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 大学生の濱田 浩太(はまだ こうた)は、アルバイトを終え、くたびれた様子で電車に乗り込んだ。
 帰宅ラッシュも終わり、空いている車内。
(疲れたなぁ……、でも今日はバイト代も出たし、今月は割と頑張ってシフト入れたから結構貰えたかな)
 そんなことを考えながら、座席に座り、目的もなくスマホを手にとって眺めていた彼にとって、次の駅で思わぬ展開が待っていた。
 大きめの駅で降車による人の入れ替えがあり、ますます閑散とした車内。そこに、一際目を引く2人組が乗ってきたのだ。
「——っていう感じ?」
「何それマジウケるんですけどw」
 制服姿の女子学生2人組。コーヒーチェーン店のフラペチーノを片手に持ち、仲良さそうに話しながら乗り込んできた彼女達が目立った理由は、至極単純。2人とも、超がつく美少女だったのである。
 濱田は、つい2人を目で追ってしまった後に、怪しまれるとまずいということにハッと気づき、慌ててスマホに視線を戻す。だが、彼女達は濱田の視線には全く気づく様子もない。そして2人はそのまま、濱田の座るちょうど正面の座席に、並んで腰を下ろした。
(え、す、すご………ッ)
 濱田は、思わず心の中でそう呟いた。
 目の前に座られたら、視線を逸らす逸らさないの問題ではなく、2人の姿は自然と視界に入ってくる。そうして改めて、2人は、彼自身が高校生だった頃を含めて、これまで出会ったことがないくらい圧倒的な魅力を誇るJKであることが分かったのだ。
 きゃぴきゃぴした茶髪の子はセーラー服、どちらかと言えば落ち着いた雰囲気の黒髪ハーフアップの子はブレザーと制服が違うため、2人は学校の友達ではないと思われるが、それでもとても仲が良い様子だった。そして制服こそ違うものの、2人とも共通して、スカートを激ミニまで短くして着こなし、若さゆえ張りのある肌の生脚を誇示するように剥き出しにしていた。
 濱田はつい、生唾を飲み込む。周りの目も気にせず堂々と生脚を組む黒髪の子と、大股を開いたけして上品とは言えない格好で座っている茶髪の子。2人とも、脚は針金のように細い、というタイプではなく、むしろ太腿まわりに、むちぃッ、とボリュームのついた肉付きの良い両脚を持っていた。女子の立場からはどうか知らないが、男性目線で言えばそちらの方がそそられる、健康的な脚だった。
 濱田は、こっそりと左右の周囲を疑う。空いた車内。周りには、彼女達を除いてほとんど人はいない。
(う、うぅ………ッ)
 周囲には誰もいない。彼女達はお喋りに夢中。今なら、絶対に気づかれない。
 濱田は、堪えられなかった。手に持っていたスマホをカメラモードに切り替え、ムービー撮影を開始して、こっそり正面の彼女達に向ける。彼はそういうことをする人間ではない。ごく真面目に生きてきたタイプの大学生だ。だが、そんな彼すら邪心に抗えなくなるほどの誘惑を、目の前の2人組は放っていたのだ。
 彼が思った通り、2人は彼の盗撮に気づく様子もなく、お喋りを続けていた。
 2人はスマホを取り出し、お互いに面白い動画か何かについて教え合っている様子だった。彼女達はスマホを手に持つために、それまで持っていたフラペチーノのプラスチックカップを、自分の胸の上にちょこんと載せた。
(す、すご、でッか……)
 そんなことが出来るのは、当然ながら、彼女達が2人とも並々ならぬ巨乳の持ち主であるためだった。胸の上に載せられたカップは驚くほど安定し、2人はスマホを見せ合って話しながら、時折ストローに口をつけてノーハンドでドリンクを飲んでさえいる。その慣れた素振りから、2人共に、自分の巨乳を日頃からカップ置き場として使っているらしいと伺える。
 手が震えて不自然に思われないよう細心の注意を払いながら、そんな彼女達の姿を動画に収める濱田。ここまで来ると欲が出て、もっと何か起こらないだろうか、という期待を抱いてしまったところで——
「アハッ、マジそれなーww」
と笑いながら、茶髪の子が、ごく自然な様子で片足を持ち上げ、ソックスに両手を伸ばした。
(——ッ!?)
 濱田は、思わず声が出そうになったのを必死になって抑えた。茶髪の彼女は、ただ何となく、やや下がってしまっていた短めのソックスの位置をちょっと直そうとしただけなのだろう。が、片方の膝を上げ、脚を広げるそのポーズは、正面に座る濱田からすれば、太腿の絶対領域がはっきりと覗き込める、絶好のアングルを作り出す一瞬となったのだ。
(み、見え……ッ! ぴ、ピンク………!)
 顔が熱くなるのが分かる。彼女達に気づかれはしないだろうか。怯える彼だが、2人は彼に目をくれる様子もない。
 それどころか、今度は黒髪の子の方が、
「いやないわ〜、それは」
と言いながら、大胆にガバッと片脚を持ち上げるようにして、脚を組み換えた。
(こ、今度は、ひょ、豹柄……ッ!? すっご……、ま、マジか………)
 一瞬ではあったものの、はっきりと下着の柄まで見える脚の組み替えを前に、濱田は膝の上においたリュックサックで股間の膨らみを隠すので精一杯だった。自分のスマホを見る。動画は、確かに録画されている。今の2人のパンチラも確実に捉えているだろう。
 濱田はすっかり、目の前で生脚を晒しながら胸の上にフラペチーノを載せてスマホを弄り、お喋りしている2人組の虜になっていた。もう、自分がいけないことをしているという意識が薄れ始めてさえいた。
 と、そこで、彼が一人暮らしをするアパートの最寄駅に到着した。
 ハッとして、慌てて立ち上がる濱田。このまま彼女達をずっと眺めていたかったが、いつ盗撮がバレるか分からない。正直言って、撮れ高は十分すぎる。バレずに済んでいる今のうちに退散するのが身のためだ。そう思い彼は、リュックを背負わずわざわざ股間の前を隠すように持って、そそくさと電車を降りたのだった。

 ——必死になっていたそんな濱田は、気づかなかった。
 彼が降りるのを見て、2人組は顔を見合わせ、にんまりと微笑んだ後、電車のドアが閉まる直前に彼を追うようにして同じ駅で下車したことに。
 そう、2人組——安奈と皐月は、彼の盗撮のことをとっくに把握していたのだ。
 彼女達はスマホで動画か何かを見せ合っているふりをして、その実、メッセージアプリで口頭とは異なる会話をしていた。

さつき

撮ってるよ

撮ってるねwww

いや安奈ソックス直した瞬間めっちゃ凝視してんじゃんww

ホント小悪魔だよね安奈は

私の脚組み直しにも超反応して真っ赤になってるしw

ああいうウブ系男子、安奈好きでしょww

あーね

きゅんだわ😇

んじゃアイツで決定ね

本日の奴隷けってーい!

(どうして、どうしてこんなことに……)
 ——それから1時間後、濱田はラブホテルの一室で、事態の深刻さを思い知り、絶望していた。

 電車を降りて駅を出た後、背後から例の2人組に呼び止められ、盗撮のことを問われた濱田。終わった、と愕然としたものの、意外にも彼女達2人はそれを追求することなく、むしろ逆ナンとも言うべき形で彼をホテルに誘ったのだ。
 訳がわからぬまま、また、いけないことと思いつつ、彼女達2人の圧倒的すぎるエロさと魅力に抗えず、3人でホテルに入ったのが、彼の本当の「終わり」だった。あっという間に2人がかりで組み伏せられ、左右両方の手首、足首をベッドの支柱にロープで拘束されて寝かされた彼は、まず手始めに、安奈から、

ぶぅうぅすうぅーーーぅうーーぅうううぅうううッッ!!!!

 皐月から、

ぼぼふぉおおぉおーーーぉおおおーーーぉおおおっっ!!!!

と一発ずつおならを浴びせられ、その信じがたい超激臭によって現実を思い知らされ、絶望の谷底に突き落とされたのであった。

「じゃんけん、ぽんっ♪ アハッ、やったー、私からねw」
 皐月とじゃんけんをし、勝利した安奈は、ベッドの上で仰向けの大の字になっている濱田の胸の上に、彼の顔に背を向ける向きで、どすッ、と腰を下ろす。
 胸の上に載った安奈の生パン越しの柔らかい巨尻の感触。だが、世の全ての男を恐怖に震撼させるあのとんでもない放屁を嗅がされた後となっては、濱田にとってそれは心地よい感触ではなくなっていた。
「んふっ」
 そして皐月も、妖しげにほくそ笑みながら、濱田の顔の横あたりのベッドの上に腰を下ろし、彼を見下ろす。胸の上には安奈が跨がり、顔のすぐ横には皐月が座っている。彼女2人の本性を知る者ならば、これが竜と虎に囲まれたハムスターとも言うべき状況であることが分かるだろう。
「さーてと」
ひッッ!!
 安奈は濱田の胸の上に座ったまま、制服のミニスカートの後ろを捲り上げる。現れるのは、やや後ろ、つまり濱田の顔の方に向けて突き出し気味の格好で、ピンク色のフリル付きパンティに包まれた、超巨大な桃型の尻。濱田の喉の奥から、思わず恐怖の高い音が漏れる。
 そんな小さな悲鳴を無視して、安奈は彼のリュックを持ち、勝手に中身を物色し始める。最初に手に取った財布を開き、
「5千円しか入ってないじゃんw」
と札入れの中身を鼻で笑った後、カード入れから彼の学生証を取り出した。
「濱田浩太クン、へー、M大工学部2年生って、割と頭いいんじゃん?」
 そう言って彼女は、彼の学生証をスマホでパシャッと撮影する。
「ちょ、ちょ——ッ」
「ん?何?」

ぶずぶぶぁぁあぁあああぁああーーーぁあああーーーぁあああぁあッッ!!!!!

って、ぬむげええぇぇええぇえーーぇぇええぇッッ!!!?
ぐッッぐッざああああぃいぃいぃーーーーーぃいぃーーぃいぃいいッッ!!!!!

 安奈の軽い返事に続いて、当然のように尻割れから噴射し、真後ろの濱田の顔面に直撃する、生暖かいガス。身の毛もよだつ、信じられない濃度の放屁を浴び、彼の顔つきがいびつに捻じ曲がる。
「アハッ、臭かった?w」
 それでも相変わらず口調を変えずに軽く笑い飛ばしながら、用済みになった財布と学生証をポイッと投げ捨てる。そしてリュックの中をさらに漁り、今度は茶封筒を発見して、にんまりと頬を緩めた。
「あ、お金入りの封筒はっけーん♪」
 そう言って中身をあらため、皐月に見せる。皐月も
「ふーん、今日お給料日だったんだ。8万かぁ。まぁまぁだね」
と言ってうっすらと笑みを浮かべる。
 茶封筒から8枚の1万円札と数枚の千円札を取り出した安奈は、軽く振り返り、顔の横に持って広げる。そして背後の濱田に、これまで何百人もの男を落としてきた、とびきり可愛らしいスマイルをニコッと向けた。
「なら、とりあえず私達が貰ってあげるね♪」
 当たり前のように言った安奈の言葉に、濱田は、
えッ!いやッあのッッ
と当惑する。
 が、

ぶりゅッすうううぅーーぅぅうぅうーーーーーーーーーーーーーーぅううーーうううッッ!!!!!

ふぎゃッッ!!?うッぎゃああぁぁあぁああぁあぁああッッ!!?!?

 キラースマイルを浮かべたまま安奈が放った、とんでもない長さの一発に、濱田は絶叫した。
 そのなが〜い一発に、皐月もお腹を抱えて破顔する。
「ふふふっ!いや、そのおにカワな笑顔で出す長さのおならじゃないでしょ、それw」
「えー?そう?」
 くすくす笑う皐月と、けろりとして札束を扇状に広げぱたぱたと扇ぐ安奈。そして人生で体感したこともないロング放屁をモロに浴びたショックで悶え続けている濱田。
 安奈は手を伸ばし、その濱田の頬を撫でるように紙幣を触れさせて、
「貰っていいでしょ?」
と、小悪魔的に小首を傾げる。と同時に、彼は胸の上に載っている巨尻から、

ぶッ!!ぷすッ!!

と短く2発のガスが漏れ出していることに気づき、震え上がった。
あ゙ッッ!!ぃひッッ!!いッいいでず……ッッ!!!
 そう言った、いや言わされた濱田に、
「アハッw ありがと♪」
と短く返して微笑んだ安奈は、彼の今月分のバイト代全額を2回折り畳み、胸元のボタンを開けて巨乳の谷間に差し込んで収納する。そして、右手の人差し指を立て、顎にあてて「んー」と考え込む仕草を見せてから、こう続けた。
「今月のバイト代8万だったんならー……、来月は12万、目指そっか♪」
ッッ!!?
 キュートな仕草から横暴な一言に、濱田もギョッとして目を見開いた。学業をしながらのアルバイトをしている彼にとって、今月8万円もかなり頑張ってシフトを入れて稼いだ金額なのだ。にも関わらず、彼女が口にしたのはあっさりと1.5倍の金額。それも、その言葉の意味は、「来月は12万稼いで、全額貢げ」と言っているのである。
 その濱田の反応を、安奈は明るく笑い飛ばす。
「アハハッ!何嫌がってんの? 大学生ならシフト増やせばいけるでしょ?」
 さらに皐月もそれに続く。
「安奈が50%アップで妥協してくれてるんだから、今のうちに頷いといた方がいいよ〜。ウチらの共有ATM奴隷になってる他の大学生には、月25貢がせてるのもいるし。ま、そいつは昼夜逆転の夜勤掛け持ちしてるから、授業もほぼ出なくて留年確定みたいだけどw」
「そうそう、キミにはそこまで要求しないからさ、来月12ね♪ あ、1円でも足りなかったら殺すからw」
「だってさ、わかった? んふふっw」
 そして、さりげなく座る位置をずらし、安奈も皐月も、濱田の顔に向けてじりじりと巨尻を近つける。この2人の尻がにじり寄ってくる迫力は、脅威的。彼に逆らえるはずがなかった。
は………、はひ…………ッッ
 無理矢理ながら頷いてしまった彼に、安奈は今度は優しく微笑みかける。
「いい子いい子♪ そんじゃ、ご褒美に私にチューする権利を与えてしんぜようかなー」
 そう言って彼女は——濱田の胸の上で正座するように座り直すと、腰を少し持ち上げて、みちみちに食い込むピンクのパンティに包まれた巨尻を、ずいッ、と突き出した。
い゙………ッッ!!!
 ただでさえデカい尻が、ますますデカく見える……。窮する濱田に、安奈は
「クスッ、一瞬期待した?w 残念だけど、キミがチューするのは、私のお・し・り♪」
と言って、茶目っ気たっぷりにウインクして見せた。

ぶりッッ!!!ぶりぶりゅぶりぶッりいいいぃぃーーーぃいーーーぃいいぃいいいッッ!!!!!

 ——が、そのウインクと同時に放たれたのは、耳を覆って泣き出したくなるような下品な水っぽい爆音放屁だった。

うぎゃひッッ!!!? ぐッじゃッッ!!!ごぶふッッ!!!!
やッッ!!!ぐッじゃあぁぁぁぁあーーーぁあぁあああああッッ!!!!!

 濱田の目には、安奈の尻肉でパツパツに張ったパンティの生地の一部が、ガスの風圧で何度も繰り返し膨らむのがはっきりと映ったことだろう。
 彼の悲痛な叫びの一方で、皐月と安奈は2人揃って爆笑している。
「ちょっと〜w やだ、ウケるww」
「アハハッ!しっつれーい、ブリブリ系のエグいの出ちゃったw」
 安奈は照れも恥ずかしがりもせず、あっけらかんとしてそう言うと、さらにもう少し、尻を後ろに寄せる。
「じゃ、ちょうど今ブリブリッとガスが出たパンツのここのとこにチューねーw」
ひぎッッ、やッ、やめッ、ゆ、許しで………ッッ!!!
 当然ながら拒絶する濱田。その彼を、皐月と安奈がおちょくる。
「んふっ、嫌がってる嫌がってるw 電車ではウチらの生脚とパンチラガン見して鼻息荒くしながら盗撮してたくせに」
「それな! 私にチューできるなんてガチ幸せ者なんだからね? 感謝してディープキスしなよw」
「ふふっ、ディープはえぐいてw」
「アハハッ、盗撮魔にはお尻の激臭おパンツがお似合いの相手だってw ねー、さっつん、後ろから頭抑えてブチュッとさせてよ」
「ったくもう、仕方ないな〜」
 安奈に頼まれ、皐月はやれやれというように小さく首を振り、半ば呆れた笑みを浮かべながら、濱田の後頭部を下から支えるように掴む。
んなッ!!やッやめッ!!やめでッ!やめてぐだざッッ!!やッやだッ!!
 涙目になって必死に首を振ろうとする濱田。だが両手両足を固く拘束されている彼にできる抵抗はそこまで。皐月はその首の動きをも封じるために両手を使って彼の頭をがっしりと両側から掴み、持ち上げて、安奈の尻へ向けて近づけていく。安奈の方は、やや冗談っぽい雰囲気も出しながらも、エロティックな巨尻を、ぷりっ、ぷりっ、と左右に揺すって待ち受ける。
やッやだッッ、やめッ、お願ッッ、やだッ、く、くしゃいのッ、やッ、やッッ、あッあぁぁああ——んむぷううぅうぅううッッ!!!!!
 そしてその巨尻のド真ん中に鼻が突き刺さるように、皐月は中途も焦らしもなく、ぎゅむッッ、と一気に彼の顔面を押し付けた。

んぐむッッ!!!むぅぅッぷううぅぅうううぅーーーぅぅううううッッ!!!!!

「ふふふっ!お熱いキスですね〜ww」
「超叫んでるのマジでウケるw んっ♪」

ぶぶふすうぅぅーーーーぅうううーーーーーぅうううううぅううぅうううッッ!!!!!

んんんッッむうぅぅーーーぅううーぅうううううッッ!!?!!

「きゃっはは!w ゼロ距離容赦な〜いww」
「アハハッ!ごめんあそばせ♪」
 テンションが上がり、爆笑する2人。死に物狂いで呻き声を上げる濱田。
 皐月は面白がってさらに腕に力を込め、安奈の尻に彼の顔面をぐりぐりと強く押し付け、ひとしきり笑い倒した後、
「さてと、ここで熱烈なキスの感想を聞いてみようか?」
と言って、にやつきながら、今度は濱田の頭髪を掴んで尻から顔を引き離す。
 涙で顔面をぐちゃぐちゃにした濱田は、
うぐッ!!げほッッ!!ごほッ、オェエエエェッッ!!!! ぐッぐじゃいッッぐじゃずぎでずぅぅぅうッッ!!!!!
と嗚咽を上げる。その反応が皐月が求めていたそのもの過ぎて、彼女の頬はさらに緩み、悪い表情になっていく。
「そんな臭いんだ〜w キミ非モテっぽいし、もしかしてファーストキスだった? んふふっ、女の子ともファーストキスがお尻でしかもおならのオマケ付きとか惨め〜ww」
 興に乗り、言葉責めにも熱が入る皐月。
 ——が、そのとき、

ぶぶぼしゅうううぅーーーーーぅうううぅーーーーーーーーぅうぅううううッッ!!!!!

「あ、ごめ」
 何の前触れもなく唐突に、突き出されていた安奈の尻割れから、鋭い温風と共にガスが噴出した。
 そしてその時には濱田の顔面は引き離されおり、皐月がそのぐちゃぐちゃに乱れた表情を覗き込みながら面白がって彼を追い詰めていたため、噴き出した大量のガスは、彼に代わって皐月の顔に直撃したのだった。

ううぅうッッ!!くッッさ!! ちょっと安奈ぁ!やめてよホントにもう〜!

 今度表情を歪めたのは皐月だった。このくらいの反応で済んでいるのは、それが皐月だから、としか言いようがないのだが、それでも思わず顔をクシャッと崩すほどの激臭をモロに浴びてしまった彼女は、何度も咽せて安奈に非難の視線を送る。
 一方の安奈は、悪びれる様子もなく、ぺろっと舌の先を出してはにかみ、皐月を見た。
「てへ、暴発しちったw」
「いや、『てへ』じゃないから!」
「フフフッ、私の今日のおならはどんな感じ?」
 安奈は皐月にそう尋ねる。何しろ男相手だと嗅がされた側は「臭い」とか「オエエエ」しか言えなくなるため、臭いの客観的な感想を言ってくれるのは皐月しかいないのだ。呆れ顔の皐月は、まだ顔の周りに残り続ける残り香を手でぱたぱたと扇ぎながら少し考え込んで、言う。
「うーん、なんていうか、大根系?」
 その答えに、安奈はケラケラと笑った。
「アッハハハ!今日大根かぁw なんでだろ、今週は基本マック系とかラーメン系ばっかだったんだけどなー。あ、分かった!一昨日にコンビニおでん爆食いしたからそれかもw」
「コンビニおでんガスだったかぁ。あれ結構味付け濃くて効くからね〜。これゼロ距離で食らってる奴隷君かわいそ。もう大根料理無理でしょこれ」
「アハッ!大根料理アレルギーねwウケるww ——あ、また出る♪」
え、ちょ——ッ!!
 笑った調子の良さのままの安奈の宣言に身構えてのけぞろうとする皐月。だが安奈は笑いながら腕を伸ばし、皐月の顔の横に手を添えて引き戻す。

ぶッッすううううううぅぅううーーーーーぅううううーーーーーぅううぅうううッッ!!!!!

うッ!!最悪ぅ!!もうっ、マジでキツいんだからね、こっちは!
 二発目は暴発ではなく、故意に皐月に嗅がせにいった一発になった。おふざけの戯れあい感覚の安奈だが、これには皐月もやや本気のムードで彼女を睨みつける。
「ねぇ安奈、控えめに言って地獄なんだけど今日のガス! うぷッ、大根くっさぁ……」
「いやごめんてw」
 それでも軽い調子で気持ちのこもっていない謝罪を口にするだけの安奈に、皐月の方にも、逆襲心が芽生えた。
「ふ〜ん、そっちがその気なら……」
 彼女はそう言って、右手を自分の尻に、カップ型にして当てた。

ッッッすううううぅぅうぅーーーーぅううぅうーーーーーーーーぅううぅうううっっ!!!!!

「え、あ、ちょ、待——」
「待ちませ〜ん。はいっ」
 そして皐月は、右手をぎゅっと握った後、素早く安奈の顔の前に回し、ぱっと開いて鼻の上に被せた。

って、うぐッッ!!? くッさあぁ〜〜〜〜ッ!!!

 今度は安奈が顔を歪める番だった。
 彼女は本能的に身悶えし、その超激臭から逃れようとする。が、皐月はそれを許さず、形だけ見れば恋人同士が「だーれだ?」をするかのように、右手の上から左手も重ねて安奈の身動きを封じた。
 この安奈の反応の無理はない。と言うのも、皐月がほとんど無音で放ち、右手に握ったのは、普通なら男相手に嗅がせてはいけないレベルの致死級高濃度焼肉すかしっ屁だったのである。
 間接的とは言え、右手の中に充満したそれをモロに嗅がされた安奈は、目に涙を浮かべながら咽せて首を垂れる。
ケホッ、や、皐月、いくら私相手だからって、即死レベルのスカシ握ってくるのやめてよー」
 そう言われても、皐月は、ふん、と鼻から息を漏らし、
「自業自得!」
と短く言うだけ。
 しばらくそのガスを安奈の鼻に擦り込んだあと、ようやく手を離した皐月。それでも安奈は、
「きっつぅ……、鼻おかしくなるぅ………」
と目頭の涙を指で拭っていた。

 そしてこの2人のやりとりを、恐れ慄きながら見ていたのは、もちろん濱田だった。
 あんなに臭かったおならをお互いに嗅がせ合い、両者臭がってはいるものの、どこか馴れ合いのような雰囲気も残る彼女達のやりとりに、2人が自分とは全く格の違う、超人のような存在であるということを、濱田は否が応でも思い知らされていた。

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