教育

2025.09.13 08:00

トランプ政権下で低下する米国の大学の世界的な評判、回復は可能か?

米ハーバード大学(Marcio Jose Bastos Silva / Shutterstock.com)

米ハーバード大学(Marcio Jose Bastos Silva / Shutterstock.com)

米国では最近、高等教育界で大きな変化が起きており、世界の舞台における同国の大学の評判が危ぶまれている。コロナ禍の混乱と経済不安の余波を受け、米国のドナルド・トランプ政権は高等教育機関に焦点を当て、大規模な改革に取り組んできた。ハーバード大学やペンシルベニア大学、コロンビア大学をはじめとする名門大学と政府当局との間で繰り広げられた対立によって、これらの大学を含む研究機関への資金提供に関する懸念が生じている。

新学期を迎えた今も、高等教育の未来について数多くの疑問が残されている。こうした問題は、トランプ政権が数千件の外国人留学生のビザ(査証)の取り消しや制限に乗り出したことから、特に米国の大学に在籍する留学生にとっては差し迫った課題となっている。留学生のビザに対する脅威は、一流大学の収益にも影響を及ぼす可能性がある。専門家は、向こう数年間で米国の大学に留学する外国人が15~40%減少すると予測。留学生が減少すれば、米国人学生の学費に大きな負担がのしかかるだけでなく、ゆくゆくは全米の地方大学や中堅大学が閉鎖される恐れもある。

高等教育における政治的混乱の影響を受けたのは学生だけではない。教職員もまた、予測不可能な就労環境と向き合わざるを得なくなっている。高等教育に関するニュースを配信する米ヘッキンジャーレポートが6月に実施した調査によると、全米の少なくとも11州(うち7州は今年に入ってから)が、終身在職権を持つ大学教員に対する新たな審査基準を導入し、解雇を容易にするか、終身在職権の完全廃止を提案しているという。

1915年に米国で導入された終身在職権は長年にわたり、大学教員の表現の自由を保障し、信念や意見に基づく解雇から保護する措置として認識されてきた。ある議員がその廃止を求めた理由として、資金調達や納税者の負担を挙げたが、実際に廃止されれば、政治的異議を表明する大学教員には大きなリスクが生じる可能性がある。欧州連合(EU)諸国はすでに、急速に変化する米国の政策への対応策として、移住を希望する米国人研究者を積極的に誘致し始めている。

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翻訳・編集=安藤清香

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2025.08.25 11:00

需要急伸! 空間創造78年目 船場のエシカルでラジカルなワークスペース革命

戦後間もなく大阪で生まれた商業施設の内装設計・施工の老舗が、今、大きく変化の瞬間を迎えている。

3月末に就任した新社長が、他業種を巻き込んで「オフィス空間」の未来を変える。


〈オフィス空間提案をアジアで拡大 施設デザインの船場と提携〉

7月8日、日本経済新聞はそう報じた。文具だけでなく、オフィス家具の販売やオフィスの内装なども手がけるコクヨが、空間創造事業の市場拡大を目指すパートナーとして選んだのが、船場(せんば)だった。

船場は1947年創業で、オフィスや商業施設、空港、公園など多様な空間のデザイン・設計・施工を手がけている。国内外の三井不動産の商業施設、イオンや森ビルなどで実績をもち、最近では麻布台ヒルズにあるオフィスの半数程度の施工も担当している。2021年より「エシカル」をテーマに循環型の空間創造に注力し、業界を牽引。海外展開にも積極的で、84年に香港に現地法人を設立して以来、アジアを中心に拡大し、現在、中国・上海、台湾、ベトナム、シンガポール、マレーシアの5カ所に拠点を置く。

「コクヨさんは企業知名度が高く、オフィス関連の営業力が強い。一方我々は、本業としての総合的な内装業の強みがあります。そんな両社が連携することで、シナジー効果が生まれると期待しています」

そう語るのは、コクヨとのグローバル戦略的業務提携を陣頭指揮した船場代表取締役社長の小田切潤(おだぎり・じゅん)だ。今年3月末に着任したばかりだが、5月には、世界的な組織・人事コンサルティングファーム、マーサージャパン(以下、マーサー)との協業を発表するなど、ここへ来て攻める動きを見せている。

小田切潤
船場代表取締役社長 小田切 潤

直近年10%で拡大するディスプレイ業界

小田切の経歴をたどると、広告代理店のあとに就職した丸紅に15年在籍し、アメリカ駐在を5年間、さらに財務部、銀行や戦略コンサルティングファームへの出向なども経験し、多様な企業の経営企画・管理やM&Aを担当した。その後転じたアクセンチュア、そして執行役員を務めたオンワードホールディングスでは、売上高約300億円のアパレルのWEGO社の買収、同社取締役を兼務し新規事業開発などを行ってきた。それにしても、無縁だったディスプレイ業界になぜ興味をもったのか。

「衣食住の“衣食”は、日本は世界トップレベル。“衣”は、世界のトップアパレル企業が、日本の消費者は世界一感度が高いと評価し、“食”も海外の旅行者が日本での食事を大きな楽しみにしています。

ただ、“住”はまだ弱いという印象で、高いポテンシャルを感じたのです。船場を知った時、上場ディスプレイ業界4~5位ですが、78年の歴史のなかで蓄積された安全にいいものをつくり上げる力は、競合他社と1対1になっても負けない。経営でうまく舵取りすれば爆発的に伸びると直感しました」

ただ、デザインや設計・施工のプロはいても、経営視点で戦略を構想し実行する人は少ないとも感じた。趣味は、ファッションと映画、そして経営という小田切である。これは自分の出番だと思っただろう。

3つの大学院で経営を学んだ“経営フリーク”の同氏が示したのは、事業の選択と集中、そしてスピード感だった。

ディスプレイ業界の市場規模は約1兆8,000億円といわれる。直近は年10%の割合で伸びており、ラグジュアリーブランドなどのショップ、ホテル、そしてオフィス需要が特に伸びている。

「これまではオフィス空間にお金をかけるのは直接的な収益を生まないという文脈で商売ベタだといわれてきました。しかし今は、社員の定着率や中途採用の採用率にも影響するといわれており、オフィスへの投資が活発なのです」

またプロジェクトの特性によるものの、オフィスにバーやカフェをつくったり、2フロア借りの場合、ビル共用のエレベーターでの行き来ではなく、吹き抜けと階段を設置したり、木などの植物を置いたりしたほうが、その付近に人が集まることもわかってきた。

「そうした“タッチポイント”を随所につくることで、自然と会話が生まれ、新しいアイデアが生まれる可能性があることも知られるようになりました。我々が商業空間で培ってきた“賑わいの場づくり”のノウハウが生かされるのです」

オフィスに大型投資しようとするのは、グローバル企業やそれを目指す企業が多いという。そうしたターゲットにアクセスする手段として小田切が考えたのが、マーサーとの協業。なぜなら、153カ国にある大企業の従業員サーベイデータベースを所有する世界最大級の企業だからだ。

「膨大な情報から導き出された組織・人事戦略に関する示唆を、いかにオフィススペースのデザインへ落とし込んでいくか。それを我々が支援します」 

面を取る戦略と「4つの新組織」

マーサー、そして冒頭に記したコクヨといった業界トップクラスの企業と組む狙いは、知名度を補う意味合いもある。連携がメディアで発表されるや株価も敏感に反応した。こうした大きな連携は小田切自身がトップ営業でまとめた。

「今回のようにチャレンジをする場合に大切なのはスピードです。競合他社が豊富な資金力をもって市場に入り込んで来る前に、一点突破して素早く面を取っていく戦略をとる必要がある。そういう勝負どころでは、私自身が出て行きます」

こうした戦略に対応するために4つの新組織を立ち上げた。

まず、「CVX(コーポレート・バリュー・トランスフォーメーション)戦略室」。急拡大するオフィス関連市場の特殊専門部隊で、営業支援活動を行う。

ふたつ目は「ラグジュアリースペース室」。付加価値の高いホテルやラグジュアリーブランドのショップを担当するセクションだ。特に環境配慮とデザイン性を両立させた「エシカル」は船場の強みとしてきたところで、ラグジュアリーとの親和性が高く、欧米のラグジュアリーブランドでは当たり前のコンセプトになっている。

3つ目は「事業承継チーム」。同社には工事や什器など約150の協力会社があるが、どこもキラリと光る技術をもっている。が、後継者問題を抱える会社が多く、放置すると後継者が見つからないまま廃業するケースも。これは船場にとっても損失であるため相談窓口を設置したのだ。

さらに「アルムナイ・ネットワーク」。中途・定年で退職した人と、離れたあとも関係性を保ち続け、情報交換などができるネットワークにした。

小田切は、コクヨとのグローバル戦略的業務提携に際して、「イノベーティブで“ラジカル”」という表現を使った。その理由にこそ、これから船場が進むべき道が示されている。

「船場の社員に常勝集団のようなメンタリティをもってほしい。各分野のプロとして独特の緊張感があって、チームとしても迫力があるような。そんな存在であるためには、ラジカルでなければ」

映画界の鬼才スタンリー・キューブリックの大ファンだという小田切。コクヨ、マーサーとのアクションはほんのファーストショットという。売上目標は1,000億円。これからも、ラジカルに新しいプロジェクトを仕掛けてくるだろう。

船場

https://www.semba1008.co.jp

おだぎり・じゅん◎船場 代表取締役社長。新卒で広告代理店、2006年から丸紅の投資事業金融室、NY駐在等に従事。その後、アクセンチュア戦略チームのプリンシパルディレクター、オンワードホールディングス執行役員兼戦略企画室長を経て、2024年11月船場副社長執行役員に就任。2025年3月より現職。早稲田大学大学院卒(MBA)、一橋大学大学院卒(MBA in Finance)、HEC Paris経営大学院卒(MSc)、ハーバードビジネススクールGlobal Strategic Management修了。

promoted by 船場/text by Masamichi Nishidokoro | photographs by Toru Hiraiwa

教育

2024.10.23 12:00

世界大学ランキング 英米が低迷するも、英オックスフォード大が首位を維持

英オックスフォード大学。2016年9月20日撮影(Carl Court/Getty Images)

英オックスフォード大学。2016年9月20日撮影(Carl Court/Getty Images)

英教育専門誌タイムズ・ハイヤーエデュケーション(THE)はこのほど、2025年版世界大学ランキングを発表した。それによると、米国の大学は依然として世界で圧倒的な存在であり続けてはいるものの、近年、評判が低下しつつあることが浮き彫りとなった。

THEのランキングは、世界中の高等教育機関を対象とした、最も包括的な評価の1つとして知られている。今年は昨年より185校多い、115の国と地域から2092校の大学が評価対象となった。

今年の上位10校は以下の通り。9年連続で首位に立ったのは、英オックスフォード大学だった。

1位 オックスフォード大学(英国)
2位 マサチューセッツ工科大学(米国)
3位 ハーバード大学(米国)
4位 プリンストン大学(米国)
5位 ケンブリッジ大学(英国)
6位 スタンフォード大学(米国)
7位 カリフォルニア工科大学(米国)
8位 カリフォルニア大学バークレー校(米国)
9位 インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)
10位 エール大学(米国)

米国からは上位10校に7校が入ったほか、上位25校には16校(順にシカゴ大学、ペンシルベニア大学、ジョンズ・ホプキンス大学、コロンビア大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、コーネル大学、ミシガン大学、カーネギーメロン大学、ワシントン大学)、上位50校には23校、上位100校には38校、上位200校には55校がランクインした。

THEは教育環境(学習環境)、研究環境(研究量、収入、評判)、研究の質(論文の引用数、研究の強さ、研究の卓越性、研究の影響力)、国際的な展望(職員、学生、研究)、産業(収入、特許)の5つの項目に分類された18の指標を用いて大学を格付けしている。さらに、世界中の学者を対象に、各分野の教育と研究の両面で世界屈指だと思う大学を最大15校まで挙げてもらい、大学の評判を分析している。

今回の調査では、米国と英国の大学の評判が、教育と研究の両面で低下していることが明らかになった。米国の大学は教育で36.3%、研究で38.1%の票を得たものの、2015年のそれぞれ44.2%、46.5%と比較すると減少が著しく、過去5年間で最大の落ち込みを記録した。昨年との比較でも、米国の大学の教育への投票率は4%低下し、研究では3%低下した。英国の大学は教育で13%、研究で12.8%の票を得たが、10年前のそれぞれ18.9%、18.1%から減少している。

英米の大学の評判が低下しているのはなぜなのか? その理由の1つとして、THEは近年、評判調査の地理的範囲を拡大したことから、以前より多くの国の学者が参加するようになり、票が分散するようになったことが指摘されている。だが、それと同時にTHEは、英国の大学が評判を下げている一因として、同国の大学の予算縮小と他国の大学の予算拡大も挙げている。

英米以外の大学は教育で51%、研究で49%の票を獲得し、10年前のそれぞれ37%、35%から大幅に増加した。上昇が特に著しかったのは、中国、フランス、ドイツの大学だ。中国の大学は、教育が10年前の2.7%から7.7%に増加したほか、研究に関する票の割合も2015年の2.2%から7.3%に増加した。

THEのフィル・ベティー国際業務最高責任者は、世界の上位10校をほぼ独占している米国の一流大学がその中で比較的大きな入れ替わりをしながら激しい競争を繰り広げていると説明。その上で、米国の大学の評判は、学術関係者の間では世界最高だが、近年その低下が著しく、過去最低の水準にあると指摘した。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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