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 昼時、午前中で授業を終えた学生がちらほらと街へ繰り出し始める時間。
 知っている者ならひと目で分かる、有名私立お嬢様女子校の制服を着て街を一人歩く彼女の名前は、木戸 皐月(きど さつき)。ほどよく癖のついた黒髪をハーフアップにした清楚そうな装いの一方、ナチュラル気味ながらきちんとメイクされた整った顔立ち、ほんの少し屈んだだけで下着が見えてしまいそうなくらい超ミニのスカートとそこから伸びる生脚を見ると、彼女が「真面目で純真無垢」なタイプというよりは、「遊びを知っている」お嬢様女子校生であることが窺われる。
 彼女のその印象は、この時間、この街で「ワンチャン」を狙っている男達のアンテナに届かないわけがなかった。何しろ、このあたりに溢れている遊び慣れていそうな若い女子学生達の中でも、皐月の容姿は群を抜いていた。読モのスカウトに声をかけられたことも、数えきれないくらいある(基本的に断っているが)。目を引くタイプの美人系美少女の彼女からは、キラキラと輝くオーラのようなものが見えるのではないかというほどだ。
 そういうわけで、皐月にとってスマホをいじりながら歩いているだけで、声を掛けられるのは時間の問題。
「ねぇキミ、暇?時間ある?」
という声で振り返った皐月。じゃらじゃらとした派手なアクセサリーを身につけ、小金持ちそうな長髪の男。そのニヤケ面、いかにもナンパ師といった風貌である。
 もっとも、皐月にとって重要なのはその男のルックスではない。楽しめそうな相手であり、金を持っていそうなことである。
「なんですかぁ? 暇ですけど」
 話しかけた男——守谷(もりや)は至近距離で話して改めて彼女の抜群の可愛さに驚いていた。これまでナンパしてきた中でもルックスは間違いなくナンバーワン。しかも遠目には制服のブレザーで分からなかったが、この子、胸でけぇ……! Fはあるか? 何にせよ、この子を引っ掛けられたらかなりの僥倖だ。これは絶対ものにして、ヤれるところまで持っていきたい……!
 守谷は、はやる気持ちを抑え、表面上は落ち着いてニヒルにキメているつもりの微笑みを浮かべながら、さりげなく皐月との距離を詰める。
「いや急にごめんね。キミ、可愛いね。どう?暇なんだったら、ちょっとお茶しない?」
「うーん、お茶ですかぁ? 私お腹空いてるからご飯がいいなぁ」
「いいよもちろんご飯でも! 何食べに行こうか。キミが好きなもの選んでいいよ」
「えー、じゃあ……、焼肉♪」
「オッケー、焼肉ね。ハハッ、若いなぁ」
「やったぁ!私、焼肉大好きなんです〜♪ いっぱい食べちゃってもいいですかぁ?」
「いいよいいよ、いくらでもご馳走するよ。じゃあ、早速行こうか」

 守谷は、皐月という極上の大物をまんまと釣り上げた気分で共に焼肉店に向かった。
 彼女を確実に物にするため、そして見栄を張るつもりで大衆店ではなく高級店を選んだ彼だったが、その選択は多少後悔することになった。彼女の「いっぱい食べちゃってもいいですかぁ?」は、彼が想像したよりも遥かに凄まじかったのである。若者の食欲を見せつけられ、結果、会計は彼が当初想定していたものの5倍以上にも膨らんでしまった。
 しかし、それでもまだ、彼にとっては許容範囲内だった。店に入り、制服のブレザーを脱ぐと同時に現れたブラウス越しの乳房の盛り上がりは、彼が最初に目算したものを確実に上回る巨乳だったし、テーブル席で向かい合って観察すればするほど、彼は皐月の可愛さに惚れ込んでいった。こんなに可愛く、気品もある女子校のお嬢様がナンパにホイホイ引っかかってくるなんて、レア中のレアである。その健啖家ぶりには驚かされたが、この子をお持ち帰りできるなら、この食事代くらいの投資は安いものに思えた。
 だからこそ、守谷は、ただ彼女に食事をご馳走しただけで終わるわけにはいかなかった。皐月が大量の焼肉を完食し満足げな笑顔を浮かべているところで、
「ねぇサツキちゃん、この後だけど、どうかな、ちょっと静かなところで“休憩”しない?」
と尋ねると、彼女は意外なまでにあっさりそれを承諾した。
 こうして焼肉店を出た守谷は、そのまま皐月を連れて駅裏のラブホテル街へと向かった。逆にまんまと皐月によって「釣り上げられている」ことにも気づかずに……

 そしてホテルに入り、それまで猫をかぶっていた皐月は——豹変した。
 心配だから、と一時守谷にアイマスクをさせると、すかさず彼の両手をベッドのフレームに縛りつけ、驚く彼に放屁責めを始めたのだ。
 そう、皐月もまた、安奈と同じレベルの『異常放屁体質』の持ち主であり、その常識外れのガスを男に嗅がせて悶絶させることに至高の喜びを覚える真性サディストなのである。
んがッッ!!?なッ、が、がはッッ!!!
「んふふっ」

ぶっっすおおおぉおぉおぉーーーぉおぉーーーーぉおおおぉおおおっっ!!!!!

ふぎゃッッ!?!?ぐぇええッッ!!!
ぐぜええぇぇーーーえぇええーーーーーぇぇええッッ!!!!!

 顔面に向けて放たれる、野太い音の放屁。その強烈な腐敗臭に、守谷は声を張り上げて絶叫する。
 そしてベッドの上で首を左右に大きく動かして暴れた拍子に、彼の目元からアイマスクがずり落ちる。その彼の視界に飛び込んできたのは——
え、で、でッッか———
 これまで数多の女性を釣り上げて引っ掛けてきたナンパ師の彼も見たことがないボリュームの巨尻だった。
 黒パンティがみちみちに食い込んだ分厚い尻肉が眼前広がる。制服姿のたたずまいからは想像もつかなかった大きさだ。超ミニから伸びていた太もものボリュームから察することはできたのかもしれないが、大きく迫り出した巨乳の方に気を取られていた守谷が、見えない下半身のサイズ感にまで気づくことはなかった。
 とんでもない大きさの尻、そして、そこから噴き出したとんでもない臭いの放屁。
 誰であっても困惑しておかしくない状況だが、皐月は、彼に容赦を見せることはなかった。
「ん?何?」

ぶむぅうぉぉぉおーーーぉおおおぉーーーーーーぉおぉおおおっっ!!!!!

ッッぅううぅうぅううぅう!!!!ぐえぇぇぇええッッ!!!!!

 今度はアイマスクを取った状態で放たれた2発目で、巨尻を包み込む黒パンティの布地の一点が、ぶわッッ、と膨らむのを守谷ははっきりと視認した。ちょうど、内側に肛門が位置しているであろう一点である。もはやこの激臭が、あの目を見張るほどの美少女、皐月の放屁であるというのは疑う余地もなかった。
おごッッ、げッ、げふッッ!!!おッ、おいッ、じょ、冗談だろこれッッ!!
「冗談だと思うんならもう一発いっとく?」
やッやめッッ!!! い、一体何食ったらこんなクッセェ屁になるんだよ……ッ
 守谷にとっては心からの声が思わず漏れ出した形だろうが、皐月はそれを聞き、くすっ、と笑みを溢す。
「何食ったらって、さっき一緒に焼肉食べたばっかじゃん?」
「いッいや、そうじゃなくて——」
「まぁ流石にさっきのお肉はまだガスになってないかな。でも、言ったでしょ?私焼肉大好きなんですぅ〜♪って。最低週4焼肉は基本だし、私のおならの5割は焼肉で出来てると思うよ、あははw」
 軽く笑い飛ばす皐月と、絶句する守谷。
 笑いながら彼女の言ったことは、ジョークでも何でもなかった。「私焼肉大好きなんですぅ〜♪」の言葉に嘘偽りなく、焼肉は、彼女の大好物なのである。「最低週4焼肉は基本」というのも誇張でもなんでもない。ランチ・ディナーの一日焼肉2食は当たり前、極端な週は毎日違う焼肉店に7夜連続で行くこともあるし、「焼肉の二次会に焼肉」という選択をして、親友の安奈を呆れさせることもある。毎回飽きもせず、大の男の唖然とする量の肉を食べ尽くすのである。
 そんな焼肉・焼肉・焼肉づくしの食生活を送っているそんな皐月の腸内環境は、見た目の端正さ、通うお嬢様女子校の整ったイメージとは正反対に——極悪と形容する他ない状態が慢性的に続いていた。もっとも彼女自身は、『異常放屁体質』が焼肉でブーストされることを好都合に思っているようだが。
「ま、おじさんにゴチになった焼肉は、明日の朝には私のお腹で激臭ガスに変わると思うよ、ふふふっ」

ぶふぉぼばあぁぁぁああぁあっっ!!!!!

ぉごげへぇッッ!!!?や゙ッッ!!!ぐじゃずぎぃぃいぃいいッッ!!!!

「ゴチになったお礼に、今日はたっぷりおなら責めしてあげるからねw」
 皐月は下腹のあたりを手で撫でながらそう言うと、むっっちりと大容量の肉がついた巨尻を、躊躇なく守谷の顔面に下ろした。
ふむぐぉッッ!!?
 皐月のような超がつく美少女からの顔面騎乗。ナンパした時点であれば願ったり叶ったりだったかもしれないが、彼女が超がつく激臭ガスを連発した後となれば話は別だ。それも、顔にのしかかるのが超がつくほどの巨尻だというのも当初からは想定違いだろう。
ふぐんむッッむぐッ、ぐぅうう……ッッ!!!
 もがく守谷。だが、皐月の顔面騎乗は完璧にキマっていた。彼はそこから脱出することはおろか、首を回すことすら出来ていない。呼吸がほとんど制限され、すぐに身体が小刻みにぷるぷると痙攣し始める。
 彼のその苦しみは尻肉越しに皐月にも伝わっているはずだが、彼女は平気な顔だ。
「あーごめんねー。私お尻クソデカいから、ガンキするとマジで息できなくなるっぽいんだよね。苦しい?」
ふぐッッ!!むぐッ、んんぐもぐッッ!!!
「何言ってるか謎だけどたぶん苦しいってことだよねw んじゃ、はい、酸素補給w」

ぼふしゅうううぅぅうーーーぅううーーぅうぅううぅううぅううううっっ!!!!!

ふんむぐうううぇえぇぇーーぇぇーーーぇぇぇええええッッ!!?!!

 熱く乾いた放屁は密着する尻肉と顔面の間のほとんど存在しない隙間にぶわッと詰め込まれ、逃げ場を失ったガスが守谷の鼻腔に押し寄せる。確かにそれは「酸素補給」にはなったが、彼にとっては悪夢そのものだった。
 暴れる守谷。しかし、皐月の顔面騎乗から抜け出せない。大の男が本気で暴れているのに、彼女のずっしりとした巨尻は不思議なくらいぴくりとも動かないのだ。
「無駄無駄。今まで私のガンキから抜け出せたのゼロ人だから」

ぐむぅうぅうぅッッ!!!!ぐぶッッごぐぐうぅぅぅうううッッ!!!!

「ふふっ、じゃあ選ばせてあげる。私のお尻で窒息死するか、それとも私の焼肉ガスで呼吸するか。このままおならしないであげるから、我慢できなくなったらタップして?」
 窒息死、という言葉は、もはや守谷には冗談とは思えなくなっていた。この尻に座られ、鼻と口を塞がれ続けたら、本当に呼吸ができずに死んでしまうのではないか。彼の頭の中で、それは現実味を帯び始めていた。
ふむぐ……ぐ……む…ぷ………ううぅうう……
 時間にすれば僅か1分ほどであっても、尻に敷かれている側にとっては永遠のように長い時間だろう。あの美少女、皐月の尻に顔を埋めているという幸福感など皆無。こびりつく放屁の残臭に苦しめられながらも、迫りくる窒息の恐怖。肺の中の酸素が尽きてくるのがはっきりと自覚できる。このままだと、本当に、ナンパした年若い女子の巨尻で窒息というあり得ない死因で命を落とすことになってしまう。それは……嫌だ、絶対に嫌だ!

む……ぐぐぐううぅうッッ!!!むぷッッ!!!んむううぅううぅううぅうッッ!!!!!

 そしてついに耐えきれず、手を伸ばし、ベッドの上を右手でばしばしと叩く。それを見て、皐月はにやりと微笑んだ。

ぶぼぉおぉおふぉおおぉぉぉーーーぉおおおぉーーーぉおおぉおおおっっっ!!!!!

んごぉおぉおぇえぇぇえぇえぇえッッ!!!?!?
ぐぶぅうぅううッッ!!んぐふぉおぉぉおーーぇぇーーーぇぇええッッ!!!!!

 怪獣の慟哭かと錯覚するほどの野太い爆音がホテルの防音ルームに響き渡る。それと対照的に、小鳥のさえずりように可愛らしい皐月のクスクス笑いと共に。
「大量酸素補給w じゃあまた窒息いってみようか。我慢して我慢して、やっと吸える酸素はすんごい美味しいと思うからファイティ〜ンw んっふふw」

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