第二ターニング・ポイント/負けやしない(1)
例えばマイ・フェア・レディはシンデレラ、サプライズは靴屋の妖精、カトルカールはヘンゼルとグレーテルの兄妹。
しかし、この世に現れたのはキャラクターだけなのか?
世界にはこぼれ落ちてきたように不可思議が現れている。
魔法の絨毯、願いごとが叶うかもしれない魔法のランプ、願いを捻じ曲げて叶える猿の手、無限に塩を生み出す石臼、食べ物が途切れない魔法の釜、松明三十本分の輝きを放つ聖剣、被れば透明になれる兜、手にするものを世界の覇者にする聖なる槍。
空想と創作、幻想と現実の区別はもはや曖昧に薄れてしまったこの世界において、これらを求めるものたちは途切れることはない。
道具、キャラクターは存在する。
ならば舞台は?
当然、出現する。
英国のキングス・クロス駅、9と4分の3番線。中国大陸の西方、聖なる山。合衆国、エリア51指定区域。親切な漁師が招かれた竜の宮殿。失われたアトランティス、伝説にのみ刻まれるムー大陸。南極の下の秘密基地。
空想は伝説と区別がつかずに、可能性は出現し、調査は進む。
未だ発見されていない、あるいはこれから降臨するかもしれぬ土地。
それらは物語の、伝説の、神話の誰かが歩み、描かれた世界。
ならば。それならば。
そのキャラクターが居る場所ならば、それは物語の舞台ではないのか。
その舞台にいるならば、そのキャラクターではないのか。
逆算する。計算する。空想に可能性を縫い付けて、その技術は確立した。
俳優たちの
そのアクトと状況を揃えることによって、現実に空想を現出させる。
「「「
それは舞台の幕上げ、
◆
ドンッ。音がする。
ドンッ。音が響く。
ドンッ。世界が響き渡る。
ヒロインたちの足場がせり上がる。
音を響かせて、轟音を響かせて、歯車を鳴らして、巻き上がっていく。
組み上げられていく。
石
夢を組み上げていく。
紡ぎ上げられていく。
サプライズが、止んだ雨の中で、糸を、手を紡ぐ。
ミシンのように次々と土台が彫刻されていく。脱ぎ捨てられたコートを纏って、小人たちがステップを踏み鳴らす。
築き上げられていく。
カトルカールが、降り注ぐ雨を、杖で絡め取り、虹色の水飴に。
廻り、舞わり、シンデレラを、その飴でデコレーションしていく。
それは透明な、神秘的な
灰被りが、誰もが知るヒロインへと生まれ変わっていく。
泥まみれの世界が、誰もが知る輝ける舞台へと再生されていく。
それは白亜の城。
それは硝子の靴。
それは硝子の城。
それは硝子の白。
それは白い魔法。
それはシロ。
白、城、依代。
魔法をかけられたシンデレラが赴く舞踏会の城を創造した
少女たちの足元、遥か眼下で真っ黒な飛沫が上がる。
大きく震えるもその城壁は崩れない。
少女たちの、子どもたちの夢が、それを支える。
「魔法は解けない! 12時になるまでは!」
「夢は終わらない! そのガラスの靴が脱げるまでは!」
「私は夢を見る! 王子様と踊る夢を見て走る!」
城壁が揺れる。
激しい黄金混じりの土砂に打ち震える。
城壁が揺れる。
激しい硝子の靴に、走り上がる階段が耐えて震える。
何度も何度も何度も震え続けるそれを――麗しき
見渡す限りの巨大な硝子の城壁が、街を破壊する混沌の土砂災害を食い止めた。
◆
「ブラボー!!!」
喝采が上がった。
「喝采を上げろ! 喝采を上げろ! 花を捧げたい!」
玉座に君臨する贋鍮王が、両手を打ち鳴らしながら破顔する。
「シンデレラの城は魔法もかかっていないただの城。行き着くだけの舞台装置ウサ」
「だが、誰もが登りたがるシンデレラロードのゴールである。ゴールが先に崩れ落ちるなど道理ではない、故に耐える、当然!」
辛辣な白ウサギの言葉に、黄金の王は褒め称える言葉を上げていた。
「素晴らしい」
黄金手甲に覆われた手を止める。
「それでこそ」
止めた両手を大きく開き、肘掛けを叩いた。
ミシリと衝撃に打ち震える黄金の玉座が、捻れるように、回転しながら、高く高く盛り上がっていく。
高く高く高く。
くるくると椅子が廻り、足掛けの部分が伸びて、より大きく。
それは巨大な座椅子となって、やがて。
「立ちはだかる甲斐があるというものだ!」
へし折れた。
◆
――能力解除――
街の壊滅の危機は退けた。
「はぁー! はぁー!」
限界いっぱいまでの時間加速を解除、いや、限度を超えて途切れた。
それを胸を抑えて、ジッターは荒く何度も呼吸をする。
「ジッター、よくやった! 少し休んでろ!」
「おい、ジッター大丈夫かね?!」
「津波は止めたけど水を完全に防げたわけじゃない。避難指示急いで! あとはヴィランを――なにか来るわよ?!」
カトルカールの上げた声に、全員が目を向ける。
洪水を防いだ城壁の先、未だ振動の続く上流から何かが見えた。
金色の大きな箱。
否、これは。
「でけえ馬がつっこんでくるぞ!?」
巨大な黄金の馬像。
そうとしかいえない形のものが激流に流されながら城壁へと衝突した。
破城槌のような衝撃に硝子の城が打ち震える。
「なんだぁ!?」
金馬の頭がキリンのように伸びた。
その上に設置された玉座に腰掛ける人影が、四人を見下ろし、声をかけた。
「やあ、こんばんは。ヒーローたち」
ミダス王の
「トロイの木馬に乗って、パパが挨拶にきたよ。
伝説のヴィランが、ほがらかに挨拶をしていた。
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