作:擬人化カイオーガちゃんはいいぞ
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ミシロタウンから出発して数日。
オレとカイオーガは、コトキタウンからトウカシティへと向かって足を進めている。
距離としてはそこそこ歩いてきているが、今のところは平和そのもの。あえて何が有ったかを思い出してみれば、そうだなぁ。
例えば、コトキタウンに到着した直後にフレンドリィショップのお兄さんに捕まって、ポケモンセンターなどの施設説明を受けた。
「ここがポケモンを癒せる場所です! 貴方たちのポケモンが傷付いている時は、ここで休ませてあげてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「──」
「そしてこちら試供品のきずぐすりです。ぜひともフレンドリィショップをご贔屓に!」
そう言って手渡されたきずぐすりを見て、ちょうど先ほど転んだカイオーガに目をむける。せっかくだから使ってみるかと膝を曲げて、彼女の膝にくすりをかけてみる。
「あ、そちらはポケモン用のおくすりでして……」
「──〜〜!」
「おお、ほんとにすぐ治った」
「はい??」
無意識できずぐすりをカイオーガに使ったオレを見て、驚愕する店員さんに慌てて言い訳をしたり。
「ねーちゃん、泳ぎに行くの?」
「──?」
小さい男の子に不思議そうな顔でカイオーガの格好に突っ込まれたり。
「この先はポケモンがいないと危ないぞ?」
「えっと……この子がオレのポケモンでして」
「───!」
「へ!?」
親切心で声をかけて注意をしてくれたお兄さんの度肝を抜いたりと、結構てんやわんやしたがなんとか無事に102番道路へと進むことができた。
「───〜〜」
カイオーガは繋いだ手をぶんぶんと振って、草むらを歩いていく。それに先導される形で見知らぬ道を進む。
生息しているポケモンも変化しており、101番道路よりも多くの種類のポケモンが目に入ってくる。それを見てポケモン図鑑を取り出して、カメラに映していく。
ポチエナやジグザグマたちが追いかけっこをして遊んだり、木の枝でケムッソがお昼寝したり、草むらの影からぴょこっとこちらを見つめてくるタネボーなど、数多くの
手元にあるポケモン図鑑を見て思い出すのは、オダマキ博士からの助言。
「カイトくんはこのホウエンで多くの出会いがあると思う。ジムへ挑むこともあるだろう」
「その中で、この子……カイオーガについてもきっと知る機会があると思う」
「たくさんの歴史、私も知らない伝説のポケモンについてをできれば記録して、そして私たちにそれを教えて欲しいんだ」
「キミも彼女のことを知りたいのだろう? ……うん、ならこのポケモン図鑑は役に立つはずさ」
博士からの言葉を聞いたオレは多くのものを見て、多くのことを経験するんだなってなんとなく思って。この旅の意味を探して、それからカイオーガのことを知るために歩き出すことを決めた。
なんとなく一緒にいて、結果的に手持ちになってくれたけど。オレは無邪気に笑うこの子、カイオーガのことを知らない。
「──────?」
「なんでもないよ」
“そうなの?”と首を傾げるこの子をもっと知りたいなって、ちゃんと仲良くなりたいって思っている。
だから、その入り口立って進んで行かなきゃと前を向いて、草むらに一歩足を進めたとき。
「お! 兄ちゃんってトレーナー!?」
「え?」
「俺とポケモンバトルだ!」
「へ? へ??」
短パンを履いて黄色のTシャツと青いキャップが活発そうなイメージを与える少年が、モンスターボールを手にキリッとした顔でポケモン勝負を仕掛けてきた。
慌てるオレを気にせずに、モンスターボールを投げた少年が繰り出したのはジグザグマ。奮い立ったようにこちらを睨みつけたジグザグマは、バトルをする気満々の様子でどうしようとオロオロしていると。
「────」
「カイオーガ……?」
カイオーガが自然と前に出て、チラリとオレを見る。その目からは特に感情は感じられないが、表情はどこかやる気に満ちていて、“まかせて”と言っている気がする。
そういえばまともにバトルしたことはなかったな、と思い出して一度対戦相手の方を見る。
「あれ、ねーちゃんの方が相手してくれるの?」
「ぎゅぅ?」
不思議そうな顔をするたんぱん少年とジグザグマコンビに、とりあえず言うべきことを伝える。カイオーガを指さしてから。
「あのさ、この子がオレのポケモンなんだ」
「何言ってんだ、にーちゃん?」
「ちょっと特別な子で、人みたいな見た目だけどしっかりポケモンだから……それで良ければバトルするけど」
「んーと……ポケモン勝負ができるなら別にいいぞ!」
元気に笑ってオッケーを出してくれた名も知れぬ少年に感謝しつつ、そっとカイオーガを呼んで耳打ちする。
オレの手招きにすぐ気づいたカイオーガは、ひょこひょこと歩いてきて“なぁに?”と目をパチパチしながら耳を近づけてきた。
怪訝そうな少年たちを横目に、こそこそと小さな声でカイオーガにお願いを伝える。
「ごめんだけど、また手加減お願いできる……?」
「
「できれば、ジグザグマがきぜつで済むくらいで」
「
こくりと頷いたカイオーガはそのままジグザグマの方へとゆっくりと歩いていき、棒立ちのままぼーっとした顔で対戦相手を見つめている。
二足歩行で立っているカイオーガは、地面に4本足で立っているジグザグマを見下ろしている状態。なんらかの圧を感じたのか、ジリ……と後ずさりするジグザグマに持ち主の少年は鼓舞の声を送る。
そして、そのままの勢いで技の指示を出そうとするが、音もなくシュンッとカイオーガの姿がブレて……チラリとオレの方を見た気がした。たぶん今のはトレーナーのオレにカイオーガが求めているもので。
「がんばれ、ジグザグマ! よし、まずは——」
「カイオーガ、みずのはどう!」
脳裏に浮かんだ技を口にして、カイオーガに指示を出せば一瞬だけオレの方を見て笑った気がして。
「────」
彼女が手を伸ばしたヒレ……その指先に小さな水の雫が生まれる。たった一滴に見えるわずかな水。
つん、とカイオーガがそれに優しく触れた瞬間。彼女の中心地点からわずかな風が吹き、大きな水しぶきが揺らめきながら円状に広がっていく。
太陽に照らされた青の煌めきは一瞬でジグザグマへと迫り、体へとわずかに触れた瞬間にパタンと倒れる。目をぐるぐるにしてきぜつした自分のポケモンを見て、何が起きたかを理解できてない少年がポカンとしている。
うん、なんというか。予想可能、回避不可能みたいな結果になってしまった。ちょっとした気まずさを覚えながら頬を掻いていると、カイオーガが笑顔でひょこひょこと帰ってくる。
「え……お、おい!?」
ようやく我に返った少年が慌ててジグザグマに駆け寄り、それから焦りと困惑にわずかな悔しさが灯った顔で背を向けたカイオーガに何かを言おうとして。
「──?」
「あ……うぅ……」
それに気づいたカイオーガが、太陽を背中に少年の方へ顔だけ振り返って首を傾げる。見上げるように睨め付けていたはずの少年の表情が一瞬だけポカンとしたものになったかと思えば、ぽっと頬を赤くして照れたような仕草を取る。
こちらの視点ではカイオーガがどんな表情をしているかはわからないが、振り返る前のご機嫌さから想像するに微笑んだとかだろうなぁ……と苦笑い。
ずっと無表情なあの子がたまに見せるわずかな笑みは、キュンとくるものがある。顔の良さ半端ないからね、カイオーガ……。
「────♪」
「うおっと……お疲れさま」
射抜かれたかもしれない少年に同情の視線を送っていれば、“ほめてー!”と急に飛び込んできたカイオーガの抱きつき攻撃に体のバランスを崩しそうになる。
もう圧倒としか言えない戦闘だったけど、色々と頑張ってくれた様子だし、感謝を込めてお礼と労いの言葉を贈る。
ニッコニコですりすりと胸元に甘えてくるカイオーガをぽんぽんと撫でる。恥ずかしいには恥ずかしいけど、懐いてくれているポケモンの行動であるという前提があるし。
「もう、いい加減に慣れてきたなぁ」
「───、─────!」
撫でる手を止めたオレの咎めるように頬を膨らませたカイオーガが、頭でオレの胸にてしてしと攻撃してきたのですぐに再開する。
「はいはい……」
「───〜〜」
先ほどまでの不機嫌はどこへやら。ころころと笑って、くすぐったそうに身体をよじらせるカイオーガ。
バトルのときは凛としていて、伝説のポケモンらしさもあってカッコ良かったのに。こうなってしまってはハルカのアチャモのような小さな可愛い小型ポケモンと変わらない。
ポケモンバトル後のケアに毎回これだと困るけど、最初くらいは……とほんのり甘やかしていると、何やらじめっとした視線を感じて無意識的にそちらへと目を向けると。
「…………」
「ぎゅ、ぎゅぅ……」
きぜつしたジグザグマを介抱しながら、困惑や切望やらが混ざったなんとも複雑そうな顔でオレたちを見つめている少年がいた。
オレと目が合った少年はハッとしたあとにジグザグマを抱えたまま、コトキタウンの方へと走っていってしまう。
「あちゃぁ……」
「───?」
「なんでもない……」
「──────??」
耳のようなものをぴこぴこと動かして“どーしたの?”と不思議そうな顔をするカイオーガ。うーん、やっぱり目の毒だよなぁ……と彼女の姿を見てから思いつつも、言葉にはしない。
何はともあれ、勝ちは勝ち。なんか凄くずるいことをした気もするけど、今は気にしないでおこうと意識を切り替えて引き続き、トウカシティへと向かって足を進めることにした。
なお。この後も何人ものトレーナーと闘い、その度にカイオーガに見惚れた顔する彼らに同情した。……ギャップっていうんだっけか、確か。