メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
フェーズ2
演習開始から12時間まで
候補生たちが休息のためのベースキャンプを設営した。それはいい。問題があるとすれば演習エリアの近くで堂々と準備を始めたことだ。それも3箇所それぞれ別々にだ。
なんでだよ、そこは少し後退したところに全員で協力して設営したほうが効率的だし効果的だろうが。自分たちが探索しているエリアが正解かどうかなんてわからないんだから情報交換も兼ねて全員で集まれる場所を作れよ。まぁそれに思い至るかどうか試すために疑心暗鬼をばら撒いたのが俺なんですけどね!
ほかのエリアからも推定スクカジャ使いの伝令兵が候補生たちの様子を教えに来てくれたが、やはりというかなんというかベースキャンプ設営そのものがあまり順調ではないようだ。そら準備をしている間もそうだし休憩している間に出し抜かれたら面白くないもんな?
例外は俺がいるこのエリアだけ。日が落ちる前に、いやコロニー的には時間の管理による消灯なんだけど、とにかく遠距離でも顔が見えるぐらいのタイミングで姿をチラ見せした効果があったようだ。俺の視線に気付いたソウゴ少年含む6人パーティーから話が伝わりやる気が少しは上がったんだろう。
でもね……ここ、ハズレですから〜ッ!
残念ッ!
候補生たちを撹乱するための切り札────それは、俺自身が囮になることだッ!!
聴覚に自信ネキな超力兵からの報告によると、夜間活動のリスクについて俺との立ち会いについて語ることで血気盛んな候補生たちを黙らせたらしい。片目片腕の俺を相手に手も足も出ないほど一方的に負けたことを正直に告白し、少なくとも自分を相手に無傷で、それも武器も異能も使わずに勝てるぐらいでなければ意味が無い……と。
実際のところ、シキガミの力を使うのであれば夜間でも活動できそうなものだけど。専門家のコノミ女史としてはどうお考えで?
「可能か、不可能か、でお答えするのでしたら“可能である”と申し上げます。生き物の気配、というよりも生体マグネタイトの反応には相応に敏感ですので。仮に候補生の皆さまへ息を潜めて奇襲を試みたところで、熟練の戦士であっても生体マグネタイト反応そのものを隠すことができなければ」
人間ができないことをシキガミが補う。そこだけ聞いていれば理想的なパートナーだな。あの筒状の召喚器に引っ込んだ状態でそれができるのであれば。
「さて……どうでしょうね? わたくしはまぁ、事情が事情ですので、わたくしの感性や意見は参考にはならないかもしれません。ただ……MAGの消耗を抑えるためにも戦闘時以外は安易に召喚しないように、と教えられていたと記憶しておりますので」
お、急にメガテン要素をお出ししてきたな? 俺も昔は連れ歩く仲魔は最低限まで絞ったものだ。でも真1ではケルベロスは常に召喚してたけど気分的に。俺以外にもいると思うんだけどな〜、常に連れ歩いてラスボスまでケルベロスをキープしてたメガテニストは。
しかしそうか、やはり召喚していないと探知能力が機能しないというのであれば、初日の夜ぐらいは手加減する方向で指示したのも悪くない判断なのだろう。あんまりストレスとプレッシャー叩き付けて発狂されても困るからな。特に昼間の仲間割れを見たあとじゃ尚更のこと。
こうなってくるとパイセン部隊による後輩歓迎会もそれなりに面白いことにはなりそうだな? 索敵の面で有利なら一方的に遊ばれることもないだろう。次の12時間からはヒントを持たせる代わりに積極的な戦闘を許可しているので、トラップのランク上昇とあわせて賑やかになること間違い無しだ。
心配があるとすれば、というか事故要素があるとすれば喧嘩に魔法スキルを使った大馬鹿どものMAGコートの損傷か。さすがにボロボロになった状態では物理耐性も満足に機能しないだろう。そして予備の申請は許可しなかったから破れたヤツは取り替えることもできない。致命傷になる前の大怪我ぐらいの段階で選抜試験を諦めてくれればいいのだが、ディア系が使えるなら少しぐらい怪我したところで! とか言い出しそうなのが困りどころ。
ま、その辺りは現場の判断で臨機応変にイイ感じに頑張ってもらうべ。こういうとき個人単位で携帯できる通信機器の有り難みを思い知らされるな。リアルタイムの情報伝達、織田さん家のノッブさんも興奮するワケだ。
ま、それはそれとして……だ。
いくら煽ってテコ入れしたとはいえ。
「喜劇としてはなかなか愉快ではありますが、ここまで露骨ですと興醒めしてしまいそうですね。シキガミの扱いについて教官の方々とお話する機会は何度かありましたが、あのときの様子や態度を思い返せば……どうして候補生の皆さまがこんなクソ雑魚ナメクジみたいな有り様になってしまったのか疑問ではあります」
そういう教官たちは邪魔だったんだろうな。
真っ当に人事で普通に異動させられたか、そうでなければなんらかの手段で中身を“塗り潰された”か。我ながら物騒な憶測してるが、これだって可能か不可能かで言えば可能だし成功率もかなり期待できる手段だろう。なにせ異変に気付くためにはメガテンのメタ知識か悪魔に関する情報のどちらかが必要なんだから。
なにも知らなければサガミ大佐のように御三家に心酔した連中が暴走しているようにしか見えない。そして階級支配が当たり前のディストピア世界であれば、御三家の関係者も軍隊は自分たちの発言を全肯定して従うことを疑いはしない……のかな? ちょっと先入観が先行しているから正確なところは知らんけど、まぁまぁ悪くない線をいってると思う。
あ、そういえば。
紅葉家の御当主代行様ってどんな人なん?
「おや、特務中尉さまはわたくしの姉をご存知ではありませんでしたか」
…………姉?
「はい。何故、代行などと名乗っているのか……そちらの事情は存じていませんが、当代の『紅葉リンドウ』の名を襲名したのはわたくしの姉でございます。もちろん、代行であろうとも当主に選ばれているのですから……MAG結晶体が組み込まれた首飾りを身に付けて祈る事で簡易召喚の儀式とする
なるほど、ちゃんとしたシキガミ使い。
「あと肉弾戦が得意です。とっても」
なんて?
「シキガミを普通に使役するよりも、木刀に宿らせて殴る戦い方を得意とするのが当代の紅葉リンドウなのです。繰り返し祈る暇があるなら殴ったほうが速い、と。それで木刀が折れるようであれば、拳に宿して殴れば良い、と。実に頼もしいゴリ巫女でございましょう?」
いまゴリラって言おうとした?
施設にも動物図鑑とかはあったが、こんな世界でもBクラスやAクラスなんかの上級国民のために動物園があったりするのだろうか。ただの宇宙開拓異世界転生ならともかく、メガテン世界で動物園ってちょっとヤダな……。
木刀にシキガミを宿らせる、って戦闘スタイルについては特に不思議でもないかな。要塞で戦った救世主モドキも練気の剣みたいなサーベル使ってたし、剣合体をカジュアルにしたようなもんだろ。たぶん。
しかしなぁ。
武闘派の偉い人、なぁ。
…………演習、乱入してくるかな?
「リンドウさまは、此度のコロニー浄化作戦について、威力偵察部隊のことを戦における一番槍と誤解なさっているのか……軍学校の学徒の皆さまから志願者が大勢出ていると聞かされて、その意気や良しッ!! と喝采するタイプのお人です。
恐らくは、手軽に食べられて栄養価が高いからとバナナばかりを召し上がっていた影響が脳髄にまで及んでしまったのでしょう。お労しや姉上、変なウィルスとか撒き散らかしてそうなので感染を避けるためにも関わらないようにしましょう」
お、なんだなんだ? 新種のゴリラ型BOWか?
なんで巫女さん名乗ってるクセにそんな好戦的なんだよ、いくら異世界転生だからっておかしいだろ。シキガミ召喚っていう遠距離攻撃手段を持ってんだから素直に前衛の後ろから魔法スキルで支援とかでいいだろ別に。俺の知らないところで殴るタイプの巫女が普通にいたりすんの?
いや〜、これ面倒くせぇなッ!? 偉い人が乗り込んできたら確実に現場は混乱するし、そのドサクサに紛れて俺殺されるんじゃね? 予想が正解だった場合の話でしかないけど、シキガミ使いを肉壁のところへ────魔導院とかいう胡散臭い連中が暴食界と名付けた領域に特別な力を持った無能を大量に送り込もうとしてたワケじゃん? ほならね、俺の存在はチョー邪魔じゃん? 面倒だからとりまコイツ殺しとこうぜって絶対なるじゃん! 少なくとも俺が黒幕ならそうするね。不確定要素の塊みてーな下っ端とか早めに処理するに限るじゃん。
ヤベェよ……ヤベェよ……ッ!!
どうしよう……俺の頭じゃ取り敢えず候補生以外でガチで襲い掛かってきたヤツは問答無用で始末する方向で考えておくことぐらいしかできないよ……ッ!
初撃さえ気合と根性で乗り切ることができれば、あとはワームちゃんに喰わせるかミノタウロスに贄として献上しちゃえばどうにかなるやろ。暗殺を担うぐらいの手練なら、きっと生きたまま悪魔の腹の中で溶解体験させられるぐらいの覚悟はしてんじゃない?