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任天堂のネット番組「ニンダイ」 圧倒的影響力を考察

河村鳴紘サブカル専門ライター
ネット配信番組「ニンテンドーダイレクト」

 任天堂のゲーム情報を発信するネット配信番組「ニンテンドーダイレクト(ニンダイ)」。かつては重要な発表といえばメディアを招いた記者会見が一般的でしたが、現在では新型ゲーム機の情報でさえ動画配信が主流となっています。報道する側も公式動画をもとに記事を作成する時代です。今や同時接続者数が数百万とも報じられるほどで、メディア以上の影響力があるといえそうです。改めてその力を考察します。

◇背景は「ゆがんだ形で拡散」への対抗策

 ニンダイが始まった背景は、当時社長だった故・岩田聡さんが明言しています。

まず、「Nintendo Direct」を始めた非常に大きなきっかけは、「私たちが何かゲームの情報を発表したとしても、その情報を私たちがネットに上げるよりも早く、何らかの形でゆがんだ形で拡散してしまう」ということが当時非常に大きな問題になっていたことでした。

任天堂 2012年10月25日(木)第2四半期決算説明会質疑応答(Q3)

 当時、ゲームの情報は雑誌などを発表の場にしていたのですが、製造や流通段階で情報がもれることもあり、またネットでも週刊誌以上に面白おかしく、場合によっては悪意すらあるような書き方をされ、それが拡散する状況でした。情報の流出や不正確な情報の拡散は、ゲーム会社に限らずエンタメ各社に共通する悩みだったのです。その対策として、自社から積極的に正確な情報を直接発信する流れが生まれ、ニンダイもその一環に位置づけられます。

 また上記の質疑応答では、動画配信が実売に影響を与えること、ライトユーザーにも情報が届くこと、さらにニンダイにエンタメ性の側面があると捉えていたことも分かります。

 今やネット動画は社会インフラの一部となり、特に若年層への影響は強大です。ニンダイは配信のたびにX(旧Twitter)のトレンドを独占し、メディアが即座に記事化し、インフルエンサーも反応します。任天堂のコンテンツパワーに加え、プレゼンの巧みさと演出、継続的な配信、情報の囲い込み戦略などもあってブランド力が向上。ニンダイは他社が羨むような「自社メディア化」の成功例となっています。

【関連】Switch 2のニンテンドーダイレクト、同接数328万人を記録 日本記録を大幅更新か(ITmedia NEWS)

◇圧倒的存在感が生む懸念

 しかし、力のあるものが登場すれば周囲に影響を与え、次の懸念を生み出します。

 まず、ニンダイの存在感があまりにも強すぎることです。「ニンダイで扱われないと反応がなく厳しい」「自社で情報を出しても反応が薄い」などの悩みをソフト会社から聞くこともあります。これはソニーのゲーム情報番組「State of Play」でも同様で、二大プラットフォーマーが情報発信で主導権を握る状況は、特に中小のソフトメーカーにとって考えさせられる事態です。

 もちろん、それで救われるケースもあるでしょうが、それは裏返せば任天堂頼みということ。情報一つで業績に直結する以上、「生命線を握られた」と感じる……そういう見方もできるわけです。誰もが動画を配信できる時代ですが、そこに圧倒的な格差が生まれています。

メディア 速報への依存を露呈

 さらに、メディアへの悪影響も無視できません。濃密な情報が次々と出るため、報じる側は追いかけるしかなく、速報性を優先するあまり正確さが損なわれたと思われるケースがありました。ニンダイで「ドラゴンクエスト7」のリメーク版が発表された際、一部メディアでは、初代スイッチ・スイッチ2だけで遊べると取れるような記事が出ました。

 同時に「ドラゴンクエスト7」の発売元であるスクウェア・エニックスからもPS5やPCなどにも対応する発表がありましたが、そちらもくみ取って正しく伝えた記事もあれば、ニンダイの発表だけをそのまま記事にしたものもあったわけです。いずれにせ、圧倒的な影響力が、メディアの弱点を露呈させた事例といえます。

 メディアも人間が運営する以上間違いはありえますが、懸命に確認してミスをするのと、正確性を軽視してミスをするのは、大きな差があります。ですが動画発表の速報を止めるのも難しく、悩ましい問題といえます。

◇リーク・うわさはより強く…

 影響力があるほど、短期的な株価への影響も出かねません。また情報を直接届ける効果は大きいものの、リーク情報・うわさの拡散を完全に防ぐことは難しいでしょうし、むしろSNSでとどまったものが、メディアがうわさをまとめて記事にされ、より分かりやすく報じられるようになっています。

 そして外れた予想は忘れ去られ、的中した情報だけが強調されるのは不変です。注目が大きい分、うわさや憶測が飛び交うわけです。正直に言えば、リークやうわさもコンテンツの一つになりつつあるのは事実で、光が強くなるほど影が強くなるのと似ています。

 いずれにせよ「強いものはより強くなる」──これがネットの特性です。任天堂の情報発信力は、周囲を巻き込みながら拡大を続けると見るべきでしょう。果たして今後どうなるのか。配信を楽しみながらも、注視する視点も必要です。

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ありがとうございます。
サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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