「クラゲならヨシダ」へ
コロナ禍が独立に踏み出す引き金になった。パンデミックで世界中の水族館が一斉に閉鎖し、吉田氏のクラゲ販売は売上ゼロに。逆に巣ごもり需要で水槽販売が好調になったパートナーたちは、日本人パートナーの独立を引き止めようとはしなくなったのだ。
「今しかない」──吉田氏は動いた。5年分の未払い給与をまとめて受け取り、その資金で養殖施設を買いとった。コロナで売り上げゼロという最悪のタイミングを「チャンス」と捉え、腹をくくった。
2021年2月、クラゲ養殖と販売に特化した「Exotic Aquaculture」を個人事業として立ち上げ、事業をスタート。独立前から、心の中には「もし自分ひとりでやれたらこうする」という戦略が蓄積されていたからこそ、準備は万端だった。
「共同経営の7年間で、意見のぶつかり合いから商売の基本を学べました。それが今に生きています」
とはいえ、独立1年目の収益はほぼゼロ。しかし、これまで築いてきた世界中の水族館とのネットワークがあった。2年目にはコロナも落ち着き、水族館の再開とともに注文が戻り始める。業界内で「クラゲならヨシダ」という口コミが広がり、2024年には大型注文も入り売上が1億円を突破。現在は、世界50以上の水族館と取引を行っている。
クラゲの飼育には水質管理や温度、餌の調整など手間もコストもかかる。しかし、繁殖するクラゲの数が増えても固定費は大きく変わらないため、安定した需要さえあれば非常に利益率が高い。
「コスパは実は、かなり良いんです」
そう語る一方、現在もっとも大きな課題は輸送コストの高さだ。特に香港発の場合、周辺国からの輸送に比べて3倍以上のコストがかかるという。
「例えば、フィリピンから香港までは1キロ3米ドル。でも香港から出すと1キロ10米ドル。アメリカやヨーロッパなどの遠距離輸送だと採算が合いません」
現在はこの問題を解決すべく、アジアの別の国に養殖拠点を作る計画を進めている。
また、クラゲ養殖において重要な「ポリプ」の更新にも取り組んでいる。ポリプとはクラゲの原型で、年数が経つと劣化してしまう。吉田氏が保持しているポリプの中には10年以上飼育されている種類もいるが、より健康なクラゲを生み出すため、新たなポリプの発掘が必要だという。
「今は社員が4人いて、現場を任せられるようになり、やっと次のステップに向けた時間が取れるようになりました。自分の足で世界の水族館を回って、新しいポリプの探索や交渉をしていきたいです」
クラゲという特殊で飼育が難しい生き物を扱うからこそ、参入障壁は高い。これこそが吉田氏の最大の武器になっている。