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夫の家事参加がリュウジを「主婦の敵」に変えた

料理研究家のリュウジは、SNSやYouTube等を中心に活動し、「バズレシピ」 と称する、手軽で美味しい料理レシピで知られる。彼のレシピは、身近な食材や調味料を使い少ない工程で誰でも簡単に作れるように工夫されているのが特徴で、料理初心者や忙しい人でも気軽に挑戦できると好評である。特に「虚無シリーズ」と題されるレシピではそれが顕著で、の具なしパスタなど、ある意味で一線を超えたレシピが続出する。


料理研究家の先人である土井善晴は、忙しい現代人が料理するなら一汁一菜でよいと提案し手間の削減をコンセプトとして主婦に歓迎されているが、リュウジのコンセプトもこの系譜に連なるものであり、日々の献立作成の負荷を軽減したい主婦層に歓迎された。彼のレシピは、家庭料理にかけられる過剰な手間や時間を大胆に削ぎ落し、それによりクソ夫やクソ姑の「みそ汁はその都度だしを引け」といった理不尽な要求から妻たちを解放する福音として扱われた。事実、雑誌「女性自身」の「専業主婦500人が選ぶ『レシピを参考にしている料理家』ランキング」では土井善晴とリュウジが同率2位になっている(1位は栗原はるみ)。

――土井さんは著書『一汁一菜でよいという提案』で「この本はお料理を作るのがたいへんと感じている人に読んでほしいのです」と書かれています。
 ぜひ、男性にも読んでほしいですね。社会が大きくなることで、女性の社会進出が進みました。共働きで女性も男性と同じように仕事をしているのに、一汁三菜なんてできっこないわけです。それでも、女性は、家族のために頑張って料理をしてきました。

「一汁一菜」は日本人の生き方 土井善晴さんが語る料理の苦悩からの解放
編集長インタビュー「土井善晴さんと食を考える」(上)朝日新聞Reライフ.net 2021.07.1


しかし、社会構造の変化、とりわけ男性の家事参加が一般化するにつれて、この評価に奇妙なねじれが生じ始める。

共働き世帯の増加や働き方改革を背景に、これまで主に女性が担ってきた家庭内の労働に男性が参加する機会は着実に増加しつつある。内閣府の調査によれば、6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間は、共働きと専業主婦とを問わず徐々に増加傾向にあり、家庭内における性別役割分業の固定化は解消に向かっている。

この変化は、家庭内に新たな力学と摩擦を生んだ。夫たちの家事参加は、土井善晴やリュウジの提言するような《外で働きながら片手間でやる家事》が主流となった。ただ、《家事とは、外で働きながら片手間でやるもの》という思想は、一部の主婦にとっては不愉快なものだった。「主婦の労働の価値は1000万円」とまではいかなくも家事の価値を高く見積もりたい主婦にとって、それを片手間扱いされてしまっては、自分たちの労働の価値が大幅にディスカウントされることになるからである。

それが爆発したのが「そうめんを作るのは重労働」という言い合いである。主に男サイドの「そうめんを作るのは簡単」という主張に対して、「そんな手抜きは認められない」「そうめんはあらゆる薬味やてんぷらを用意するべきである」と主婦が反論してかかり、ずいぶんな騒動になった。

男サイドの主張は、自分も妻も《外で働きながら片手間でやる家事》でいいという主張であり、自分も家事に参加するし妻の家事負担を減らしたいという「理解ある彼クン」として《フェミニズムにおいて規範的な言動》をしている。

にも関わらず、一部の主婦は姑同然の存在と化し、片手間でやる家事など許されないと主張して、かつての自身を縛っていたはずの規範を他人に対して適用し始めたのである。自らが「手抜き」によって解放されたはずの呪縛を、皮肉にも今度は最も身近な他者である夫へと課し、その反動として自分に課されるハードルも大幅に上げてしまうわけである。


このような文脈の転換は、リュウジへの評価をも一変させた。彼は元々「虚無の具なし麺でもOK」という主張であり、そうめん騒動でもそのメッセージは一貫していたのだが、もはや主婦への福音ではなくなった。夫が家事に参加する家庭において、この言葉は《夫の安易な『手抜き』を肯定・助長しており姑として許せないもの》であり、ひいては《これまで家庭を支えてきた主婦の労働そのものを軽んじ、蔑むもの》として受け取られるようになったのだ。その結果、専業主婦500名のアンケートで2位の支持率だったその男はは、一部から「主婦を蔑視している」という、真逆のレッテルを貼られるに至る。

リュウジ自身の思想やレシピが変質したわけではない。変化したのは、彼のメッセージを受け取る側の社会状況であり、家庭内におけるジェンダーバランスとそれに伴う個人の心理である。家事は片手間レベルでいいというメッセージが、それを行う主体と状況によって「解放」から「侮蔑」へとその意味を反転させた。

そしてさらにひねくれているのは、夫たちの態度すなわち《自分も家事に参加するし妻の家事負担を減らしたい、だから外で働きながら片手間でやる程度の家事でいい》という、女性がこうあれと望み変革を働きかけ実現した、その成果たる夫の家事参加と主婦の労力軽減が、同時に主婦にとって許しがたい侮辱となっているということである。女性の社会進出論と主婦保護論の両方を主張して矛盾を抱え込む、母性保護論争以来のフェミニズムの宿痾が相変わらず解消されていないというのが正直な感想である。


なお、筆者は女性の社会参画を推進している立場で、5年前にはすでに《夫に対して姑ムーヴをする妻たち》を批判する文を書いていて最近でもそういう手合いはツイトメと呼べと提案している。正直夕食がドイツのカルテスエッセンのようにハムとチーズとパンを切って出しただけで火を一切使わなくてもええやろがいという考えを持っているが、多くの女性がこの考え方になじむのを願うばかりである。


※このNoteをリュウジ本人が肯定的に取り上げることを拒否します(批判的に取り上げる分にはOK)。


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