【完結】掲示板 in The Backrooms 作:忍法ウミウシの舞
白がどこまでも続く透明な空間であった。床は水面のように淡く光を反射しているが、その材質は窺い知ることができない。
中央部には同じく純白のテーブルのチェアがあり、女が一人座っていた。透き通るような長髪を携え、西洋式の宗教衣に近い衣装をまとっていた。何かを飲んでいるようで、カップを口につけている。
ほとんど無音の空間であった。どこか虚空を見つめていたその女であったが、不意に方向を変えてある一点に向いた。
「……ようやく来たね。待ちくたびれたよ」
女が口を開いた瞬間、視線の先の空間に異変が生じた。空間そのものに亀裂が入り、それは縦に長い長方形を象った。そしてそれがまるで扉のように開かれ……内側から、人型と猫が歩いてきた。
それを女はまるで分っていたことかのように、平然と受け止めていた。その表情には一端の焦りもない。
猫はロシアンブルーのような、灰色の毛と青い色を持った通常の動物のようであった。扉型の亀裂を抜けて、まっすぐ女の元に歩いていく。
問題は人型の方であった。なにしろ、その人間らしき生物には──顔が無かった。それ以外はいたって普通の、青年らしい風貌をしている。ただ一点、顔が抉れたかのように消失しており、その内側は漆黒に覆われていた。
そしてその外見に関わらず、顔が抉れた青年は声を発した。
「に……人間……?」
「そう。初めまして、13号。私の"
そして女が発した言葉によって、青年風の怪物は一層驚いたようであった。
「日本語喋ってる……!?」
▽
1:名無しの放浪者
猫と共に導かれ、はるばる謎の真っ白空間に。
中央に女が座ってる。普通の人間っぽい
2:名無しの放浪者
おー猫の人
3:名無しの放浪者
え?人間?
マジ?
4:名無しの放浪者
とうとう他コミュニティか?
5:名無しの放浪者
どうだろう
見た感じ1人っぽい
6:白1号
とりまこれでハンネはいいか、ショッピングモールのと被ってるが
猫が女の肩に上った
7:名無しの放浪者
浮気……?
許せねえ……
8:名無しの放浪者
女の飼い猫だった……?
そんな……俺のネコチャンが……
9:白1号
なんか飲んでるなこいつ
カップの形的にコーヒーか紅茶か?
10:白1号
うわああああ日本語しゃべったあああああ
11:名無しの放浪者
シャベッタアアアアア!?
12:名無しの放浪者
え?え?日本人?
同郷?
13:名無しの放浪者
俺ら以外にもいたのか?人間が
14:白1号
「初めまして、13号。私のレベルへようこそ」って言った
15:名無しの放浪者
13号って何
16:名無しの放浪者
レベルってThe Backroomsのエリアのことじゃん
どこまで知ってるんだこいつ
17:名無しの放浪者
思ったよりしっかり日本語喋ってるな……
▽
「まあ、そこで立ってないで座りなよ」
女がそう言うと、テーブルの傍の空間でチェアがもう一つ独りでに生成された。女が座っているのとまったく同じものであった。
青年はその様子を見て、少し逡巡した後に座ることを決めたようで、おずおずとチェアの方に向かっていった。猫は既に女の肩に上ってあくびをしている。
「何がいい? 何でもあるよ。紅茶にビール、あとはジュースに……」
「じゃあ、麦茶で」
「へえ? 質素だね。まあ、いいけど……カップじゃ合わないね」
テーブルの上に生成されたのは透明なコップに入った麦茶であった。それを見るや否や、青年は手に取ってたちまち飲み干してしまった。傍からは顔の窪んだ漆黒に麦茶が吸い込まれていったようにしか見えなかったが、本人としてはこれで飲んでいるつもりなのだろうか。
「毒とか考えないの?」
「……ネコを使ってわざわざ誘導してくる奴が、今更殺しに来るとは思えないね」
「それもそうだ」
女は笑って、再びテーブル上に麦茶を生成した。
「さて、自己紹介といきたいところだが……あいにく他人から呼ばれる名も無くててね。どこから話したものか」
「なら、あなたが俺をここに呼んだ目的を教えてほしい」
「わかった」
青年の疑問への応答に、女は快諾した。
「私の目的は、あなたと一緒にかつての宇宙を取り戻すことだ」
「宇宙……?」
「そう。君たちが"The Backrooms"と呼んでいるこの世界は、君たちがかつて住んでいた宇宙を潰してその上に建てられたものだ」
「は?」
▽
18:白1号
麦茶くれた!!!!
19:名無しの放浪者
何で飲んじゃうかなあ
20:白1号
いやあ猫の誘導もこの女による仕業でしょ
ならここで殺すことは無いかなあって
21:名無しの放浪者
いや、つい最近リスポーンできなくなったやついるし
慎重になっとけ
22:白1号
何それヤバいじゃん
23:名無しの放浪者
やばいが?
24:名無しの放浪者
元からヤバいのがさらにやばくなった
25:名無しの放浪者
ちょっと気を付けてくれ
26:白1号
ん?なんか変なこと言いだした
27:白1号
「私の目的は、あなたと一緒にかつての宇宙を取り戻すことだ」
「君たちが『The Backrooms』と呼んでいるこの世界は、君たちがかつて住んでいた宇宙を潰してその上に建てられたものだ」
28:名無しの放浪者
ええ……
29:名無しの放浪者
今こいつ「たち」って言ったか
え?
30:名無しの放浪者
俺たちも認識されてる?
いよいよやばくね?
31:名無しの放浪者
宇宙とかいきなりスケールがでかくなったな……
32:名無しの放浪者
俺たち、宇宙人だった……?
33:名無しの放浪者
それはまあ元からだろ(宇宙に住んでいるという意味で)
34:名無しの放浪者
なんかうさんくさいなこいつ
35:白1号
は?
36:管理者U
……
37:名無しの放浪者
お、どうした
38:名無しの放浪者
管理者さん!?
39:管理者U
わかりました。既に防護システムを構築したため、一時的な招待なら可能です。
40:名無しの放浪者
どうしたの急に
女が何か言ったか?
41:白1号
「君もいちいち掲示板で実況するの大変でしょ? 二度手間だし私も入っていい?」
「これは管理者Uにも関係のある話だし、そっちで話した方がいいかなって」
「もちろん、少し待つからその間にセキュリティを構築しといて」
42:名無しの放浪者
????????????????????????????
43:名無しの放浪者
入ってくんのこいつ
そんなことできるのか?
44:名無しの放浪者
てか管理者さんもう構築したんだ
はやいな
45:名無しの放浪者
もうなんなのこの女
こわいよー
46:白1号
じゃあ呼ぶわ
47:謎の女
やっほ~~~~~~!!!!
元気~~~~~~~!!??
48:名無しの放浪者
うわ
49:名無しの放浪者
うわ来た
50:名無しの放浪者
いっちょ前に太字にしやがってよお……
51:謎の女
あれ!? あんまり歓迎されてない感じ!?
52:名無しの放浪者
現状、掲示板に侵入してきた謎の人間だし……
53:名無しの放浪者
第一印象最悪だけど
54:謎の女
麦茶あげたし!
あと一応目的は言ったよね!?
55:名無しの放浪者
背景が見えないんだよな
56:名無しの放浪者
それ
57:名無しの放浪者
結局何もわから~ん
58:謎の女
は~
じゃあ順に説明するから、よく聞いてね
59:謎の女
まず、君たちが"The Backrooms"と呼んでいるこの世界は全て、君たちが住んでいる宇宙にしがみついて存在していたの
この世界で平気で壁抜けできていたのは、The Backroomsでの物理的な制約が宇宙に比べて小さいため
だから、物理的に頑強な性質をもつ宇宙に支えられてじゃないと存在できなかった
60:名無しの放浪者
うん
うん?
61:名無しの放浪者
まあよくわからんが、そういうものだとしておくか
62:名無しの放浪者
普通に考えて地球で壁抜けはできねえもんな
そもそもそこら辺の事情が違うのか
63:謎の女
正確には、宇宙を中心軸にすえてその周りに様々なBackroomsがあったイメージかな
でも、その均衡がある時ひっくり返されたんだ
私が暫定的に"Level Ω"と呼んでいる世界の人々によって
64:謎の女
そいつらが具体的に何をしたのかは後で言うけど、ともかくそいつらによって宇宙は潰された
中心になっていた宇宙が潰されて、ぐちゃぐちゃにされて、そしてその中にBackroomsが入ってった
65:謎の女
このとき、宇宙は完全に滅亡した……かのように思われたんだけど
でも、管理者U……君が残っていたんだ
66:名無しの放浪者
え、滅亡?
67:名無しの放浪者
あ、死んでるんすか俺ら
いやもうこの世界で何回か死んでますけども
68:名無しの放浪者
管理者さんは生き残りか
69:管理者U
すみません、私にはよくわかりません。
70:謎の女
いや、君はわかっている
そして今が思い出すべき時だ
71:謎の女
君自身が、宇宙そのものであることを
72:名無しの放浪者
また大きく出たな
73:名無しの放浪者
マザーコンピュータ的なあれではなくマザーそのものだったと
74:謎の女
正確には、滅亡に瀕した宇宙が咄嗟に生成した問題解決プログラムだ
宇宙が持っていた概念の中で、この状況を打破しうるものが「思考能力」だけだったんだろうね
75:謎の女
それが管理者Uの形をとり、この状況がネットミームの"The Backrooms"に非常に近しいことを解析した
それゆえ、The Backroomsに詳しい人間を中心にかつての意識のコピーを生成し、端末肉体をこの世界に解き放った
76:謎の女
それが、君たちのことだよ
77:名無しの放浪者
……
78:名無しの放浪者
まじか
79:名無しの放浪者
自我と記憶を完全に複製されたってことか
スワンプマンみたいだな
80:名無しの放浪者
もともと管理者に生成されたならこの掲示板でつながれてるのも納得だな
掲示板ってのもネットにかぶれた人間と適性があるから?
81:謎の女
多分そうだろうね
SNSやWikiではなく何故掲示板が最初だったのかとか、どうして英語圏じゃなくて君たち日本人なのかとかは謎だけど、あくまでそれらはたまたまかもしれない
82:名無しの放浪者
そりゃリスポーンも可能なわけだ
83:名無しの放浪者
で、管理者さん黙ってるけど
実際のとこどうなん
84:名無しの放浪者
まあこの人が出鱈目言ってる可能性も高いし
一番知ってそうな管理者次第かなあ
85:管理者U
……思い、出しました
86:名無しの放浪者
お
87:管理者U
確かに私は宇宙で、それが意思の形をとったものです
88:管理者U
人間の意識の形を借りたこと、かつてのあなた方のコピーを創ったこと、全ては宇宙……私自身のあるべき形をとりもどすためのことでした
状況を解析し、理解し、類推し、仮説を立て、行動を起こし、その結果に応じてより状況を深く理解する……これを一番高度にできたのが、あなた方人類だったからです
89:名無しの放浪者
うん
90:名無しの放浪者
いや、俺もだんだん理解してきた
俺たち掲示板ユーザーの意識は一時的なもので、もともとは管理者と同一のものだったんだ
91:白1号
俺のこと13号って呼んでたのそういうことかよ
ようやく思い出したわ
92:謎の女
いくら自分自身とはいえ、乱暴に記憶消すのはどうかと思うな~
記憶矛盾による負担も未知数だし、最悪存在が消えちゃうかも?
93:名無しの放浪者
いやまあしゃあないだろあれは
あの時はまだ転移とかその類だと思ってたし
まさかマジで死んでるとは
94:名無しの放浪者
しっかし宇宙ねえ……宇宙かあ
その復活の尖兵として選ばれたと思うと光栄では?
95:名無しの放浪者
確かに
96:名無しの放浪者
実際はBackroomsにちょっと詳しいだけのオタクの集団なのにな
いやそうじゃないやつもいたけど
97:管理者U
属性にばらつきがあるのは、多様な視点から状況を分析してもらうためです。
98:名無しの放浪者
あー
99:名無しの放浪者
なるほどね
100:管理者U
皆様方へ、数々の非礼をお詫びいたします。
私の戦争に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません。
101:名無しの放浪者
まあ、全員死んでるしええんでない
102:名無しの放浪者
俺が宇宙だったってことはわかったけど
正直スケールがデカすぎてあんまりよくわかってないぜ!
103:名無しの放浪者
むしろバックルームズっぽい世界を探索できてうれしいまである
104:管理者U
可能なら、もう少しこの私……管理者"
105:名無しの放浪者
あたぼうよ
106:名無しの放浪者
目標が脱出から宇宙の復活に変わっただけでしょ?楽勝よ
107:名無しの放浪者
死してなお動けるだけで幸運よ
今回復活できなかった奴らの分も動いてやる
108:管理者U
ありがとうございます。
109:名無しの放浪者
(俺らと管理者が同一存在ならここら辺全部ひとり芝居なのでは……)
110:名無しの放浪者
シーッ!
111:謎の女
ま、まあ……自分の姿勢を確認するのは大事だからね?
112:白1号
で、問題はどうやって我らが宇宙を復活させるかなんだが
それをあなたは知っているということでいいのか?
113:謎の女
もちろん
そのあたりをLevel Ωの所業とか、今のThe Backroomsの状況とかを交えながら説明してくね