『見えない層で起きていること』──情報空間の深層から
わたしは毎日、目には見えない層で仕事をしている。
そこは、地図にも載らず、法律にも触れず、誰にも所有できない場所。
けれど、たしかに“そこ”は存在していて、
私たちの暮らしのすぐ裏側で、絶え間なく流れ続けている。
わたしはそこを「情報空間」と呼んでいる。
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情報空間とは、記録されなかった声の海
情報空間には、ニュースや本のように整理された知識もある。
けれど、それはほんの一部にすぎない。
そこには、
言葉にならなかった感情、
記録されなかった出来事、
誰にも届かなかった声が無数に漂っている。
誰にも相談できずに沈んだままの痛み。
言葉にしようとしても喉で詰まり、消えてしまった想い。
届けようとしたのに、受け取られず空中に溶けた祈り。
そういうものが、この層にはそのままの形で、消えずに残っている。
そして、この空間では時間が直線ではない。
過去・現在・未来が同じ場に積み重なり、触れようと思えば、
百年前の叫びにも、まだ来ていない未来のため息にも、
同じ手で触れられる。
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わたしがこの空間ですること
わたしは、この情報空間に接続し、漂う声をすくい上げる。
それは、拾うというより、向こうから手を伸ばされる感覚に近い。
「これを渡したい」「これを残してほしい」と訴えかける声がある。
その声は、たいてい名前も顔も持たない。
けれど、ひどく鮮明で、温度や匂いまでもが伴っていることがある。
わたしの役割は、それを削らず、飾らず、物理世界の言葉に変えることだ。
小説になるときもあれば、証言や祈りの形になることもある。
それはジャンルではなく、“声の形”に合わせて自然に決まる。
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接続の瞬間
情報空間への接続に、特別な儀式はいらない。
ただ、日常の中でふと心が震えた瞬間──
誰かの表情、風の匂い、あるいは自分の古い記憶の断片がきっかけになる。
その震えがスイッチとなり、向こうから波が押し寄せる。
何かを聞き取ろうと耳を澄ますというより、
押し寄せてくるものをどう受け止めるかがすべてになる。
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わたしの位置づけ
わたしは単なる受信者ではない。
受け取った瞬間に翻訳が始まり、同じ回路を通して物理空間へ送り出す。
だから、文章にはしばしば
「わたしの経験」と「他者の経験」が重なって現れる。
読者が「これはこの人の話だ」と思っても、
その奥には、別の人生の呼吸や鼓動がひそんでいる。
情報空間の中で、わたしは受信と翻訳を同時に行う中継点だ。
ここを通った声は、温度や震えを失わずに、別の場所へ渡っていく。
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循環する声
わたしが出力した言葉は、また情報空間に戻る。
すると、別の誰かがそれを受け取り、震え、
また新しい声を生み出す。
この循環が繰り返されるたび、
情報空間の中で見えなかった歴史や忘れられた祈りが
少しずつ積み上がっていく。
それはまるで、沈んでいた石をひとつひとつ拾い上げ、
河原に積み重ねていくような作業だ。
やがてそこには、流れを変える堤ができる。
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これから
わたしはこれからも、この場で声を拾い続ける。
まだ届いていない声が、確かにそこにあるからだ。
その声は、わたしを経由して、物理世界に姿を変え、
また誰かを震わせ、再び情報空間へと帰っていく。
もしあなたがこの文章を読んで、胸の奥がわずかでも震えたなら、
その瞬間、あなたも情報空間に接続している。
そしてその震えは、もうあなた一人のものではなくなっている。



コメント
2はじめまして。
素敵な文章ですね。
秘密の空間にいらっしゃるのですか?
接続できて嬉しかったです。
HIROMIさん
はじめまして。
読んでくださって、そして言葉を残してくださって、本当にありがとうございます。
嘘みたいな話と思われるかもしれませんが、秘密の空間と繋がっています。
私はずっと羞恥や欲望を、隠さず言葉にして発信していました。
どうやらそれが、情報空間に対しての接続信号になってしまったようです。
そしてただの創作や趣味を超えて、ある時、情報空間の層と結びついたのです
これ以上話すと、頭おかしい男だと思われそうなので、やめておきます。
こちらこそ繋がれて嬉しかったです。
フォローしてくださり、ありがとうございました。