メガテニストはディストピアでもヘコたれない。   作:はめるん用

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 神話ネタの説明が必要ないのは作者的にはとても助かります。これでイザナギとイザナミの神話とは〜、なんて主人公に説明させるシーン挟んだらそれだけで1話まるごと使っちゃいますからね。



コマンダー:7

「さぁ、覚悟はいいかッ! 選抜試験などと嘯いて学生たちを混乱させた責任は決して軽くないぞッ! 片目が見えなかろうとッ! 片腕が使えなかろうとッ! 数百人の候補生たちを弄んだ貴様に容赦する理由など無いからなッ!!」

 

 

 書類仕事してたら黒髪ロン毛の巫女が乗り込んで来た件。

 

 なんかもう部屋でそのまま暴れそうだったから、それこそ報告書をまとめたりなんだりを手伝ってくれているタクマ少佐やその部下の皆さんのことも気にせず巻き込みそうだったので移動したのだが……あーらら、学校の営庭まで来ちゃったもんだから見物人の多いこと! 

 まったく名乗ろうとしないけど、まぁこの巫女さんが紅葉家の当主代行であるリンドウ様なんでしょうなぁ。リュウドウ様のトコと比べても負けず劣らず貧弱なMAGとは真逆のご立派な御召し物の取り巻きを引き連れていたし。タクマ少佐の表情が能面みたいに無感情になってるし、騒ぎを聞き付けて外に出てきたサガミ大佐の表情も愉快なことになってるし。

 

 

 ……うん、強いな。

 

 仲魔の力を迂闊に使えない俺じゃ勝てんわコレ。相手の強さがわかるのも強さのうち、とは良く言ったもんだ。いつものように焦りとか不安とか恐怖とか、そういう感情の揺らぎはないけれど、ただただ冷静に紅葉リンドウは自分より格上の存在だと理解させられたわ。

 それに、見えてんだよな〜薄っすらユラユラと背後に。ジコクテンだかコウモクテンだか、ぶっちゃけ細かいディティールなんぞ覚えてないから区別つかないけど、とにかく四天王の誰かっぽいシキガミ? 悪魔? 実は大穴でペルソナかもしれんが……浮いてんのぉ〜、見えてんのぉ〜? 四天王ォ〜♪ 

 

 さて。

 

 これがラノベの主人公なら眼の前の巫女さんを倒すことで謎の感情爆発が起きて好感度が反転して惚れられるみたいな流れがテンプレだったりするワケだが……これ、俺、別に勝つ必要ないんだよな。もちろん実力差があるから勝てないっていうのもあるけど、ここをプラス評価で乗り切ったところで俺にはなんの利益もねぇんだもの。

 むしろ殺されないようにだけ気を付けておけば、あとはボッコボコのギッタギタのミックミクにされたほうが好都合なんだよねー。この感じ、リンドウ様の性格について聞いた話ばかりで詳しくは知らないけれど、ここでボロクソに負けておけば「こんなヤツに大事な学生たちを任せられるか!」みたいなノリで追い出してくれると思うんだよ。

 

 

 押し付けられた役目から逃げられないのなら、せめて候補生たちを少しでも生き残れるようにとできることをやった。

 

 だけど、その押し付けられた役目をまた鶴の一声で取り上げてくれるというのなら……俺は喜んで無様に地面を転がるゾイ☆

 

 

 問題があるとすれば清楚な見た目に反してゴーリキーやゴリランダーとスチェンカ()でコミュニケーションできそうなぐらいバキバキのオーラ“背負って”る巫女さんの木刀がどんだけ痛いかってことぐらいかな。これ絶対アレだよ、普通に斬鉄とかするタイプの巫女だよ。

 

 

「いくぞッ! 貴様も陸軍に所属する侍ならば、少しは抵抗してみせるのだなッ!」

 

 

 侍じゃなくて軍人だし、それも変則的な実戦経験しか積んでない見掛け倒しのなんちゃって軍人なんですけど? 正々堂々とした戦いなんぞできるワケねぇだろボケェ……ッ! 

 

 クソ、とにかく一撃必殺で昇天するのだけ用心して……ッ! 

 

 用心して……。

 

 致命傷だけは……うん? 

 

 

 あれ。

 

 リンドウ様の攻撃って。

 

 

「はぁッ!!」

 

 うぉッ?! 

 

「まだまだッ!!」

 

 どぅへッ?! 

 

 

「どうしたッ!! 特務中尉とやらの肩書きは飾りかッ!?」

 

 

 ギリ倒れ伏すことなく、しかし一方的にブッ飛ばされた俺に木刀を突き付けて吼えるリンドウ様。本人的には制裁ではなく対等な一騎打ちによる意見のぶつけ合いのつもりなんだろう。階級支配の社会で上澄みの人間が手下を引き連れて下っ端を取り囲み公開処刑しているなんて意識は欠片も無いに違いない。

 

 まぁ、そこはどうでもいい。俺にとって名誉や称賛は邪魔でしか無い。多少ならば人的資源の価値を示すために必要だが、能力以上の仕事を割り振られて苦労するぐらいなら後ろ指を指されて笑われているほうがいい。

 

 

 そんなことより、違和感の正体だ。

 

 

 違和感。

 

 

 なんだ? こんなしょーもない私刑でも打ちどころが悪けりゃ死ぬかもしれないんだ、リンドウ様の攻撃に集中しないと────。

 

 

 うん? 

 

 いま、俺、死ぬ“かもしれない”って考えたな? 

 

 

「……フンッ! 反撃のひとつもできないのか? だが先に宣言した通り、貴様がどうであろうと私は容赦するつもりはないぞッ!」

 

 

 喉を狙う突きの一撃。

 

 咄嗟に掌で受ける。 

 

 

 もとより無抵抗と決めていたこともあり、某サッカー作品の登場人物たちのように景気良く吹っ飛ぶ俺。防御に使ったお手々も痛いし、衝撃が貫通したから呼吸するだけでもキツイし、しっかり負けるためにギリギリまでMAGによる防御力を絞っているから地面をバウンドするたびに全身が痺れる。

 

 

 だが、これで確信した。

 

 リンドウ様の攻撃は強い。が、()()()()()

 

 

 強いだけでなにも怖くない。本人の気質と、そもそもの目的が“なんか調子のって学生たちを困らせているヤツの根性を叩き直してやる”ぐらいだからってこともあるんだろうけど……攻撃に全く殺意が宿っていないのだ。

 敵意は有れど殺意は無し。う〜む、なんだか新鮮な体験だな。たぶん結果論としてダメならそのときはそのとき、ぐらいのつもりで本気の攻撃してんだろうけど、俺が格下の相手ということもあって武人らしく手加減しているのかもしれない。

 

 どういうワケかいつもいつもいっつも本気で殺しに来る格上の存在ばっかりと戦ってたもんなぁ、俺ェ……。

 

 そういう意味では貴重な体験、是非とも自前で斬撃耐性を身に付けるために片手の受け流しとか練習してみたいところだが。ま、素直に諦めるしかないだろう。半端な真似はご法度である。ここで判断を間違えればまた余計な責任を押し付けられることになるかもしれん。迂闊、軽率、ダメ絶対。

 

 

 じゃあ一方的にポコポコ地面を転がされるのが正解かと問われると返答に詰まっちゃうけど。うおォン。俺はまるで、人間サンドバッグだ。メガテン基準なら人間サンドバッグなんて扱いとしては全然マシなほうだな……。

 

 

 いや、マジで条件が悪過ぎて悪足掻きもできんぞコレ。

 

 せめて呼び出しからの秘密裏に処理する方向だったらまだ手札も腐らずに済んだのに。そこに可能性があるかどうかは別として、まだ俺にも選択肢はあっただろう。

 だが公開処刑ではガチで打つ手無し。悪魔に関わる力も知識も使えない。ヤスツナちゃんはもちろん、まるで虫でも見るような無機質な視線をリンドウ様に向けている18人の人造超力兵が暴走という名のお仕事モードになったら全員終わるで? 

 

 仮に、仮にリンドウ様が超反応でひとり仕留めたとしてもムリだ。残りの18人が一斉に散開したらどうにもならない。

 

 開き直って魔王ミノタウロスを召喚する? 確かに自称メシアには圧勝していたが、そんなミノタウロスでもMAG結晶体に封印されていたことを忘れてはいけない。

 なんなら悪魔を封じるための装備とかあるんじゃないの? テンプルナイトを名乗ってた連中が謎の鎖でミノさんをどうにかしようとしていたみたいに。無い、という希望に縋るには……支払う対価が大勢の命ってのは、ちょっと俺の趣味には合わないかな。

 

 

 そんなこんなで。

 

 オレサマころりんすっとんとんをしばらく。

 

 

 バチクソ不機嫌に終了宣言するリンドウ様。武人だの女傑だの女神転生的には微妙に褒め言葉になってんだかよーわからん評価をされているような人物だ、それなりに“できる”と期待していた相手が無抵抗でブチのめされるような軟弱者ではこうもなる。

 

 

「もういい。────サガミッ!」

 

「ハッ!」

 

「今回の一件、学校長である貴様の責任でもあるッ! 本来ならば学生たちの成長と安全を第一に考えるべき貴様が却下するべき案件だったはずだッ! 役目を果たせない責任者など必要ない、相応の処分を覚悟しておけッ!」

 

「ハッ! リンドウ中将閣下の仰る通り、全ては自分の不手際によるものでありますッ! 此度の一件、まことに申し訳ありませんでした閣下ッ!」

 

 

 許可を出したのはリュウドウ様もだけどな。

 

 いや、これは敢えて情報を共有しなかったパターンか? 

 

 リュウドウ様は今回の演習を必要だと判断したが、リンドウ様に知られれば反対されると思って黙っていたか。もしそうなら御三家に心酔しているアホ教官たちに思惑を台無しにされたという愉快な構図になっとるやん。みんなは、報連相をちゃんとやろうね!

 

 

「皆、安心してほしい。キミたちの努力を無駄にするようなことはしない。今日までシキガミ使いとしての技術と経験を磨いてきたキミたちの努力は私が良く知っている。護国の志士としてヨモツイクサと戦い、立派に国家貢献の義務を果たしたことを知っている。

 だから、私はここに宣言しようッ! 長らく汚染されたままだったこのコロニー『トヨウケ』を浄化する一大反攻作戦の先駆けに、私自らが先頭に立ち皆を導こうッ! だからキミたちも、なにも恐れることはないッ! シキガミの力がッ! そして、なによりも今日まで苦楽を共にし育んできた仲間たちの絆がッ! キミたちを必ず勝利に導いてくれるだろうッ!」

 

 

 あちゃー。そっちのパターンか〜。

 

 ここしばらく右往左往してコツコツ積み上げてきた生存戦略が三十分もしないで全部ブッ壊されてしまったな。冷静に考えれば管理番号を名乗ってる下っ端が好き勝手に軍隊を動かしてるほうが大問題だと思うけどね。

 それを思えば、眼の前の光景はある意味では正しいのかもな。力もある、立場もある、血筋に関してはメガテニスト的メタ視点ではノーコメントだが……学生たちが熱に浮かされて盛り上がっていることからも、カリスマ性もあるようだし。そんだけ俺が嫌われてたって証明でもあるが、そこは意図的なモノだから仕方ない。

 

 

 しかしなぁ……。リンドウ様、自分がこれからやろうとしてることが候補生たちにとって俺の選抜演習よりも過酷だってこと理解してるんかね? ヨモツイクサは手加減はもちろんギブアップなんて受け付けてくれないぞ? 

 純粋な暴力の世界は精神を蝕む。平和な日本での生活を忘れていなかった俺でさえ、他人の命を奪うことを恐れなくなる程度には。巫女さんたちの結界を頼りにシキガミの力で安全に狩りを楽しんでいた候補生たちにはちょっと刺激が強過ぎるんじゃない? 

 

 だが、まぁ。こうなってしまえばもう俺にはどうにもならん。頑張れ学生たちよ、これから君たちが進む道は力こそが正義のカオスルートだ。強ければ弱者を喰らい生き残り、弱ければ強者に喰われ糧となる弱肉強食の世界だ。

 Dクラス帝国市民の多くがそうしたように、お前たちも自分が生き残るために仲間の命を喰い物にすることのないよう……まぁね、祈るだけならタダだからね。こんな世界でナニに対して祈ればいいのか知らんけど。

 

 

 さ、当初の目論見がオシャカになったことだし……次の一手のために隣の区画に帰る準備でもしましょ。そっちが巧くいけば学生さんたちに大きな被害が出るより先に上の人らが動けるかもしれん。

 なにもかもクッソ面倒だし、なんで俺が部下でもない連中のためにボコボコにされた上で追加で骨を折らにゃならんのだとは思うが……それなりに期待できる奴らもいたのに、それを知ってて見殺しにするワケにはいかないもんなぁ。はぁ〜、メンドくさぁ〜。

 

 

 ってか、トヨウケってトヨウケヒメ? 食に関わる女神の名前を付けたコロニーで、隔離区域に暴食界って名付けたんか。帝国魔導院のネーミングセンスどうなってんの?




 これはヒドい(確信)
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