メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
「やぁ、特務少尉。急な頼み事にも関わらず快く引き受けてくれたこと、感謝するよ。おっと、ドタバタとしていて自己紹介が遅れてしまってすまない。
改めて──日本帝国守護役・八葉家がひとつ『凪葉』の当主代行、凪葉リュウドウだ。一応、軍属として中将などという肩書きもあるが……そちらは事実上の飾りのようなものだ、あまり気にする必要はない」
ハッ! F8492特務少尉でありますッ! 日本帝国海軍の一員として全力を尽くす所存でありますッ!
「うん、ありがとう。キミのように実戦経験が豊富な人物から話を聞くことができれば、きっと学生たちの成長につながることだろう。
それにしても少尉、そう畏まる必要はないよ。生まれや階級は確かに違うが、私たちは日本帝国に住む人々の平和を護るために戦う仲間でもあるのだから」
……はい、いいえ閣下。自分も堅苦しいのは苦手でありますし、あらゆる物事には余裕と融通が必要だとは考えております。しかし、それらは最低限の秩序が守られていることが前提でありましょう。
「なるほど、キミの言うことにも一理ある。自由ばかりを主張して義務を果たさないという態度は問題だ。しかし、これからキミが関わる子たちはまだ訓練中の学生であって、我々大人が護るべき対象でもあることも考慮してくれると助かる。まぁ、今回の一件は任務ではなく私的な頼み事のようなものだからね。あまり難しく考える必要はない」
ハッ! 了解でありますッ!
◇◆◇◆
ふぅ~! いやぁ、偉い人との会話ってのは相手が気さくなキャラクターしてても疲れるねぇ!
それにしてもガチガチの軍人でもなく貴族主義でもなく、身分の違いを気にすることなく未来のために行動する若くて爽やかなイケメンの国家運営の重要人物たぁ驚きだ。こんな人間性の明るい権力者に守護られながら勉学に励む学生諸君は実に恵まれているな!
うん、アイツ危ねぇわ。
見た目と違わず頭の中まで爽やかイケメンしてるのは結構なことだが、理想が先行し過ぎて現実の認識が足りてないのは頂けない。本人に悪気は無いのかもしれないが、中将の肩書きを飾りだとか言っちゃうのはダメでしょ。アンタが話しかけてる相手はその肩書きひとつで簡単に命を使い捨てにされる立場の兵士なんだがね?
こりゃ当主代行って立場が周囲に与える影響も理解してない可能性あるで? 両親か祖父母か兄弟姉妹かは知らないが、ほかに正式な当主がいるのだから自分の発言力などに大した権力などないだろう……とか。だから頼み事という形にしてるのかもしれないが、代行してんならその発言にはバリバリ最強ナンバーワンに権力が含まれているしそもそも中将な時点で大抵の軍人は頼み事を断れねぇんだよオラァァァァンッ!!
よし、感情を吐き出し終わったところで冷静に頭を回転させよう。
状況→とてもヤバい。私的な頼み事ってことはつまり正式な任務として存在しないためトラブルが発生した場合全てが俺の責任になるということですねわかりますふざけんなよ頭ハッピーターンの粉まみれかこのクソ野郎。
明日の戦闘員を目指して日々努力を続けているであろう見ず知らずの学生諸君に対してはまことに申し訳ないとミジンコの涙ほどにも思ってはいないが、今回も全身全霊で保身を優先させてもらうことが決定した。恨むならリュウドウ様を恨んでくれ、俺は悪くねぇッ! 実際俺は悪くないよねぇ?
あとは……訓練学校とやらの実情を確認してからだな。地続きの都道府県ですらお隣さんの事情なんてそうそうわかるものではなかったんだ、巨大なコロニーのバカでかいガラス張りで仕切られた隣の区画の事情はさすがのイミナ中佐でも詳細を把握するのは難しかったらしい。
まぁね、こっちの区画は街並みからして陸軍カラーだから仕方ないね! 面倒そうな組織はなんとなく陸軍側みたいな話どっかで聞いたような聞いてないような気がするし。宇宙は海軍の管轄だろうに、この辺りもリュウドウ様のひと言が関与してんのか? 見た目が若いから代行じゃないほうのご当主様や関係者が整えたと考えた方が自然かな。
ちなみにピクシーさんや、この武家屋敷みてーな施設からシキガミに関する気配とかは?
(いまのところは)
なるほど? 仲魔を呼び出すリスクが減ったと考えるか、それとも探りを入れて情報を手に入れる機会を失ったと考えるか悩ましいところだな。
手札を隠すことばかりに気を取られて、切り札を使うタイミングを逃すのは本末転倒というもの。命令系統があやふやなことを逆手に取って巫女から話を聞ければ……とも思ったんだが。隻腕隻眼の風貌と凪葉家の当主代行からの依頼で行動しているという条件の併せ技なら、シキガミの亜種のようなモノとか言って押しきるのもワンチャンあったかもしれないじゃん?
◇◆◇◆
油断せず、しかし警戒し過ぎて不審者扱いされないよう適度にキョロキョロしつつ屋敷の外に出てみれば。
「失礼しますッ! ヨウイチ一等戦闘員ですッ! 特務少尉殿を宿舎までご案内するのが……するため……じゃなくて、えーと。アキラ~?」
「はいはい、どうせこうなるだろうと思ってたよ。お久し振りであります、特務少尉殿。アキラ一等戦闘員であります。自分たちも指導員の真似事をしておりまして、特務少尉殿の任務を微力ながらサポートさせていただければ光栄でありますッ!
……俺たちもそれなりに修羅場を潜り抜けたつもりだったけど、アンタの前じゃなんにも自慢になりそうにないな」
こりゃまた意外な再会なことで。なに? 俺が陸軍に送られた直後あたりにスカウトされて、こっちの区画でヨモツイクサ狩りながら幼年学校で学生たちの相手してるって? ほ~、それはそれは。いいね、気楽に相談できる先輩がいるってのは実に心強いじゃないか?
と、いうことはあのとき一緒だった……というか。ちと苦い思い出になるが、生き残った女の子たちも同じチームになるのかしら。
「あー、いや……」
「少し派手な戦闘をしましてね。手足をちょっと」
「でもリュウドウ様が治療の手配をしてくれたんですよ! いやぁ~、偉そうにしてるヤツなんて誰でも同じだと思っていだだだだだッ!?」
「申し訳ありません特務少尉殿、すぐにこのアホ始末しますので」
うーん、この。素直過ぎるヨウイチくんと言葉を選べるアキラの凸凹コンビ感よ。いい味出てるじゃなーい?
しかし治療か。本人はお飾りのつもりでも中将なら強力な回復系の魔法を使える人材も用意できるかも──。
「いえ、リュウドウ様が手配して下さったのは異能ではなく再生治療ですね」
「帝国魔導院とかって言う、なんかいろんな発明をしてるところらしいッスよッ! オレたちDクラス上がりの人間でも文句ひとつ言わずに受け入れてくれるらしくて……あッ! もしかしたら少尉の目と腕もなんとかしてくれんじゃないですかねッ!」
帝国魔導院…………。いや、よそう。俺の勝手な思い込みでふたりを動揺させたくない。