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 その日、安奈は遊び相手募集のマッチングアプリを眺め、目ぼしい相手を探していた。
 理由は「なんとなく」「暇だったから」。彼女が男を堕とし、おなら責めして奴隷にする理由は、いつもそんなものである。
「どれにしようかなぁ」
 ページをスクロールし、「好み」の相手を探す安奈。
 嗅がせて苦しませられれば、相手は男なら何でもいいという皐月に対して、安奈はどちらかと言うと相手にこだわるタイプだ。意外にも、純朴でおとなしそうな、あまりイケてない男が安奈の好み。そういう男に期待を持たせた上で、一気に堕とす快感が堪らないらしい。もちろん、恋愛対象としてではなく、奴隷にする相手として、という意味だが。
「んー、これでいっか」
 写真と出会いの条件から、安奈はひとつの案件をタップした。それは黒縁眼鏡をかけた、いかにも非モテの若者といった風貌の男。名前はマモル。即日の条件だが、単独ではなく、2対2での「遊び」を希望して募集しているあたりも、気弱な感じがしてそれっぽい。しかし所謂「お茶」を経ずに、いきなりレンタルルームで「遊ぶ」ことを希望しているあたりは、話が早そうである。
 2対2ということは、こちらは皐月を誘うことになるが、まぁきっとOKだろう、と安奈は考える。皐月への連絡は後回しにして、安奈はその出会い案件にメッセージを送った。
 返信はすぐにやってきた。ふたつ返事でマッチング成立である。待ち合わせの時間は1時間後。せっかちな相手だが、安奈の方も、下腹でグルグル鳴っているガスを早く嗅がせたくてうずうずしていたのでちょうど良い。
 彼女はすぐに出掛け、待ち合わせ場所へのタクシーを拾いがてら、皐月にメッセージを送った。しかし……

さつき

さつきち〜

いま暇?これから初見の2人と22で遊ぶんだけど来ない?

ごめ!ウチP活!

電話する!

という返信が返ってきて、すぐに音声通話の着信があった。
「もしもーし、皐月暇じゃないん?」
「ごめんごめん、こっちも今新規のPと会っててさ」
「今?電話して大丈夫なの?」
「あ〜だいじょぶだいじょぶ、もうホテルで、P今お尻の下だからw」

ぶぶゔぉおぉおぉおぉおっっ!!!!ぶりぶりぶずううぅぅーーぅうーぅううぅううっっ!!!!!

 軽い口調の皐月の言葉の直後、スピーカーが音割れを起こすほどの大爆音が響き渡り、続いて
むんぐぅうぅうううううッッ!!!!
という絶叫も聞こえてきて、安奈は思わずスマホを耳から少し離してから、ケラケラ笑う。
「いや出過ぎ出過ぎww」
「あははっ、そう? 確かに今日朝からお腹張り気味でさ。昨日の焼肉食べ放題からの締めのラーメン特盛2杯が効いたかなw」
「ホント好きだよねー。てかこの時間からもうホ入りしてるの?早くない?」
「それがさ〜、会う前は『好きなもの買ってあげるよ』なんて言ってたくせに、デパコス10個くらい爆買いしただけで渋られてガン萎えしたから、“おねだり”しようかと思ってさっさとホに来ちゃったw あ出る」

ぶりゅっぅすうううぅうぅうーーーーぅうーーーぅううぅううぅうっっ!!!!!

 電話の向こうでさらに追加の1発は鳴り響いた後、皐月のくすくす笑いに続いて、

んんぎゃあぁあぁあッッ!!!ぐッッ!!くッせええぇぇええぇえッッ!!!!!

という男の叫び声が聞こえてきた。どうやら電話の向こうで皐月が尻を持ち上げたらしい。
 皐月は、安奈にも会話が聞こえるように通話はスピーカーフォンにして続けたまま、スマホを操作し、尻に敷かれていた哀れな男に“おねだり”を始める。
「んふふっ、ね〜え〜、私、欲しいものがあって〜。このグッヂのお財布とバッグなんだけどぉ〜」
「は、はひ……、って、んなッッ!? 十八万と、よ、四十五万!? あ、あの、さ、さすがにこれは——」

ぶぶぅぅうおぉおおぉおーーーーーーぉおおおぉおおっっ!!!!!

むげえええぇええええッッ!!!!ぐじゃずぎッッ!!!!ぐぇぇえええッッ!!!

「えぇ〜?ダメ〜?超可愛いから欲しいのにぃ〜」

ッッすうううぅうぅうーーーーーぅううーーーーぅうううぅうううううう………ッッ!!!!!

はあぁああッッぎゃああぁぁぁああぁあああッッ!!?!?
ズガジッッ!!!ズガジぐッッぜええぇぇぇぁぁーーぁああぁああッッ!!!!!

「買ってくれないんならぁ、腹いせにスカシ連発しちゃおっかなぁ〜?w」

あッッあぁぁぁああッッ!!!!ごッッごめんなじゃッッ!!!!
買いまずッッ!!!買いまずがらッッおッおならッおならやめでぇえぇえッッ!!!!!

「んふっ、やったぁ〜♪ww」
 ——というやりとりを、媚び媚びの猫撫で声でした皐月は、どすんっっ、という音と共に再び男の顔の上に巨尻を落とすと、声色をいつものものに急に切り替えて安奈との通話に戻る。
「……ってわけで、“おねだり”成功したから、もうちょっと遊んで、お買い物行くわ。その後だったら合流できるかもしれないけど」
「あいー。んじゃ、とりまウチ一人でやってるから、終わったら来て!」
「りょ〜。じゃあまたね」
 こうして皐月は取り込み中であることが分かり、2対2の出会いが成立しなくなってしまった。皐月の予定を事後確認した安奈の大雑把なところが出てしまった形だが、それでも彼女は特に気にする様子もなく、ま、いっか、くらいに考えていた。これから会う相手を、はじめ1対2だったとしても納得させられる絶対的な自信があるからこそ、そう思えるとも言える。
 こうして安奈は、一人で待ち合わせ場所に向かうことになった。

 待ち合わせ場所に到着し、スマホを弄っていた安奈に、
「キミ、安奈ちゃん?」
と声をかけた2人組の男。
 安奈は顔を上げ、2人の姿を見て——やや眉を顰めた。
「俺、連絡したマモル。で、こっちはヨシキね」
「ヨロシクw 悪い、待たせちゃったかな?」
 何故なら、現れてそう言う男は、アプリ上の写真で見たのとは全く異なる、金髪、ピアスに銀のネックレスをじゃらじゃらとつけた、典型的な「チャラ男」の2人組だったからである。
 2人のチャラ男は、安奈を左右から取り囲むように立ち、ニヤけながら距離を詰めてくる。
「いや、めっちゃ可愛いじゃん!可愛すぎてマジビビったわw」
「スタイルもいいねぇw ぶっちゃけモテるでしょ?」
 そう言って安奈の身体をじろじろ眺める2人。今日の安奈は、非モテ君を悩殺して弄ぼうと思い、タイトめで胸元が強調されるTシャツに太腿丸出しの超ミニスカという私服を着てきていた。男の視線を集めたのは狙い通りだったが、それは彼女が好きな非モテ君からのチラ見ではなく、チャラ男からの舐め回すようなガン見だった。
 一方、安奈からの訝しむような視線を受け、マモルはニヤけ顔はそのままに、
「ん?どうかした?」
と尋ねる。
「んー、なんていうか、写真と違うなぁと思って」
 素直にそう答えた安奈に、マモルは、
「ハハッw やっぱそう思う? イメチェン成功してさw」
と言う。が、明らかにあれは別人の写真だった。おそらく、気弱そうな男の写真を設定して安心させ、いざ会ってからは上手く言いくるめて逃さない、という手を使って女の子を騙しているのだろう。
 続いて、今度はヨシキの方が安奈に尋ねる。
「もう一人の子は?まだ来てないの?」
「それが実は、来る予定だった友達、急にバイト入れられちゃったらしくて、結構遅れちゃうみたいでぇ。それでもいいですかぁ?」
 安奈はそう言って、ヨシキに上目遣いを送る。それを聞いた2人は、一瞬顔を見合わせたが、すぐに歯を見せてニィッと笑った。
「そうなんだ、いいよいいよ、全然。安奈ちゃん一人でも」
「ああ、安奈ちゃん可愛いしw」
 当然、それは予期していた返事だった。このシチュエーションで、2対2の約束だったのに、と不平を言ってきた男は、今まで一人もいない。誰もが皆、安奈が明らかに2人分以上の魅力を持っていることを認め、彼女を逃すのは勿体ないという心理で、1対2を受け入れる。
 一方、安奈の方も、マモルとヨシキを見つめ、心の中で
(んー、思ってたのとは違ったけど、ま、今日はこれはこれで楽しむとするかぁ)
と呟き、にっこり、と男心を蕩けさせる必殺の笑顔を浮かべた。
「うん、じゃ、行きましょっか♪」

 安奈御用達の完全防音レンタルルームにやってきて、すぐに「遊び」は始まった。もちろん、安奈による一方的な「遊び」である。
ひッッひぃぃいッッ、や、やめッ、許じで——ッッ!!!
ぐッゲホッゴホッ!!!ぐ、ぐじゃい、ぐじゃいよぉおおぉ……ッッ!!!
 ささっと15分ほどで調子に乗っていた2人のチャラ男を「わからせ」た安奈は、ソファにどかっと腰を下ろし、ふんぞり返って脚を組むと、床を指差して、
「うん、まず土下座ね♪」
と2人を並べて土下座させる。そして、マモルとヨシキの2人にこう命じた。
「私、猫より犬派だから、従順な子が好きなんだよね。てわけで、私に必死に媚び売ってみて?wで、反抗的だった方は殺すから♪ 奴隷選抜オーディションね。合格者はどっちか1人、不合格だった方は死刑w」」
ぃぎッッ!?こッ、殺——ッッ!!?
やッ、ま、まさかッ、そ、そんな——ッッ
 当たり前のように安奈の口から出た「殺す」という言葉に、ギョッとして思わず顔を上げる2人。冗談を言っているのだと信じたくて彼女の表情を窺ったのだが、彼女はきょとんとして首を傾げた。
「何?信じてないの?」
 安奈はそう言って、ソファの上でくいっと片尻を持ち上げた。

ぶゔぉぉおぶゔッッずううぅうぅううーーーぅううーーーーぅううぅうううぅうううッッ!!!!!

 そして轟いた、安奈のベビーフェイスからは想像もつかないような重低音から2秒ほどのタイムラグを置いて、マモルとヨシキの顔が驚嘆に歪んだ。

ぃぃいえぇえッッ!!!?ぐッッぐぜへげぇえぇえーーぇえぇーぇえぇえええッッ!!?!?
なッッ何ごれッッうぐッッくッ臭すぎッッ臭すぎいぃいぃーーーぃいいいッッ!!!!!

 ここまで手始めとして顔に尻を押しつけられ、各々数発ずつのガスを喰らわされ、彼女の恐ろしさを「わからされ」てよく理解していたはずの2人。その2人が、信じられない、という表情を隠すこともできず、絶叫する。それまでとは違い、顔面に直接ガスを噴射されたわけでもなく、少し距離を置いたところに座っている安奈が、彼らとは異なる方向の中空に向けて放屁しただけであるにも関わらず、彼らの鼻に届いたのは、一度理解したはずの激臭を大幅に上回る超激臭だったのだ。
 安奈は持ち上げていた尻を元の位置に戻して座り直し、鼻や喉をおさえて苦しみ悶える2人に、にこっと微笑む。
「ね?分かった? ガンキしてゼロ距離でこのくらいの濃さの20発くらい嗅がせたら、若くて元気な男でも余裕で死ぬと思うよー、アハッw」
 ——本気なのだ。彼らは本能でそれを理解し、戦慄する。
 彼らの顔色がスーッと変わったのを見て、安奈が、
「で?私に服従して奴隷クンになるか、おならで処刑されるか、どっちがいい?選んでいいよーw」
と言うと、2人は慌ててガバッと土下座の姿勢に戻った。
あッッしッじまずッッ、ふ、服従じまずッッ!!!
あッ安奈様のッ奴隷になりだいでずぅううッッ!!!
 その2人を見て、安奈は満足げに微笑み、組んでいた脚を解いて、左右の足を2人に差し出す。
「んじゃ、まずは私の靴ぺろぺろして綺麗にして?」
 そう命じられ、2人は恐る恐る顔を上げ、安奈のローファーの表面に舌を伸ばす。彼女が普段から愛用している土足のローファーを、舐める。オラオラ系で通していた彼らには屈辱この上ない行為だが、そう言っていられる状況ではない。彼女の迂闊に機嫌を損ねることを恐れ、ちろちろと爪先の部分を舐めている。
 が、安奈にはむしろそれが気に入らない様子。
「ねー、何そのやる気ない舐め方。もっと舌全部使って、靴底までピカピカにして。それとも死にたいん? 2人も不合格でおならで蒸し殺してあげる?」
あがッッ!!いッいやッッ!!!
もッ申し訳ございまじぇんッッ!!!
 そこまで言われて、2人は懸命に舌を伸ばし、ローファーの表面だけでなく、けして口を近づけたいとは思えない靴底もべろべろと舐める。その必死さを見て、安奈はようやく満足したようだった。

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