DNA検査でわかった衝撃的な事実
以降、クリーニング店、日雇いの建築業や運送業、喫茶店や輸入雑貨店など職を転々とした。生活が荒れた時期もある。10代では暴走族に入り、週末になると仲間とバイクを走らせた。
20代のときには結婚も経験したが、2年で離婚している。江蔵さんは「家族というものがよくわからなかった」と振り返る。家族への違和感を消し去るようにがむしゃらに働き、30代で福岡県に小さな自動車販売店を設立。生活は安定した。
しかし'97年、江蔵さんが39歳のときに、その人生は大きく動き始めることになる。
育ての母が体調を崩し入院。病院での血液検査で、母がB型であることが判明したのだ。父はO型であるため、A型の江蔵さんが生まれる可能性はほぼゼロに等しかった。
当時、DNA検査は一人当たり180万円と高額な時代だった。費用を捻出できず、江蔵さんは「自分は突然変異」と思い込むことにした。
ところが、7年の歳月を経て、知人を介してある大学教授が無償での鑑定を申し出てくれた。結果は「両親と江蔵さんは血縁関係にない」という衝撃的なものだった。
「産院で取り違えがあったということしか、原因は考えられませんでした。両親と親子でないとわかったときは、本当に頭が真っ白になった。一方で、幼少期から感じていた違和感の正体がわかり、どこか納得した部分もありました。不思議なもので、むしろ血のつながりがないと判明してからのほうが、育ての親と過ごす時間は増えていった」
後編記事『東京・墨田区の病院で起きた「赤ちゃん取り違え事件」当事者の男性が語る「『本当の親』が見つかったら伝えたいこと」』へ続く。
「週刊現代」2025年09月15日号より