膨大な過去の映像を最大限有効に活用したい アーカイブス部の思い
番組 119万2000本
ニュース映像 976万5000項目
写真 54万9000枚
これはNHKが保存している映像や音声などのコンテンツです。2024年度末に集計したもので、いまも日々増え続けています。このほか戦前に撮られた古いフィルムや、手書きの番組の台本、レコードなどさまざまな資料があります。これら膨大な過去の素材を将来にわたって利活用できるようにしていくのがアーカイブス部の役割です。
一般にアーカイブスという言葉は、「記録」を「保存」しておく場所を指しますが、NHKのアーカイブス部は「保存」だけでなく、古いフィルムなど過去の映像の情報を読み解き、再利用に向けたアドバイスをしたり、白黒映像をカラー化する技術を開発したり、さまざまな事に取り組んでいます。
過去の映像というNHKの資産を最大限有効に活用したい。そんな同じ思いを持つ4人の視点から、わたしたちアーカイブス部の取り組みを今回ご紹介したいと思います。
映像の再利用に欠かせない「メタ整備」
アーカイブス部に着任して丸1年の西山です。5年前にNHKに入り記者として取材現場を駆け回っていましたが、産休・育休をきっかけにアーカイブス部に異動し職場に復帰しました。
新しい職場で任された仕事は「メタ整備」と呼ばれる業務でした。アーカイブスに保存されている映像には、番組制作者が放送当時に入力した「メタデータ」という情報が記録されています。例えば、撮影日時、取材に協力していただいた方の連絡先、映像の使用条件などです。「メタ整備」は番組制作者が再利用を検討する際、この映像に付随するメタデータを確認しやすいように情報を書き加えたり修正したりする仕事になります。
言葉で書くと簡単なのですが、これが非常に難しく大変なんです…。なぜかというと、映像には色々な「権利」があり、さらに「権利」に関する情報は、時間がたつことで変わっていくからです。
私たちが扱うほとんどの映像には「著作権」がありますし、スポーツの試合やコンサートなどの映像には「契約上の約束事」があることがほとんどです。撮影されている人の「人権やプライバシー」といった権利もあります。こうしたさまざまな権利は、期限が切れたり、相続されたりすることがあるほか、時代の変化によって権利への意識が変わっていくこともあります。例えば、プライバシーについては、数十年で大きく意識が変わっています。こういった権利の情報を変化に合わせて適切に管理しておくことで、再利用時のトラブルを防いでいます。
記者時代、事件や事故、裁判などを取材していたため、刑法などを勉強する機会はありましたが、映像に関わる法律をしっかりと学んだ経験はありませんでした。まずは著作権法の勉強から始め、映像ごとに確認するポイントを上司たちに教えてもらいながら、メタ整備の業務を進めてきました。これまでに整備した映像は「古代生物のCG映像」や「戦前のスポーツ大会の映像」、「一般の方が撮影した出征兵士の映像」など。改めてNHKにはさまざまなジャンルの映像が数多くあるんだなと実感しています。
白黒映像をカラー化 そのとき「権利」は?
具体的にどのようにさまざまな権利を確認していくのか。「白黒映像のカラー化」でご説明します。
まず、法律上、映像素材の「著作者」は、基本的には「撮影者」になります。カラー化は映像を改変することになりますが、NHKが撮影した映像の場合はNHKが著作者にあたるので、原則、カラー化することは問題ありません。
NHKが撮影していない、外部の方から提供いただいた映像については、著作物を無断で改変されない権利が撮影者にあります。つまり、NHK以外の団体や個人が撮影した映像は、その撮影者から許諾を得ないとカラー化することはできません。
ただ、撮影者から許諾を得られないケースもあります。例えば、すでに撮影者が亡くなっている場合です。外部からいただいた白黒映像の中には、そうしたケースが多くあります。著作権には保護期間という考え方があり、原則として著作者の死後70年(映像は公表後70年)を過ぎたものは権利が消滅し、誰でも利用することが出来ます。
では、著作権の保護期間が切れている映像は自由にカラー化して良いのでしょうか?
答えは「NO」です。
著作権法第60条に、著作者が亡くなっていたとしても一定の保護が認められることが定められていて、著作権の保護期間が過ぎていたとしても、著作者本人が生きていたとしたら望まないであろう形に改変・利用することはできないのです。こうした利用があった場合、遺族などは著作物の利用を止めることができます。
では、著作者も亡くなっていて、その遺族とも連絡が取れない場合、過去の白黒映像はすべてカラー化することはできないのか?というと、実はそういう訳でもありません。
外部から提供いただく映像や写真には「承諾書」が残されている場合もあり、その内容から再利用できるかどうかを判断し、映像をカラー化して放送した事例などもあります。
記者からアーカイブス部に異動して1年、私がいま思うことは、権利は「非常に多面的で複雑だ」ということです。映像使用の可否は、中々スピーディーに結論を出すことは出来ません。ただ、だからといって、NHKが長い年月をかけて保管してきたものを活用せず、眠らせたままにしておくのはあまりにももったいない。受信料を頂き皆様のご協力のもと制作してきた番組は、視聴者の皆様の資産とも言えると思うからです。権利を守りながら新しいコンテンツを生み出せるように、今後も映像にまつわるルールをもっと学んで、アーカイブスという資産を皆様の目に届くよう活用していきたいです。
アーカイブス映像が視聴者に届く喜び
アーカイブス部の橋本です。突然ですが、みなさん、去年の第75回NHK紅白歌合戦で郷ひろみさんのスペシャルステージ「2億4千万の瞳 放送100年 GO!GO!SP」はご覧になったでしょうか?
NHKホールのロビーに置かれたたくさんのモニターに、この100年間に起こった象徴的な出来事が映し出されました。ラジオから始まった放送がことし3月に100年の節目を迎えることを記念した演出で、インターネットでも話題になりました。
これにも、私たちアーカイブス部が関わっています。使われた映像は、「東京タワーの完成」(昭和33年)、「皇太子ご成婚パレード」(昭和34年)、「ビートルズ来日」(昭和41年)など、多くの人の記憶に残っているものばかり。こうしたNHKに残されている過去の映像は、メタ整備が終わっていたとしても、権利の意識が過去と現在で大きく異なることから、番組制作者が使用に悩むものに関しては、私たちアーカイブス部の「素材再利用アドバイザー」チームが第三者的な立場から客観的にチェックし、アドバイスや注意点を伝えることにしています。
これまでに私が調べた映像の例を挙げると以下の通りです。
・路上で踊る「ローラー族」
・ジャイアントパンダの出産
・ピーマン1袋を150グラムに計測する様子
どんな映像なのか、どのように再利用されるのか…興味がわきませんか?番組制作者から相談を受けると、映像を保存するアーカイブス部のシステムから、同じ映像を探します。アーカイブス部に所属する私たちですら「こんな映像が残されているなんて!」と驚くような映像もたくさんあります。そうした映像が再利用できるかどうかは、メタデータだけでは判断できません。番組がどういう使い方をするのか、映っている人のプライバシーは守られるのかなど、さまざまな観点でリスクをチェックしていかなくてはならないのです。
【公の場所?私有地?】
通常立ち入れない場所なら、特別な許可での撮影だったかもしれず、映像を再利用してよいのか、ときには当時の番組制作担当者に問い合わせ、権利者にご相談することもある。
【聞こえてくる音は?】
映像に映る人が誰なのかはもちろん、映っていない人の声は誰の声なのか。また、音楽は流れているのか。画面に映っていないものでさえ、権利の手続きが必要な場合がある。
【プライバシーはOK?】
何十年も前の映像で、撮影に協力してくださった方とどんな約束があったのか、わからないものも多い。何年も経って別の番組に再利用されることを想定していない可能性も。プライバシーを侵害する懸念があれば、番組側に伝える。
映像に何が映っているのかを丁寧に見つめ、ひとつひとつ問題がないか確認します。アーカイブスはテレビという映像メディアが積み重ねてきた歴史そのもので、後世に残していきたい貴重な財産です。
「私たちがやらなければ、貴重な映像が世の中に再び出ることがないかもしれない」と思い、丁寧に作業しています。だからこそ、去年の大みそか、NHKを代表する番組のひとつに、わずかながら関われたことがとてもうれしく、感動しながら見ていました。
「取材相手の気持ちを考える」という心がけを今の仕事でも大事にしている
日本の落ち着いた海の色まで表現 NHKの「カラー化AI」
さて、ここからはこれまでとうってかわって「カラー化AI」の話です。アーカイブス部の霜山です。1992年にNHKに入局し、アーカイブス部に来て25年目です。いまは「Deep Archive(時の工房)」というチームで、最先端技術で古い映像を高画質に変換したり、NHKが自前で開発した「AI」を使って白黒映像をカラー化したりする仕事をしています。「カラー化AI」については、アーカイブス部の視点で開発初期から携わってきました。
そもそもなぜ、カラー化するのか?読者の皆さんも疑問に思われたのではないでしょうか?
「4Kカラーでよみがえる終戦直後のにっぽん」より
上の写真は終戦直後の青空教室を撮影したものです。左は元々の白黒映像、右がカラー化AIによって色づけされています。もちろん白黒にも良さはあるのですが、高画質の写真や映像にあふれている今の時代だと、どうしても自分とは縁遠い昔の印象をもたれてしまいがちです。では色がついたらどうでしょうか。だいぶ身近なものになったなという印象に変わりませんか・・・?今や「カラー化AI」はドキュメンタリーやドラマ、伝統芸能番組やイベントなど、幅広い分野で使われています。
カラー化の歴史を振り返ると、その試みはフィルムが世に出てまもなく、今から100年以上前からありました。特に1980年代のハリウッドで昔の映画をカラー化したことで、たくさんの人がカラー化技術を知ることになります。しかし、実際の雰囲気とかなり色味が違うため、なかなか広まりませんでした。
しかしそれから30年あまり。今では歌番組1分間の白黒映像も「カラー化AI」を使うことで、15分で完成度の高いカラー化が可能です。AIを使わずに映像を調整する機材を使っていた10年前なら3日はかかっていたことでしょう。
こんなに短時間で高品質にできるのは、「画面に何が映っているのか」「画面のどの位置にあるのか」「どんな色をしているのか」をAI自身が判断して色を塗っているからです。これは機械学習を使って、さまざまなお題と答えを膨大に学習させることで可能になりました。
さらに今のNHKの「カラー化AI」は、落ち着いた色合いの「日本の海」まで再現できるようになっています。海外で作られた「カラー化AI」だと、学習に使われる画像がリゾートのような鮮やかな青のことが多いので、海と認識するともれなく、鮮やかなエメラルドグリーンのように塗られることが多いのです。しかしNHKのカラー化AIは、1970年代の「新日本紀行」なども学習データに使われているので、実際の海の色と遜色ない青で日本近海を表現できます。
NHKのカラー化AI 開発の歩み
このように「カラー化AI」で日本の海などを自然な色で表現するには、膨大な学習データが必要となります。ここでアーカイブスに保管されていた過去の映像が役に立ちました。
AI が世間の注目を集めはじめた2016年頃。その頃から白黒写真をカラー化するAIも世界中で発表されはじめ、国内の大学からも優れたカラー化AIが発表され、AIの可能性が広く認められるようになります。私は当時、アーカイブスに保管されていたビデオテープをデジタルデータに変換する仕事に関わっていて、NHKにはAIに学習させるデータが十分にあることを知っていました。
アーカイブスの映像を活用してカラー化AIを自前で開発したい。
そう思った私は実用化に向けて、まずはAIが実際にどんなものなのか理解しようと、ごく簡単なことから始めることにしました。
初めてつくったのは、カラー化ではなく単純な足し算をするAIです。足し算のルールは教えずに2つの数を足す式と答えを数千個用意し、数分間でAIに学習させます。すると、私が2つの数字を入れるだけで正しい答えが返ってきたのです。プログラムには書かれていない事をプログラムが実行するなんて・・・!
AI、つまり人工知能と初めて対峙した私は「まるで目に見えない妖怪が机の下で計算をしているようだ」と思いました。こうしてAIの仕組みがわかり、アーカイブス部でも正式にカラー化AIへの動きがはじまりました。ですが、進めていくと「物体の認識精度を上げること」がとても難しいと判明しました。
AIが物体をうまく認識できないと、カラー化しようとしても下の写真のように空や地面、樹木に色はついているけれど他の色が混じってしまう、なんてことに・・・。
AIを使ったカラー化はアーカイブス部にとって大きな進歩につながる、でも現状ではいくら頑張っても自分たちだけでは完成できない…そう感じた私は、当時一緒に番組制作を企画していたプロデューサーと一緒に、デジタル技術の専門家がいるNHK放送技術研究所に行きました。そして出会ったのが画像処理AIが専門の遠藤伶研究員です。遠藤はアーカイブスに保存されていた2万あまりの番組をAIに学習させました。
遠藤と出会ってから2年たった2018年の春、NHK独自ではじめてのカラー化AIシステム「ORIGIN(オリジン)」が完成しました。ついにNHKの膨大なデータがカラー化AIにいかされたのです。
いま、NHKでは性能が大幅に向上した第4世代の「FUGA(フーガ)」と呼んでいるカラー化AIが稼働しています。最初の「ORIGIN」と比較すると、飛躍的に物体認識の精度が上がりました。
「FUGA」は全国各地の放送局での導入も進めていて、最近では富山放送局で伝統行事「おわら風の盆」や戦前の白黒映像など、地元の貴重な映像をカラー化しています。この地域の映像のカラー化が地元の方々から非常に好評で、今後も地域の皆さんに感動して頂けるよう、研修などを通して地域局のカラー化の取り組みをサポートしていく予定です。
ウクライナの放送局をリモートで支援
アーカイブス部の大河原です。普段は、映像の保存と管理を担当しているほか、橋本や西山が所属するチームの統括をしています。ここまで3人の視点から仕事を紹介してきましたが、アーカイブス部は、ほかにもさまざまな仕事をしています。
ことし1月、ウクライナの公共放送局「ススピーリネ」のアーカイブス担当者がNHKを訪れました。映像の保存やアーカイブスの活用について研修を受けるためです。
ウクライナ語で「公共」を意味する“ススピーリネ”の愛称で呼ばれているウクライナ公共放送は、国営テレビや地域の放送局などが統合して2017年に設立された放送局で、NHK財団がジャーナリスト育成などの支援を続けています。ロシアによる軍事侵攻から2年たった2024年の2月からはアーカイブスの整備も支援することになり、アーカイブス部が協力しています。
*ススピーリネへの支援については過去のこちらの記事もご覧ください*
当時、ウクライナ各地では激しい戦闘が続いていました。ススピーリネはロシアに占領された地域に残されていた映像資料を失い、首都キーウや支局で保有しているフィルムやテープなども攻撃で失う可能性があるため、安全な場所に避難させて整理し、保管することを急いでいました。
NHKが長年培った、アーカイブスのノウハウを伝えたいと思いましたが、現地に行くことは叶いません。そこで、まずはオンラインの勉強会を始めることにしました。
ススピーリネのみなさんが学びたいことを聞きながら、毎月テーマを決めて勉強会を開催しました。
▼フィルムを保存するのに適した環境は?
▼映像を保存する際に大切なメタ情報は?
▼過去の映像を再利用するときに注意することはどんなことか? など。
その右隣がススピーリネのアーカイブス責任者タイーシヤ・トゥルチンさん
毎回、首都キーウや西部リビウのアーカイブス担当者のほか、チェルニヒウやオデーサ、ハルキウ、ルツクなどの支局からも参加していました。
戦時下の国と結んだオンライン。あるときは、地方から参加している人の画面が停電で暗くなることもありました。また、ある支局の担当者は「地下に古いフィルムを避難させた。フィルムを保管する環境としては良くない。でも、フィルムにカビが生えるよりも、空爆が怖い」と話していたことも。いつ、攻撃があるかもわからないなか、映像を残すため奮闘する彼らの様子が、画面越しでも伝わってきました。
そんな緊迫した環境で大事な時間を共有しても、やはりオンラインの画面越しで伝えるには限りがあります。彼らが持っているフィルムの実物を見ることもできないし、NHKの保管の仕方をつぶさに見てもらうこともできません。「果たしてどれだけススピーリネのみなさんに響いているのか?」「役立つ情報を伝えられているだろうか?」と、常に悩みながら勉強会をしてきました。
あるとき、こんなやりとりがありました。ススピーリネのアーカイブス責任者を務める、タイーシヤ・トゥルチンさんと話していたときのことです。勉強会で質問がいくつも挙がったので、「まとめてメールで返信しようか?」と私が聞いたところ、彼女はこう答えました。
「メールではなくて、勉強会で皆に伝えて欲しい。はるか遠くの日本の皆とつながっているということが、私たちのモチベーションにもなるから」。
画面越しに話をすることでも、彼らを支える力になっているのだと感じました。勉強会は1時間の予定ですが、いつも熱心な質問が続き、たいていは時間をオーバーしていました。
ついに日本での研修が実現 戦争の記録を未来へ
勉強会を始めてからおよそ1年。ついにススピーリネのアーカイブス担当者15名が来日することが決まりました。各地で戦闘が続くウクライナから、アーカイブスのノウハウを学ぶためにはるばる日本に来るのです。ならば、私たちから伝えられることはすべて伝えよう。テレビ放送の長い歴史をもつ、公共放送の役割だと考えました。
渋谷の放送センターと埼玉県川口市にあるNHKアーカイブスでの研修は5日間。映像の保存の仕方から、再利用して活用することまで幅広くカリキュラムを準備しました。
なかでも彼らが特に注目していたのは、NHKアーカイブスの保管設備です。NHKアーカイブスにはNHKで放送した古いフィルムが12万本保存されています。ススピーリネでは、ロシアの国境から離れた西部の都市に古いフィルムを避難させることを進めていますが、避難先の保管場所には棚もなく、無造作に積み上げられている状態だといいます。
今後は、それらをきちんと整理して保存するために、NHKの保存方法を参考にしたいと、映像の内容や時代ごとに分け、温度と湿度を一定に保って保管することなどを熱心に聞いていました。
いま起きていることを残したい
研修中、彼らが強い関心を持って聞いていたのは、ニュース映像の保存についてです。
攻撃で人が亡くなった直後の現場の映像、歴史的な建物が破壊された様子、戦場で亡くなった兵士の葬式、捕虜交換でやせ細った兵士が帰還した映像…。戦争に関連する映像をすべて確実に残したいと考えているからです。
「毎日、毎日、つらい映像を見ている。精神的につらい。でも、それを保存するのが私たちの仕事」
「平時と戦時下はアーカイブスの目的が異なる。ロシアによる攻撃の証拠を残したい」
「いままでは取材したジャーナリストが映像を保存するかどうか決めていたけれど、いまは全ての素材が大事なので、自分の判断で全て保存している」
アーカイブスの仕事をしているから映像を保存しているのではなく、ウクライナが直面している現状を、歴史に残し、忘れられないために映像を保存しているということが彼らの言葉の端々から感じられました。
このほかにも、NHKの地域局でのアーカイブスの取り組みや、古い番組映像を一般の方々から募集する取り組みなど、私たちが持つ様々なノウハウを伝えました。オンラインの勉強会と同じく質問が相次ぎ、どの研修もやはり、時間をオーバーしました。
忘れられない言葉
私はオンラインの勉強会や、研修の担当として、彼らの生の声を聞いてきました。その中で忘れられない言葉があります。
「戦時下なのでアーカイブスの仕事はできない、など言い訳はいくらでもできる。でも、国に残ると決めた以上、アーカイブスの仕事を頑張っていきたい」
平和な日本で仕事をする私たちが時に忘れてしまいがちな、自分たちの仕事への誇りと覚悟がありました。NHKのノウハウを伝えることが研修の目的でしたが、私自身が自分の仕事を見つめなおすことにもなりました。
アーカイブスの仕事は、過去に起きたことを記録として保存するだけではなく、未来に活かしていくこと。NHKにはテレビ放送開始よりも前の映像も保存されていますし、いま放送されている番組やニュース映像も毎日、アーカイブスに登録されています。
その映像が撮影された時、どんな世の中だったのか。人々はどのような生活をしていたのか。子どもたちはどんな服を着て、どんな表情をしていたのか。映像を後世に残し、過去の歴史を知ってもらう。未来のための仕事だということを改めて心に刻みました。
*ウクライナの状況は2025年4月末時点*
NHKアーカイブスのページはこちら↓


