にんげんホイホイ   作:三流FLASH職人

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第三十九話 巨大施設のセキュリティを突破せよ!

 

 ついにNHKt放送センターに到着した一行。だが、そこで私たちは途方もないその広大さに愕然とするしか無かった。

「で、でかあぁぁーーいっ!」

「なんじゃこりゃ……広域公園並じゃないか」

「東京の一等地にこんなの、いくら税金突っ込んだんだ」

 

 とにかく敷地が広い。その中に三つの大きなビルが居座っている、案内板によると八階建ての東館、八階+地下一階の西館、そしてひときわ目立つのが地上二十三階にもなる高層ビルの本館だ。

 

「とにかく広いです、果たしてどこに行けばラジオ電波をジャックできるのでしょうか」

 くろりんちゃんが四方をきょろきょろ見回しながらリポートする。これだけ広大な敷地と建物だと、どこに行けばいいのか皆目見当も……

 

”ラジオ放送なら、本館の十三階、ラジオセンターです”

 そう教えてくれたのは愛知のアナウンサー、ワシワシさんこと鷲尾忙(わしおせわし)さんだ。仕事でここに来た事があるのだろうか、この状況では頼れる存在だ、ありがたい。

 

「いっちゃんでっかい建物かい」

「分かり易くてええわいな」

 爺さん達含めて全員が一番大きなビルに向かう。私も中継車に乗り換えて後を追う、目的達成に心がはやる。さぁ、やってやるぞ!

 

 そんな意気込みは、建物内のロビーに入った瞬間に暗礁に乗り上げた。

 

「な、なにこれ……」

 内部の案内板を見ても、各界の間取りと番号が振ってあるだけで、どこで何が行われているのかさっぱり分からない。入り口の自動ドアが開いたことからも電気は来ているんだろうけど……

 

「そういえば聞いたことがあります。こういう公共放送の施設はテロリストに狙われやすい為、迷いやすいような作りをしてたり、具体的な場所を明記しないようにしてるとか」

 ヒカル君が解説を入れる。なるほどテロ活動家にしてみれば、声明を発表するために放送施設を押さえるのは定石だ。そして今の私たちはまさに放送をジャックしようとしている、いわばテロリストそのものだろう。

 

 日本の安全神話を支えるセキュリティが、今だけは何とも腹立たしいな。

 

「とにかく十三階だ、行こう!」

 分からないなら各部屋をしらみつぶしに当たってみるしかない。全員がバタバタとエレベーター前まで移動する。が……

 

―パスカードを提示してください―

 

 エレベーターから機械音声でそう告げられる。どうやら上の階に行くにも何らかのカードが必要なようだ。

 

「どうしよう、ワシワシさん」

”受付に来客用のパスカードを発行する所があるはずです”

 くろりんちゃんが無線で鷲尾さんにアドバイスを貰う。早速受付に向かい、カウンターを乗り越えて周囲の引き出しを漁る。ほとんどは鍵がかかっており、手持ちのハンマーやプライヤーで、ひとつひとつこじ開けて行く……うーん、やってる事は完全に泥棒かテロリストだなこりゃ。

 

「これとちゃうけ?」

 お爺さんの一人がひとつの機械、発券機のようなものを差して言う。なるほど来客用にパスを発券するなら、こういった機械のほうがアリかもしれない。

「パソコンなら任せとき」

 そう言って受付のパソコンを操作し始めたのは、爺さん軍団のリーダーの伊集院さんだ。なんでもチューニングカーの燃調を調整する機械を専門に作っている整備士さんらしく、パソコンの扱いはお手の物らしい。

 

「身分証がいるな、持ってる人は出して」

 それぞれが免許証や生徒手帳、保険証などを出して、それを伊集院さんが登録していく。最後に指定された場所にひとりずつ並んで写真撮影し、顔認証を登録してようやくカードの発行と相成った。

 

「……これ、社会が元に戻ったら、完全にお尋ね者ですね、僕たち」

 ヒカル君が冷や汗を流してそう言う。確かに住所氏名年齢から顔認証までしてしまったら流石に言い逃れは出来ない。

「だなー。まぁ君達は未成年だし、私に脅されてやったってことにしときなさい」

 

 ようやくエレベーターに乗り、十三階に到着する。ここまで来たのは私にヒカル君、くろりんちゃん、そして伊集院さん他四人の計七名だ。

 

 で、そこでまた途方に暮れる。何せ廊下にはずらっと部屋が並んでおり、ドアには番号が振ってあるだけで中で何をやってるかなど明記されていない。

 しかもご丁寧に全部の部屋に鍵がかかっており、カードを通してパスワードを入力しないと開かない仕掛けになっているようだ。

 

「どうします、一つ一つ、ぶち破りますか?」

「それは止めた方がいいな。セキュリティが生きている以上、ひとつ間違えばこの階が封鎖される事にもなりかねん」

 そう答えたのはコムセというセキュリティ会社に勤めていたお爺さんの一人だ。確かに手荒な手段を取れば、システムが我々を拘束する方向に動くかもしれない。最悪、このフロアに閉じ込められ、飢え死にするまで脱出できなくなるかもしれないのだ。

 

「八方ふさがり、か」

 正直ここまでとは思わなかった。石川のラジオ百万石はローカル放送局だったし、名古屋は電源そのものが落ちていたので最初から対象外だった。なので何とかなるだろうと甘く見ていたが、さすがは国営放送というべきか。

 

 一度一階のロビーに戻って、なんとかならないかと相談会になる。ラジオの向こうのみんなも加わって、このセキュリティを突破する方法を模索するが……

 

”ビルの外を登って行って、ガラス窓割って侵入したら?”

 できるかい! スパイ〇ーマンかよ!

”ドアじゃなくて、壁を破って侵入したら?”

「どこの念能力者ですか!」

”配電盤を破壊して、電気を全部落としましょう”

「それじゃラジオも止まっちゃいますよ~」

”椿山さん建築業者でしたよね、もういっそビルを爆破崩落させてガレキの中から機材を……”

 解体業者は専門外ですあしからず。っていうかそれやったら死刑ものだから。

 

 案の定、ロクなアイデアは出てこなかった。さすがの鷲尾さんも現場に居ないのではアドバイスにも限界がある。このまま諦めるしかないのか……?

 

「せめて、どの部屋で放送が流されているか分かればなぁ」

 ヒカル君がそうぼやく。確かにそれが特定できれば、あとはドアをこじ開けるだけだ。だが十三階だけで百近くの部屋があるのだから、とても手掛かりなしで特定など出来ない。

 

”あーもう、宇宙人がいれば電波コンタクトなんか楽勝なのにー”

 はいはい、相変わらずの羽田さんの宇宙人で解決策はもうういいですから。

 

「あの、ちょっと待って下さい。羽田さん、電波コンタクトって?」

 突然くろりんちゃんが真面目に聞き返す。

”そりゃ宇宙人のテクノロジーなら電磁波とかでどこの部屋で放送が流れてるかなんて一発でしょ? 電気が来てるって事は多分、放送も垂れ流しなんだし”

 

「それ! それですよみなさん!!」

 くろりんちゃんが目を輝かせて私たちに訴える。え? 今のアイデアで何か問題が解決すんの?

 

「ほら! ラジオ流してる時にそのラジオ付けたら『ヒィ~~~ン』って共鳴の音がするじゃないですか。ならこのNHKtのラジオを私たちで流して、その音がする所が分かれば!」

 

「「ハウリングか!!」」

 私とヒカル君が同時に叫ぶ。今まで各地の放送局や役場で何度も経験したラジオの共鳴音。電波を発信している地点で受信した時に響く、耳に響く音!

 ならばラジオを持って十三階に上がり、NHKtの放送を最大音量にして各部屋を回れば、放送している部屋の前が一番大きく共鳴するはずだ!

「すごい、クロちゃんっ!」

「でかした!」

 

 再度十三階に上がり、手持ちのラジオの音量を最大にして、NHKtの周波数に合わせる。放送が途切れてるせいで雑音しか聞こえないが、このラジオを発信源の部屋の前に持って行ったら、必ずハウリングが起こるはずだ!

 

 通路を歩き、一部屋一部屋にラジオをかざして回る。ここも反応なし、ここも駄目……あるいは素人の浅知恵なのかと、諦めにも似た感情が湧いて出た、その時。

 

 -ヒュィーッー

 

「「来たっ!」」

 ごくわずかな共鳴音が手持ちのラジオから聞こえて来た。近い! ここか、隣か、向かいの部屋か!?

 ひとつ隣の部屋に移動して、ラジオをかざしたその瞬間!

 

 ―ヒイィィィィィィーーーーーーーーン!!―

 

 耳をつんざく強烈な共鳴音(ハウリング)がこだまする! 間違いない、この部屋だ!!

 

 後はパスコードの入力のみ。といってもさっきの通信で、鷲尾さんから『パスはNHKtラジオの周波数です』と聞いていた。変更があったかもしれないが、今はそれが無い事を祈るしかない!

 

 ドア横のセキュリティボックスに私のパスをスライドさせる。ピッ、と音がして緑色のランプが点灯し、『パスコードを入力してください』との電子音が流れる。

 

「〇・〇・〇・〇、と」

 テンキーを使って周波数を入力する。さぁ、どうだ!?

 

 ―ピーッ―

 電子音と共に、『開かずの扉』が、開いた。

 

 

 日本中に、そして世界に通じるであろう、その”扉”が。

 

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