メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
結局、マモルとホノカは間に合わなかったか。前世の記憶と比較しても見劣りしない程度にはご立派な教育施設だ、そりゃあ説明を受けるだけでも大変だってワケだ。ま、多少ゴタゴタしたような気もするが特務少尉権限でアキラに解決させることにしたからなにも問題はないな、ヨシッ! う〜ん、権力ってステキ♪
で。
知り合いが来なかった変わりに知らん奴が、石段の下では体格のよろしい色男が背筋を伸ばした休めの姿勢で待ち構えていたりするワケなんだが。
…………?
あ、曹長。サガミ大佐が用意してくれた副官か。いいね、頬からあごの下に流れる傷痕が歴戦の下士官って雰囲気で頼り甲斐ありそう。逆にナメられたらどうしよう。その時は肉体言語でアイサツするしかないな……スクカジャとタルカジャ重ね掛けしてもらお。
「失礼しますッ! お初にお目に掛かります、特務少尉殿ッ! 自分は帝国陸軍所属・カゲツ曹長でありますッ! 少尉殿のことは同期のテッセンから手紙で知らされておりまして、死ぬほど愉快で退屈しない上官であると伺っております。お会いできる日を楽しみにしておりました、どうかよろしくお願い致しますッ!」
あ、こりゃどーも。
サガミ大佐の人物感から期待してもいいかな、とか思っていたが。まさかテッセン曹長の同期とはまた。コレどっち方向で受け取ればいいんだろうな〜? ただの親切心とは思わないほうがいいんだろうな〜? 俺にやらせたいことがあって、それに必要だから信用できる下士官を用意したんだろうし。
それにしてもテッセン曹長もいったいどんな説明をしたのやら。死ぬほど愉快っつーか、何度も死にかけてるっつーか、なにより愉快成分の大半はヒーホー族のコレオ伍長が担ってたんだから俺は関係ないだろ。退屈しない、の部分に関しては……うん、まぁ……俺としてはもっと刺激の少ない部署で細々と働く感じでも全然いいよ?
「まぁ、色々と話は伺っておりますよ。意外と我々のような下士官というものは御目溢しを頂くことがありまして。多少の……誇張された噂話を下世話に楽しむ程度の権利は認められている、ということです。そうでなければ特務少尉殿のようなお方の補佐など務まりませんから」
なるほど?
なら俺からは余計なことを説明する必要も無いワケだ。それはいいな、実に効率的で無駄が少ない。どこまでの情報がセーフでどこからの情報がアウトなのか当事者であるはずの俺だけがボーダーラインを知らないという不具合にさえ目を瞑ればいいんだからソレなんかおかしくない?
「ところで……早速、ヒヨッ子どもを可愛がってくださったようでしたが、如何でしたか?」
俺の好みに合致するかは別として、ヨモツイクサとの戦闘なら問題ないレベルの仕上がりだよ。経験不足は時間を使って解決するべきことだし、この区画では施設での教育課程を重視しているというのであれば、あとは可能性を信じて大事に育ててやればいい。
……と、いう話を聞きたいワケじゃなさそうだな。ちなみにカゲツ曹長はシキガミに関する知識、というか認識はどの程度なん?
「異能の力のより強力な形、という程度でありますな。本来であれば八葉の巫女様方だけが扱える特別な力であるものを、数年前にこの区画を統治なさっておられる御三家の方々が代替わりした辺りで戦力の増強と生存率の向上という名目で……という流れでありました。まぁ、自分は件の筒状の召喚器なるものに適性が無かったということで無縁のままでありますがね!」
また御三家か、(秩序)壊れるなぁ〜。秘匿したいのか、拡散したいのか、どっちな〜んだい?
ゲーム脳でメタ推理するなら御三家は善意で広めようとしている派閥で、残りの五つは既得権益を守るために反発してそうではあるが。逆にもう一歩踏み込んでメガテン的な考え方をするなら、実は御三家側の判断こそが人間社会にとって危険なパターンとかもあり得るけれど。
それでも問題なく戦闘に運用できているということは、先ほどのソウゴ少年とシキガミの関係性はアラヤン式人造超力兵も認めるところなのだろう。となると、悪魔送還プログラム発動の基準は人間側が悪魔を制御できているかどうかがひとつのポイントになりそうだな。
しかし、だとしたら俺を呼び付けた理由がイマイチわからんのだが。兵士として育てられている若い世代のために秘密にしていたシキガミの力を積極的に広めよう、って部分は理解できなくもない。でもそれなら俺みたいな異物をわざわざ混入させるメリットなんてあるか? せっかくそれなりに巧く歯車が回っているところに、露骨に比率の違うパーツを組み込もうとしたって動作不良を起こすだけだろうに。
現場を知る曹長としては、その辺りはどう考える? シキガミの力を使うことで成果を上げている連中の前に、シキガミの力を使えない軍人を送り出して話を聞かせることに意味なんてあるかね?
「上層部の御歴々が期待しているのは、少尉殿の乙型ヨモツイクサ討伐という実績であります」
それ、よく言われるけど俺だけの専売特許じゃねぇべさ。
「もちろん討伐そのものは日本帝国各宙域で行われていることでしょう。しかし陸軍の管轄が食い込んでいるコロニーの隣の区画で、人員・装備・環境といった条件全てが劣悪である中、それを海軍の管理下にあるDクラス帝国市民が成し遂げたとなれば……悪条件で実行できた事柄が、より好条件を与えてやればもう一度できないことはないだろう。そう考えたくなる気持ちは自分にも理解できます」
あー、そういう。うんうん、そうだね成功体験じゃないけど前例があるなら人はそれに倣いたいよね。ところで曹長は柳の下の泥鰌って言葉は知ってる?
「はい、少尉殿。それは博徒の考え方であって帝国軍人の戦い方ではありません。これでは真面目に働いている戦術研究部の連中が報われんというものです。しかし、少尉殿にはまことに申し訳ないのでありますが、現在御三家の主導でコロニーの浄化作戦という計画が進んでおりまして」
チラリ、と。霞がモヤモヤして視界が通らないコロニーの奥の方を見てから笑顔を俺に向けるカゲツ曹長。テッセン曹長といい、もしかして下士官って笑顔の練習とか義務付けられてたりする?
「まぁ、つまり……そういうことであります、少尉殿。どんな有り難い御高説でも経験が伴わなければ宝の持ち腐れでありますから、
だれぇ? 今回は楽な任務とかほざいたヤツ。
まだ義手も届いてないってのに騙して悪いが戦場送りだとか、コレが帝国軍のやることかよォッ! 人権と人命の無視はディストピアの基本だからね、仕方ないねッ! あー、あーッ! 詳しい説明なんて聞きとうないッ! 聞かなくても命令は無効にならないし状況は変わらないって? それはそう。