参政党や自民党などが外国人への規制強化を競うように掲げた7月の参院選を経て、トルコの少数民族クルド人への中傷が激しくなっている。埼玉県川口市ではクルド人の小学生が、日本人男性に暴力をふるわれたとみられることが分かった。専門家は「憎悪犯罪(ヘイトクライム)」の可能性を指摘し、状況の悪化に懸念を深める。現場を取材した。(池尾伸一、森本智之)
◆白髪交じりの男性が、親子に近づいてきて
8月28日夕、埼玉県川口市内の公園。白髪交じりの壮年風の男がクルド人の父(35)と小学5年の次男に迫ってくる。
「近くに来ないでよ。この前、子ども殴ったでしょ」。父親が何度も声を掛けるが男は足を止めない。
「殴っちゃいねえよ。肘で突いただけだよ」
「俺は殴ることはしてねえ、おまえらみたいにばかじゃないから」。男は人さし指を自分の頭に向けくるくると回しながら怒声を上げる。「本当にムカつくやつらだ」。そして言った。
「法律がなければ、おまえらなんかぶっ殺してやるよ」
東京新聞は父親がスマホで撮影した5分ほどの動画を入手した。
◆「男が殺しに来た」夜中に目を覚まし叫ぶことも
父親によると、次男が男に会うのはこれが初めてではなかった。1カ月前の7月、同じ公園で兄弟たちと遊んでいると「おまえら早く国に帰れ」などと声を荒らげて押しかけてきた。男は次男の頭を押して地面に倒し、一緒にいた小学6年の長男を肘で突いたという。
次男は「唇から血が出て、すごく痛かった」と振り返る。兄弟たちは近くの交番に逃げ込んだが、誰もいない。備え付けの電話で助けを求めている間に男はいなくなっていた。
公園で涼んでいたクルド人父子の元へ男が再び姿を見せたこの日、男は「肘で押した」と前回の暴行を認めたのだ。この後、通報により警察が駆けつけ、父親は後日、被害届を出した。だが、2度も男に脅かされた次男は「あの男が来るんじゃないか」と外出できなくなった。夜中に目を覚まし「男が殺しに来た」と叫ぶことがあるという。
父親は「息子は心に傷を負った。きちんと捜査してほしい」と訴える。
◆ヘイトスピーチはあったけど、暴行まで発展するとは
クルド人へのヘイトは2023年に顕在化したが、記者が現地で取材していてもこれまで暴行に発展するようなケースはほとんど聞かなかった。
東京新聞はヘイトに詳しい神原元弁護士に動画を見てもらった。神原氏は「男の言動から人種差別による暴行、ヘイトクライムと推認される。クルド人への差別がヘイトスピーチからエスカレートしている」と指摘した。
背景にあるとみられるのが、外国人嫌悪をあおるような行政や政治の動きだ。
◆「官製ヘイト」を助長した政治家たちの言動
今年5月、政府は「ルールを守らない外国人が安全安心を脅かしている」として「不法滞在者ゼロプラン」を公表。7月の参院選では自民党、参政党など与野党が競うように外国人規制を訴えた。
神原氏は、こうした政治家らの言動がクルド人へのヘイトを助長している可能性があるとして「現状は官製ヘイトだ」と指摘した。
ヘイトスピーチを放置すると、共感する人の裾野が広がり過激化する「憎悪のピラミッド理論」が知られている。関東大震災直後に各地で起きた朝鮮人の虐殺事件でも、根底に朝鮮人への差別意識があったとみられる。それを放置した政府の責任も指摘されている。
連鎖を断ち切るには何が必要か。神原氏は「国や自治体はヘイトは断固禁止と態度を明確にすべきだ」と警告する。
◆新宿の解体現場に落書き「クルド人に死を」
参院選後の風景をほかのクルド人にも取材した。
東京都新宿区の解体工事現場では8月、「クルド人に死を」と落書きされているのが見つかった。
工事...
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