インバウンド増で浅草・下町コミュニティーが崩壊の危機 小さな戸建てが1億円 住民が「デメリットしかない」と嘆く理由
多くのインバウンド(訪日外国人客)が訪れる東京。凝縮した日本文化を楽しめる浅草は、活気に満ちているように見える。だが、周辺住民にとってインバウンドは「デメリットしかない」という。 【写真】戸建てが1億円! 変わりゆく浅草の町並み * * * ■平日でも祭りのような賑わい 「人力車で浅草観光はいかがですか?」 浅草寺前の歩道では威勢のいい客引きの声が飛び交っていた。車夫は日焼けした手に外国語のパンフレットを持ち、外国人観光客に英語で対応している。雷門では外国人のグループが赤い大提灯をバックに撮影中だ。「撮りましょうか」と、車夫が声をかけている。土産物屋や飲食店が軒を連ねる仲見世通りも外国人観光客でいっぱいで、祭りのようなにぎわいだ。 日本政府観光局によると、インバウンドの都道府県別訪問率ランキング(2024年)のトップは東京都(51.5%)で、大阪府(39.6%)、千葉県(36.6%)、京都府(29.5%)と続く。 25年夏、浅草の国際観光拠点としての存在感は上がっているように見えた。国策としてインバウンドに力を入れた成功例のひとつで、浅草らしい下町の気さくな雰囲気も、国際化に寄与したのかもしれない。そう感じていた。 ■周辺住民は「無関心」 だが、意外にも、周辺住民の心情は冷めていた。浅草に近い鳥越1丁目町会の細谷清防犯部長は、こう語った。 「インバウンドですか? はっきりいって、周辺住民は無関心です。外国人観光客相手に潤っているのは雷門周辺で商売をしている人だけです。昔からここに暮らしている住民にとって、インバウンドはデメリットしかありません」 細谷さんは決して「外国人」を嫌っているわけではない。率先して町内の外国人住民と良好な関係を築き、今春、警視庁から表彰されたほどだ。 何が起こっているのか。 ■わずか6年で世帯が半減 細谷さんが指摘する「デメリット」の一つは、地価の上昇だ。 7月1日、国税庁は全国の路線価(今年1月1日時点)を発表した。インバウンドに人気の浅草1丁目・雷門通りは前年比29%も上昇。上昇率は都内トップ、全国でも3番目だった。地価が上がれば、土地取引も過熱する。バブル期の地上げを彷彿させるような取引が目立つようになり、対象は鳥越1丁目にも及んでいる。 細谷さんが憂慮するのは、下町コミュニティーの崩壊だ。古い町並みが残る鳥越1丁目にはかつて1300世帯ほどの住民が暮らしていた。だが、わずか6年ほどで従来の住民は600世帯あまりに減ってしまったという。 「金の力で追い出されてしまったのです。このままでは、町が壊れてしまう。言葉は悪いですけれど、開発業者は住民を札束でひっぱたいているんです」(細谷さん)