にんげんホイホイ   作:三流FLASH職人

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第五十九話 くろりんちゃん奮闘す

 湊が謎の集団と子供達の元へと向かった日の夜、夏柳黒鈴(なつやなぎくろりん)は、人生初めての車の運転(いほうこうい)に悪戦苦闘していた。

 

「わっ、わっ!! またこすっちゃいました……って、ひぇっ、曲がらない曲がらない~」

”落ち着いて。困ったらとりあえずブレーキ! 一度止まってギアをニュートラルに”

「え、え? ギアって、あ、これか」

 カチッ、グォォーン

「な、なんかあったい空気出てきましたけど」

”それエアコン! ギアはハンドルから出てるレバー!!”

「これですか!、なんか窓が掃除されましたけど」

”それワイパーや!”

 

 湊が出向いた後、向こうの教祖とか言う人と話して『ホイホイの先があの世』なんて話をされた後、湊さんのアドバイスに従って石川の松波さん達に連絡を取ったら慌てて、”そこを離れて、危険だ!”なんて言われた。

 

”君の存在も、そのレン君とやらに知られたんだろう? もし怪しい新興宗教なら、湊さんも君も狙われてるかもしれない、一旦遠くに離れないと!”

 

 確かにそうかもしれないけど、でも私は車の運転なんて出来ないし、かといって車を離れて逃げるわけにもいかない。食料も着替えも無線もまとめてこの車に積んでるんだし、また熊でも出たら隠れる所にもなるんだし。

 

 そう言ったら、松波さんがナビで運転を教えてくれるらしいので、頑張ってハンドルを握っては見た……んだけど。

「ひぇ~ん、ヒカ君助けてぇ~」

 またガードレールにこすってしまった、これを当たり前のように運転する湊さんほんと凄いよぉ。

 

 なんとかかんとか車を隣り町まで移動させて落ち着くことが出来た。借り物の車をすっごくボコボコにしちゃったなぁ……。

 

 それはいいとして、あれから湊さんからの連絡がない。まぁ誰かといる時にスマホを操作したら怪しまれるだろうし、待つしかないかなぁなんて思って子機を耳元に置いたまま、毛布をかぶって寝ることにした。もし連絡があったら着信音で起きられるだろう。

 

「ね、ヒカ君。湊さん頑張ってるよ、私も頑張るから、ヒカ君も」

 彼の小ホイホイに向かって話しかける。映像は砂嵐だし、向こうからの返事も聞こえない。

 でも、このホイホイはこちらから、向こうへの一方通行だって湊さんが言ってた。だからきっと、この言葉はヒカ君に届いてる、聞いてくれている。

 

 いつか、彼をこっちの世界に取り戻すその日まで、私はずっと話し続けるよ。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 翌朝、そしてお昼になっても湊さんからの連絡は無かった。

 

 バルサンラジオはあえて私たちの現状には触れず、日本各地の話題を提供し続けた。もしこの事を放送してあの人たちに聞こえたら、囚われている湊さんが危険に陥る可能性があるというみんなの判断だった。

 

”どうやら危惧していたことが現実になったみたいだな”

”湊さん無茶したのか、あるいは洗脳……いやそんな短期間では無理か”

”いずれにしてもこのままじゃくろりんちゃんが危険だ、何か手を打とう”

 

 無線での話し合いの結果、各地からこちらに何人か来てくれることになった。それまで私の仕事はあいつらに見つからないように息をひそめて待つこと。そして来てくれた人たちと一緒に湊さんを助け出して、あの人たちとどう係わるかを考える事だ。

 

「ねぇ、ヒカ君。どうしたらいいと思う?」

 連絡がない所から察するに、あの湊さんでも話し合いは上手くいかなかったんだろう。だったら私なんかが言っても通じるはずがない、大人達が来てくれても、向こうが最初っから暴力を使って来たら……また私の大切な人が傷付いちゃうかもしれない。

 ヒカル君、湊さん。私と一緒に旅をしてきた人がどんどんいなくなっている。不安で、怖くて、寂しくて、泣きたくなってくる。

 でも、くじけるわけにはいかない。頑張れ私、そうだよね、ねぇヒカ君……

 

「あ!」

 そうだ、ヒカ君だ。あの時の彼みたいに……

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 翌朝、応援の車が山形に付いたとの事で、私の場所を無線で何度も伝え直してようやく合流が出来た。やって来た白いスポーツカーの運転席にいたのは、ゆるくウェーブのかかったヘアスタイルをした、二十歳過ぎくらいの美人さんだった。

 ……ただ、頭の上にピンと跳ねた寝ぐせ(アンテナ)と、ジャケットの下に着こんだトレーナーの真ん中に『ウム!』とプリントされているのが美人を台無しにしている。

 

「くろりんちゃんね、想像通りだわ。はじめまして、私は……」

「羽田さんですね、はじめまして」

「え、ええ? なんで分かったの、もしかして既に宇宙人とコンタクトして、異能のテレパシーを……」

 いや分かるでしょ。その『ウム!』って私でも知ってるオカルト雑誌だし、頭の寝ぐせもよく見ると整髪料で固められてるし……何を受信するつもりなんだか。

 UFOマニアって聞いてはいたけど、ホント凄いよねこのヒト……松波さんも苦労しそうだなぁ。

 

「ふむ、よくぞ生き残って来たな、娘よ」

 助手席から降りてきたのは、どこか威厳ある風貌のお爺さんだった。白装束に黒い帽子を乗せ、鉄の輪っかの付いた杖をしゃらんと鳴らして降りてくる。

「あ、この爺さんが例の山伏さんよ。このホイホイが地球の意思なんて言ってる可哀想な人」

「その言葉そのままお返し申すよ。初めまして夏柳殿、拙僧が天禅院白雲(てんぜんいんはくうん)である。」

 

 ああ、この人が例の山伏さんか。私はどっちかって言うと、宇宙人よりはこの人の言う『地球の意思説』がそれっぽいなとは思ってるけど。

 

「で、その窓がヒカル君? しっかり抱きしめちゃって♪」

「気を丈にもたれよ。信じる者は救われるでのう」

 

「初めまして、夏柳黒鈴です。どうか力を貸してください」

 頭を下げる私に、ふたりは自信ありそうな笑顔で頷く。そして同時に言葉を発して……

「窓の中があの世だなんていってるイカレ坊主なんてちょちょいのちょいよ! 私の宇宙人説でぐぅの音も出なくしてあげるわ!」

「同じ僧侶として捨て置けぬでな、儂が真の理を説いて進ぜよう」

 

 見事に逆方向のベクトルの方針を示した後、あーだこーだと口喧嘩を始めてしまった……大丈夫かなこの二人。

 

 

 少し遅れて、東京からも助っ人が三人ほど到着した。実は私が思いついたアイデアを実行するために、NHKtのスタジオから呼んだ放送機材の専門家さん達だ。

 

「私の考えですけど、こうして、そうして、こうすれば……」

 皆で円陣を組んで私のアイデアを説明すると、みんな「そりゃいいや」「やる価値はあるな」と賛同してくれた。

 

 まずは湊さんが向かったお寺の周辺にある役場を押さえて、そこからバルサンラジオが町内放送で届くようにすること。湊さんの居る場所はスマホのじーぴーえすとかで分かるらしいので、最寄りの役場に向かって放送の準備をしなければいけない。

 あの人達や子供達に見つかるといけないので、慎重に遠回りしながら役場に到着すると、スタッフさん達はあっという間に機材の設置を完了させた、さっすが。

 

 まだ放送を始める訳にはいかないので、そこには一人残って貰って、作戦開始と同時に繋いぐようにスタンバイしてもらった。残りの私たち五人はそれぞれ段ボールやマジックペンで小道具を作って明日の朝の『本番』に向けて準備をする。

 

 もうちょっと待っててね湊さん、きっと私達が何とかするから。ね、ヒカ君。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 翌朝早く、私たちは湊さんがいるであろう山寺のふもとに陣取り、出来るだけ音を立てないように階段を登って行く。というかこの階段やたら長くて急で、のぼるのはけっこうしんどいがぁ。

 二十分ほど登り続けて、ようやくお寺が見える所まで来た。スタッフさんが先端にカメラが付いた長い棒で、潜水艦みたいにお寺の先を覗き込む。すぐに引っ込めると私たちに親指を立てて(OK、子供達いるよ、畑仕事してる)と囁く。うん、いい状況だ。

 

(放送開始の30秒前に飛び出すよ。あと5・4・3・2……ゼロっ!)

 

 だだっ! と階段を登り切って、神社の境内に現れる私達五人。多くの子供達と、2~3人いる大人たちが目を丸くしてこっちを見ている。

 全員でゆっくりと彼らに近づきつつ、スタッフさんの一人が私の横に付きマイクを向ける。その後ろでもう一人のスタッフさんが機材をランドセルみたいにしょって続き、羽田さんはダンボールに銀紙を張り付けた1mほどのドーム状のものを掲げている。なんでも音を集める収音機に似せて作ったとかだけど、頭のアホ毛と合わせるとまるで宇宙からの電波をキャッチするレーダーみたい……ブレないなぁ。

 

 ちなみに山伏の白雲さんは後ろで大きなプラカードを掲げている。マジックで書かれてるのは『みんなの楽しいバルサンラジオ・NHKt』のカラフルな文字。

 

 私はヒカ君のホイホイを抱えたまま一歩前に出て、マイクを手に取り、息を吸い込んだ後で、大きな声で、出来るだけ笑顔で、叫んだ!

 

 

「みーんなーっ! 楽しい楽しいラジオ放送、はっじまっるよーーーーっ!!!」

 

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