メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
学校に案内されたら。
入り口で。
たかがヨモツイクサとの戦いで腕を失うようなヤツに教わることがないと言われました。
……なんてことはなく。
普通の対応をされているという謎。強いて言うならば学生たちからチラチラと飛んでくる視線が好奇心まみれで気恥ずかしいぐらいだろうか?
別に喧嘩を売ってほしいワケではないが、ここまで特価大廉売されまくってたせいで逆に違和感スゲェなスゴイです状態。うーむ、たしかに普段見かけない人間が歩いていれば珍しくはあるのだろうが……う~む。
※特務少尉殿は現在隻腕隻眼に加え伸びた頭髪を適当にポニーテール状にまとめいずれの階級にも該当しない特務専用のロングコートタイプの軍装に身を包み先の任務の功労と今回の任務の餞別としてイミナ中佐から渡された黒鞘に銀装飾の日本刀をサーベルの代わりに帯刀し無意識レベルで如何なる奇襲にも抜刀で対応できる心構えと姿勢で歩いています。
◇◆◇◆
「私がこの幼年学校で校長をしているサガミ大佐だ。貴様が噂のDクラス上がりの特務少尉か。ふん……凪葉の若造が選んだにしては良い眼をしている。アレも少しは当主らしいことが出来るようだな」
おぉう? 堂々と上司を若造呼ばわりときたか。階級社会で出世してるとは思えない強気で迂闊な発言だ、と判断するのはまだ早い。ここは少し踏み込んでも許される場面かな。
ゴホン。えー、サガミ大佐殿。自分は短い時間にわずかばかりの会話をしただけでありますが、リュウドウ中将閣下……いえ、リュウドウ様が善人であることは疑いようのない事実であるかと。学校長という責任ある立場のお方が不敬を理由に処罰を受けたとなれば大きな問題になるかと思われます。処罰されるのであれば、ですが。
「ほぅ……?」
さきほどまでの顰めっ面はなんだったのか、いきなりニヤニヤと笑いだしたサガミ大佐。言葉を選びつつもなかなかの直球でリュウドウ様を“軍人らしからぬ”と批判したことは伝わったようだ。
「……ふぅ~。アレにそこまでの甲斐性などありゃせんよ。むしろ、いっそのこと不敬を理由に腹を斬れと命じられたほうがワシも安心して死ねるというものだ」
一人称が変わったな。ちと危険な賭けだったが、talk成功で少しは認められたか?
「あぁ、勘違いはしてくれるなよ特務少尉。好き勝手に言い散らかしてはいるが、別にリュウドウ様のことを嫌ってはおらんよ。事実、統率力と政治力に関しては不満はないからな。
案内はこれからだろうが、貴様にはぬるま湯でパシャパシャと遊んでいるようにしか見えない訓練風景もリュウドウ様なりに本気で生徒どもの未来を考えての決定だ。教官どもも九割九分九厘はリュウドウ様のカリスマ性に心酔して本気で任務に当たっていることだろう」
はい、大佐殿。自分が宛がわれた環境とはずいぶん教育方針が異なることについては部下より知らせを受けております。国家の財産である生徒たちを無駄に消耗させることなく丁寧に指導する姿勢であると。実に喜ばしいことでありますが、ますます小官如きの稚拙な経験談など生徒諸君には必要ないものであると思われますが?
「なるほど貴様の言い分にも理があるのは事実だ。だがな少尉? 上から命じられた任務について必要か不要かを幕僚配置でもない大佐と少尉が論じる意味などあるワケがなかろう? さて、まさか年中頭の中が九重桜で満開になっている阿呆どもとは違う貴様であれば、ここで自分がなにをするべきか理解しているな?」
要するに腹が膨れるだけで食あたりの危険がある乱暴な炊き出しではなく、楽しく摘まめる花見弁当をヒヨッコどもに振る舞ってやれ……と。
「可能なら手拭いと箸も用意してやれ。まったく、海軍の階級など持っていなければ貴様ほど頭の回るヤツなら孫娘を宛がってでも囲い込んだものを。まぁワシに孫娘なんぞおらんが。
味付けや盛付けは貴様の裁量で判断しろ。これでも伊達や酔狂で陸軍の大佐などと偉そうにしているワケではない、貴様が本物の修羅場を生き残ってきたことぐらいは風貌でなく匂いでわかる。
だが塩梅は間違えるなよ? 凪葉家のリュウドウ様だけではない、このエリアには紅葉家と蒼葉家も含めた帝国守護役御三家の当主代行が御揃いになっておられるからな。御興味のまま自分たちにも食わせてみろなどと始まろうものなら……そうだな、そのときは胃痛に良く効く薬草茶をワシの支払いで用意してやろう。有り難く思え」
マジか、御三家なんて単語ポケットなモンスターぐらいでしか関わったことないんですけど? しかも話の流れからして紅葉家と蒼葉家の当主代行とやらもリュウドウ様と同類だな? どうしよう、そいつらが仲良しでも仲違いしてても面倒なことに巻き込まれる未来しか見えねぇ。
よし、ここは少しでも前向きに考えよう。仮に未だ見ぬ三馬鹿トリオが揃い踏みで戦争やってる自覚が無いようなら、その善性を利用して強気に踏み込んで情報を集めることだって不可能ではない。その場合、警戒するべきは当主代行本人ではなくその取り巻き──それもカリスマ性に眼を焼かれてもなお現実をしっかり見据えている部下だけで事足りる。
と、なれば。生徒たちへの対応は甘々のほうがお気に召すか? 前世の記憶から想像するような学園ファンタジーが繰り広げられているならば、ガチの説教なんて馬耳東風もいいところだろうし。
よかろうッ! お望み通り、リズム良くテンポ良く太鼓持ちやってやろうではないかッ! なぁに、学生なんて生き物は視野が狭いクセに自己評価だけは高いヤツばかりって相場が決まってるからな。ナメたこと言われたときに俺さえイライラを完璧にコントロールできれば楽勝よッ!
たぶんそれが一番心配だし自信がない部分だと思います。俺、本当に我慢できる? いや、マジで大丈夫かな……。