撮ることは”寄り添う”こと 少年院での撮影から学んだ仕事の本質と、地域で働く魅力
こんにちは。私は新卒で技術職員としてNHKに入局し、名古屋局で番組制作を担当しているカメラマンです。
現在は、愛知・岐阜・三重の3県で放送されている夕方のニュース番組での中継やロケを中心に、東海・北陸地方で行われる「NHKのど自慢」、7月の「大相撲名古屋場所」など、幅広い番組で撮影を担当しています。
事件や災害が起きた際には現地中継を行ったり、ヘリコプターに乗って上空から映像を撮影したりすることもあります。
カメラマンは常に現場の最前線に立ち、人々の思いや熱気を肌で感じながら、それを映像として視聴者に届けることが仕事です。ロケでは取材相手の人柄や思いを、音楽番組やスポーツ中継ではその場の盛り上がりを、放送を通じて多くの人に伝えられる点が魅力です。
キャリアはもちろん愛知県居住歴もまだ3年目の駆け出しの私ですが、今回はカメラマンの仕事の魅力や地域で働くおもしろさについて、ご紹介させていただきます。
川崎 まどか
2023年入局。名古屋放送局コンテンツセンター所属。
工学部卒。情報工学や電気電子工学について学んでいた。趣味は舞台鑑賞。月に一度は劇場に足を運ぶ。同じ舞台を何回も見に行くこともある。暑いのが苦手なので、名古屋の夏の暑さに参っています。
「自分が知らない地域には、多くの魅力や伝えたいことがある」 大学生活で得た気づき
私は生まれも育ちも神奈川県横須賀市で、大学進学を機に北海道北見市に移りました。もともと全く知らない土地で、当初は「卒業したら関東に戻ろう」という考えしかありませんでしたが、実際に住んでみるとたくさんの地域の魅力を知ることができました。
厳しい冬の寒さ、道で出くわすキツネや鹿などの野生動物、そして雪に流氷といった北海道らしさを満喫。すっかり北見を第二の故郷だと思うようになった一方、「神奈川や北海道だけでなく、自分がまだ知らない街やあまり目を向けていない地域にも、多くの魅力があるのではないか」と考えるようになっていきます。
学生生活では「ちょっとできるようになれたらおもしろいかなぁ」くらいの気持ちで、カーリング部に入部。すぐに競技にのめり込み、チームメイトと集まってトレーニングをしたり作戦の勉強をしたりという毎日を過ごします。大会では残念ながら大きな結果は残せませんでしたが、チームで目標に向かって物事に取り組むことのおもしろさを知りました。
そして迎えた大学3年生での就職活動。自分が何をしたいかを考えてみたとき、頭に思い浮かんだのは、自分が知らない地域の魅力を知ることへの強い興味・関心でした。
「全国のさまざまな場所で働くことができ、見たことのない何かを人に伝えるような仕事がしたい」と思ったときに、志望先として真っ先に思いついたのが、全国に放送局があり地方からも全国に情報を届けることができるNHKでした。カーリング日本選手権の中継をはじめ、幅広いジャンルの番組作りに携われそうなイメージも強かったのだと思います。
また、もともと舞台鑑賞が趣味で、以前から裏方のような技術の仕事に興味を持っており、「テレビの現場でそういう仕事ができたら楽しそう」という気持ちもあって、迷わずNHKの技術職員に応募することに。就職活動時に苦手だったエントリーシートの志望動機欄の記入が、NHKだけはスラスラと書くことができました。
採用面接では、北見の話やカーリングの話(ちょうど冬季オリンピック後の時期でした)、そして自分の思いをそのままお伝えしたところ、希望通り技術の全国職員として内定をもらうことができました。
縁もゆかりもない地域で働くからこそ、おもしろさや魅力が深まっていく実感を得られる
入局後、配属先は名古屋局に決定。縁もゆかりもない愛知県での生活にとてもワクワクしながら、4月に1か月間東京で、5月からは名古屋局で研修を受け、6月には念願だった撮影グループへの配属が決まります。
写真を撮るのが好きだったことや、どんな現場においても、カメラマンは最前線で仕事ができることに魅力を感じたことから、撮影グループを志望しました。
配属後は、夏の大相撲名古屋場所や高校野球などのスポーツ中継、ドキュメンタリー番組のロケなど先輩たちが担当している現場にOJT(実際の業務を通じて知識や技術を学ぶトレーニング)で参加。分からないことも多かったですが、これまでテレビで見ているだけだった「番組」が作られていく現場を間近で見られたことに対し、うれしさを感じました。
そして秋ごろ、名古屋局で夕方に放送しているローカル番組「まるっと!」の中継の撮影を初めて担当することに。中継は名古屋市科学館からでした。実はその日もOJTとして現場に入っていたのですが、先輩から「やってみなよ」と撮影する機会をもらえたのです。
自分の撮影する映像が生中継で放送されることに緊張しつつも、その時の自分に出せる最大限の力で中継に臨み、大きなミスなく本番を終えることができました。
このような中継では、おいしい食や美しい景色など、毎回「初めての出会い」があることが、大きな魅力・おもしろさにつながります。
私も初めての撮影を担当して以降、大須商店街のグルメ、伊良湖岬の菜の花、香嵐渓の紅葉など、愛知県内のさまざまな場所からたくさんの中継をしてきました。仕事を通して多くの人に出会いながら、愛知県について広く・深く知ることができている幸運を、今も実感しながら毎日を過ごしています。
初めてメインを任された愛知少年院の現場で直面した「いつもと違う」難しさ
迎えた入局2年目の夏、初めて自分がメインでロケの撮影を担当することになります。
撮影の現場は愛知少年院。先輩カメラマンが、20年ほど前にドキュメンタリー番組でお世話になった法務教官から依頼を受け、就労支援の一環として少年たちに「仕事」をテーマとした講演を行うことになったのです。その様子を「東海ピックアップ」という番組で紹介するためのロケ撮影でした。
当日は、まず入り口で携帯電話を預けてから少年院の中へ。午前中に少年院の説明を受けた後、院内を少し案内していただき、午後から少年たちに向けての講演が行われました。
講演の内容は、困難を乗り越える心構えや働くことの楽しさ、仕事への向き合い方など。過去に先輩が担当したドキュメンタリー番組を視聴してもらいながら話をしていきます。少年たちが30分近くある番組を食い入るように見たり、先輩の話をうなずきながら真剣に聞いたりしている姿がとても印象的でした。
私自身も仕事への向き合い方を考えさせられる時間でしたが、同時に、私はカメラを構えてその様子を撮影する役割があります。
司会をする法務教官、仕事の話をする先輩カメラマン、そして講演中の全体の様子を部屋の後ろから撮影していましたが、講演を聞く少年たちを撮影することがなかなかできませんでした。
理由の一つは、撮り方で悩んでいたためです。
法務教官から「少年個人が特定できるような部分は放送に使用しないで下さい」と言われており、表情は撮れない・放送でも使用できないことは初めからわかっていました。そうした中で、話を聞いている少年たちの反応をどう映像で表現すればいいのか、良い方法がなかなか思い浮かばずにいたのです。
そしてもう一つの大きな理由が、少年たちとの距離感がつかめていなかったことでした。
それまで自分が経験してきた現場では、撮影前に取材相手とあいさつをしたり話をしたりすることで、相手がどういう方なのかを把握し、距離感をつかんでから撮影を始めてきました。しかし今回は、少年たちと直接話す機会のないままの撮影開始だったのです。
正面に回ってカメラを向けても大丈夫か、嫌な思いをさせてしまわないか…。そんな気持ちを抱えつつも、私が撮らないかぎりは何も始まりません。
そこで、撮影をしながら距離をつめていくしかないと考えを切り替え、少年たちの足元や手元など「反応」が見えるところを横から少しずつ撮っていくことにしました。
相手の気持ちに寄り添い、配慮する 苦手意識があるからこそ改めて学べること
講演の後半では、カメラの体験コーナーと質問タイムが設けられていました。
体験コーナーでは、私も撮影をいったん止め、少年たちにカメラのレクチャーを行いました。少年たちは担いだカメラの重さに驚いていましたが、少し教えただけですぐに要領を得てカメラを操作する様子に、私のほうも驚かされました。
また、こういう場では質問も出にくいのではと想像していましたが、「自然番組が好きだが、どういう人が撮っているのか」「番組によって機材や撮影の手法も変わってくるのか」「軽いカメラもあるのに、なぜ重い機材を担いで撮影をするのか」など、たくさんの質問が。先輩も一つ一つの質問に対して丁寧に答えていました。
そんなふうに興味を持ってカメラを触ったり質問をしたりする少年たちの姿や場の雰囲気などから、今ならいけるだろうと察することができたタイミング以降は、少年たちの正面に回っての撮影もできるようになりました。
「相手に撮影していることを意識させず自然な姿を撮る。それこそがカメラマンとしてのプロフェッショナルだ」と、先輩カメラマンは話してくれます。そして「そのためには、取材相手の方とコミュニケーションを取り、関係性を築くことがとても大切だ」とも。
少年院での撮影は、映像をどう撮るかだけでなく、どう相手に寄り添っていくか、どう伝えればいいのかを実践から学んだ大変貴重な経験となりました。
もともと私は、ロケや中継で人を撮ることが少し苦手でした。カメラを向けられると嫌な思いをさせてしまうこともあるかも……と考えてしまうタイプのため、人にカメラを向けることに勇気がいるのです。
中継やロケの現場では許可を得てから撮影をしていますが、それでもカメラを向けられた相手の気持ちを考えてしまい、正面から撮影するまでに時間がかかってしまうことも。
こういう気持ちを抱くこと自体は悪いことではなく、むしろ大切なことだと考えています。
ただ、カメラを向けることをためらっているうちに、物事が起きる場面やリアクション、コメントを逃してしまう場合もあります。そうなってしまうと、せっかく時間や許可を得て撮影させてもらっている相手に対し、失礼になってしまうとも思うのです。
初めて撮影のメイン担当を任せてもらった少年院の現場では、上記のような流れからなんとか無事に撮り終えることができました。ただ、どの現場においても「取材させてもらっている」「撮らせていただいている」という気持ちと配慮を忘れず、これからも撮影に臨んでいきたいと思います。
私のカメラマンとしての毎日とこれから
私はまだまだカメラマンとしては未熟で勉強中の身であり、自分が担当した番組は毎回必ず見返して振り返りをしたり、先輩方から感想やアドバイスをいただいたりしている毎日です。
カメラマンは、立ち位置、撮る対象、画のサイズ、タイミング、機材の選定など、中継一つの中でも考えることはたくさんあります。
また、カメラを担ぎながら撮っている時はうまくできたと思っても、テレビ画面を通してみると反省すべき点ばかりのことも。経験を重ねることで、よりよい映像をお届けできるよう今は努力あるのみです。
常に意識しているのは、カメラは視聴者の「目」となるものであるということ。自分が知りたかったこと・伝えたかったことだけを捉えた自己満足な映像にならないよう、視聴者の方が何を見たいか、何を知りたいかも考えながら撮影するよう心がけています。
番組を見た視聴者の方に「実際に行ってみよう」「食べてみよう」と思ってもらえたり、「自分はこれに対してこう思う」など考えてもらえたりしたらうれしいなという思いで、日々撮影をしています。
NHKに入局してから早3年目。愛知県を中心に東海北陸のさまざまな場所で、たくさんの出会いと発見がありました。この仕事をしていなければきっと関わる機会のなかった人や出来事にも、数多く触れることができました。
これからも引き続き、地域で暮らす人やモノとの出会いを大切に、伝えたい思いをカメラを通して視聴者に届けられるよう、カメラマンとして成長を続けていきたいです。


