「6人刺殺」でも心神耗弱だから「死刑回避」 熊谷ペルー人殺人事件から10年 妻と娘2人の命を奪われた遺族が抱き続ける“司法への怒り”
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妻と娘2人の命を奪われ、家族で1人だけ取り残されたあの日から10年……。 埼玉県熊谷市に住む遺族の加藤裕希さん(52)には、未だにこんな疑問が脳裏をかすめる。 【写真を見る】誕生ケーキ、レジャーランド、公園…「無期懲役犯」が一瞬で奪った笑顔あふれる家族の幸せ
「犯人に行われた精神鑑定の結果は本当に正しかったのか」 犯人のペルー国籍、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン受刑者(40)が強盗殺人などの罪に問われた刑事裁判は、一審さいたま地裁で死刑判決が言い渡されたが、二審の東京高裁ではジョナタンの心神耗弱が認められ、無期懲役に「減刑」された。検察は上告を断念したために判決は確定。その司法判断の基になった精神鑑定について、加藤さんは現在もわだかまりを抱えているのだ。 【水谷竹秀/ノンフィクション・ライター】 ***
もっと早くに裁判が行われていれば
事件は2015年9月16日、熊谷市内にある加藤さんの自宅で起きた。ジョナタンは14日に同市内の民家で50代の夫婦を、15日から16日の間に80代の女性をそれぞれ刃物で刺し殺した。加藤さん宅は3件目の犯行で、加藤さんの妻、美和子さん(当時41)、長女の美咲さん(同10歳)、次女の春花さん(同7歳)がそれぞれ刺殺された。犠牲者は計6人という無差別連続殺人だった。逮捕されたジョナタンはその後、専門家2人からそれぞれ精神鑑定を受けた。 鑑定留置の上で受けた精神鑑定では「精神疾患はなし」と判断されたが、起訴後に弁護側の請求で実施された鑑定では「統合失調症」との診断結果が出た。裁判では後者の診断結果に基づいて審理が進められたため、加藤さんは不信感を覚えた。その根拠となっているのが、起訴前にさいたま地検で行われたジョナタンへの取り調べだ。加藤さんが打ち明ける。 「取り調べ時の映像を弁護士と一緒に特別に見せてもらったんです。当時のジョナタンは受け答えがきちんとできていたんですよね。事件のことについては話を逸らすんですが、雑談には応じる。裁判の時のジョナタンの様子とあまりに差がありました。もっと早くに裁判が行われていれば、会話も成立し、真実に近づけたのではないかと思います」
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