にんげんホイホイ   作:三流FLASH職人

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第二十一話 秋晴れの山(静岡)

 名古屋を離れてからの旅は順調だった。豊田、岡崎、蒲郡、豊橋と回り、二つのラジオ局と回線を繋げ、三つの役場から放送を流す事に成功したのだ。

 

 そして何よりその翌日から愛知県に生き残っていた人が、四人も局に駆け付けてくれたのは大成功と言えるだろう。

 

 しかも一人はアナウンサーの仕事をしていた人らしく、その饒舌な喋りで石川の松波さんを上回る楽しい放送を始めてくれたのだ。ボートレースや競馬中継の仕事もやっていたそうで、早口で面白おかしくまくし立てるトーク力は、「バルサンラジオ」を一段と楽しくしてくれている。

 

 ちなみに愛知の残り三人はというと、一人は高齢の花火職人、一人は女子大生、そしてもう一人は大手自動車会社の専務さんという、ラジオトークのゲストとして申し分のない面々だった、これでしばらくはネタに困ることは無いだろう。

 

 

 ただ問題もあった。名古屋を出た翌日から雨天に見舞われ、移動や中継放送がかなりしんどくなっていたのだ。

 

 社会が回っている時なら雨くらいと思うだろうが、実際に世界が死んでいると天気の影響はかなり深刻だ。少しでも雨に濡れると体力を奪われるし、入浴や洗濯だって思うようにできるわけではない。雨合羽を着込むと汗でムレて、下手に濡れるより酷い事になりかねないし。

 

 機材も濡らさないように気を遣うし、子供二人の体調管理や食料の痛みも問題になって来る。加えてドライバーの私にとって、雨の運転は晴れの日の倍は疲れるのだ。

 

 そしてもちろん天気予報なんてやってるハズもない。夏から秋に移りつつあるのも相まって、長雨になるといよいよしんどさが積み重なってくる。

 なにしろ季節の変わり目は体調を崩しやすいものだ。慣れない仕事をしているくろりんちゃんとヒカル君なら尚更の事だろう。

 

 でも、せっかく各所からぽつぽつ人が出てきている、この『バルサンラジオ』の成果が上がりつつある時に、休みが欲しいとは言い出しにくかった。

 

 せめて晴れてくれれば、気分的にも楽なんだけどなぁ。

 

 

 あの掲示板に生き残っていた人達、次は横浜の人だった。が、そこまで行くには入ったばかりの静岡県を横断せねばならず、各所を回りながらだと五日ほどもかかるだろう。

 

 くろりんちゃんを旅に同行させた時は、あくまで観光を兼ねた旅をしていた。まだ子供の彼女は世界を見て回りたいという願いがあり、それが遠距離移動の心の支えになっていたし、そのお陰でヒカル君とも出会う事が出来た。

 

 でも、今の旅は仕事だ。悠々遊んでいる暇もなく、観光地はレポートのネタにしなければならない。純粋に楽しめない道中で、誰かがストレスに耐えきれなくならないか心配だ、私も含めて。

 

 

 夜、二人が寝静まってから車に戻り、無線で石川と連絡を取る。どうにかして二人に休みをあげられないものかと松波さんに相談してみた。

 

”できれば放送は途切れさせたくない”

 

 それが松波さんの返事だった。

 彼曰く、くろりんちゃんの現地リポートはいわゆる「放送の華」になっていて、その彼女が休んだとなれば、「もしかしてホイホイされたんじゃ」と不安になる者も出るだろうとの事だ。

 そしてその行為が、今生き残っている人達に連鎖反応(・・・・)を起こさせる可能性は十分にある、だから彼女が放送から外れる事は極力避けたいそうだ。

 

 また放送ネットワークを広げるヒカル君の活躍もやはり止めたくはないという。確かにこの世界では今もホイホイされる人は増え続け、残っている人は刻一刻と減って行っているのだから。

 

 でもこのままじゃ二人が持たないだろう。なにせ彼らのすぐ側には現実逃避するためのウインドウが浮いているのだ。ヒカル君などは折角「今が一番」と思って映像が見えなくなっているのに、ストレスが溜まるとまた理想の世界を映し出しかねない。

 

”なら、何か大きな企画にチャレンジさせてみてはどうかな?”

 

 そう通信に入ってきたのは岐阜の自称山伏の天禅院白雲氏だ。日数の掛かるイベントを計画し、用意や実行をできるだけ端折って、余った日数を休暇に当ててはどうか、と。

 

 なるほど、それならくろりんちゃんが放送に出ずに休暇を取れ、かつホイホイされてないことが示唆できる。ヒカル君に関しても、その企画の為にネットワーク拡大を一時お休みできるかもしれない。

 

 しかし、イベント……企画かぁ。はてさて。

 

”それなら、うってつけのがあるじゃない”

 石川にいるUFO信者の羽田さんが割って入って来た。まさか宇宙人にさらわれたことにするとか言い出すんじゃないだろうな……

 

”あんたたちが今いるのって、何県(・・)よ”

 

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 

「あー、おはよーございまーす」

「湊さんおはよう、朝早いんですね」

 ビジネスホテルのロビーのソファーでくつろいでいた私に、起きてきた二人が挨拶をする。うむむ、二人ともいかにも疲れが取れていない感じで、疲労感は否めないなぁ。

 

 さぁ、名案の出番だ!

 

 

「今日も雨ですねー、また傘さしながらの放送になるのかなぁ」

「機材をくるむビニール袋、そろそろどこかで調達したいなぁ」

 朝の放送の三十分前、中継車の車内でふたりがそうこぼす。私は前を見て運転しながら、内心ドヤ顔で二人に向けてこう返す。

「あ、今日はこのまま一気に富士宮(ふじのみや)市まで行くから、出番はないよ」

 

「「え、ええええーっ!?」」

 二人が目を丸くしているのがルームミラーに映る。うんうん、いいサプライズになったかな。

「富士宮市って、静岡の東の端っこじゃないですか!」

「途中のラジオ局とか役場とか全部すっとばしちゃうんですか?」

 驚きの中にも、どこかお休みへの期待が入った声と表情でそう発する二人。

 

「ちょっと大きなイベント放送を企画しててね。ま、期待してゆっくりしてて」

 そう言ってダッシュボードの中の企画書をつまんで、ぴらりと後ろの席に渡す。それを受け取った二人が文字に目を走らせ、その目と表情をキラキラ輝かせる。

「やっべ、これめっちゃ楽しそう!」

「やるやる、やりますよっ!」

 

 

 国道一号線をひたすら東に走り続ける。というかなんだこの道路は、ひたすらに直進が続いていて、走っていて本当に眠くなる。北海道やアメリカの道路じゃあるましし、人が居なくなると日本の国道でもこうなるのか。

 

 まぁ、北海道もアメリカも行ったことないけど。

 

 数時間後、静岡市を通過する時、まるでタイミングを合わせるように雨が止み、空が急激に澄み始める。陽光が雲を貫き、気持ちのいい秋晴れの空が世界を支配する。

 

 そして、その世界の一角に映し出される、その圧倒的な存在感。

 

「ふっじさーーーんっ!!」

「おおおおおおー、でっかあぁーっ!!」

 

 二人が窓から顔を出して叫ぶのも無理はない。私も高校生の修学旅行以来だが、本当に山というより景色と言っていいその雄大さと美しさに、さすがに息が漏れる。

 

 さぁ、これから二週間かけてのバルサンラジオ出張企画、二人の休暇も兼ねた一大プロジェクトのスタートだ、助手席に置かれた企画書にちらりと目をやる。

 

 

 ――日本一の頂、富士山頂から日本中に向けて、バルサンラジオを発信しよう――

 

 

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