「The Wakey Show」おしえて!着ぐるみ&パペット操演の裏側
ことしの春からEテレで始まった新番組、「The Wakey Show ~ ザ・ウェイキー・ショウ」。科学、歴史、自然、芸術、音楽、とさまざまな“知のとびら”を開き、こどもたちにココロとカラダをWake Upしてもらうエデュテインメントショウです。
そんな番組のカギを握るのは、着ぐるみとパペット(人形)に命を吹き込む「操演者」の存在。特にパペットの操演では、人間と人形が“2人で1つのキャラクター”を演じる、これまでほぼ行われてこなかった珍しい表現手法にチャレンジしています。今やこどもたちの人気者になっている番組の操演者たちですが、実は去年夏のオーディションで選ばれるまでは、まったくの操演素人でした。
一体どんな思いでこの操演の世界に飛び込んだのか。そして今どんな発信をしようとしているのか。操演者たち5名と座談会を開き、いつもは皆さんに決してお見せすることのないキャラクター操演の裏側について、少し教えてもらいました。
<進行・文>番組プロデューサー 佐藤 正和(NHKエデュケーショナル)
左から:ウェイキー、ヴィーテ、マリーゴール、ポピン、モッソ
番組を支える 個性的&魅力的な操演者たち
――では、操演者の皆さんに自己紹介をしてもらいましょう。
はい!番組MCを務める、DJ「ウェイキー」役の幹葉です。着ぐるみの操演と声の両方を担当しています。ふだんはスピラ・スピカというソロプロジェクトで歌をうたっていて、ラジオのパーソナリティなどもやっています。
歴史の物知り「ポピン」役、椙山さと美です。ふだんは、舞台や映像作品で俳優として活動しています。
科学の物知り「ヴィーテ」役、助川真蔵です。ふだんは、役者やアイドル、声優など、いろんなことをしています。
自然の物知り「モッソ」役、山下優太郎です。ふだんはシンガーをしていて、自分自身で楽曲の制作もしています。
芸術の物知り「マリーゴール」役、早希です。ふだんはシンガーソングライターとして活動しています。
――もともと歌手や俳優として活躍してきた皆さんですが、操演に取り組むのは初めての経験だったんですよね。オーディションからまだ1年しか経っていませんが、今では立派な操演者として番組を引っ張ってくれています。(拍手!)
放送100年の節目 かつてないキャラクターを
皆さんからの裏話を聞く前に、まず、5人が操演するキャラクター誕生の背景についてお話しさせてください。
NHKの2024~26年度の経営計画の中で、「世界で輝く 良質な教育・幼児子どもコンテンツ」を作っていこうという目標が掲げられました。こどもから大人まで世代に合わせた学びに役立つ教育コンテンツを発信すべく、Eテレの今日的役割を明確化&新キャラクターを開発して、グローバルな展開に挑戦します、と宣言したのです。
この大きな目標を具現化すべく立ち上げたのが、「The Wakey Show」です。さまざまなジャンルの知的好奇心を満たすコンテンツをこどもたちに提供し、「この世界はおもしろいものにあふれているんだ」ということを伝えていくこと。そして、そうしたさまざまな“おもしろい”や“好き”にこどもたちを誘ってくれるキャラクターを育てていくことを決めました。
放送100年という記念すべき年に、どんなキャラクターたちを届けていくか。考えた末にたどりついたのが、「ふれあえるキャラクター」でした。
これまでの人形劇では、操演者は台の下に隠れて人形を動かしていたので、どうしても表現の幅が限られてしまうところがあり、遠くのお客さんまで届けるパフォーマンスが難しい側面がありました。
それを、操演者がむき出しで人形といっしょにお客さんの前に飛び出していく操演スタイルにすることで、自由にこどもに近づいたり、広い舞台でも見栄えする表現がしやすいのでは?!と思ったのです。
ただ、この「顔出し操演」を思いついたのはいいものの、誰もやっている人がいない状況…。そこで、やってみたいという人を募ってオーディションを実施すると、20代から40代まで100人以上もの人が手を上げてくれました。どの人もとても魅力的だったので本当に苦渋の決断の連続だったのですが、そんな中、最後まで残ったのが、ここにいる5人の着ぐるみ&パペットの操演者の皆さん、というわけです。
未知なる操演の世界 それぞれの思いでチャレンジ
――さて、それでは操演者の皆さんのお話を聞いていきましょう。皆さんはなぜオーディションに応募しようと思ったんですか?
(ウェイキー役・幹葉)
やってみようと思った一番の理由は、シンプルにおもしろそうだなと思ったからです。自分がこれまで歌う活動をする中で、デビュー時から大切にしてきたのが「自分の好きという気持ちに正直でいよう。好きをあきらめないでいよう」というメッセージでした。それが、オーディション要項に書かれていた番組コンセプトとつながっているところがあって、培ってきたライブでのパフォーマンス力や、ラジオでのトーク力を生かせるんじゃないかと思って応募しました。
(ポピン役・椙山さと美)
私は、両親が学校の先生をしてきた影響で、自分もこどもたちの心を育む仕事をしてみたいという思いがずっとあったんです。役者として過ごしてきた経験を生かすことができて、長年の思いもかなえられる場所なんじゃないか、と興味を持ってオーディションを受けました。
(ヴィーテ役・助川真蔵)
僕は新しいものに挑戦することがとても好きで。ただ、歳を重ねてくるとどうしても新しい挑戦の機会が少なくなってくる。自分のやりやすいもの、慣れているものをやりがちになる。そんな環境を一新して何かやってみたいと思っていたタイミングで、操演者募集の話を聞いたんです。これはチャンスだと思って応募しました。
(モッソ役・山下優太郎)
僕は小さい頃Eテレが好きで、「バケルノ小学校ヒュードロ組」などの人形劇をよく見ていたんですが、まさか自分が人形操演をするなんてイメージは全くありませんでした。でも、もともと好奇心が強いこともあって、やってみたい!と強く思って。昔自分が見ていた人形劇の世界に携われるかも、と想像すると興奮が抑えられませんでした。
(マリーゴール役・早希)
私の家も小さい頃はよくEテレがついていて、特に学校から帰ってきて夕方に見ていた記憶があります。そんな自分がふれてきた世界ということもあって、やってみたいと思いました。
あと、家族がこどもにかかわる仕事に携わっているのを近くで見てきていたので、そういうところがリンクして。何かこどもの力になれれば、と思い応募しました。正直、操演ってどういうものなのか、オーディションの時点ではピンと来ていなかったんですが(笑)。
む、むずかしい…!
――初めて操演というものに向き合うことになった皆さん。取り組んでみて、いかがでしたか?
(ヴィーテ役・助川真蔵)
パペットとの出会いの日がすごく自分の根底に残っています。オーディションで初めてパペットを持ってトークシーンを演じてみたときに、マネージャーから「様になってたよ」と褒められて。今その時の映像を見返すと、パペットの扱い方が初心者すぎてすごく恥ずかしいと思うんですけど…(笑)
――見事皆さんオーディション合格となったものの、合格からパイロット番組の収録まで時間はわずか3か月ほど。急ピッチで特訓することになりました。
(ウェイキー役・幹葉)
何もかも初めての経験で、なかなか大変な日々でした(笑)。着ぐるみ操演の私は、最初は頭の部分だけつけて歩く練習からスタートしました。着ぐるみの「目」の部分から外の世界をのぞくことになるんですけど、ふだんの人間の視界に比べると20%くらいしか見えない状態で、横方向に関してはまったく見えないんです。特に後ろ歩きは危ないから絶対にしてはいけないと教えてもらいました。
しかも、視野が大きく制限される中で、着ぐるみの目線を何台もあるテレビカメラにピタリと合わせなければならないんです。テレビにおいて、カメラ目線はすごく大事な要素。その練習が本当に難しかったです。最初のころは、スタッフの方から「目線合ってないよ!」とよく言われて、苦労しました。
(マリーゴール役・早希)
目線を合わせるの、本当に難しいんですよね…!パペットの操演チームはまず、あいうえおの50音をパペットに言わせる(パペットの口で表現する)練習から始めたんですが、口を開けるたびにどうしてもパペットの目線が正面から外れてしまうんです。ちょっとでも目線がずれると変な方向を向いているように見えてしまうので、みんなで鏡の前に座って、目線がずれないようにしながら50音を言い続ける特訓をやっていました。
(モッソ役・山下優太郎)
よしできた!と思っても、口をパクパク動かすスピードを少し上げると、また目線がブレてきてしまうんですよね。操演で一番最初にぶつかった大きな壁が「目線合わせ」でした。
――周りから見ていても大変そうでした(苦笑)。パペット操演の皆さんには、人間とパペットがいっしょになって演じる「顔出し操演」に加えて、人間が台の下に隠れて人形だけで表現する「隠れ操演」の技術も習得してもらいましたね。
(ヴィーテ役・助川真蔵)
この「隠れ操演」がまた大変でした。「隠れ操演」では、自分が台の下に隠れながら手を突き上げてパペットを動かしているんですが、このときにパペットの目線をカメラに合わせようとすると、向かいのカメラで撮った映像を手元モニターに映してもらって目線の方向を微修正するしかないんです。そうすると、自分は「右方向」にパペットを動かしているのに、モニターの中の映像では「左方向」に動いてしまうわけです。それに慣れるまではひと苦労でしたね。
それに、パペットの顔を急にカメラのほうに向けて目線を合わせる、という技術を身に着けるのが本当に難しくて。1年経った今でも苦戦しています。
(ポピン役・椙山さと美)
あと、パペットの首が傾く角度や、口の開け具合がわずかに変わるだけで、パペットの表情や伝わり方が変わってきてしまうことや、パペットが止まった状態が続くとパペットが“物”に見えてしまうということも教わりました。正直オーディションの時は「口パクのタイミングさえ合っていればどうにかなる」と思っていたので、操演の世界って奥が深いんだな~…と痛感したのを覚えています。練習あるのみ!と覚悟を決めました。
――ちなみに、操演する時には、日常生活では使わない筋肉を使っているとか。
(モッソ役・山下優太郎)
「隠れ操演」の時には、右手を上にあげた状態が続くので、特に右半身を酷使しています。特にモッソやヴィーテはパペットの重量もそれなりにあるので、右側の腕、肩、肩甲骨、背中、がよくピキーンとなります。
(ポピン役・椙山さと美)
私は、手のひらに変化がありました。ポピンはとってもおしゃべりな役柄なので、右手を使ってパペットの口をパクパク動かす回数も多いんです。動きとしては、握力を鍛える筋トレグッズを使うときと同じようになるんですよね。なので、右手のほうだけ筋肉がついてきて、右親指の付け根あたりがだいぶモリっとしてきました。
――ほんとだ…!しかも皆さん、パペットや着ぐるみの動きをコントロールするだけでなく、キャラクター声でのセリフや掛け合い、時にはダンスを踊ったりもして、超マルチタスク。あらためて、本当に大変なことやっているんですね!
大変だけど…どんどんのめり込む!操演の魅力
――そんな特訓を経た皆さん。去年秋にはパイロット版の制作・放送があり、ことしの春からはいよいよレギュラー放送がスタートとなりました。ついに操演者デビューです。
(マリーゴール役・早希)
毎週のようにリハーサルや撮影があってなかなか大変ですが、充実した日々を送っています。
「通学ろう」という、パペットたちが街を探検して取材するコーナーでは、街で働く大人の方といっしょにロケをさせてもらう機会があるんですが、実は私は人見知りなところがあって、初対面の人と話すのが本当は苦手なんです(苦笑)。だけど、マリーちゃんといると、自然に心が明るくなって、初めて会う人にもテンション高く話しかけられるんですよね。パペットには、不思議な力があると思います。
(ヴィーテ役・助川真蔵)
「コントライターズ」というコーナーでは、芸人さんに書きおろしてもらった脚本で、パペット&着ぐるみコントに挑戦しています。コントを演じることで、それぞれのキャラクターの性格や魅力がより深まっているように思うんです。
たとえば、「意外とツッコミ役として輝けるキャラクターなんだな!」と新たな発見があったり、「実はポンコツなところもあるけど、でもやっぱりそこも含めて愛らしいんだよな」と愛着がより深まったり。次はどんな脚本をいただけるんだろう、キャラクターたちのどんな一面が見えてくるんだろう、って毎回楽しみにしています。
――操演者自身も、パペットや着ぐるみの魅力にどんどんのめり込んでいるんですね!
(マリーゴール役・早希)
そうですね!そしてなにより、私たち操演者が一番力をもらっているのが、全国のこどもたちの存在です。5月の頭に、広島で初めて公開収録のステージを行ったんですけど、私たちが登場した瞬間、こどもたちが「うわ~!」っと声援をあげてくれて。あんなに近くでこどもたちの熱量を感じられたのは初めてだったので、とてもうれしかったです。
(モッソ役・山下優太郎)
レギュラー放送が始まってまだ1か月くらいしか経っていなかったのに、すごいことだよね!みんな、キャラクターの名前を呼んで応援してくれたり、中にはキャラクターをまねした衣装で会場に駆けつけてくれたりした子もいました。番組の広がりに感激したし、ありがたい気持ちでいっぱいでした。
(ウェイキー役・幹葉)
私は、20%しかない視野の先に見えた、こどもたちのキラキラとした純粋な笑顔が本当にまぶしく感じました。あの時のことを思い出したら、今でも泣けてきます…(涙)。
責任重大というか、私たちは少なからずこどもたちの未来に影響を与える立場にいるんだなと感じました。決して大げさではなく、自分たちは「日本の未来を明るくすることができるかもしれない!」と思いました。
――うんうん。ステージを見に来てくれたこどもたちが、操演者のみんなと一緒に大合唱をしてくれたあの感動も忘れられませんよね。
ちなみに、番組制作班の元には、全国のこどもたちから毎日のように応援のお手紙やイラストが届いています。おたよりは、操演者の皆さんにも読んでもらっていて、とても力になっています。全国の皆さん、本当にありがとうございます。
胸を張って、視聴者の背中を押せる存在になりたい
――それでは最後に。操演者の皆さんは、これからどんな思いで番組を届けていきたいか教えてください。
(ヴィーテ役・助川真蔵)
僕たちが、科学、歴史、アート、自然、音楽、と様々な分野について楽しく発信していくことで、それがこどもたちの何かの目標につながったり、やりたいことが見つかったりしてくれると嬉しいです。こどもたちの青春の1ページを彩るものを届けていける存在になりたい。この番組が誰かの青春につながっていくように、そんな思いで頑張りたいです。
(モッソ役・山下優太郎)
僕はEテレを見て育ちました。今度は僕が、こどもたちの夢を育んだり、心の支えとなっていきたいと思います。これは重要な使命なんじゃないかなって思っています。僕は小さい頃、やる気が出ない時やいろんな複雑な感情がわき起こった時に、Eテレの番組を見て救われたことがあるし、昔の人形劇の楽しかった内容を今でも思い出したりします。次は僕が返す番。こどもたちに力を与えられる存在になっていきたいです。
(マリーゴール役・早希)
毎日多くのこどもたちが番組を見てくれる中で、つい「みんな~!」と全体に向かって呼びかけがちになってしまうところを、「君に言っているんだよ」という意識で呼びかけられればと思っています。
放送が始まってから特に思うようになったんですけど、いろんな環境にいるこどもたちが「きょうは学校であんなこと言ってみようかな」とか「ちょっとだけ周りの子と仲良くしてみようかな」とか、小さくてもいいから自分ごととして何か番組から感じてもらえればなって思います。私はどこかで見ている1人のこどもを助けたり元気づけたりするんだ!そんな気持ちでやっていきたいなと思います。
(ポピン役・椙山さと美)
私は、こどもたちはもちろん、大人の人もたくさん番組を見てくれているなって感じていて。だからこそ、番組エンディングテーマ曲のタイトルにもなっている「それもいいね」っていう精神を、みんなに届けられるとうれしいです。
知らなかったことに興味を持ったり、好きなことをもっともっと好きになったり。こどもには、いろんな世界に興味をもってもらう。そして大人の人には「今からでも遅くないよ」って伝えられればと思います。たくさんの「いいね」を膨らませていって、お互いを認め合えるきっかけになっていければと思います。
(ウェイキー役・幹葉)
私は「The Wakey Show」を通して、日本をよくしていきたいです!たとえば、番組を通して小さなワクワクを見つけてもらったり、「この人合わないかも…」って思う人に対しても、「きっと何かすてきなところがある」と考え直してもらったり。毎日生きていく中で、ちょっとでも気持ちが明るく、楽しくなってもらえるといいなと思います。ウェイキーを演じる操演者として、ピュアな気持ちをこれからも持ち続けて、仲間たちと力を合わせて、いい番組をお届けしていきたいと思います!!
――それではここで座談会はお開きです。皆さんありがとうございました!
(編集後記)
今回お話を聴かせてもらった人形操演の皆さんに、歌手のchayさんが演じる うたの旅人「ドーネ」を加えた6人が、番組のメインキャラクター「Wakeys(ウェイキーズ)」です。本当にみなさん志が高く、日々、妥協なき練習を繰り返し、こどもたちのためにベストなものを届けようと頑張ってくれているので、制作・技術・美術スタッフも呼応して、モチベ―ションが上がっています。ウェイキーが言っていたように、このチームのミッションは「日本の未来を明るくすること」。この個性豊かなすばらしいチームで、ひとりでも多くの子たちの支えになれたらと思っています。
Awakey~!(指3本で「WakeyUp」の「W」を表した番組のあいさつ)
「The Wakey Show ~ザ・ウェイキー・ショウ」
【放送予定】 毎週(月~金) Eテレ 午前7:00~7:20
〈再放送〉 同日の午後5:10~5:30
★「世界に輝く」という目標を掲げるこの番組は、セサミストリートとパートナーシップを結んでいます。世界のこどもたちの健やかな成長につながるコンテンツをこれから一緒に制作していきますので、こちらもこうご期待!
【番組へのおたより 送り先】
〒150-8001 NHK「The Wakey Show」宛
※おたよりは番組で紹介する可能性があります。あらかじめご了承ください。


