メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
この状況から生き残りを賭けた逆転のために俺ができる唯一の悪足掻き。それは。
────俺自身が、偵察兵となることだッ!!
…………普通だなッ!!
そうそう、サガミ大佐は謹慎を申し付けられたのだとか。公衆の面前で責任がどうのこうのと吠えていたわりに普通の処罰だな? 軍学校の教官たちにマイナスな先入観しか持っていない俺にはど偉い危機に見えているけど。後釜、リンドウ様にとって都合の良い人物が学校長になってんやろなぁ。
で、そんな情報を誰が届けてくれたかと言うと。
「どうやらリュウドウ様はリュウドウ様なりに特務中尉殿を評価して信頼なさっておられるようですな。所属が陸軍から海軍へと移ったからこそ遠慮なく言えることではありますが、取り巻きさえまともであれば良き指揮官としてご活躍なされたのかもしれません」
「わたくしに言わせて頂けるのであれば、例えもしもの話であろうとも期待できるだけよろしいかと。あぁ、ですが良くも悪くも統率力だけは秀でていることは認めなくてはならないでしょう。アレの扇動により候補生の皆様方は気力に溢れていましたから。工兵の方々の
「あの演習に納得していなかった候補生たちはともかく、まさかヨウイチの奴まで空気に飲まれるとは思いませんでしたよ。と、いってもアイツの場合は少し違うのかもしれませんが。召喚器を使えなくても自分を慕ってくれる奴らが死なないように、って使命感というか。ま、命惜しさに逃げてきた俺に偉そうなこと言う資格なんてありませんけどね」
カゲツ曹長、コノミ女史、アキラ一等戦闘員の3人は俺の部下にと送られてきました。リュウドウ様の仲介だから更迭ってことなのかな? ほかにも演習に協力してくれた人たちはリンドウ様、というよりもその取り巻きが余計なことをする前に大半の人員を海軍で有り難く頂戴したそうだ。
カゲツ曹長とアキラはともかく、まさかコノミ女史まで俺の部下扱いとはねぇ。日本帝国市民の上澄みである八葉家、そのさらに上澄みである紅葉家の血縁者がDクラス出身のC民中尉の下でええんか? ええじゃないかと罷り通るから部下になったんだものしょうがない。ちなみに階級は伍長だそうな。カゲツ曹長は紅葉の巫女が自分より下の扱いをされることに苦笑いである。
しかしリュウドウ様、最初はなんとなく残念なイメージばかり抱いていたけれど……なんというか、変に納得してしまったというか。俺の視野が狭かっただけだと反省する必要があるな、うん。
残る御三家の最後のひとり……コロニー全域を利用した儀式を企み姿を隠している黒幕でも、リンドウ様に振り回されて胃潰瘍で倒れて姿を見せられない苦労人でも、どっちのパターンもあり得るのが笑えるなぁ……ハハ……。
想定外であり望外の協力者、これなら隔離区域の偵察も捗るってなもんよ。ヨウイチくんについては残念ではあるが、あの子は俺にとっても危険な存在だからな。熱血系主人公の素質というストーリーを盛り上げる能力に長けている代わりに周囲の誰かが尻拭いをしなきゃならん特異存在なんて近寄りとうないのじゃ。
なにより、これから俺がやろうとしているのは毒を喰らわば皿までの精神で隔離区域内部でガッツリ厄ネタを発掘して上に報告することで帝国魔導院なる怪しい連中を表舞台に引き摺り出すことでコロニー浄化作戦そのものを引っ掻き回して有耶無耶にしてやろうという綱渡りどころか落ちれば最後の超高層走り幅跳びだからな。ついうっかりでボロを出しそうな彼はイマイチ信用できん。
俺だってイヤだよ? そんなお前……眼の前の森には人食いクマが沢山いて危険だから隣の人食いサメのいる湖を泳いで迂回しようぜみたいな真似したくねぇよ? でもほかになにも思い付かなかったんだからしょうがないじゃん。
ソーマ輸送任務が巫女さん大量拉致されたのに無かったことにされたように、あの頭はメシア心はガイアのカリスマ性バグまみれ巫女様を足止めするにはこれぐらいやらんとムリだろ。だって暴力じゃ勝ち目無いんだもの。
そのための、隔離区域。しかし俺にとっても意味のある冒険。もう手前の地区に出現するヨモツイクサのMAG結晶体じゃレベルアップしてる感覚がゼロになってしまった。ゲームでいうなら生体マグネタイトの取得量は変わらないけど経験値にモリモリのマイナス補正が働いている感じだろう。
リンドウ様に殺意は無かった。だけど、もしも意識を刈り取られて治療という名目で人体実験のモルモットにされたらどうする? 俺は絶対にイヤだぞ、意識を保ったまま脳髄だけ培養液の中に浮かべられて何年も何十年も科学者だかデビルサマナーだかの玩具にされるとか。生きる望みが絶たれたなら、せめて人間として死なねば。
隔離区域にブッ込むための建前は足りている。俺の発案で実行された実戦演習がダメになった、しかし御三家の紅葉家に責任を追求することはできない。ならなんぼでも使い捨てにできるCクラス帝国市民のほうにケジメ案件をまわすしかないよなぁ?
あとは、まぁ……そうだな、俺の想像通り隔離区域にはシキガミ使いが迂闊に触れたらヤベェ代物が本当にあるんだろう。そうでなければ、いくらなんでも中尉なんて下っ端に上級大将が世話を焼いてくれるはずがない。コロニーの管理責任者なら隔離区域に隠されたモノも知っているか、あるいは危険物があるという事実だけでも教えられているかもしれない。
だってよ、上級大将だぜ? 銀河英雄伝説で仕入れた知識でしかないけど、その上ってもう元帥ぐらいしかいないんだろ? じゃあ悪魔に関する知識を含めた厄ネタのひとつやふたつ知っててもおかしくはないだろ。
つまりなんらかの目的のために隔離区域を活性化させたい黒幕の思惑と、なんらかを封じておくために隔離区域をそっとしておきたい黒幕の思惑がゴッツンコしてるってワケだ。うーん、黒幕と黒幕で黒幕がダブってしまったな。ゲロ吐きそう。
そんな俺の七難八苦を知ってか知らずか巻き込まれてしまった頼りになる可哀想な仲間たちはというと。
『ちょっとニンゲン、大丈夫なの? ホラ、背中さすってあげるからシャキッとしなよ。オトコノコでしょ!』
「うっぷ……面目ありません……」
MAG結晶体から凶鳥モー・ショボーを召喚したものの、どうやら負担が強かったらしく盛大に吐き戻して介抱されているマモル。
『えっと、その……膝枕、冷たくないですか?』
「いや……むしろ、ひんやりして気持ちいいッス……」
MAG結晶体から鬼女マーメイドを召喚したものの、どうやら負担が強かったらしく盛大に吐き戻して介抱されているアキラ。
『我らにとっては良質な食事なのだが、ニンゲンとは不便なものだな』
「うぐ……正直、この味には慣れる気がしない……」
MAG結晶体から魔獣オロバスを召喚したものの、どうやら負担が強かったらしく盛大に吐き戻して介抱されているホノカ。
隔離区域に入ってまだ数時間なのに、6人中3人がゲロ吐いてんだけど? 頼れる仲間は、みんな目は死んでないけど酸っぱ生臭い。悪魔召喚に成功したこととか、戦力が増えたとか、もっとこう感動するべきことは沢山あるのに、もうそれどころじゃなくなっちゃったよ。
ちなみに。
「確かにお世辞にも美味いなどと言える代物ではありませんでしたな! ……自分でありますか? 伍長たちの前で曹長である自分が情けない姿を見せるワケにはいかんでしょう。この場におられるのが中尉殿だけでありましたら遠慮なく物影に失礼したところでありますが」
『フフーン♪ さすがはワガハイの従者、なかなか見どころがあるじゃニャいか!』
「ハッ! お褒めに預かり光栄であります騎士殿ッ!」
魔獣ケット・シーを召喚したカゲツ曹長はピンピンしてる。同じ下士官でも伍長より上だからな、鍛えられた精神力で我慢してみせたってところか。しかもケット・シーの見た目にあわせてコミュニケーションのほうもノリノリである。適応力エグいな?
「中尉さま、取り敢えず……麦茶でも飲まれますか? 少量ではありますが甘味料を加えていますので、多少は気晴らしになると思います」
せやね。ちょっと離れたところにベンチあるし、そこでご馳走になろうかな……。
違うだろ、悪魔召喚に成功してんだからさぁ? こういう場面ってもっとこう盛り上がったりするんじゃないのぉ? それがこんな大惨事になったら……悲しいじゃん。真面目な説明、してやれないよ。もう麦茶を飲むしかなくなっちゃったよ……。