どんよりとした曇り空の日の放課後、制服姿の2人が、駅前の大型ビジョン前で、何をするともなく、タピオカミルクティーを片手に漫然とお喋りをしている。安奈と皐月である。
各々タイプの異なる美しい相貌と、ちょっとしたそよ風でも中が見えそうなくらい短いスカートで、嫌でも人目を集める2人。だが、この雑踏の多さでは、顔を寄せ合ってやや声を潜め気味に話す2人の会話まで聞こえている者はいないはずだ。
「昨日さ、ガチ恋奴隷クンの一人が、月8万の約束なのに今月5万しか持ってこなくてイラついてたんだよねー」
「そんな細かいこといいじゃん。てかウチらとタメの男子で月8万ノルマはキツくない?」
「いやいや約束は約束! 放課後と土日はバイト漬けにさせてるから、それくらいならギリ稼げるはずだし♪」
「ふふっ、そんなバイト詰め込ませて、全部没収するんだw」
「当たり前じゃん奴隷だしw」
「てか安奈はそういうとこマメだよね、学生のバイト代なんてたかが知れてるのに、ちゃんと全員に貢がせて。同級生いっぱい奴隷にするより、太P飼う方が効率いいのに」
「いやいや、20人いれば毎月160万だしバカにならないでしょ。それに私は、惨めで非力な同級生が私のために必死こいて毎月8万持ってくるところに興奮するの♪」
そこで2人は、声を揃えて笑う。
「まぁ、どの奴隷クンも、サボったら私におならで殺されること知ってるから必死だよ」
「ウケるねw 今回の奴隷も殺処分なわけ?」
「いやー、初犯だし、今月は必死こきすぎて過労でダウンしてバイト行けなかったらしいから、今回は半殺しで許してあげた」
「そこは優しいんだwますますウケるww」
「相当絶叫してたし、あんだけやられたら来月からはちゃんとノルマ10万持ってくると思うよー」
「いやノルマ増えてる増えてるw」
「1回破ったんだから厳しくなるのは当然でしょ! 馬車馬のように働かせるよーw」
「てか、今の安奈のガスで、よく半殺しで済んだねその奴隷」
「いや超頑張って加減したから! ほんとプスッと短くスカしただけで発狂しそうになるしさー、マジヤバかったー」
……2人の会話がこれほど異常なものであることなど、遠巻きに彼女達をチラ見していく男達には想像もできまい。
そこに近づいてくる、スーツ姿の若い男が2人いた。
「ねぇキミ達、ちょっといい?」
声を掛けられて振り返る安奈と皐月。人懐っこい笑顔の安奈と、澄まして妖しい微笑みの皐月。初対面の男からすれば、どちらに心を奪われれば良いのか迷ってしまうほどのナイスコンビである。
「自分ら、こういう者なんだけど——」
そう言って2人組の男の1人が名刺を差し出した。そこには『アヴェックス芸能事務所 スカウティング部 池下 雅紀(いけした まさのり)』と書かれていた。
「えー!? あのアヴェックスの人なんですかぁ!?」
少々わざとらしく驚く安奈。アヴェックスと言えば、人気歌手やアイドルを多数抱える、超大手の芸能プロダクションである。その社員を名乗るその男は、ヘヘヘッと歯を見せて笑った。
「ああ、そうだよ。俺達、アヴェックスのスカウントなんだけど」
「そう、キミ達、めっちゃ可愛いよね。芸能活動とかしてるの?」
そう言ってさりげなく距離を詰めてくる2人に、皐月が
「してないですよ〜。ウチら普通の学生なんで」
と答えると、彼らの目尻がさらに下がった。
「うっそマジで? いやもったいないって、2人ともそんな可愛いのに!」
「ねぇ今暇だった? すぐ近くにうちの事務所あるんだけどさ、どう?良かったら、冷たいものでも飲みながら、話だけでもさ」
そう言われ、安奈と皐月は互いに顔を見合わせる。
「えーっと、ちょっと相談してもいいですか?」
「いいよいいよ、もちろん!」
「そんな時間は取らせないからさ!」
そう確認を取った上で、安奈と皐月は2人の男から少し離れ、顔を突き合わせてこそこそと話し合いを始めた。
「………アヴェックスのスカウト——なわけないよね」
「うん。100%詐欺ナンパだわ」
初心なJKを装いながら、その実で百戦錬磨な2人は、男達2人がろくな目的で近づいてきていないことは最初から見抜いていた。着ているスーツは明らかに吊るしの安物だし、片方の男はスニーカーを履いている。髪も下品な茶髪で、何より、大手芸能事務所のスカウトにはあり得ない低俗なオーラを隠し切れていない。
それを知った上で、彼女達は話し合う。
「で、どうする?」
「んー、ぶっちゃけどっちも私のタイプじゃ全然ないけどー」
「じゃあ別の待つ?」
「や、アレでいいやw てか、もう結構我慢するの限界でウズってるんだよね私w」
「んふっ、それは私も同じw じゃ、決まりね」
——という短いやりとりの後、安奈と皐月は男達の方に戻り、揃ってにっこりと微笑み掛けた。
「はいっ!事務所、行きまーす♪」
「よろしくお願いしま〜す♪」
名刺を出した池下と、後に並野(なみの)と名乗った男の2人と共に、安奈と皐月がやってきたのは、確実に大手芸能事務所が入っているわけがない、街外れのホテル街にある雑居ビルだった。
彼女達を逃さないように左右を囲んで歩く池下と並野。だが、彼女達には逃げ出す気など毛頭なかった。連れられるがまま雑居ビルの角部屋の一室に招かれ、中に入る。
カチリ。
2人が室内に入ったらすぐに、池下が背後で扉の鍵を閉めた。
煙草の煙、それから甘ったるい非合法的な雰囲気がぷんぷん漂う臭いが充満した室内。そこから、ぬっ、と現れたのは——柄の悪い、大勢の男達だった。
「やっと来た来た」
「おーい池下、待たせんなよ」
「おッ!なかなかの上玉じゃねぇのw」
「嬢ちゃん達、先生から習わなかったか? 知らない大人に着いていっちゃいけねぇって」
「でも、もう泣き喚いても遅いからなw ここ、完全防音だからよw」
「ま、いい経験だと思いなよ、大人になるためのさw」
池下と並野を合わせると、総勢7人の男達。全員がニヤつきながら、涎を垂らさんばかりに欲望丸出しの飢えた表情で安奈と皐月を舐め回すように見つめる。
もちろん、ここがアヴェックスの事務所であるわけがない。彼女達の見立て通り、いや、見立て以上に、そこは非道い場所だった。歳若く、世間を知らぬ女子学生を騙して連れ込み、乱暴する。彼らは計画的に犯行に及ぶ、集団レイプグループだったのだ。
だが、彼らを目の前にした安奈と皐月は、少しも動揺する様子もなく、むしろ——淡く笑っていた。
飢えていたのは、むしろ彼女達の方。
安奈と皐月は、同時に小さく呟いた。
「……ふーん? 思ったよりいっぱいじゃん♪」
「……ふふっ、今日はツイてるわw」
……………
…………
………
……
…
「————う、うぅ……ぐ…………ッッ!?」
意識を取り戻した池下は、ゆっくりと瞼を開く。体を動かそうとしたが、それは出来ない。驚いて自分自身を見ると、首から下が、ラップとガムテープでぐるぐる巻きにされ、体の自由を完全に奪われていた。
一体何が? 彼は朧げな記憶を辿る。確か、あの美少女2人組を騙して連れ込んで、さっそくおっぱじめようと思ったところで、急に、物凄い臭いに襲われて、意識が遠のいて……
そこまで思い出し、彼はようやく周囲の状況を把握する。自分だけではない。グループの仲間、9人全員が、同じように全身を拘束され、床に横たわっていた。
じゃあ、あの2人は? そう思って見上げたところに——安奈が立っていた。
「おっ、お目覚め? おはよw」
そう言って笑う安奈。床に寝転がっている池下の視線からはミニスカートの中の大胆な紐パンが丸見えだが、彼女は全く気にする様子もない。
「ちょッ、お、オ゙イッ!!これどういうことだよ、説明しろッ!!」
凄んで恫喝する池下だが、安奈は微塵も怯まない。今の状況の立場の差から考えても不思議ではないだろう。完全に身動きが取れない男と、それを見下ろし仁王立ちする少女という間なのだから。
その彼に対し、安奈はこう応じる。
「あー、説明とかめんどいからパスね。説明しても、どうせこの後全員殺すしー」
「んなッッ!!?」
仰天し目を丸くする池下。そこに、玄関からビニール袋を持った皐月が帰ってきた。近所のコンビニで食料の買い出しをしてきたところだ。
「あ、皐月おかえりー」
「うい〜。ん、1人起きた?」
「起きたよー。今日の私達のミックスすかしっ屁なら30分は気絶させられるって読み、大正解じゃん、アハハッw」
「ふふっ、広くない部屋とは言え、充満させただけで7人全員落とせるとは、我ながら恐ろしいわ〜」
そう言いながら、皐月は安奈に髪パックのいちごミルクを手渡し、自分はコーラのペットボトルを開けてぐいっと一口飲む。
「しっかし、アンタら、集団レイプの常習犯でしょ? んふふっ、悪いことは自分に返ってくるって先生から習わなかった? 今日の私達に声掛けたのが運の尽きだったね」
「ホントそれなw 今日の私達におなら責めされるなんて相当前世で悪いことしたヤツらだよねって話してたんだけど、こんなサイテーなヤツらなら納得だわw」
そう話して笑う皐月と安奈。
彼女達が言う「今日の私達」という言葉。それが意味するところを端的に説明すれば——この日の彼女達は、2人とも揃って便秘9日目の超地獄級腸内腐敗状態ということだった。
「ねー皐月、私からいい? もう下っ腹ぱんッぱんでつらたん〜」
「ふふっ、ま、いいわ、最初は譲るw」
「サンキュ♪」
そう言ってニコッと笑うと、安奈は、池下の頭髪を掴んで引き上げる。
「い゙ッッ痛ででッッ!!!おいッなにすん——んむふぎゅうッッ!!?!?」
彼にはほんの一瞬の反抗しか許されなかった。次の瞬間には、池尻の顔面は、安奈のミニスカートの中、むっちりと肉々しい巨尻の中へと、完全に埋没していた。
そして、地獄の門が、開く。
「——ふんっ♪」
ぶぅうぅうぅッッぼばああぁぁぁああぁああーーーぁぁあああーーぁああッッ!!!!!
ぶぶふッッ!!!ぶずッ!!!ぶッッ!!!ぶッりいいぃいいいいッッ!!!!!
ぶりぶりゅぶッぼぼゔぁああぁぁあああーーぁあああああーぁぁああああッッ!!!!!!
「んんんなあがあがああぁぁあーーぁああぁッッ!?!!?
あがッッ!!!はああごぇえぇえええッッ!!!!?
はんッッぎゃああぁぁぁああぁああぁああぁああぁあああッッッ!!!!!!」
——その超爆音は、完全防音が施されたこの一室ごと、雑居ビル全体を揺さぶったようにさえ思えた。
それに伴って上がった喉が千切れんばかりの池下の絶叫も、完全に安奈の肛門が轟かせた超爆音にかき消される。
その超爆音の反響がようやく止んだところで聞こえてくるのは、
「きゃっはは!ww えっぐwww」
という、端からそれを見る皐月の笑い声だけだった。
安奈の方も、
「………ふぅ、スッキリ♪」
と言って、本当に開放的な表情でケラケラ笑いながら、右手を離す。
どさッ。
その超人的な爆音放屁を浴びた池下は、床に崩れ落ち、ぴくりとも動くことはない。
安奈はそれを見て、
「ありゃ、いきなり死んじゃった。ちょい濃すぎたかー。ま、こんだけいるし、別にいいよね?w」
と言ってはにかみ、この部屋に残る、6人の男達を見回した。