そうして安奈に誘われ、薄暗い体育倉庫の中にやってきた小倉は、再度大きく深呼吸してから、ぎゅっと目を閉じて、頭を下げる。
「あ、安奈さんっ!よかったら俺と、つ、つ、付き合ってください——ッ!!」
小倉の声が響いた後、しんと静まる体育倉庫。
数秒待っても彼女からの反応はない。小倉は恐る恐る顔を上げ、目を開けて、安奈の様子を窺う。その安奈は——にんまりとした笑みを浮かべて、手に持ったスマホを彼に向けていた。
「………っぷ、アッハハハ!大成功ぉ♪」
そう言ってケタケタと笑う安奈。彼女を前に、小倉はただ呆然として立ち尽くすしかなかった。
「え……? な、何が…………?」
と声を絞り出す小倉にも、彼女はまるで取り合う様子はない。と言うのも、彼女は手に持ったスマホを使って、画面の向こうの相手と会話をしているらしかった。スピーカーモードになっているそのスマホからの声が、小倉にも聞こえてくる。
「さすが安奈。これは新記録級じゃない?」
「出会って25分で告らせたのは確かにかなりの好記録だわw でも私の最速記録は出会って30秒後に告られた小学生時代だから、アハハッw」
「いやぁ、それは殿堂入り扱いでしょ」
先ほどまで紅潮していた小倉の顔には、大粒の汗が浮かんでいる。それまでは幸福に舞い上がっていた彼にも、段々と状況が掴めてきた。——騙されたのだ。
そう、小倉は初めから安奈の術中に嵌っていた。これは彼女が友達と仕組んだ「ゲーム」。初対面の男子をどれくらいのスピードで堕とせるか、という遊びだったのだ。
午前中の休み時間、メッセージアプリで交わされた、
というやりとりによって突発的に開催されたこの意地の悪い「ゲーム」。
そしてその様子は、購買での焼きそばパンのくだりから、安奈の胸ポケットの中でビデオ通話状態になっていたスマホのカメラによって、離れた場所にいる1人の友人のもとに配信されていた。小倉が焼きそばパンを譲り、自分の分のパンを慌てて買いに戻った姿も、体育倉庫裏であたふたしながら必死に面白いことを言おうと雑談していた姿も、画面の向こうの友人に眺められ、笑われていたのだった。
「んな、ちょ、ちょ——」
慌てふためく小倉のことを、安奈は、先ほどまでとは打って変わって全く興味ないように無視して、友達との通話に興じる。
「今日は割とトントン拍子でうまいこと進んで楽勝だったわ♪」
「くすくすっ、話しかけた時のキョドり方見てたらほぼ勝ち確だったもんね。で、おっぱい押しつけた瞬間に堕ちた音聞こえてきたしw」
「アハハッ、何その音w」
「ま、安奈はオープンだし勘違いさせがちだから、何もしなくても周りの男子が勝手にガチ恋になってくもんねぇ。今まで何人くらい堕としてきたのよ」
「えー?知らなーい。中学の頃から合わせたら300とかじゃない?あんまり多く持ってても管理めんどくて、遊び終わったら捨ててるしなー」
そんな会話を聞く小倉は、わなわなと体を打ち震わせていた。彼にはもう、僅かな希望も残っていない。目の前にいる美少女に担がれて、弄ばれていたと完全に理解できていた。
安奈はふと顔を上げ、そんな彼を見て、フフン、と鼻から息を漏らすようにして笑うと、昼食を一緒に食べていたときとはまるで異なる調子でこう言う。
「じゃ、小倉センパイは私のガチ恋奴隷ね。仲間は今この学校に21人いるから」
「ッ!? なッ、なんだよッ、それッ!おいッ!!」
小倉の顔色が、先ほどとは異なる意味でカーッと赤らんでいく。ここまで馬鹿にされ、コケにされた怒りが一気にこみ上げてきたのだ。
だが安奈は、1学年上の男子に怒鳴られてもなお全く顔色を変えず、余裕たっぷりに笑みを浮かべる。
「まぁまぁ、いいじゃん、奴隷とは言え私に相手してもらえるんだからさ。非モテ男子には夢のようでしょ?」
「ふ、ふざけんなよッ!ちょっと可愛いからっていい気になりやがってッ!!」
「怖い怖い怖い怖いw でも、私知ってるんだよねー。一度安奈ちゃんのこと好きになっちゃったら、そう簡単に熱冷めないってこと」
「そ、そんなこと——ッッ」
「ガチ恋奴隷やってたら、ワンチャンまたラッキースケベでおっぱいの感触味わえるかもよ? さっきから超チラ見してたもんね、私のおっぱいw」
「………ッ!!」
小倉は言葉に詰まる。安奈の大ボリュームバストをつい目で追っていたのは事実だ。それをまんまと見抜かれていて、図星を突かれた彼は、言い返す言葉を失ってしまった。
そんな小倉に、安奈は微笑みかけたまま、くるりと背を向ける。
「でもね、巨乳のことはよく噂にされるけど……、実は結構お尻にも自信あるんだよね、私♪」
そして彼女は、スカートのプリーツを指でつまみ、ただでさえ短いミニスカートを左右から吊り上げる。
「いぃ——ッッ!!?」
小倉は、またしても動揺する他なかった。弄ばれている。そう分かった今になってもなお、あの学校一の美少女、芦屋 安奈が目の前でスカートを持ち上げ、パンティに包まれた下半身を晒け出していることに、興奮せずにはいられなかった。しかも——本人が言った通り、彼女のヒップは、とんでもない肉付きの、ドエロい巨尻であったのだ。
「どう?w」
確かに、巨乳のイメージはあれど、普段ミニスカートの中に隠れている尻について、安奈が注目されることはあまりなかった。が、こうしてそのスカートが取り払われると、そのデカ尻の迫力は、あの巨乳以上とすら思えた。小ぶりなヒップが可愛いという価値観も広まってはいるが、普段イキってそんなことを言っている男子も、大胆なTバックが割れ目に完全に食い込み、三角形の生地も完全に埋没させるほどの圧倒的な肉量の巨尻を見せつけられたら、全ての前言を撤回させられることだろう。それぐらい、安奈の巨尻は「スゴい」ものだった。
返答に窮しつつ、ゴクリ、と生唾を飲み込む小倉。彼女にとっては、それが答え代わりとして十分だった。
「さっきはサービスでおっぱいをほっぺに当ててあげたけど、次はお尻に頬擦りしてみたくない?」
そう言って、片方の尻たぶを自分の手のひらで撫でる安奈。見るだけで、それがいかに柔らかく、セクシャルな魅力に満ちている尻肉であるかが伝わってくる。小倉は、彼女に騙され、馬鹿にされていたことも頭から抜け落ち、ふら、ふら、という足取りで、安奈のもとに近づいていく。
「く、クソッ!そ、そっちから、そっちから誘ったんだからなッ!!」
自分自身を強引に納得させるかのように言い捨てた小倉は、安奈の巨尻に向けて飛びつき、顔を寄せた。——寄せてしまった。
そして、まんまと“射程範囲内”にやってきた小倉に、安奈はニヤッと笑い、呟いた。
「………バ〜カww」
ぶッッむううううぅぅうーーーぅうーーーぅうううぅううううッッ!!!!!
体育倉庫に響いた爆音、そして自分の顔面を撫でたムワッとくる温風。小倉には、一体何が起こったのか分からなかった。が、それも一瞬のこと。すぐに「とんでもない何か」が起こってしまったことを、彼は本能で理解した。
「——んなあぁぁああぁあッッ!!!? ぐッぐぜッッ!!!
ぐぜええええぇぇえぇーーぇぇえーーーーぇええッッ!!!!!」
目を白黒させながら、反射でのけぞって飛びついた安奈の尻から離れ、床に尻餅をつく小倉。
信じられないくらい臭い「何か」に襲い掛かられた。断言できる。人生で嗅いだ悪臭の中で最も臭い「何か」だ。昔家族旅行で訪れた温泉地の硫黄臭に似た、しかしあれとはまるでレベルの違う濃度の「何か」。これは、これは——
——その小倉の反応に、安奈と、スマホの向こうの彼女の友人は、揃って大きな笑い声を上げた。
「アッハハハ!」
「んふふふっ!」
そして安奈は、混乱と苦悶で動揺する小倉に、とんでもない悪臭の「何か」の正体を、隠し立てる素振りもなく告げた。
「どうかな? 安奈ちゃんのおならプゥの香りは♪」
小倉は耳を疑う。が、ある意味、納得もしていた。あの音、あの温風、そしてこの臭い。それはどう考えても、安奈の「放屁」と考えざるを得ないシチュエーションだった。が、彼がすぐにそう確信できず、「何か」の正体を保留し続けたのは、もちろん、あの安奈と、この超絶激臭を「放屁」で結びつけることが許せなかったからだった。
しかし、彼女本人に告げられたら、もう余地はない。
小倉をはじめ、学校中の何も知らない男子は本当に何も知らなかったが、その中で安奈は、一部の同級生達を放屁で服従させ、“奴隷”にするという裏の顔を持つ少女だった。彼女の並外れたガスは『異常放屁体質』と言う他ない体質の産物だった。そしてその威力は——時に相手を「苦しませる」だけでは済まないことさえあるほどだった。
安奈自身はもちろん、通話相手の友人も彼女のこの体質のことはよく知っている。この場で何も知らず、訳がわからないのは小倉だけだ。
「ぐげふッッ!!!ゲホッ!!ゴホッッ!!!なッなんなんだよッこのニオイ……ッッ!!!」
「何って、だから私のおならだってば」
「ぅぐッッ、い、いやッ、おなら、って……ッ、嘘だろ………ッッ!!?」
「嘘じゃないでーす。なに?センパイ、可愛い女の子はおならしないって思ってるタイプ?w」
「ぃ、いやッ、そうは思ってないけど……ッ、で、でもッ、い、いくらなんでも、こんな臭い屁なんて……ッ」
吹きかけられたガスの濃密な卵臭と、安奈からの煽りの両方に困惑し、しどろもどろになる小倉。それを見て、安奈は尖らせた唇の先からぷっと息を漏らし、
「そんなに臭くないでしょー。最初の一発だし相当手加減してあげたんだから。こんなの、私のデフォと比べたら、ラベンダーの香りみたいなもんだよ?」
と言って笑う。彼女のその言葉に、スマホの向こうからも
「くすくすっ」
という笑い声が聞こえてくる。
一方で、小倉は唖然として言葉も出ない。安奈は、小倉の不意をつくようにして彼の後頭部に手を回すと、ぐいっと引き寄せながら、
「んじゃ、次はもうちょっとだけ濃い目ね♪」
と言って、突き出した巨尻を顔面に押しつけた。
「ふむぐッッ!!!?」
ぶぶぼふううぅうーーーぅうぅぅうーーーーぅううぅううぅうううううッッ!!!!!
「ぅぅむぐ——んんんぅぅううぅぅぅううぅうッッッ!!?!?
ぐむッッ!!!!ぐうぅうッッざあぁあぁあーーーぁぁあぁあッッ!!!!!」
小倉にとっては、まさかの二発目。それも、一発目をさらに上回る野太い爆音で。
そして、上回っていたのは音だけではない。彼女の言葉通り、いや、彼女の「もうちょっとだけ」という言葉に反して、と言うべきか、そのガスの濃度は、最初の一発とは比べ物にならなかった。
「アハハッ!言うてまだ全然臭くない方でしょー。ま、反応がウケるのは高評価だけどw」
「ぐぅぇえッッ!!ぶはッッ!!!げふッッ、がはッ、
……う、うぅうぅぷッッ!!!ゔぉおぉぇえッッ!!!!」
小倉は、堪えられなかった。顔面が巨尻密着した状態で思い切り食らわされた激臭卵っ屁に、胃の奥底から嗚咽がこみ上げてくるのを感じた。
それを見て安奈はすばやく尻を離し、
「あっ、リバースするならあっち向いて!」
と言って手で小倉の顔を小突く。安奈に軽く突き飛ばされるような形になった小倉は、床に両手をついて、思い切り嘔吐し、先ほど彼女と一緒に食べた昼食のパンを全て吐き出してしまった。嗅がされただけで派手に吐いてしまうくらい臭かったのである。——それも、安奈にしてみれば「まだ全然臭くない」程度の段階で。
その様子を画面越しに見ていたスマホの向こうの友人が、
「あーあ、2発でゲロらせちゃったか〜」
と言うのに、安奈は、
「ね。さすがに早すぎっしょ」
と答えると、やや呆れた視線で小倉のことを見下ろし、
「ねー、私のおならヤバいのは知ってるから、リバースするのは別にいいんだけど、絶対ゲロは私にかけないでよ? 1滴でも服とか足とかに飛ばしたら死刑だから。あ、言っとくけど、“死刑”って、冗談とか比喩とかじゃないからね」
と言い放つ。
「ゔぉえッッ、ゲホッ、ごぼ……ッッ!!! ……え、え——!!?」
先ほどから続く、安奈の外見とはかけ離れた行動や言動。その中でも、彼女の口から出た“死刑”という言葉が帯びた冷酷な色は、小倉の耳に突き刺さり、反響するようにしばらく残った。
スマホ越しの友人も、くすくす笑いながら、
「ふふっ、ガチ恋君、マジで安奈には逆らわない方がいいよ。安奈が加減間違えたら、本気でコロッと死んじゃうから」
と告げる。
「げふッッ、いッ、いやッ、な、何言って——」
「や、冗談とかじゃなくて。殺っちゃったら処理めんどいから、私もできるだけ上手く調節するけどね。まぁ、今日は便秘中でもないし、たぶん大丈夫だとは思うけど。でも、イラッときてやり過ぎたら殺しちゃうこともあるから、出来るだけ従順でいるに越したことはないと思うよー」
平然と、大したことではないように、安奈はそう言ってケロッとしている。その彼女の様子に、小倉はますます訳がわからなくなる。
「な、な——やッ、いやッ、し、死ぬとか、殺すとか、なんなんだよッ、そ、そんな簡単に、ど、どうやって——ッッ」
「あー、そっか、まだ分かってない?」
安奈はそう言って、両膝を立てた姿勢でしゃがみ、床に手をついて苦しそうに伏す小倉に視線を近づける。制服越しの大きな乳房が膝の上に乗って、むにゅっ、と潰れる。そして彼女は、学校中の男子を虜にする、あの笑顔をにっこりと浮かべて、こう続けた。
「私のおならが臭すぎて死んじゃうこともあるってことだよ♪」
「———ッッ!!? いッッぃやッッ!!いやいやいやッ!!!そッそんなことッあるわけ——ッッ!!!」
小倉のその否定は、安奈の言葉を荒唐無稽に扱うというよりも、現実を認めたくないという焦りの感情が多く含まれているようだった。
対する安奈は呆れ顔で、
「ま、ガチ恋になってから即現実見せられて実感ないのも無理ないけど、これは、サクッとわからせてあげないとダメかなー」
と言い、スカートを捲り、しゃがんだままくるりと身を反転させて、小倉に背を、いや、尻を向けた。
「ぁがッ、ちょ———ッッ」
「ん♪」
ぷすかああぁぁぁぁぁーーーーぁぁぁぁあーーーぁぁあぁぁぁあぁぁあ…………ッッ!!!!!
「んふぐうぅぅぅうぅぅうッッえぇーーぇぇえええッッ!!!?!?
ぐッッぐぜッッ!!!たッ卵ぐッぜえぇええぇぇえぇええッッ!!!!!
じッッ死ッッ死ぬッッ!!!!ぐッぐざいぎぃぃぃいぃぃいッッッ!!!!!」
小倉は、反応して避けることもできなかった。
安奈が可愛らしい声で小さく息んだ次の瞬間、しゃがんで斜め下方向に突き出された彼女のぷりっぷりの巨尻の割れ目から、悪夢としか言いようがない超高濃度腐卵すかしっ屁が噴き出し、彼に襲いかかったのだ。
「オォエェェッッ!!!!うぶぅうッッ!!!オゥウゲェェエッッ!!!!!」
絶叫の後、再びこみ上げてきた嘔吐を堪えきれず、小倉は慌てて両手で口を覆う。一度吐いて胃の中身は空になっており、胃液だけが指と指の間からぽたぽたと滴る。その吐瀉物が安奈の方に飛ばなかったのは、ある意味では幸運だっただろう。
それは、小倉を「わからせる」には十分すぎる一発。彼の絶叫を聞けば、それが容易に分かる。
「んふふっw いやぁ、つい10分前まで安奈にマジ惚れしてたガチ恋君に嗅がせるスカシじゃないでしょそれはwかわいそw」
スマホの向こうから、そんな哀れみゼロの賑やかし声が聞こえてくる。安奈もケタケタと笑いながら、
「だって物分かり悪いんだもんコイツw でも、さすがにこれで分かったっぽいね♪」
と言って、尻の後ろに止まっている残り香を手でぱたぱたと扇ぐ。
確かに分かった。安奈の言う、「おならが臭すぎて死ぬ」ということが、冗談やハッタリなどではないということが。このすかしっ屁を放ってなお、この余裕の表情。彼女にとって、まだ“本気”にはほど遠いということだ。それを本能で理解した小倉は、先ほどまでとは対極的に、真っ青になってガチガチと震えていた。
こうして小倉を「わからせ」た安奈は、立ち上がり、両足を肩幅に開いて仁王立ちをして、彼を見下ろす。
「さて、改めて、小倉センパイは私のガチ恋奴隷ね?」
「ぅッ、ぅぐ………、は、はい…………ッッ」
「ん。はい土下座」
先ほどは抵抗した彼に、もうその力は残されていない。言われるがまま、小倉は安奈の足下に土下座する。安奈は、彼の頭の上を、ローファーの靴底で踏みにじる。
「奴隷の仕事は2つだから。私にお金献上することと、私のおなら嗅ぐこと。いい?」
「は、はい…………」
「んじゃ、とりま明日、5万持ってきて。貧乏学生でもそれくらいなら用意できるでしょ?」
「……ぅ……ぅぐ…………ッ」
「………ねー、返事遅い。奴隷は返事遅れたらおなら20発ゼロ距離深呼吸って決まってんだけど」
「ひッッにッにじゅッッ!!? やッッ、もッ、持ってぎまずッッ!!持ってぎまずぅぅッッ!!!」
安奈からの冷たい声に、小倉は慌てふためき、大声を上げて床に額を擦り付ける。それを見下ろす安奈は、大笑いしたいのを堪えて肩を小さく震わせながら、
「フフッ、ま、今回は初日だし超特別に許してあげる。次はないからね?」
と言って、彼の頭をゲシッ、ゲシッ、と暴力的に踏みつける。
「はッ、はぃッッ、ずッ、ずびばじぇんッッ!!!」
「アハハッ、もうすっかり従順になったね。いい子いい子。私、従順なガチ恋君は割と大事にするタイプだから、その調子でガンバ♪」
「はッッはいぃぃッッ」
「じゃ、私教室戻るから。あ、ゲロ片付けときなよー」
そう言って、小倉の頭から足を下ろし、スマホを顔の前で持って友人と喋りながら、スタスタと体育倉庫を後にする安奈。
小倉は、彼女がいなくなり、扉が閉まって中が再び薄暗くなるまで、ぶるぶると大きく震えながら、絶望的な臭いが充満する倉庫の中でいつまでも土下座を続けていた。