メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
フェーズ3
演習開始から24時間まで
「ひよっ子どもの動きが良くなったのは朗報でありますが、この演習が終わるころには特務中尉殿は多方面から愉快な感情を向けられることになりそうでありますな。もっとも、書類上の責任者が誰であろうとも自分たちとて演習に参加した事実が誤魔化せるワケではありませんが」
学生としての生活サイクルの影響だろう、昼飯時には馬鹿正直に休息する候補生たち。
ならばその空き時間を有り難く利用して演習エリアの外側に設営しておいた仮設本部に集まる大人たち。
さて、候補生たちの動きは下士官たち曰く「まだまだ戦争をしている自覚は足りていないが、頭の上の殻ぐらいは取れた」らしい。どうやら書類選考で落ちたエリート(笑)が乱入してきたものの大怪我でリタイアした姿を見て考えを改めたようだ。
こちらは対物理MAGコート着用を前提としているのだ。ならば、防御力の足りていない装備で戦場にノコノコやってくればそうなる。十中八九俺のことを嫌っている教官たちが勝手に参加を許可したんだろうが、机上の空論でしか戦闘を知らない連中では戦闘中の負傷がどれだけメンタルを削るのか知らなかったようだな?
なるほど、確かにシキガミの力を使えば怪我だって簡単に治療できるだろう。ディア系はもちろん、毒治療のポズムディや麻痺治療のパララディ辺りも使えるのであれば大抵の状況には対応できるかもしれない。
しかし残念ながら、だ。そうした回復・治療魔法は便利かもしれないが“体内の残留物”を除去する効果は無いんだよ。緊張状態で全身を生体マグネタイトが循環している状態であれば対物理MAGコートが防いでくれるような小さな金属片だったとしてもね。
一応確認してみたが、御三家による改革が始まる前に戦闘員になった人たちはその辺りの知識と技術もちゃんと学んでいるようだ。傷口を刃物で切り開いての摘出など自力では痛くてムリだから、なるべくふたりぐらいに身体が暴れてしまわないよう押さえつけてもらった状態で処置する、あるいはしてもらうのだそーな。
「ヨモツイクサとの戦闘でも、実際のところ連中の攻撃よりも瓦礫なんぞのほうが厄介に感じることは多くありましたな」
「そうそう、MAGコートも消耗すると釘の一本やガラスの破片一枚ですら効果が怪しくなってくるんだよな」
「それでも無いよりは全然マシですけどね〜。木材の切れっ端とか腕の中に残ったまま回復系の異能なんて使った日にはもう……マジで涙が止まらなかったよ」
「で、その辺りの知識と経験が足りていないお坊ちゃんお嬢ちゃんたちが元気よく泣き喚いていたってコトか。悪辣な仕掛けを作った技術班も大したものだが……いやはや、流石は戦闘の現場を良く知る特務中尉殿、ひよっ子どもの教育でも容赦がありませんな!」
そんなつもりは無かったんだけどなー。
しかしこれでほぼ確定。教官たちは黒と見てヨシッ! いくらシキガミが、悪魔の力が戦闘力として優れていても、軍隊として積み重ねてきた知識と経験が役に立たないという理由にはならない。事実、下士官たちはテロリスト対策として対人戦やらトラップ対策を教えていたのだから。
せめてもの救いは演習で怪我人が出たことか。これが作戦行動中だったら目も当てられないってヤツだ。生体マグネタイトに反応するヨモツイクサが何処から現れるかわからない状況で感情的になって泣き喚くとか、大声でここに美味しいエサがありますよ〜って宣伝しているようなものだし。
馬鹿の自滅を見て残った候補生たちがぐんぐん成長しているのは大変結構なことだが、俺としては状況は最悪と言っていい。正式な訓練としてコロニーの管理責任者である上級大将にも、コロニー浄化作戦の発案者であり肩書だけだとしても責任者である御三家のリュウドウ様にも許可を得ているのに
いまは限定的に俺の部下扱いでも、この場には俺より偉い人も賢い人も大勢いる。それでも書類落ちのエリートたちの乱入については完全に諦めムード。つまりは予定にない不審者が紛れ込んでも、それが上級国民の関係者であれば対処するのは難しいということ。これが階級支配による管理の強みッ! ディストピア要素くん良い仕事するねぇッ! 難易度修正パッチは何処でダウンロードできますか?
……はぁ。
まったく、仕方ないなぁ〜権力者くんは。
よっしゃ。そんじゃ、これからの予定について話すから全員ちゅうも〜く。
まず確認。負傷した馬鹿どもはまだベースキャンプにいるな?
そうか。それはそれは好都合。では本日の消灯開始に合わせて候補生たちのベースキャンプを襲撃、第一目標は負傷者を収容しているテントを狙え。爆竹でも火炎瓶でも使える道具はなんでも使用しろ、ベースキャンプが火の海になっても構わん。混乱に乗じて一気に候補生プラス馬鹿どもを制圧して今回の演習を終了とする。
私は今回の演習にて72時間の猶予を与えた。候補生たちが兵士として充分な能力を有しているというのであれば、それを証明するための機会を用意した。だが教官側の評価を信じた結果はご覧の有り様だった。もはや、これ以上は時間と資源の無駄でしかない。いや、下手をすれば死人が出る可能性もある。学生が主役の演習で戦死者など笑い話にもならん。故に、本演習の実行責任者としてフェーズ3にて終了を宣言する。異論がある者は遠慮なく意見を述べよ。
…………。
…………。
誰もなにも言わないんか〜い。
ま、そうなるわな。そりゃあね、思うところはあっても上に堂々と逆らうワケにもいかんのだからそうなるよね。
仕方ない。少し肩の荷を軽くしてやるか。
副官、ヤスツナッ!
「────ッ! ハッ!!」
我々、日本帝国陸海両軍の肉体、精神、その血の一滴に至るまで、それら全てが御国の未来を切り拓くための忠義の刃の切っ先であると同時に、そこに暮らす民衆が幸福であるため、あらゆる厄災から人々を守護するための護国の盾である。これに反論はあるか?
「はいッ! いいえ特務中尉殿ッ! 全く以って仰る通りでありますッ!」
ならば我々帝国軍人には、日本帝国の貴重な財産である次世代の人材についても責任があるのは自明の理。そしてそれは学徒兵とて例外では無いはずだ。それは何故か? 彼らは学生であるが故に学ぶ権利を持つ者であり、同時に新兵であるが故に……やはり学ぶ権利を持つ者であるからだ。これに反論はあるか?
「はいッ! いいえ特務中尉殿ッ! それは軍学校の存在意義と照らし合わせても正しい意見であると同意致しますッ!」
で、あるならば……だ。
彼らもまた、日本帝国が保有する財産であるとするならば────即ち、学徒兵たちもまた唯一無二の現人神で在らせられる皇帝陛下の私財も等しいモノであると私は信じている。それを陛下の許し無く私事に利用するなど言語道断であると確信している。ならば、如何なる立場であろうとも、如何なる理由があろうとも、学徒兵たちの命を浪費する権利など例え
「はいッ!
改めて周囲をチラリ。
よすよす、ちょっとは顔色が良くなったな!
ま、こんな具合に上司への言い訳は俺のほうでなんとか考えるから候補生たちを安全にリタイアさせてやってくれ。年齢的にはそこまで大きく変わらないし、まぁ馬鹿なことやってんな〜とは思うけどさ。それでも連中が俺にとって軍人としての後輩であり、いつか部下になるかもしれないってんなら……せめて、納得の行く形で、意味のある形で地獄に連れて行くぐらいのことをしてやらないと立場が無いだろう?
『『『『了解でありますッ! 軍団長殿ッ!!』』』』
ふぅ。
これで目先の問題にまずは一手、だな。
わざわざイベントのフラグが整うのを待つ必要なんてあるかよバーカ。せっかく昇進して、面倒を押し付けられて、それに見合う権限を渡されたんだ。だったら俺にできる範囲で先手を取って危険を潰したほうがいいに決まっている。ただでさえアレコレ不利な状況なのに、なにもしないで受け身でガクブルしてるとかアホの極みだろ。
時間が俺にとって味方かどうかは怪しいところだ。
しかし次の一手のための時間は無駄にはならない。
それにしても……結構、綱渡りになるかと思って、それこそ心臓が破裂すんじゃねーのってぐらいギリギリのつもりでぶっちゃけたんだが。御三家に限らず八葉家そのものと帝国魔導院って、別にそれほど仲良しさんってワケでもないのかな?
あくまで自分は帝国の利益のために動いてますよ〜、と前置きして予防線を張っておいたとはいえ、思いっきり御三家をダシに八葉家の決定でも人材の無駄遣いは別だって批判したようなものなのに。同じオカルト屋さんだと一括りにしていたけれど、そこでも思想的な対立があるのだろうか?
いやー、メガテン的には全然あり得るんだよなー。帝国、軍部、八葉家、魔導院。ホラ、丁度いい塩梅に4つに分類できちゃうんだもの。
そこはニュートラルも含めて5つじゃないのかって? ハハッ、その冗談面白いな! こっちは生き残るため必死に無い知恵絞って足掻いているのになんでわざわざ一番敵対者が多くなるルート走らなアカンねんブチ殺すぞ全ての勢力が団結して俺のことを。