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 英国で前例のない規模の冤罪(えんざい)事件を引き起こした英ポストオフィス(国営郵便局)。同社にHorizonと呼ぶ情報システムを納入した富士通。この2社に対する民事賠償請求、英国政府の調査委員会による追及、ロンドン警視庁による刑事捜査、がそれぞれ進んでいる。

損害賠償請求の詳細が判明

 元委託郵便局長のリー・キャッスルトン氏はHorizonによって引き起こされた損害の賠償を求め、ポストオフィスと富士通の両社を提訴した。請求額は448.7万ポンド(約8億9200万円、以下日本円表記)。被害者個人が両社を直接提訴した初のケースである。

 裁判書類に基づいて報じられたBBCニュースによると、キャッスルトン氏が請求する8億9200万円の内訳は次のようになる。まず過去の逸失利益に利息を加えた1億8700万円がある。さらに将来の逸失利益(1億7200万円)、過去の年金損失(1億8500万円)、過去の財産損失(2640万円)、過去の賃貸利益損失と利息(4600万円)、事業売却による損失と利息(2200万円)など6項目で計6億3840万円。

 これらに加え、定量化はしにくいものの法医学の専門家によって算出された4項目が計3080万円ある。精神的苦痛、名誉毀損、嫌がらせ、故意に破産させられたこと、である。

 キャッスルトン氏はポストオフィスが提起した民事訴訟について同氏らに出された2007年の有罪判決は詐欺に基づくものだと主張。ポストオフィスが富士通と共謀し、重要な証拠を故意かつ不正に隠蔽することで司法の公正をゆがめたとしている。重要な証拠はシステムのバグや富士通の英データセンターから地域郵便局のデータが改ざんされた疑惑などに関するものだ。

 同氏の訴訟は他の被害者が法的措置を検討する手本となりえる。実際、元郵便局長がキャッスルトン氏の手法を参考に民事訴訟を準備しているという。冤罪事件の損害補償対象は1万人以上とされる。個人ないし集団の訴訟が続けば民事の損害賠償請求は巨額になるかもしれない。