「頭がいい人とそれ以外の人の違い」について、偏差値35から東大合格した僕(西岡壱誠)が考える本連載。今回のテーマは、「ルールを守る」です。
「頭がいい人ほどルールを守る」――こんなことをいうと、人によっては意外と思うかもしれません。
「頭がいい人」というと一般に、ずば抜けた頭脳を持つ代わりにちょっとした常識なんかが抜け落ちていたりして、授業中に先生の話を聞かなかったり、自分の好き勝手なことをやっていたりして、「ルールにとらわれない人」というイメージがあると思います。さながら天才発明家といった感じですね。既存のルールを超越して、まったく新しいルールをつくるような人。そんな人こそが「頭のいい人」だと考えている人もいるでしょう。
しかし、本当のところは、そうではないと僕は思うんです。頭がいい人ほど、実はルールを熟知しているものです。
東大入試に限っていえば、「ルールに厳しい人ほど合格しやすい」という話があります。例えば『ドラゴン桜』に、こんなシーンがあります。
なぜルール違反は「0点」なのか?
初めて東大模試を受ける水野直美と矢島勇介に、桜木建二先生が注意を促したのは「問題の表紙にある注意事項を必ずよく読んで従う」ということ。それが初めて東大模試を受ける2人とって「最重要点」であり、怠れば「命取り」になるとまでいいます。
問題の表紙にどんな注意事項が書かれているのかといえば、細かいことばかりです。「解答は必ず指定された箇所に記入せよ」「関係のない文字や記号などを記入するな」「解答の余白には何も書くな」など。そんなに大事なことなのでしょうか。
しかし、これらのルールに「違反した答案は無効になる」ことも問題の表紙にしっかりと明記されています。
「答案が無効になる」というのは、0点になるということです。どれほど勉強を積み重ね、頑張って書いた解答でも、0点になってしまうということです。ミスした受験生に悪気がなくても、東大はルールに厳格です。ルールを守れなければ、すべてを失ってしまう。桜木先生はそこに注意を促したのです。
東大のルールに対する厳しさを感じさせる逸話や噂というのは多々あって、例えば「指定された語句を用いて60字以内で答えなさい。ただし、指定された語句に下線を引くこと」という入試問題で、下線を引き忘れただけで0点にされてしまった……などという話を、僕は耳にしたことがあります。
一体なぜ、これほどルールに厳しいのでしょうか。
ルールを守れる人のほうが「個性的」
僕が考えるに、それはおそらく「ルールを熟知する者が一番、ルールを活用できる」と、東大が考えているからではないでしょうか。「ルールを裏側からハックできる可能性を秘めている」と言い換えてもいいでしょう。
桜木先生はこう表現しています。
「ルールを厳格に守れる人こそが、将来個性的な発想をできるようになる」――みなさんは、どう思われますか。
水野と矢島は反発しました。
ルールを無視する人は、何も考えていないだけ――。桜木先生の言葉は厳しいですが、なるほどその通りです。
自由に生きたいなら、ルールの内側に入れ
ルールを守ろうとするから、ルールを細部まで理解する。どうしてもやりたいことがあるなら、細部まで理解したルールのなかでなんとかする。そういう工夫の積み重ねからこそ、独自の発想が生まれる。桜木先生は、こんなことをいいたいのではないでしょうか。
「ルールを理解すればできるようになること」は、あらゆる場面で明確に存在します。
東大の入試問題に「自由英作文」というジャンルがあります。例えば、「自宅から遠い大学に実家から通うか、一人暮らしをするか」とか、「全世界の人々がみな同じ一つの言語を使用していたら、社会や生活はどうなったと思うか」といった「お題」が与えられ、英文で答えるというものです。
自分でゼロから英文を考えなくてはいけないうえに、細かいミスも許されません。英文法として間違っていなくても、「英語では普通、こういう言い回しをしない」という減点もあるので、非常に難しい問題形式だといえます。
しかしこの問題、結構多くの東大生がルールの裏側を突くある工夫で突破しています。みなさんは、どんな工夫だと思いますか?
ルールを学べば、準備ができる
どんな場面でも汎用的に使える英語の言い回しを、あらかじめ見つけて、暗記しておく、という工夫です。
僕が愛用していたのは、「私の視野を広げてくれる=It develops my point of view」という言い回しです。これが便利な表現で、例えば、「一人暮らし」をすることは、「僕の視野を広げてくれるだろう=It will develop my point of view」と答えればいいですし、「全世界の人々がみな同じ一つの言語を使用」していたら、「我々の視野は広がらなかっただろう=It wouldn’t have developed our points of view」と答えることもできます。
入試本番で、ゼロから英文を考えると小さなミスで減点されてしまいがちです。そういうときに、あらかじめ用意した特定の表現を使いまわせるのは大きなアドバンテージです。東大に合格した「頭のいい人」たちの多くは、自分にとって使い勝手のいい表現をあらかじめ用意し、その形を問題に合わせて少し変えることで、自由英作文に対応しています。
ルールを理解することで、ルールの範囲内で何ができるかをしっかり考える。東大の自由英作文は、そのわかりやすい一例だと思います。東大生に限らず、「頭がいい人」というのは、こうした能力が非常に高いものです。
『ドラゴン桜2』にも、ルールについて重要な指摘があります。
英語特別講師の鍋明美先生が、東大入試の英語リスニング問題の対策を、早瀬菜緒と天野晃一郎に教えるシーンです。
問題用紙には「放送を聞きながらメモを取ってもよい」と書いてあります。しかし、メモを取ってはいけないと鍋先生はいいます。なぜでしょうか?
なぜメモを取ってはいけないのか?
「メモを取ってもよい」ということは、「メモを取らなくてもよい」ということにほかなりません。鍋先生の「メモを取らない」というマイルールは、ルールに対する深い理解あっての決断だといえるでしょう。
けれど「メモを取らない」のは、あくまで鍋先生のマイルールです。
「何に従わなくていいか」を知ろう
鍋先生のマイルールですから、絶対に従わないといけないわけではありません。早瀬や天野が「自分としてはメモを取りたい」と思うのなら、メモを取ったっていいわけです。最後に決めるのは自分です。
ルールを熟読することは「何に従わなければならないのか」を理解するだけの行為ではありません。逆に「何に従わなくていいのか」を知って、決断する姿勢も問われるのです。
いかがでしょうか?
型を理解しているからこそ「型破り」ができる。型を理解していない状態で型を無視しても「型なし」にしかならない。
桜木先生がいいたいのは、そういうことなのだと思います。
みなさんも、ルールに唯々諾々と従わないために、ルールをしっかりと熟知する習慣をつけてもらえればと思います。
[日経ビジネス電子版 2022年12月8日付の記事を転載]
西岡壱誠(著)、日経BP、1760円(税込み)