マスメディア対SNSという分断

各紙の動きで目立ったのが朝日で、編集局に「ファクトチェック編集部」をつくり、局全体で取り組むことをアピールした。読売は時事、佐賀、日本テレビと共同で取り組む道を選んだ。新聞協会は地方紙を含む各紙のファクトチェック記事を紹介するX(アカウント名「選挙情報の真偽検証_新聞協会」)を開設した。

東京新聞も選挙絡みの街頭演説やSNS上の投稿に関し、6月から真偽を積極的にチェックし、誤りなどを指摘し続けた。大きく取り上げたのが「外国人が優遇されている」という排外主義を内包する訴えで、その象徴が「生活保護受給世帯の3分の1が外国人」という情報だった。直ちに調べてみると当然の事だが現実はわずか2.87%に過ぎなかった。紙面で「誤り」と明確に伝えた。

しかし「日本人ファースト」を掲げ、排外主義的な訴えを繰り返す参政党の支持率が上がるにつれ、自民党をはじめ各党が同じ「土俵」に乗って議論を始め、外国人政策が一気に争点化した。

新聞などのマスメディアは参政党の訴えをファクトチェックだけでなく社説などでも批判したが、SNSではユーチューブやティックトックを中心に参政党への共感が広がった。マスメディア対SNSという対立の構図、分断が起きてしまったのだ。

すりガラスの前に座り込んでスマホに見入っている男性のシルエット
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ファクトチェックが偽情報を広げた可能性

現代社会を「情動社会」と位置付ける上智大文学部の佐藤卓己教授は『新聞研究』の8・9月号で「フェイクニュースにファクトチェックをいくら丁寧に繰り返したとしても、その『真/偽』ではなく『快/不快』が問題の多数者に影響を与えることはできない。むしろ『あなたたちは騙されている』というメッセージは、自らの真実を信じる彼らの自尊心を傷つけるだけかもしれない」と指摘しているが、その通りだと思う。

参院選では期日前投票が国政選挙における過去最多の約2618万人に上ったことも、選挙中のファクトチェックの限界を示した。3連休の「中日」が投票日になった影響もあるが、新聞がファクトチェックをしている間にも、人々は一票を投じていた。期日前投票が定着した時代では、「言った者勝ち」になる可能性が高まったのである。

ファクトチェックが偽情報を広げた可能性があることも東洋大社会学部の小笠原盛浩教授の研究室によるアンケート調査(1500人対象)から分かった。

全回答者の6割近くが新聞やテレビ、ネットなど何らかの媒体を通じて偽情報を見聞きし、その数はのべ約1700件。このうち47%は事実と誤って認識され、16%は拡散されていた。

新聞やテレビがファクトチェックに力を入れた結果として偽情報に触れる機会が増え、逆に事実と誤認識させてしまった可能性を否定できない。偽情報より事実を際立たせるなど、発信方法にさらなる工夫が必要であることは確かだ。