漫画「脳外科医竹田くん第48,-50話」で描かれている内容は、実際の手術経過と大きく異なります。
・右側頭葉中心の膠芽腫。術前にMRIで範囲を想定し、ナビゲーションを駆使して切除断面を想定しフェンスポストの位置を決定。術中MEPを併用。
・開頭後すぐにフェンスポストを挿入して切除範囲を確定し、その範囲に沿って切除。
・MEPを使用して、前頭葉浸潤部も錐体路(運動神経の通り道)に触れないように可及的切除。脳幹や生命維持中枢には一切触れていない。
・下垂体に腫瘍浸潤を疑う所見あり。術中生検するかどうか議論になったが、生検は行わず。(触れていない。)
・出血コントロール不能になるようなことはなく、術中に心停止も起きていない。術中、血圧低値などの警告もなかった。もちろん輸血をしたなどの申し送りもなし。
・心停止はHCU入室直後で、尿崩症とそれに伴う低容量性ショックが原因。ピトレシン投与と大量補液で状態は回復。
・術後CTで前頭葉残存腫瘍表面より少量の出血はあったが想定範囲内で、意識に影響するものではなかった。
・しかし心肺停止(PEA)時間、有効な脳血流量が維持できていない時間が長かったため蘇生後脳症により意識障害が遷延した可能性が高い。
・ちなみに、術野から生命維持に必要な部分(脳幹下部)は視認できない。
つまり「腫瘍を削りすぎて生命維持に必要な脳まで削った」「出血がコントロールできず、術中に心停止した」という漫画の描写は事実ではありません。
※フェンスポスト:ネラトンチューブなどを想定切除面に沿って複数本、柵のように挿入し、腫瘍切除の境界を明確にする工夫。正常脳を守りつつ、可及的に腫瘍を切除するために使う。
※MEP(Motor Evoked Potential):運動神経の働きを手術中に確認する目的で、脳表に電気を流し、手足の筋肉が収縮するかを確認するモニタリング。神経損傷を避けるための安全装置。
※尿崩症:下垂体の異常で尿が大量に出る病気。本来なら抗利尿ホルモン(バソプレシン)が尿量を調節するが、分泌されないため補液しなければ急激に体液が失われ血圧が下がる。
※ピトレシン:バソプレシン製剤の商品名。尿崩症によるショックを改善するために用いられる。