「灵」字について
「灵」字は「靈(霊)」の略字として、元代には広く用いられている。
【灵】「靈」の簡化字。「灵」は宋代の字書《集韻》に「字類云:小熱貌。」とある。「靈」と同音であることから、元・明・清代の大衆小説に広く借りて用いられている。2L07 pic.twitter.com/Ofpx8PRfhM
— 簡化字bot (@jianhuazi_bot) April 3, 2023
現状「灵」字が「靈(霊)」の略字以外に用いられた例は存在しないようである。しかし、「灵」と「靈(霊)」には字形上の繋がりが見られないため、「灵」字自体の起源も、「灵」字がどのようにして「靈(霊)」の略字として用いられるようになったのかも、不明となっている。
不思議なことに、「灵」字が「靈(霊)」の略字として利用されるよりも前に、宋《廣韻》には「靈(霊)」とは無関係の別字として「灵」字が収録されており、これが確認できる限り最初の「灵」字の記録と思われる。ということで簡化字botでは、誰かが韻書から「靈(霊)」字と同音の「灵」という字を見つけて、それを略字として採用したという説明にしている。字書的文献にしか見られないほとんど幽霊文字に近い文字を略字として採用するのは稀なことである。
《廣韻》は「灵」を次のように説明している。
灵,《字類》云:“小熱皃。”
出典を《字類》としているが、この文献はほかの字書には見られないようである。また、《廣韻》が《字類》を引用している箇所がもう一つあるが、偶然なのか必然なのか、それは「灵」字と同一小韻にある。
𠄖,《字類󠄀》:“撞𠄖。”
「𠄖」字と「灵」字は《廣韻》以前の切韻系韻書(《箋韻》や《王韻》)や《玉篇》には収録されておらず、《廣韻》が《字類》から引用して増補したもののようである。「𠄖」字と「灵」字の項目はどちらも《字類》の短い記述の引用にとどまっている。そしてこれ以外に《字類》からの引用は見られない。
「灵」字と関連があるかもしれない字に「㶣」がある。《廣韻》は「㶣」を次のように説明している。
㶣,小熱。
㶣,《字林》云:“小熱也。”
「灵」と「㶣」は字形が似ているだけでなく、「㶣」の鹽韻の方の説明文は「灵」の説明文とよく似ている。
「灵」とは違い、「㶣」に対する「小熱」という説明は《廣韻》以前からよく見られる。
㶣,小熱也。从火,干聲。《詩》曰:“憂心㶣㶣。”
㶣,徒甘反。小熱。
㶣,徒甘切。燎也。小熱也。
惔,徒藍反。……《説文》作“㶣”字,才廉反,小熱也。
㶣,小熱。
㶣,小熱。㶣𥛰衣物。
㶣,小熱。直占反。三。
《字林》を出典とするのは《廣韻》の増補のようである。
これらの字書的文献で意味が「小熱」と説明されている項目は「㶣」のみであるため、やはり「灵」に対する「《字類》云:“小熱皃。”」という説明は「㶣」に対する「《字林》云:“小熱也。”」となんらかの関係があるのかもしれない。
そこから張自烈は、「灵」字は「㶣」の訛字であろうと記している。
灵,譌字。舊註訓同“㶣”,改音陵。誤又俗“靈”字省作“灵”,非。
しかし、「灵」と「㶣」とでは音が全く異なっており、「㶣」がなぜ「靈(霊)」と同音となったのか説明できない限り、この提案を受け入れることは出来ない。「灵」と「㶣」とがどのような関係があるのかは今のところ不明である。



コメント