何もかも両親に似ていなかった
江蔵さんは'58年(昭和33年)4月10日、都立墨田産院で生を受けた。都の職員だった父、専業主婦の母、3歳下の弟とともに、東京・浅草で暮らした。
しかし江蔵さんには、幼少期から家族のなかで自分だけ異質な存在であるという違和感があった。そしてその思いは、年を重ねるごとに強まっていった。
「親族の集まりでは、『お前は誰にも似てない』と言われ続けました。身長一つとっても、母は140センチメートル、父も弟も160センチメートルほどですが、私は180センチメートルを超えています。容姿や食べ物の好みはもちろん、テレビを観ていて笑うところまで、すべてが家族と違った。
父も何かを感じていたのか、弟は殴られないのに、私は小さいときから顔が曲がるほどよく殴られました」
違和感に耐えられず、江蔵さんは14歳で家出。焼き肉店に住み込みで働きながら、中学を卒業した。
当時のことは「あまり覚えていない」と江蔵さんは語る。それでも、「ここにいてはいけない」という本能的な感覚だけは鮮明に覚えている。母が家に連れ戻そうとしたこともあったが、江蔵さんの意思は固かった。