼり顔を喰らえっ!
「私は大丈夫。二人とも起こしちゃってごめんなさい」
「いや、それはいいが……その」
「なに?」
「あ、ああ、いや、何でもない……父さん、ちょっと外を散歩してくるよ」
「?うん、気を付けてね」
「いってらっしゃい」
「ああ、二人ともおやすみ」
パウロが部屋から出たのを見て、俺はベッドに横になった。
「んー……」
「あら」
一緒に寝ているノルンが俺の胸に顔を押し付けて来た。
ノルンは俺の胸が大好きみたいで、毎晩のようにこうしてくる。まだまだゼニスには及ばないが、俺の胸も成長してほんのり膨らんでいる。
ぺったんこは卒業したのだ!
悪いなシルフィ、俺はこれから巨乳になる。
恨むなら長耳族の血を恨むんだな。
さて、俺は無事パウロに救出されたわけだが。
とりあえずは一安心、といったところか。
救出されてから1年近くの間、パウロとノルンの好感度稼ぎに徹することが出来た。
まぁパウロはもういいけどな。
10歳までの間で十分稼いだし。
優先すべきはノルンだ。
俺がルーデウスに養ってもらう際には、ノルンにも援護して貰う必要があるかもしれないからな。
……ただ、今の俺はちょっとした問題を抱えている。
人攫い共のもとで生活した影響だ。この問題は簡単には解決しないだろう。
俺は休めなくなってしまった。
より正確に言えば、常に働いていないと落ち着かなくなってしまった。
俗に言う、ワーカホリックってやつだな。
転生してからは治ったと思っていたんだが、人攫い共のところで社畜時代を思い出すような労働をした結果、この悪癖が復活してしまったのだ。
パウロは休めっていうけどさぁ……休みたくとも休めないんだよこっちは。
駄目だ。1日何もしないとか発狂するわ。
何度か休もうとしたんだが、逆にイライラしてパウロに八つ当たりしちゃったからな。
反抗期の子供みたいで恥ずかしかったぜ。
これはあれだな。
ルーデウスのように、俺も肉体に引っ張られているところがあるんだろう。ちょっと感情の制御が甘くなっている気がする。気をつけなければ。
しかし、こんなんじゃダラダラしたくても出来ない。
徐々に仕事を減らして行って、何もしない状態に慣れる必要があるだろう。
俺はただぐーたらしたいだけなのに……どうしてこうなった。
次の問題だが……なんか、俺が性的な虐待を受けたと勘違いされているんだよね。
パウロや、他の一部の団員さん方の反応がおかしいんだよ。
可哀相なものを見る目というか、気の毒な人を見る目というか。
頭にくるぜ。
転移事件で全てを失った敗北者共が、俺に憐みの目を向けやがってよぉ。
こちとらチート持ちの転生者やぞ?美少女やぞ?
お前ら程度がそんな目を向けていい相手じゃないんだよ!
身の程を知れ身の程を。ぺっ。
一応、誤解は解こうとしたんだが。
「私は大丈夫だよ。何もされてないから」
「っ!そ、そうだな。お前は何もされてない。父さんはわかってるからな」
「ほ、本当なのよ!ほら、怪我もしてないし!」
「ああ、わかってる。わかってるよ。お前は昔から変わってない。綺麗なままだ……ちくしょう!俺がもっと早く助けに行けば、こんなことには……!!」
大体こんな感じ。
なんか、今の俺が何言っても信じて貰えない気がする。
おかしいなぁ。いつの間にパウロからの信頼度がここまで落ちてしまったのだろうか。勤勉で真面目な努力家って感じで良い子ちゃんをやってたはずなんだが。
んー……ま、いいか。
俺がいつも通りにしてればそのうち元に戻るでしょ。
もう少しでルーデウスも来るだろうし、それまではノルンとイチャイチャして暮らそう。