米右派活動家カーク氏殺害事件、容疑者の父が自首促すも拒んだか カーク氏の妻は「屈しない」とコメント

ロビンソン容疑者が白い壁を背に、無表情でカメラを見ている。白人で、短い茶髪
画像説明, ドナルド・トランプ大統領の熱烈な支持者だったチャーリー・カーク氏を射殺したとして逮捕されたタイラー・ロビンソン容疑者(22)の逮捕後の写真。捜査当局が公表した。

アメリカの右派活動家で、ドナルド・トランプ大統領の熱烈な支持者だったチャーリー・カーク氏(31)がユタ州の大学のイベントで銃撃され死亡した事件で、発生から33時間後に容疑者が拘束されるまでの経緯が、米当局筋の話で明らかになった。他方、12日にはカーク氏の妻が事件から初めて公に発言し、「夫の声は残る」としたほか、自分が夫の戦いを強力に続けていくつもりだと宣言した。

この事件では、ユタ州在住のタイラー・ロビンソン容疑者(22)がユタ州ソルトレイクシティ南部のワシントン郡で11日午後10時ごろ、拘束された。当局は容疑者の捜索に航空機を投入し、数百もの手がかりを調べ、容疑者の映像を公開していた。

BBCがアメリカで提携するCBSニュースは、ロビンソン容疑者の父親は、捜査当局が公開した容疑者の映像や画像を見て、容疑者が息子だと気が付いたのだと、捜査関係者2人の話として伝えた。

CBSによると、容疑者は父親に、当局が公開した画像に写っているのは自分だと認めた。父親が自首するよう促すと、容疑者は自首するくらいなら自ら命を絶つと答えたという。

父親は家族ぐるみの付き合いのある友人の牧師に連絡を取り、2人は容疑者を落ち着かせようとした。その後、この牧師が保安官に知らせたという。

米連邦捜査局(FBI)が到着するまでの間、保安官が容疑者を拘束して身柄を確保した。

動画説明, 容疑者拘束の2時間前に捜査当局が公開した、容疑者の逃走映像

BBCがアメリカで提携するCBSニュースが入手した記録によると、ロビンソン容疑者は加重殺人罪、第1級重罪にあたる司法妨害罪、重大な身体的傷害を負わせた重罪としての銃器発砲罪で起訴される。

ユタ郡の検察当局は声明で、16日に正式起訴すると発表した。銃撃事件が起きたオレム市はユタ郡にある。

同郡検察は、「適切な起訴内容を決定するため、本件のすべての証拠を慎重に精査している」としている。

起訴に合わせて、同郡のジェフ・グレイ検察官が記者会見を開く予定。

カーク氏の妻がコメント

白いレンガの壁を背に、夫がポッドキャスト収録に使った椅子の横に立ったエリカ・カークさんがカメラに向かっている。クリーム色の上着と黒いシャツを着て、長い金髪を真ん中で分けている。右後方の棚にはトランプ氏の写真。机の上には第47代米大統領のトランプ氏を表す「47」が金色で詩風された白い野球帽が置かれている。

画像提供, Turning Point USA

画像説明, 夫の死後、初めて公に発言するエリカ・カークさん。演台の下にはカーク氏の写真と共に「私たちの愛する救世主イエスの慈悲深い両腕が、チャーリーを受け入れてくださいますように」と書かれている

カーク氏の妻エリカさんは12日、アリゾナ州にあるカーク氏の活動拠点から、メッセージを放送した。カーク氏が人気のポッドキャスト収録に使っていた椅子の横に立ち、「夫の声は残ります」と強調した。

エリカさんは、「夫を暗殺した人間を捕らえるため疲れ知らずで働いた捜査当局」や、夫を助けようとした救急隊員に感謝した。さらに、「大統領閣下、夫はあなたを愛していました。あなたが彼を愛していたことも、夫は知っていました」と涙声で述べたほか、カーク氏の棺を副大統領専用機でアリゾナへ運んだJ・D・ヴァンス副大統領夫妻にも感謝した。

エリカさんは、カーク氏のモットーの一つが「絶対屈しない」だったと述べ、「私たちも絶対に屈しない」と強調した。

さらに、「悪者」に対して「この妻の中にどれだけの炎を発火させたか、あなたたちは全く知らない。夫を失ったこの妻の叫びは、戦闘開始を告げるときの声のように、世界中にこだまする」、「これまで夫のミッションが強力だと思っていたなら、あなたたちがこの国全体と世界にいったい何を解き放ったのか、あなたたちはまったく知らない」とも述べた。

ヴァンス副大統領の妻ウシャさんと手をつないで副大統領専用機のタラップを降りるカークさん。長い金髪で、黒いトップスとパンツ、黒いサングラスをかけている。二人の後ろにヴァンス副大統領が続いている。

画像提供, Eric Thayer/Getty Images

画像説明, カーク氏の棺を副大統領専用機でアリゾナへ運んで戻ったエリカ・カークさん(左から2人目)とヴァンス副大統領夫妻(11日、アリゾナ州フィーニックス)

捜査当局、発生後33時間で「歴史的な進展」と

連邦捜査局(FBI)のカシュ・パテル長官は12日の記者会見で、容疑者の拘束に至るまでの経緯を説明した。

10日午後12時23分にカーク氏が銃撃されると、16分後の午後12時39分には捜査官の第一陣が現場に到着。FBIは「直ちに固定翼機(航空機)を投入」して証拠品などを輸送し、午後10時には容疑者の画像を公開したとした。

翌11日午前10時45分には、容疑者につながる情報に10万ドルの懸賞金を支払うとFBIが発表。午後5時30分にはパテル氏が現場に入った。

ユタ州のスペンサー・コックス知事が午後8時に開いた記者会見で、容疑者の映像や画像が公開された。

その約2時間後に、当局は容疑者を拘束した。

捜査当局は発生から33時間で「歴史的な進展」を遂げたと、パテル氏は強調した

コックス州知事は、灰色のダッジ・チャレンジャーに乗った容疑者が10日午前8時29分にユタ・ヴァレー大学に到着していたことが、監視カメラ映像で確認されたと明らかにした。銃撃はこの約4時間後に起きた。

知事は、濃い色のタオルを巻いたライフルと、照準器をつけた銃などを、捜査員が発見したと発表した。

知事はまた、捜査員らが容疑者のルームメイトに接触し、チャットアプリ「ディスコード」を使った「タイラー」とのやり取りを確認したと説明。「タイラー」はメッセージで、ライフルをやぶの中から回収しなくてはと、書いていたという。

チャットアプリ「ディスコード」の広報担当者は12日、ロビンソン容疑者と関連するアカウントを特定し、プロフィールを削除したことを認めた。

一方で、「容疑者がディスコード上で、今回の事件を計画あるいは暴力行為を助長していたことを示す証拠は見つからなかった」とした。

事件現場の空からの写真。左側にカーク氏がいた場所が、右側に発砲があったとされる建物が写っている。その距離は約130メートルで、建物の屋根の上では人影が目撃されていたとの説明がつけられている

ロビンソン容疑者とは

事件が起きたユタ・ヴァレー大学の広報担当者はBBCに対し、容疑者はユタ州南西部にあるディキシー工科カレッジの3年生で、電気技師の課程を受講していたと説明した。容疑者の自宅も州南西部にあるとした。

同校とユタ・ヴァレー大学は、16機関からなるユタ高等教育システムに含まれる。

ユタ・ヴァレー大学の広報担当者によると、容疑者は2021年に1学期だけユタ州立大学に在籍し、高校生だった2019年から2021年にはユタ工科大学を通じて大学の単位を取得していた。

容疑者はユタ・ヴァレー大学には通っていなかった。

容疑者は3人兄弟の長男で、父親はキッチンカウンターやキャビネットの設置事業を営んでいる。母親は免許を持つソーシャルワーカー。

ロビンソン一家はモルモン教徒で、教会での活動に熱心に参加していた。

隣人は「(ロビンソン)夫妻は息子たちを愛し、地域活動に参加する、非常に献身的な人たち」だと語ったと、CBSニュースは伝えている。

隣人はまた、容疑者が両親とは異なる政治的考えを持っていると感じていたとも述べた。

BBCが確認したユタ州の記録によると、容疑者は過去に無党派として有権者登録をしていた。州の記録では、父マシュー・カール・ロビンソン氏と母アンバー・デニース・ロビンソン氏は、共和党支持者として登録されている。

捜査当局は、現場で押収された薬莢(やっきょう)に刻まれた文字から、容疑者がネット文化に心酔していたことがうかがえると指摘している。

薬莢2発には、ネット上の荒らし行為を連想させる表現がみられた。発砲された薬莢には、「ふくらみに気づいた。OwO 何だこれ?」と刻まれていた。これは、「コピーパスタ」と呼ばれる、ネット上で繰り返し投稿されるフレーズの一種で、主に人をからかうために使われる。OwO は驚きを表す顔文字。

別の薬莢には、「これを読んだお前はゲイだ Lmao」と刻まれていた。Lmaoは「laughing my ass off」(大爆笑の意味)の略語。

他の薬莢には、反ファシズム運動「アンティファ」に共感する意味合いがあると解釈されるものもあった。アンティファは、過去10年間にわたりアメリカで活動してきた極左活動家による緩やかな結びつきの集団で、トランプ政権の政策や極右団体に対する抗議活動を頻繁に行っている。

未使用の薬莢のひとつには「おいファシスト! 食らえ!」という言葉と、上向き、右向き、下向き3つの矢印が刻まれていた。

下向きの矢印3つは反ファシズムを示す一般的なシンボルだという可能性があるが、全体としては、矢印がビデオゲームの操作入力の順序を示している可能性もある。詳細は不明で、当局は薬莢の画像をまだ公開していない。

別の薬莢には、イタリアの歌「ベッラ・チャオ」の歌詞が刻まれていた。

「ベッラ・チャオ」はナチス・ドイツと戦ったイタリアのレジスタンスにささげられたイタリアの歌。他方、容疑者のこうした表現が、ファシズムを嘲笑する現代のゲーム文化に関係するという意見もある。