取り違えがわかって絆が深まった
ようやく提訴が実現したのは、'21年のことだ。そして今年4月に判決が下り、調査が開始されたというわけだ。
だが、育ての父は10年前に他界。92歳の母も、認知症が進み老人ホームで寝たきりの生活である。「遠くからでもいいから、本当の子供を見てみたい」と願う母にとって、残された時間は少ない。
江蔵さんはこう語る。
「本当の親子ではないことがわかり、私自身の家族観も変化しました。育ての父が亡くなる前、久しぶりに会うと育ててもらった恩を感じたんです。あれだけ苦手だった父に対して、『長男として面倒を見ないと』と思えた。だからこそ、福岡の会社を畳み、両親の介護をすることにした。そこに抵抗はありませんでした。
私は自分で選択し、好き勝手生きてきた。人生は良いものだった、とも思います。願わくば、取り違え相手もそうであって欲しい」