「生活を描く」ことの意義と文体の変化
「“生活を描く”というより、読み手に“生活しているような感覚”になってもらえることを意識して書いた」という「生活」。登場人物たちの日々の営みや内なる声が響き合い、彼ら・彼女らの生活のなかに入り込んでしまうような読書体験を支えているのは、話し言葉を自然に組み込んだ文体そのものだ。
「書き始めた最初のほうは、息の長い文章を意識していました。そのほうが小説のモチーフと絡み合うと思ったんですよね。生活はメリハリではなくて、延々と続いていくものなので。文体は、作品ごとに変えているつもりなんです。何か新しいことをやらないときついところがあるんですよね。これも私の感覚ですけど、自尊感情が高くないタイプの作家は、文体を変えていくような気がして。逆に自尊感情がしっかりある方は、文章が安定していると思います。太宰治は比較的文体が安定していますが、やっぱり自分のことが好きだったんでしょうね(笑)」
文体に関してもう一つ、『生活』には、村上春樹のテイストをまねて書かれている部分がある。その意図を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「やっぱり作家としてとても大きな存在ですし、日本人はみんな何かしら影響を受けていると思うんですよ。私の世代も無防備に受け入れている部分があるし、自分も影響を受けていますからね。村上さんの文体をまねた部分はすごく大変で、“こんなんじゃない、違う”と何度も書き直しました。いちばん徹底してやったところかもしれないですね、この小説のなかで」
(取材・文/森 朋之)
まちや・りょうへい/1983年、東京都生れ。2016年に『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞してデビュー。2019年に『1R1分34秒』で芥川賞を受賞。その他の著書に『ショパンゾンビ・コンテスタント』『しき』『ぼくはきっとやさしい』『生きる演技』『恋の幽霊』など。2025年5月29日に『生活』を刊行した。
こちらの記事もおすすめ YMOは“人間らしいバンド”だった ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)が語るYMOの魅力

















